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第4話 くすぶり出す火種

 翌日は、6月らしい梅雨空の朝であった。ひと昔前は、東京のエアコン熱のせいで日本一暑い地域の認定をうけていたこの利根川流域熊谷から栗橋にかけての地域であったが、現代ではクーラーの排熱処理には画期的な進歩が遂げられ、真夏でも30℃を超えるのが稀になっていた。


「おはよう、秋子。早速昨日の話なんだけど。」


 秋子が教室に着くや否や、彰子が抱きついてきて昨日の続きを話し始める。


「場所は、うちの別荘。鹿児島にあるの。プライベートビーチもあるから、海水浴もできるわよ。一緒に水着も買いに行きましょうね!」


 秋子が一緒に行くということから、憂鬱な旅行が楽しみな旅行に様変わりした彰子は次々に提案をする。


「あ、彰子?ごめんなさい。私、去年新しい水着を買ったばっかりだから。でも、彰子の水着をしっかりと選ばせてもらうわね。」


 女の子らしい会話をしているところに、智隆が登校してきた。


「なんで、秋子と旅行の話をしているんだ?」


「私が誘ったのよ。秋子がいれば、私は秋子と寝るから、私にとっても、(たか)にとっても不幸なことにはならないでしょ。前回の旅行でいろいろ学習したのよ。」


 それを聞いている智隆もやはり、遠い目をしていた。彼にとってもその前回の旅行は相当なものだったらしく、秋子は軽い同情を覚えていた。


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



 この防衛高校というのはある意味ではつまらない場所かもしれない。年一回の合同体育祭以外に大きな対外的行事もない。その他は、非公開の遠足やら、校外学習がわずかにあるだけである。

 また、ここ数年、大きな事件も起きることがなかったので、生徒にしてみれば本当に課されたカリキュラムをこなすだけであった。


 当然の事ながら、学校という場では、職員会議というものがある。しかし、毎年大きな問題も起こることのない現場では、会議=昨年通り という方程式が成り立っている。

 しかしながら、今この八高の職員室で開かれている会議ではそんな例年通りということでは済まされない問題が起きていた。


「だから、魔法が使えないとはどういう事だ!魔力というものは生まれつきの回復可能な力なのだろう?それがなぜ回復しないのだ。」


 公には公表されていない事実。最初の発症者は、東京八王子にある第一防衛高校の魔法戦士科教員であった。帰り道、不審な男を見かけたその教員は、そのまま、すぐ去ろうと歩調を上げた所、背後からの魔法攻撃を察知。補助魔法により、身体能力を上げた教員はそのまま初撃を躱したが、更に後ろに控えていた魔法師の詠唱魔法を止めることができなかった。結果、教員の魔力は吸い取られ、そのまま回復しなかった。


「防衛大学魔法医学教授の話によると、呪術的な魔法らしい。今、解呪の研究を進めてもらっているが、全く目処は立っていない。」


 資料を見ながら、眼鏡をかけた教員が淡々と語る。


「更に厄介なのは、その魔法。感染者の魔力をどこかに送っているらしい。だから、回復した魔力が片っ端からそこに送られるため、感染者の魔力が回復しない。集めた魔力を思うと、どこかで大規模な魔法犯罪が起こる可能性が極めて高い。」


 眼鏡をクイッと上げると、発表終わりというように教員が辺りを見渡す。


「おいおい、そんな事は、あんたら魔法科の先生たちが考えればいいだろ。今問題なのは、崎原(さきはら)の問題だろう。」


 崎原というのは、この八高の魔法科3年で生徒会副会長の男であった。母は八家鷹義(たかぎ)家の出身で、本人もかなり高い魔法能力を示している。無論、魔法科の首席であることは言うまでもない。


「俺たち騎士科にとっても今の時代、魔法の補助がないとかなり戦力的に問題になることは重々わかっているつもりだ。崎原に関しては早く復帰してもらわないとな。」


 優れた生徒をしっかりと軍属に入れることも防衛高校の義務の一つである。そのため、毎年成績優秀者は合同体育祭後に、防衛大学に進学することを条件に、准尉(進学と同時に少尉に昇級)の階級を認定する。もちろん、この判定には、合同体育祭の活躍が大きく加味されることとなるのであるが、このままではその体育祭の校内予備選に崎原がでられない可能性がある。

 もちろん、魔力の回復の可能性が高い事と、これまでの成績を加味すれば喩え今大会に出られなくても階級の認定はされるであろうが、周囲からの印象は大きく変わってしまう。それに、崎原と組むことによって、好成績を残せれば、他の生徒、特に騎士科の生徒が認定を受けやすくなるのである。そして、その認定数と学校評価は、教員である彼らにとっても大きく関わることになるのは当たり前の結果といえよう。


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・



さて、そんな事を騒がれているとは知らない、一生徒である秋子は今日の放課後、彰子と一緒に水着を買いに行く計画を立てていたのである。

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