少女よ、あの火は何の火だ? -後編-
しらけた雰囲気も薄くなり、沈黙にも耐えかねたレモアはようやく元に調子に戻り始め語り始める。
「とにかく、周囲を調べた方がいいわね」
それでも、状況が状況だけに続く言葉は少ない。そのまま、レモアは黙って歩き始める。カレンも黙り込んで、その後を付いていく。
少女達にとってはジャングルなこの草原もそれは見た目だけの話。
観測機器を持つ少女達には、ジャングルであろう、地下迷宮であろうと迷うこともなければ、未知の場所であっても初めから地図を作り上げることは可能だ。
その観測能力は怪しいモノが近くにあれば、目で見ることなく見分けが付けられる。
だが、その中でカレンは見慣れないモノを見つける。
「これは、野菜……」
草の中に隠れているが、地面には実った野菜が生えていた。
その姿形はカレンには見覚えがなかったが、機器から情報を取り出すことでカボチャだと割り出した。
「これがカボチャか」
「カボチャ……パンプキン味はまだ馴染みがあるけれど。これが、それとはね」
と、少女達特有の馴染みがないものに興味津々である。
「離れろ」
そのやりとりを聞いていた、アキラは叫んだ。
実際に通信越しだけでなく、周囲に声が響く。それは状況を見ていない、ルリカも異常であることを知らせるのにも十分だった。
カレンは素直に言葉に従ったが、レモアは気にしていない。
「野菜ごときに、何を恐れているの」
それはレモアでなくとも至極、当然な反応だ。
「とにかく、武器を構えろ」
再度、アキラは叫ぶ。普段の雰囲気はなく、指揮者の貫禄が出ている。
叫ぶ声まで出した、その言葉にはレモアも従うしかない。とはいえ、カボチャ相手に銃器を構える光景は奇妙であるが。
カレンの構えている銃器はいつもの大砲ではなく、ライフルだった。
作業の支障となるため、取り回しの効くライフルにしていた。それでもライフルには爆発系としてグレネードランチャーが追加で装着されていたが。
「草原の中には野菜は生えないから、それは偽物の可能性が高い」
地上を知らない人間にとって、自然は不可思議であるが、それでもそれは異常なこと。
「その通りよ。その説明はするよりも先にそれを調べなさい」
ターニャもフォローをする。
この草原は自然に任せているだけで、改良された植物で支配され土地。他の植物が入る余地はないようにいろいろと細工されている。
また、背が高い植物で覆われた中で、地面になるカボチャは日光を浴びることを妨害され、その成長を阻害され存在もできない。
本来、あり得ない光景なのだ。
だが、植物である以上、草原の中ではそれを異物という判断するにはきちんとした認識がなければ、あたかも自然となる。
つまりは意図的に偽装された存在だ。
「ルリカ、急ぎ合流を」
アキラは状況の見えていないルリカに指示を出す。
『アキラ、ここはおまえに任せる。必要とあれば、増援も出す』
ハヤミからも通信が入ってくる。
「意外に早く、見つかったわね。とはいえ、分からないことが見つかっただけか」
そう漏らし、ターニャは何の反応もない観測機器を眺めるだけであった。
カボチャと銃器を構え相まみえて、先ほどの奇妙な感覚でしらけたとはえらい違いだが、これはこれでしらけてしまう。
とはいえ、ルリカの体には未だ草を身につけている。
「撃っちゃう。この話も残り少ないし」
「相変わらず変なことを。まだ、折り返しよ。用心しないと」
よく分からない会話も致し方がない。
いつも以上に荒唐無稽な光景だからだ。
「それでターニャ、カボチャ相手にいつまでにらめっこさせる気」
冷静に解析することでそれは野菜でなく、人工物であると分かってきた。
「明らかにカボチャではないわ。草原で隠れて、その上、表面は偽装していたから分からなかったようね。誰かさんの今のようにね」
ターニャはようやく変化を示したデータから状況を分析と皮肉を交える。
「なら、敵ね。撃っていいわね」
「少なくともそれは本体ではないわ。もう少し様子を見ていて、調べてみないと……」
しかし、急ぎ武装を展開したルリカの登場で、相手の方から動くことになった。
地面になっていたカボチャ達はその本性を現し、いつものバカピック特有の目とキザギザ歯の口を開かせた。そして、宙に浮かぶ。
