空きビンとアルミカン PART 3 遠足の楽しみ方
PART 3 遠足の楽しみ方
動力が生きていることはこの街にいる少女達すべての周知の情報となっていた。
それは本来の作業目的を持つ、ヴィヴィ達にとっても有益な情報であった。
「動力が生きている場所があるようね」
エンジニア部門も興味のある場所と同時に、設置に適した場所とも判断していた。
そこに向かっているレモア達のグループも追加情報として、書き加えられている。
「どうであれ、人手も確保できそうだし、我々もここを目指しましょう」
ヴィヴィ達は車に乗り込み、その場所へと目指した。
ヴィヴィ達が車で到着した頃にはすべてにレモア達は倉庫の中へと侵入していた。
確かに、レモア達が先に出発したとはいえ、歩きでこの場所を目指していた。その時間差は車と歩行のスピード差を考えるとわずかでしかない。
本来なら、すれ違ってもいいはずだった。
恐らく、推進装置を展開して移動していたのだろう。それは他の宝探しメンバーも同じで、移動速度もさることながら、飛翔により高所での調査もできるため、推進装置を有効に活用している。
こうなると、逆に車の方が機動力で負けてしまう。
さて、倉庫に関しては先ほどマイヤーによって掌握したシステムからかなりの情報が更新されてきた。
製造年やシステムの稼働状況。ただ、それらの情報はある時点で緩やかな情報量へとなっている。
要はこの地上に人がいなくなった頃だ。
そのデータを見て、エンジニアのファミネイも興味深かった。そして。あることを思いついたので、そのことを提案してきた。
「観測機器としても、この倉庫のシステムにリンクさせれば、いろいろとメリットがあります。ただ、持ってきた材料では足りませんが、この倉庫内、若しくは街から素材を集められるので大きな問題ではありませんが」
現状を有効活用する案である。
「どうでしょうか」
別にその提案を拒否する理由はない。だが、ヴィヴィは自身の時間を削ることにいささか焦りを覚える。
とはいえ、少し考え方を変えれば素材集めも宝探しと同義。むしろ、逆に利用する手もある。
「ひとまず、私は倉庫内の連中と合流して、素材になりそうなモノを探してくるわ。他の宝探しのメンバーにも使えそうなモノも集めるよう、通信で連絡しましょう」
いかにも自然な指示をヴィヴィは出した。
これで堂々と自分の宝探しを任務として、行えるわけである。
「ユノール、カレン、ルリカはひとまず、この場で護衛を兼ねた監視を。後、他のメンバーにリクエストがあれば、ついでに探してもらうように連絡しておきなさい。こんな機会は早々ないのだから」
ヴィヴィはフォローを入れる。しかし、それはある種の罪滅ぼしでもある。
内心、ワクワクとした心が抑えられないが、それを押さえきって作業に従事している顔を見るのは幾らか辛いモノであるからだ。
「では、私は帰ってから一杯でも頂ければそれでいいです」
ユノールはヴィヴィに対して、そう答えた。
その言葉にしまった、とヴィヴィは思った。
「あんた達も言うだけ言っておきなさい。部隊長自ら、要望を聞いてくれることなんて、そうないのだから。もっとも、基地に帰ってからの奢りでもいいかも」
ユノールとヴィヴィは付き合いはそれなりに長い。今回のようなケースだって初めてではない。いくら顔に出さなくとも、こんな時どう思っているかぐらい分かってはいる。
エンジニア達はアルミカンを使い、ボックスを観測機器、通信機器へと変化させていく。その時間はそう掛からない。
ただ、エンジニアの持つ、コアはあくまでデバイスの延長線上の物に過ぎず、アルミカンを使うにはそのエネルギーが絶対的に足りない。
そのため、車のコアを使う。
こちらはエネルギー容量は豊富で、万が一の野戦基地としても使えるだけの容量を想定している。
そうしている内に観測機器、通信機器はできてしまう。
出来上がったのは単なる円柱で、ただ柱が立っているだけにしか見えない。中身にすべての回路が詰まっている。もちろん、動力としてのコアもある。
これから作業は動作確認と観測、通信におけるデータ調整がメインとなる。
その後で、素材が確保できれば、倉庫との接続。
倉庫のシステムに関しては既に掌握しているため、その構想は考慮されて、接続系統もアルミカンで展開された時に準備されている。
今に至っても、そこのシステム含めての調整をしている。
「まあ、バカピックが出る気配もないから、私達もゆっくりしましょう」
そんなエンジニア達とは別にユノールはいささか暇を持て余していた。
この観測機器は少女達の持つコア内の観測機器よりも優れているため、ひとまず稼働している今では、ファミネイ自身の警戒はいくらか緩めても問題はなくなったからだ。
それに今のところは『敵が来る』、その気配もない。
「カレン、車の中のお菓子と飲み物を持ってきなさい。エンジニアの分も含めてね。ルリカも楽にしていいわよ」
ユノールはその場に座り込んだ。
カレンは車の中にあったお菓子等を取ってくる。一応、基地から遠足用に支給されたモノである。一応、その中には数日分の携帯食用も含まれている。
ルリカもその様子を見ていて、車の中にあるシート等の簡易テーブルなどを取りに行く。
「気が利くわね、ルリカ」
取り出したシート、テーブルを地面へと置き、そこへお菓子、飲み物を準備する。
