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ファミネイのニューイヤー事情

 深夜、レモアは眠そうにしている。


 だが、夜間任務である以上、寝ているわけにもいかない。それに何より、今日は寝ている暇は無い。


「暇そうだな」


 その様子を見かけたハヤミはレモアに声をかけた。


「……待っているだけですから」


 レモアは退屈そうに、そう答えた。


「まあ、自分もだが」


 ハヤミも素直に答えた。緊急事態でも無いのに、深夜に格納庫まで来ている時点で大した用事も無い。


 基本、ハヤミが一人で司令をしていた時は夜は早くに眠る様にしていた。それはいつ現れるか分からないバカピックやその他、夜中に起きる面倒事に対応する為に寝られる時に寝る様にしていたからだ。


 今ではいささか、副司令であるアキラに任せられるため多少は楽になった。


 とはいえ、まだ来て半年少々と彼に頼るには難しい話もあるのだが。


「……何かご用ですか」


 レモアはその場に立ち尽くしているハヤミに尋ねた。


「暇を持て余している」


「そうですか」


 お互い、暇という確認を間延びした会話で無駄に時間を使っただけだった。


「他はまあ、退屈しない程度には仕事をしているか」


 格納庫では武器の整備、調整、また、トレーニングなどが行われている。


 少女達は人工生命体、ファミネイ。基本的にすべてを持って生まれてくる。


 この基地に配属されれば、人類の敵バカピックと戦う術、知識、能力を初めから駆使することが出来る。


 故にこの基地での少女達の仕事はバカピックの撃破、防衛、後はそれに関係する業務のみ。訓練や特訓などは、基本必要としない。初めからあるのだから。


 レモアの様に退屈をしていることは決して問題は無い。


 それでも、自己の能力を高めることは可能で、武器や装備の整備、調整は戦闘での効率を上げ、また、少女同士の会話、団らんは退屈を感じさせない。


 結局、少女達は退屈はしてはいられない。


「レモア、そろそろ時間だよ」


 カレンはレモアを大声で呼ぶ。


「やっと時間か」


 レモアはようやく重い腰を上げた。


「1つ、いいか」


 ようやく、動き出そうとしたレモアをハヤミは呼び止めた。


「……退屈はしていないか」


 ハヤミはただ、そう聞いた。


 これは他の少女達なら違った意味に捉えられただろうが。


「まあ、楽しいわよ。アキラは私を退屈させないから」


 レモアは淡々と語る。


「そうか」


「でも、だからといって満足してないから」


 捨て台詞を吐くかの様に、ハヤミに通りすがりそう語っていく。そして、その回答も求める事なく、通り過ぎていく。


 完全な捨て台詞であるが、それでも、どこかでその答えをレモアは聞きたかった。


 だからこそ、台詞として吐き出していた。


 そんなレモアに対してハヤミは黙って見送る。レモアもそれは分かっていた。ハヤミも何を語っても、すべてが言い訳になる答えなど語るわけにはいけないからと考えていたからだ。


