少女よ、あの火は何の火だ? -エピローグ-
この騒動の決着で、一応の安心は得たが、他に隠れていないかと草原の調査、破壊された正体不明のバカピックの調査、派手に壊した壁の修復等々と気の休まるまではいささか時間がかかった。
一番の問題は観測できない相手、まるでゴーストの対応に急ぎ、力を入れられた。
そして、一応の結果がアキラを初めとするハヤミに報告が入ってきた。
「カボチャに白いお化けか」
ハヤミはバカピックの外観に毎度馬鹿らしさを感じてしまう。とはいえ、外観以上に正体不明なお化けな性能には敵ながら、頭が下がるのだが。
「おそらく、お化けでは間違いないでしょうが、地下にお化けは出ません。出てくるのは死んだ死体が地下から地上です」
ターニャは皮肉めいて語る。そして、そんな皮肉もそこそこに続きを語り始める。
「本体表面には野菜に似た構造を身にまとっていました。外観だけでなく、これにより観測を阻害したのでしょう」
「白い方もか」
「ええ、それから考えて、今回のバカピックのモチーフはおそらくカブです」
「また、野菜か」
ハヤミはまたまた馬鹿らしい結果に頭を抱える。だが、その答えにアキラは冷静にもある点に気がついた。
「完全にジャック・オ・ランタンですね」
アキラはそう答えた。
「どうして、そこでカブが出てくるのだ」
ハヤミは尋ねてきた。ハヤミもジャック・オ・ランタンがカボチャのお化けであることは知っているが、カブとの関係まで知らない。
「元々の由来はカブなんですよ。カボチャはカブの代用で、逆に主流になったんですよ」
「そうか」
ハヤミは納得して、それ以上語ることはなかった。だが、アキラは続けて語る。
「ここまで忠実にモチーフとしているのは、バカピックは我々の命名のルールを完全に理解しているのでしょうか」
アキラの披露したのは雑学じみた知識であるが、その雑学を人類よりも敵は熟知していることになる。
「まあ、奴らも高度な存在である以上、こちらのデータは生活、風俗まで含め理解しているということか。しかし言っていて、馬鹿らしくなるな」
その会話に一区切り付いたことでターニャは報告を再開させる。
「ひとまず、今回のケースで植物に対しても観測の範囲を広げることにしました。そして、地下からの侵入に対しても土壌成分の変化を見ることで対応します。恐らく、今回のケースには対応できるかと思います」
「その対応策は都市にも至急、連絡を」
「既に連絡済みです」
とはいえ、毎度のことながら一番の疑問は都市を守る基地を先に攻める理由である。
今回のように、人知れず地下から侵入するなら都市の方が多くの被害を与えることができる。
また、今回は運良く迎撃できただけに、このように裏をかく手を使えば、簡単に基地を落とせるはず。
敵、バカピックの目的が単純に人類滅亡、世界征服などではないのだろう。だとしたら、逆にこうまでする理由とは何か。
まるでお化けのように人類を脅かすだけというのであれば、ただただ馬鹿らしいだけだ。
そう思いながら、ハヤミは今回の騒動を知るきっかけとなった、火の玉の件を尋ねる。
「それで火の玉の方は何か分かったか」
「『セントエルモの火』をご存じですが」
聞き慣れない言葉に、ハヤミもアキラも首をかしげる。
「船舶に現れる火の玉で、その神秘的な現象は古代から多くの文献に出てきますが、科学的に解明されるにはそれから千年以上先になりますが」
「それがどうした」
ターニャにしては回りくどい台詞だけに意図がつかめない。むしろ、ターニャも同様な気持ちである。
意図がつかめていないからこそ、回りくどくなる。
「同様かと思いまして、我々がその現象は知っていても、未だ解明されていないモノを奴らはそれを利用していたのではないかと。恐らく、宇宙由来の事象、『ソフ』です」
『ソフ』、それを知る人類は今どれだけいるだろうか。そして、宇宙もだ。
空を奪われ、その上である宇宙すら奪われている。『セントエルモの火』にしても、大気の事象なのに、宇宙の事象を知る者など限られている。
また、太古から続く『セントエルモの火』に対して、最近発見された『ソフ』を知るというのもどうであろうか。
どうであれ、今の人類にはどちらも無縁なことになってしまったのだが。
「そっちは懐かしい言葉だな」
ハヤミはそう声を漏らし、アキラは理解できてない。