まるでカボチャのお化けだ。
それと同時に正体不明の攻撃が少女達を襲う。単なる押す力で衝撃波に近かったが、問題はこれまた観測されないことだ。
その攻撃でカレンとレモアは吹き飛ばしたが、推進装置の展開しているルリカにとっては支障のないレベル。
そのまま推進力を増して、斧でカボチャを叩き割る。
ルリカは近接戦になると判断したので、ハルバードではなく、取り回しの効く、草を刈っていた斧のままで攻撃を仕掛けている。
この判断は間違いでなかった。
その隙にカレンとレモアは体勢を立て直し、装備している銃器で応戦する。
カボチャ本来の大きさだけに武装を展開しなくとも、その威力は十分である。
また、展開するにしても数十秒はかかり、その間は攻撃の的になりかねないこともある。
だが、カボチャは地面に実っていた分が破壊されても、その茎自体から正体不明の攻撃を繰り出す。
カレンは踏ん張って耐えようとするが、耐え切れそうになかった。レモアは既に耐えることを放棄している。
とはいえ、レモアの選択は合理的で、無理に耐えるメリットがない以上、むしろ正しい。
ルリカはその様子から、敵から距離を取りカレンの踏ん張りをサポートする。
むしろ、こちらも植物の茎が相手である以上、近接、射撃戦で相手するよりも爆発系で一掃する手が有効。ただ、ルリカは手持ちでは持ち合わしていない。
「撃って」
ルリカはカレンを支えながら、そう話しかける。
すぐさま、意図を察知してカレンはグレネードを放ち、茎の中心部を始めとして周囲ごと吹き飛ばした。
正体不明の攻撃から解放されたが、未だその詳細は正体不明。
そして、吹き飛ばされたままのレモアも起き上がる。
しかし、これが本体でないことは分かっていたが、グレネードの爆発以外には周囲に影響はなかった。
「やっぱり、爆発しないか」
バカピックの爆発は四方に広がらず、逆に四方の空間を収束させる。
それが起こらない以上、バカピックは倒していない。では、これがバカピックではない可能性は。
「間違いなく、この構造はバカピックね」
破壊された残骸、相も変わらずよく分からない機械で構成されている。
また、バカピック以外の侵略者は見たことないし、もし、別に存在するのならこんな回りくどい無駄な手でやってこないだろう。
ともかく、動力を供給している本体は未だ健在。
「根っこ……」
爆発によって、地面が掘り起こされたことで、カレンは土の中に配管らしきモノが走っていることを見つけた。
これが植物同様、栄養を送る管としたら……
「本体は地下にいるのでは」
カレンは叫んだ。
* * *
ハヤミも爆発がしなかった点、地下、火の玉騒動からある答えにたどり着いた。
「動力室だ」
そう、ハヤミは敵の目的は動力室と結論付けた。そこを壊されれば、それだけで基地の機能はすべて崩壊する。
「レモアの証言もそうだが、敵が地下にいるのなら、この状況で狙うのはそこしかないだろう。奴らは地下から動力室を狙っていたのだ」
無駄に危機をあおるように熱く語っているが、少女達にはそういったノリは受けが悪いので反応はいまいち。
「とにかく、ピンチだ」
ここ最近は隣にアキラがいたから、このノリでも反応があったから、まだ照れ隠しを入れる必要はなかった。
とはいえ、通信越しではアキラにはことの重大さは伝わっている。
そして、次に何をするかを周りに命令を下す。
「至急、削岩機か、いや大型のドリルを準備して、動力室へ迎え。壁を壊す程度の小さいモノでは駄目だ。ドリルでバカピックを壊すことになるかもしれないからな。大きくていい」
この命令によって、基地内は慌ただしく動き始める。
「アキラ、ターニャ、地下の存在はこちらで対処する。お前達は地上から振動やエネルギー源からでバカピックの正確な位置を割り出せ」
その言葉にターニャはすぐさま反応をする。
『モグラすら見つけ出す機器でも、引っかからない相手にどうするの』
先ほどから様々な観測機器を持ち出していても何一つ、観測できないターニャにとっては、幾ら命令であっても泣き言しかいえない。
ターニャは決してネガティブなキャラではないが、ここまでいい所なしでお荷物な展開、それで分かりもしないことを調べろとは誰であっても、泣き言しかいえないのも無理はない。
