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ひねくれ少女ネトゲに入り浸る~強いってだけじゃ駄目なんですか?~  作者: せいゆ


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 日が沈みだし、一行は近場の村に辿り着いた。

 結局イトウが激流を昇る事ができず、収穫も得られぬままであった。


「ふぅ、久しぶりにのんびりできた気がしますよ」


「それは良いことだ」


 プリスターは休日を満喫したかのように表情が崩れていた。

 しかしメイアだけは難色を示す。


「良いことなんですか?」


「このゲームは自由なんでしょ? なら楽しんだ者勝ちだよ」


「実入りのない時間にしか思いませんが」


「メイアちゃんは生真面目タイプだねぇ、友達出来ずに孤立しちゃうよ」


 その言葉に顔が引きつり口を閉ざした。

 図星をついたのはミナモは分かっている。そもそもこの言葉は意地悪と、性格の取っ付き難さ変えるためのアドバイスでもあった。


「休息は人の心にゆとりを与え、蓄えた余裕で多くの事を成す。

 余裕がないと考えも行動も窮屈になっちゃうよ」


「誰の言葉です?」


「知り合いの言葉と、実体験からくる言葉、つまり私のだ」


 ドヤと誇る顔をするとプリスターはころころと笑い、ミナモの頬をぷにぷにと突き揶揄う。

 今日出会ったばかりだというのに打ち解けるその姿を、メイアは少しだけ羨ましそうに眺めていた。


「ん?」


 突然ミナモが立ち止まり、周囲を観察する。


「あれ? どうかしたんですか?」


「ん~、何でもないよ」


 ミナモはさらに天を仰ぐように眺める。ただ瞼は閉じたままであった。


「そう言えばずっと目を閉じてますけど、……なんで?」


 今更目を閉じている事に違和感を覚えた。

 目を閉じれば前が見えないはずだ、ゲームでもそれは変わらない。

 アウトセンスで見えていても、開いて見ていた方が負担は減る。


「強キャラ感が出るでしょ」


「大変じゃないですか?」


「それは見栄え優先で高速で瞬きして把握だよ」


「めっちゃ努力してますねぇ」


 さらに頬を突く弄り、ミナモはひょいひょいと避けて駆けだした。


「宿に行きましょ、宿」


 ベッドで眠る事で、ステータスを上昇するバフ効果を得られる。

 休める場所があるなら休む事を推奨するゲーム、プレイヤーは癖のようにまずは宿を確保する。


「あ、ちょっと雑貨屋」


 宿に向かう途中、ミナモは少し用事を思い出して雑貨屋へと向かう。


「何か必要なの?」


「桶」


「桶?」


「イトウさんを入れるための桶、ログアウトするとこの水球消えちゃうだろうし、念のためね」


「なるほど」


 夜になれば店が閉まる、店が開いているうちに購入する事にした。

 店番をしていたのは女性の店員だけで、ミナモは朗らかに微笑み、桶を購入する。


「丁度ですね、ありがとうございます」


「はい、どうも~。

 ……身形をとやかく言わないのは珍しいですねぇ」


 そんな言葉を投げかけるが、女性の店員は表情を変える事も無く、そして返答も無い。

 ミナモは相変わらず笑みを崩さぬままパタパタと店の外へ出て行った。


(あっ、宿代が無い)