「用意ができたら、エンジニアの方にも声をかけておきなさい」
ユノール自身は何もしていないが、手短な指示を与えるだけで周りは止まることなく動いていく。何もしていなくとも、状況を常に正確に把握して、足りない分は指示で補足する。
ユノールはそういった性格で、ヴィヴィを補助してきた。
別にそれを面倒とは思っていない。性分なのだ。だから、これはが逆に楽しいのだ。
さながら、お茶会の用意ができたことで各自はその場へと座り始めた。エンジニアも休憩がてら、それにお呼ばれされる。
「私達も多少は楽しまないとね」
そう言って、ユノールは飲み物に口を付ける。それを合図に各々はそれぞれの物に口を付ける。
「ユノールさんはいいのですか」
カレンはユノールに対して、そう尋ねる。
「何がだ」
ユノールはそう短く答えるだけ。
「いえ、楽しみではなかったのですか、宝探しを」
「さっきも言ったように、私は一杯やれればいいだけよ。それにお前達の方が楽しみではなかったのか」
そういって、ユノールは飲み物を楽しみながら飲んでいる。
「別に私は……」
カレンは遠慮しながら答えていた。やはり、楽しみにしていたのだろう。
「ヴィヴィもわかりやすく、うずうずとしていたけれどね」
そう言われても、付き合いの長い者ならともかく、他の人には分からない変化を見極めることは難しい。
「まあ、ヴィヴィはあれで時間配分をしっかりと把握しているから、お前達のにも多少は宝探しの時間はあるわよ。今は遠足らしい楽しみを満喫しましょう」
ユノールはお菓子にも手を伸ばす。
「ルリカ、宝探しの際は彼女達の要望も答えてあげなさい。エンジニアの作業で精一杯でしょうから」
「よろしいのでしょうか」
「目の前の楽しみをお預けでは、いい仕事もできないでしょう」
エンジニア達もユノールの気遣いに感謝していた。
「ユノールさんはどうするのですか」
ルリカはユノールに尋ねた。自身だって多少は楽しみにしているのに、そういったそぶりを見せないから尋ねたのだった。
「まあ、エンジニア達に最後まで付き合うわ」
「それでいいのですか」
どこか同情するようにカレンは言葉をかけてくる。
「……うん、まあ。私はこう遠足している感覚で十分よ」
ユノールはそう語るだけで、満足そうにしている。何もしていないというのに、なぜ楽しそうなのかは、カレンにはそれが分からなかった。
「いずれ、分かるわよ」
ユノールはカレンの方を見て、優しく顔をさせて答えた。
* * *
缶である。食料が入っていた缶らしいが中身は既にない。
それらは箱に入れられており、保存されている感じだ。
周囲にはホコリなどはたまってはいるが、それ以外は散らかっておらず整理、整頓、清潔を保っている。
恐らく、ゴミはないのはコアのエネルギー源としても有効活用されるからだ。
コアの動力は核融合炉をベースとしたモノ。そのエネルギーとなるのは何でもよく、生ゴミ、金属ゴミであっても問題はない。また、余剰分はアルミカンの材料ともされ、ゴミという存在なく、循環をしている。
缶が箱に入れられているのは、その材料、エネルギー源として一時保管されていたのだろう。
ヴィヴィはレモア達と合流する前に倉庫内を探索していた。もちろん、素材集めの名目での宝探しを優先させるためだ。
もっとも、既に宝探しが最優先目標であることはユノールによってばれてしまった以上、その趣旨を隠さず優先させている。
倉庫だから、期待していた素材となりそうなモノは保管されていなかった。それでも使われていない機器類は素材として使えるだろう。
また、それは宝物となる興味を引く何かも少ないことを同様に秘めていた。
むしろ、ここは倉庫ではなく、基地とは違うが人類の砦として使われたのだろう。地下へ潜ることを良しとせず、地上に残った者の住み家として。だから、この倉庫は人間が生きるのに必要な物資が多く見られる。
特に保存食だ。
コアは半永久であっても、食料は有限で消費する物だ。
アルミカンで作り出すにも素材がなければ、何も生み出せない。また、金属を素材に食料を作り出すこともできない。あくまで原子を分解して再度組み合わせるだけ。
その中でヴィヴィはガラスでできた瓶を見つけた。
ガラス瓶は机の上に立てた状態で、中には何か物体が入れられて置かれている。
恐らく、飲料物が入っていた容器だろうか。そして、置かれている場所を考えるとただゴミとして放置されたのではなく、別の用途として見立てたモノだろうか。
そう、花瓶である。
入れられたのは造花というよりも、花に見立てた何か。手作りされたモノで花とイメージで読み取れるが、余りその出来は良くない。
それでも、その空きビンの演出は今を生きるヴィヴィにもささやかな文化的な生活を想像させられた。
その無作為でありながら、美を見いだそうとしたガラス瓶の美しさにヴィヴィは捕らわれる。恐らく、このガラス瓶が地面に転がっていればそんなことは思わなかっただろう。
たった、それだけの違いがこのモノの価値を大きく変えていた。
人工物しかない世界であっても、それをそれと思えば、そう思えてくる。
これは花のない世界でも花を咲かしている。
ひとまず、ヴィヴィはその空きビンを造花ごと自分のバックへと入れる。今回の宝探しはこれだけでも十分であると納得させ、本来の作業へと戻っていく。