ターニャにしても、先日までは言葉と概要だけでしか知らなかったことである。
「観測できないが感じることのできる宇宙に吹く風のことです。一説にはダークマターの揺らぎとも、重力レンズが起因とも、タダの勘違いとも言われています。だが、宇宙を追われた我々にはもはや、感じることのできない存在ですが」
ターニャの説明の通り、宇宙に吹く風とはいわれているが、その影響は単なる身体的な勘違いだけでなく、直進する光を曲がることやワープ時にわずかな誤差を与えるなど宇宙生活時の人類には多少悩ませた存在であり、解明できなかった現象である。
宇宙時代の言葉だけに名の由来は忘れ去れているが、「風を感じる秘密」をアルファベット由来の言葉で表した、SoFU、漢字を由来とした「虚空風」が転じた空風からソフと読んだとする説が有力な諸説である。
どちらにしろ、人類が宇宙にいた時の解明できなかった現象である。
「恐らく、ソフを媒体、もしくはそれに準ずるモノを使い基地内部を調査していた。この原理は不明ですし、奴らがこれでどこまで調べられたかは不明です。ただ、目撃談から考えれば、効率は悪かったのは間違いないですが」
「なるほど、電波や音波の要領で、ソフいや、火の玉を観測機器の媒体にしていたのか」
「奴らがそれを利用したのなら、我々が観測できないのも理解できます。また、感じ取っている者もいる以上はその可能性はあると思います」
観測できないが、人の身では感じることができる矛盾したようで、原始的な感覚が頼りとは皮肉である。
「そもそも、我々に観測できないモノを使うのは、普通の戦術です。奴らにしてはユニークさは欠けていますが、脅威としては御覧の結果です」
地下を掘って潜っていること自体はこの際、無視である。そもそも、地下からの侵入は決して珍しい手ではないことだし。
「ソフの観測は未だできませんが、地下からの侵入では対策できましたので、ひとまずは安心はできるかと思います。また、これに関しては現在も調査、解明を続けております。分かり次第、対策を打っていきたいと思います」
「そうか」
ハヤミはその言葉にひとまず、安堵を覚えた。
「しかし、地下から、そんな効率の悪い芸風で動力室を探り当てていたとは。隠密の割には労力は割が合っていないような気がするな」
ハヤミは安堵したせいか、バカピックの馬鹿らしさに笑っていた。
だが、ターニャはその様子に一言を付け加える。
「奴らは決して成長という点を捨ててはいません。確かに無駄な努力と笑い飛ばすことはできますが、それを無視してしまえば人類を滅亡させられます」
ハヤミはその一言にひどく揺さぶられる。確かに何度なく、経験してきたことだから。
「今までと同じという考えは、常々危険ではあります。我々も無駄な努力でもしなければ、この状況を逆転まで到底、持って行くことはできません」
ターニャの発言は司令に対してズバズバと苦言を建前もなく語っている。別にそのことをハヤミも怒ることも反論することもなく、素直に聞いている。
ターニャの力関係がここでも特殊を示している。
「……改めて、肝に銘じよう。何度と苦汁を飲まされたことだが、あいつらの馬鹿らしさに付き合っていると、そのことをいつも忘れてしまう」
その光景は見ていたアキラは何か言いたげであった。
「どうした、遠慮はいらない発言してみろ」
「今回のバカピックはお化けみたいな存在でしたが……」
次の言葉を出すまでにアキラは少しの時間を使って、言葉を続けさせた。
「ちなみに聞くのですが、我々人類は本当の幽霊観測できるのですか」
純粋に聞いてきたアキラに、今まで無理に大人ぶった感覚はなく、ようやく年相応な態度を見せていた。
そんな様子にターニャは言葉が詰まった。
ただ、ありふれた言葉で答えてはいけないと感じたからだ。とはいえ、その思いだけで言葉が出てくるわけでもない。
「まあ、無理だな」
身も蓋もない答えをハヤミが先に答えていた。だが、唖然とする前に言葉は続けていた。
「しかし、幽霊を観測できていれば、今回の騒動がここまで大事にはならなかったかもしれないな。ともあれ、我々はまだまだ知ることは多い訳だ」
そして、続けてこうも語る。
「とはいえ、こんな無駄な努力もたまには必要かもしれないが」
ハヤミもアキラも、そして、ターニャもその言葉に笑い出していた。