 天を仰いでも、お金が湧く事は無い。


「……最近稼いでなかったからなぁ」


 即興で売れる物を所持していない、何処かで稼ぐ必要があった。


「はぁ、仕方ねぇ、NPCから金を巻き上げるか」


 向かうのは酒場、と言っても宿も兼ねていて、そこには先に来ていた二人が受付を済ませてロビーで待っていた。


「桶はありました?」


「あったよ。まあ宿代が無くなったけど」


「え? ずいぶん金欠ですね、私が貸しますか?」


「貰うんだったらいいけど、貸し借りは嫌だから適当に稼ぐよ」


 プリスターは高くもない宿代をあげようとしたが、声をかける前にミナモは店主の元へ行った。

 なにかやり取りをし、店主は腕を組み悩み。


「……まあ、いいだろう、下手なことはするなよ、駄目ならすぐ止めるからな。

 子供だからって竜神様は逃さないぞ」


「竜神様?」


 竜神という言葉にミナモ以外が反応する。


「竜神様はここ等の守り神だ。

 豊穣も司ってる凄い神様だぞ」


「ほぉん、なるほど。豊穣という事は雷の音を竜の咆哮と勘違いする伝承も多い、雨を呼ぶという事でそうされてるんだろう。

 竜神の怒りは洪水を指すのかな?」


 風情も無くミナモがそんな事を説明する。店主は呆れミナモの額をデコピンではじいた。


「罰当たりだなぁ」


「私が神だぞ」


 今度は頬を引っ張られ、苦笑いをする二人にさらに説明をした。


「竜神の怒りは炎の海に沈める事だ、ちゃんと納める祠が西の湖に、……あるらしいから、そこに祈りを捧げるといい」


「火の海、雷が木の落ちたのかな?」


 ミナモの頬を解放し、今度は背中を叩く。


「さて、やりますかぁ」


「何をするんですか?」


「私に惚れさせ、金を巻き上げるのさ」


「……惚れ? え?」


「惚れるなよ、むふん」


 店主と共に受付の奥にある酒場へと足を踏み入れていった。


(惚れ? ……ほ、ホステスみたいな事するんですか!? え? といか、その先まで!?)


 プリスターは想像を発展させ、如何わしい事を妄想すると、慌てて後ろを追っていく。

 何をやらかすのか不安になったメイアも後を追った。


(賑やか)


 メイアは普段立ち寄った事すらない酒場を見て怪訝な表情をしていた。飲んだくれの親父などが騒いでいたのだ。

 何が良いのか理解できず、ゲラゲラと笑う姿に嫌気すら湧くほどだ。


「あわわわっ、お、大人の階段っ」


 プリスターは一人泡を食ったように慌てているが、その理由がわからず首をかしげる。

 ミナモに視線を向けると、部屋の片隅にある窓際へと立つと、ヴァイオリンと一つの楽器を取り出した。


(ヴァイオリン? ……それにあれはピアノかしら?)


 取り出したのは小さなグランドピアノであるが、ピアノは小さくおもちゃのようであった。

 二つの楽器は宙を浮きふわふわと浮かんでいる。


(一体何を?)


 次の瞬間、小さなミナモの体から旋律が鳴り響き始めた。


「え?」


 静かに、しかし透き通ったその声は全てを静止させるほど。

 驚いたのはメイア達だけではない、その場にいた全員が静まりミナモへと視線を注いでいた。

 ミナモはその視線を物ともせず奏で続け、人の心を捕らえる。

 音の波が全てを覆いつくす、先ほどまで騒いでいた者たちは言葉を失い、その旋律に飲まれていた。生唾すら飲めないような雰囲気にただ聞き入る事しかできない。


(ど、どういう事なの?)


 メイアが驚くのはミナモの声だけではなく、小さなピアノから響く重厚な本物のグランドピアノの音だ。

 小さなピアノからは、普通ならば重厚感のある音を奏でる事はできない。


(吟遊詩人の能力に自動演奏はありますけど、楽器が浮くことは無いはず、……それにこの歌声、一体)


 旋律でもある歌声は、聞く者を魅了する。

 その一つ一つの音の粒は細く、しかし濃密なほどの情報で溺れてしまいそうだ。

 歌詞の物語、その主役になったかのように世界が置き換えていく。


(嗚呼、まるで、夕暮れの中を寂しく歩いてる様……)


 奏でる音色や歌詞はとても寂しく孤独を感じるものであった。

 奏でれば奏でるほど歌の中の物語は進んでいく。

 最初は夕暮れの中を一人寂しく歩いていく物語であったが、時間は過ぎ夜闇に飲み込まれ、夜の中を彷徨う。曲が終わりに近づくほど闇は浅く、彼方から朝日が見え隠れしていた。