「司令、こんな所にいたのですか」


 ハヤミの後ろからそう声をかけたのはシノだった。突然のことにハヤミは動揺する。


「別に居場所は隠してないぞ」


 コアを所持していれば、その居場所は基本管理され、また探す際にも使われる。もちろん、その情報を隠す方法もあるが、逆もまた同様で見破ることも出来る。


 実際、ハヤミは暇を持て余し、うろうろとはしているが別に居場所を隠してはいない。


 ただ、シノは別に位置情報を頼らず、他の様子を見ながら司令であるハヤミを探していただけだが。


「それで何かあったか」


 ハヤミの秘書であるシノが来るという事はそれだけで何かあったことを示す。だが、シノは落ち着いている。特に何も無い事は顔で示している。


「いえ、そろそろ日付が変わりますので、お知らせに」


「そうか、用意は出来ているのか」


「ええ、食堂はちょっとした騒ぎです」


「そうか」


 別に何も無いわけではないが、今から何か起ころうとしている。


「アキラにもこの雰囲気を味わわせたかったが、まあ、また次回だな」


「このまま、何事も無ければいいのですが」


「ある事も想定して、アキラには眠ってもらっている。もっとも、今日も今日で、明日も明日で忙しく、騒がしいのだから、寝られる内に寝ておくことは大事なことだ」


 実際、格納庫も慌ただしくなっている。別にバカピックが出てきたわけではない。


 基地は基本、穏やかな時間が流れている。もちろん、バカピックが来なければの話だが。なのに慌ただしいのは、イベントがある時ぐらいだ。


「最近は素直ですね、あの子」


「あの子……レモアか」


「ええ」


 シノはそう答える。当然、シノもまたファミネイであり、かなり長い間ハヤミの秘書として、この基地を支えている。


 当然、いろいろな子を見てきている。


 レモアもその1人であるが、その中でも色々な面で目に掛けていないといけない子として気にかけていた。


「あいつは俺と似ている。ファミネイ特有の楽しさでは満足出来ないのだ。まあ、その楽しさも知らない時に恨まれる事もしたしな」


 少女達は人工生命体。どうであれ、祝福をされ生まれてくる。


 それゆえ、少女達は楽しさを求める。


 実際はそんなきれい事ではないが、おおよそ言葉にすればそんな所。


 だが、ハヤミはこの基地に配属された時にレモアに対して、カレンもルリカにも酷なことをした。レモアは性格上、特にその事に反感を覚え、むなしい愉快さを演じていた。


 シノもその経緯を知っているからこそ、気にかけている。


「その後も色々ありましたが、彼がどうであれ、支えとなっているのでしょうね」


「カレンはカレンでアキラと似ている部分はあるが、もう少し積極性が欲しいな。とはいえ、ルリカの様ではつまらんがな。ルリカの場合はもう少し個性が欲しい」


「私はルリカの様なタイプは好きですよ。他の子にも見習って欲しいくらいです」


 シノも優等生タイプな性分だけに気があっている。


「司令、こんな所で暇を潰しているのですか」


 ヴィヴィが司令の姿が目に映った事で、声をかけてくる。


「いや、見回りだ」


 レモアの時とは別の答えをいう。実際、それはウソだと分かっているが、それ以上は何も言わない。


「そうですか、では我々は一足お先に楽しませてもらいます」


「ああ、ゆっくりとするといい」


 慌ただしかった格納庫にはほとんど人はいなくなった。


 休憩時間とイベントが重なったのもあるからだ。


「どうしますか、我々も楽しみますか」


「いや、これで十分だ」


 ハヤミは空となった格納庫を眺めて、感傷に浸る。


「変化の少ない日々とわずかな喜びこそが、今の自分の支えだ。これだけ感じられれば、十分だ」


 何事もない雰囲気であるが、ハヤミにはそれが愛おしかった。過去を振り返ると、激動でしかなかったからだ。


 そうして、感傷に更けているとシノが突然、声をかけてきた。


「司令、今年もよろしくお願いします」


「ああ、もう年が明けたのか」


 今は日付は変更された0時。そして、1日過ぎたことで、年も繰り上がった。


 食堂では新年を無事迎えたことで、ささやかな宴が開催されている。その賑やかさはこの場でも聞こえてくる。


 夜間任務もそれに合わせて休憩を取り、他の少女達も支障がない範囲でこのイベントに参加している。朝にもイベントが続くというのに楽しそうにしているのだろう。


 この瞬間を楽しみに待っていた少女達にはそれを言うのは酷で、無理な話であるが。


「さて、面倒事が起こらない内に寝ておくか」


 バカピックよりも少女達の騒ぎで起こされることもしばしば。ハヤミは自室へと戻ろうとする。


「おやすみなさい」


「お前も無理はするなよ」


 お互い顔を見合うことなく、声だけで確認をする。そして、双方とも何事もなく朝が迎えられることを願いながら。


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