「とにかく、お前の仕事だ。いいからやるのだ」
ハヤミにしても、心情は分かるがそんなことを言っていられる状態ではない。同情の言葉などかけることなく、ただ、命令するしかない。
* * *
アキラはそんなターニャの様子を見て、自分でも手を考え始める。
ひとまず、確実に地下にいる根拠である根っこを調べるのが先決だろう。
「カレン、根っこらしきモノから何か分かるか」
アキラは通信で尋ねる。
そう言われて、カレンは根っこを触れてみる。
こちらの動向がばれているのに、そういう機構なのか隠すことのない根っこは見た目だけでは地下に深く埋まっていることは明らかだ。
そして、その根っこである配管から、観測機器を使い相手を探すことはできそうだった。
「とにかく、根っこから探ってみます」
カレンはあまり自信はなかったが、今の状況では勢いよく応えるしかなかった。
「ここはカレンの根っこが調査が頼りね」
逆にターニャは完全にあきらめモードである。
自身よりも経験豊富なターニャがさじを投げているのに、アキラにそれを超える考えが思いつくはずがない。だから、アキラは逆に道筋を立てることにした。
どこにいるか分からない相手を探すのではなく、それを見つける方法。
そもそも、いるか分からないが、いるだろうとする状況。そして、そこから推測される相手の目的。それを証明する手立てがあればいいはず。では、その方法は……。
と、やはりアキラでも考えはまとまらない。
でも、今考えていたその中で、あることが1つ引っかかりがあった。
「……逆に動力室を目指していることを証明できませんか」
アキラのその提案にターニャはひらめくというか、はっとさせられる。
「そうね」
そして、それを起点にターニャの中で方法の道筋が立てられていく。
「そうだ。動力室を目指していれば、その近くに何か違いがあるはず。今は、それを調べればいい」
ノリに乗ったターニャは勢いよく、観測機器を前にしてデータの処理に入る。
「とにかく、この点だけをとにかく観測して、カレンの情報とも照らし合わして、何かは出てくるのは間違いない」
先ほどまでのネガティブはなくなり、ターニャ本来のアクティブさを取り戻した。
こうなれば、アキラの出番は終わり、後はいつも通り少女達を信じればいいだけになる。
* * *
そんなこんなでデータがまとまり、相手の位置を割り出せた。
「位置が分かりました」
ハヤミはモニターに映し出された情報を眺めて、少し焦りを覚える。
動力室から200mの距離。人間の足でも、あっという間に到着する距離である。
だが、そのわずかであり、発見されているというのに相手は速度を上げることなく、微速で進んでいるのが、まだ救いではあった。
「……近いな」
相手の出方は気になるが、悠長に気にしている場合ではない。
とにかく、敵を迎撃するしかない。
「気にすることはない、その位置にドリルを使え。派手にやって見せろ」
その言葉はファミネイを本気にさせる。
ともあれ、少女達は派手とかそういう言葉は好きである。
* * *
その言葉を聞いて、動力室で巨大なドリルを準備していた少女達は送られた座標に向けてドリルを進めていく。
バカピックに対抗するためと素早く進められるよう、ドリルは自走式でその回転部自体は直径3メートルとどんな壁や岩盤も平然と進められる強度を誇る。
その巨大なドリルは勢いよく動力室の壁を壊し、豪快な音を立ていく。うるさく音を立ててはいるが、日頃できないその音に、少女達は興奮をし始める。
興奮から、派手さをさらに増すためにもドリルの回転、速度を上げていく。
それでも、アルミカンで管理させおり、出力を上げたことによるリスクは管理されており、オーバーヒートや刃こぼれは起きさせることはない。
豪快に土を掘り起こしていく中で、目的のバカピックが顔を出す。そこにいたのは白い色をしたバカピック。大きさはいささか小型でこちらも3メートル程度ではあるが、地上へと伸びる配管があるためそれを含めれば、かなり巨大な部類。
しかし、その姿形を調べるのが目的ではない。破壊が目的。
後はドリルで相手ごと、全力を掘り進めるだけだ。
もっとも、進んでいったドリルはバカピックの爆発ともに消えることになったが。