 最後の一音が響くと光が差し込みその場にいた者たちは安堵し、平穏を手にしたように心が落ち着いた。

 しかし一息ついたのもつかの間、朝焼けと共に清々しい歌声が次の物語へと誘ていった。


「終わってしまった……」


 それは誰の言葉か、自分かはたまた近くにいた人物か、どちらにしろミナモのコンサートは4曲で終わってしまう。

 誰もが名残惜しく視線でアンコールを訴えるも、ミナモは胸元に手を当てて一礼をすると。


「金入れろ」


 雰囲気をぶち壊す一言を呟くのであった。

 雰囲気を壊す言葉を言われても、自分の内にはまだ余韻が強く残り、操られるようにお捻りを桶へと入れていった。

 ほぼ全員から入れたのを確認したミナモはお捻りを回収し、メイア達の元へと戻り。


「金」


「おいくらでも」


 ずっと口元を押さえて感動していたプリスター、その感情のままに資金を投入しようとする。


「ちょ、ちょっとしっかりしなさい!」


「離して、推しが推しが、求めてくるの!」


「推しは分かりませんが、今の貴女は正気じゃありません、少しは落ち着きなさい!」


 金貨が舞い込んでこないと悟ったミナモは桶を仕舞い、名残惜しそうにして宿の受付へ向かった。

 受付を済ませて戻ってきたミナモは。


「現実2時間休憩ね、じゃお疲れー、時間はこれ」


 全世界共通の時計があり、その時計での時間を伝えて寝床へと向かった。


「姫ぇー」


 プリスターは名残惜しそうにしながら見送り、強制的にメイアに席に着かされる。


「なんですそのアイドルを追っかけるみたいな感じは」


「何も見たまんま、私が知りえる以上の最高のアイドルだぁ」


「アイドルというよりは歌手でしょ」


「歌手ってアイドルでしょ?」


「同一視しないでください」


「どっちでもいいです、嗚呼、とても素晴らしかった、今まで見てきたアイドルが全員霞んで見える、どんなライブであってもあれを超えられない、嗚呼、嗚呼」


 興奮に混じり、恍惚とした表情を隠すことなく露にし、ただ只管感動に浸る。


「……まあ、確かに最後と衣装以外は間違いなくそうかもしれませんが、……釈然としません」


 間違いなく今まで見てきたアイドルより輝いて見えたが、見た目と性格が受け入れるのを許さない。


「嗚呼、やっと理解しました、私の追っかけはこうやって――」


「追っかけ?」


「え? あっいえ、なんでもないです。

 それよりも私は姫を出迎えるために寝ます、でわ!」


 ミナモに惚れ込んだプリスターは、絶対に遅れない為に急いで寝室へ向かっていった。


(あの子、少し前までわたくしを慕ってくれていたのに。

 戦ったり付きまとったり、しつこかったのに、なんですかこの気持ち、釈然としない……)


 何かをミナモに取られた様で釈然としないメイアである。


 ☆☆☆


 2時間もせずにミナモは再びログインしイトウと共に寝床を出る。

 イトウを育成しようと早めにログインしたのだが、外の様子が少しおかしいことに気が付いた。


「騒がしい」


 夜だというのにバタバタと足音が響く、そして窓の外からは松明に火を灯して動き回るNPC達の姿があった。

 ミナモは不思議に思いながら受付へと向かうと、店主が駆け寄ってくる。


「お客さん、お話があります」


「話? この騒ぎと何か関係がある」


「ええ、そうです。

 お客様は冒険者とお見受けしますが、依頼を受け付けておいででしょうか?」


「内容にもよるけど」


 こちらへどうぞと酒場の席へと招かれミナモはその席へと座る。

 店主の表情は真面目で内容が深刻な事を物語っていた。


「単刀直入にお伝えします、子供が複数、突如として行方不明になりました、それを探してほしいのです」


「ふむ」


 奇妙な事件の幕が開き、ミナモは刺激的な内容にほくそ笑む。

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