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ひねくれ少女ネトゲに入り浸る~強いってだけじゃ駄目なんですか?~  作者: せいゆ


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プロローグ



 虚空の闇に閃光が走った。

 その閃光に笑みを浮かべ、何も無い空間に手を伸ばすと、文字やグラフの羅列が広がっていく。

 寒い明かりが、座っている人物を照らす。


「獲物発見」


 やけに楽しそうな野太い男の声がコクピットに響き渡った。


「砲門二番まで起動準備、準光速航行に移行」


 アステロイドベルトで四角い宇宙船が動き出す。

 小惑星の陰から少しずつ速度を上げ、先ほど見えた閃光を追う。景色が後ろへと流れていく。


「最後の獲物はどんなもんか」


 船の周囲の状況を表示しているレーダーに、違和感を感じる。

 不自然なまでに何もない空間へ、吸い込まれる様に船が進む。


「きな臭いな。罠、か」


 男が気が付いた時にはもう遅い。

 再び閃光が走った、コクピット内部に本能を刺激するブザー音が響き渡る。

 普通ならば焦る音でも、男は一切焦らずにレーダーを眺めた。


「駆逐艦じゃねぇか……」


 現れた機影と情報に目を疑った。

 駆逐艦の大きさは男の乗る宇宙船とは比べ物にならない、蟻と象と言うほどの差が開いている。


「……冗談だろ? 他もかよ」


 さらに少し離れた場所に似た駆逐艦が5隻ほど現れる。その駆逐艦を巣穴とする蟻が大量に湧き出て来る。男が乗る宇宙船と似た様な大きさの船ばかりだ。


「クッソ優秀なステルスを積みやがって。一人相手に、この物量って、……しょ、正気じゃねぇ」


 手元が震え、脂汗が滲む。

 この物量を見るのは生まれて初めてだ。


『おい! 一人相手に何だこの物量は!』


 この空域の全てに聞こえる様に言葉を投げかけた。


『ハッハッハッ、当たり前だ、君が海賊だからだよ、しかも厄介なタイプの!』


 とても愉快そうな笑い声が聞こえる。


『ズル! ずるずるのズル!!』


『ここまで生き残ってるから質が悪い、最後くらいギャフンと言ってもらわなければ私が困る、皆も困る!』


 ロックオンされていると、警告が画面を覆い尽くす。駆逐艦から夥しい数の火器が今にも火を噴こうとしていた。


「……そろそろ覚悟を決める時か」


 終わる時は何時かは来る。覚悟は出来ていたはずだ。

 走馬灯の様に自分の所業が過る、非道な行為ばかりで、思わず自嘲してしまった。


『こうなりゃ一機でも多く道連れだな……、悪党と一緒に旅立ってもらうぞ!』


『楽しみにしてるよ』


 男の乗っている宇宙船目掛け、駆逐艦から途轍もないエネルギーレーザーが放たれる。それに交じり小型のミサイルが宇宙船を落そうと迫る。

 男は下唇を噛みながらも口角を吊り上げ、襲い掛かる光とミサイルの嵐へと飛び込んで行く。

 常にアラートが鳴り響き気が狂いそうだ。だというのに男の顔は笑いっぱなしだ。


(嗚呼、これは、とても良い)


 攻撃が掠め船体を揺らす。被弾した場所は機能を失い、その破損個所を分離し身軽にする。


「一人相手に寄ってたかってからにぃ!!」


 持てる火器で反撃を行う。小さなレーザーが目の前の宇宙船を狙い攻撃していく。

 隙間を縫うように回避していくが、回避できる物量ではない。しかし着実に大型船へ着実と接近していた。


『こんな戦力差で何をしようって言うんだ!』


『派手に打ち上げてやろうじゃないか、最後なんだからよ』


『特攻を仕掛ける気か!? その程度で!!』


 小さな蚊が取りついただけでは象は沈まない。

 船のバリアを一点集中させて、退路を気にする事無く突き進む。


『積み荷の機嫌次第だな』


 駆逐艦の艦長は策に気付き始めた。


『……まさか、つ、積んでいるのか!?』


『何を積んでると思う?』


『グラビティーパニッシャーが来るぞ!! 撃ち落とせ! いや、回避しろ! FTLで退避しろ!!』


 駆逐艦は回頭を始めた。なりふり構わず味方すらも巻き込み巨体が動く。攻撃と同時に逃げる選択をした。

 男の喉物を食いちぎらんと突き進む。回避など到底できない弾幕攻撃、幽かな隙間を縫うように潜り抜けていく。


『遅かったなぁ!』


 卓越した操舵性でも回避には限界がある。

 男の視界を光で埋め尽くした。痛みすらも無く男は光りへと消えて行く。しかしコクピット以外は無事だ、そうなるようにギリギリ回避したのだから。

 残った機体部分は制御を失い戦艦へと突き進み、ついには船体に食い込んだ。


『こんな、こんな事で――』


 閃光が迸った。

 空間が歪み圧縮していく。

 駆逐艦も小型船も、小型ブラックホールへと消えて行く。

 そして宙域に存在している全てが消え去った、ひしめいていた艦隊は無く、岩礁すら存在しないただただ暗闇の空間だけが広がっていた。



 ☆☆☆



 そこは音の無いナイトクラブ。

 コクピット事蒸発したはずの男がそこにはいた。眉間に皺をよせ、乱暴に椅子に座るとテーブルに足を乗せて天を仰ぐ。


「不満げだな」


 アニメ風なパイロットスーツを着た三人の男が苦笑していた。


「無敗記録も終わりか、ま、仕方ないさ」


「僕達もそのとばっちりは受けたけどね」


 彼等は海賊である、襲ってきたのは宇宙軍、つまり相手は正義の味方。

 悪をくじくという意味では、当然の結末だ。


「……最後かぁ、感慨深いなぁ、ほんと」


「このネトゲ結構気に入ってたんだけどなぁ」


「ほんとだよ、半年も続かなかったな…」


 さきほどの戦闘はすべてゲーム内の出来事、そしてこの空間もすべて仮想世界にすぎない。


「他にこういう系統のVRゲーって今は無いよな?」


「俺が知ってる限りでは無いな」


 VR、バーチャルリアリティ。データ世界に架空の世界を作り出した場所。

 データの海に自分の意識を投影し、プログラムに従った範囲内で活動できる。


「SF好きって人は多いだろうに、なんで過疎ジャンル扱いなんだか。納得いかん」


「30年前くらいまでは腐るほどあったみたいだが」


「そんな昔の事なんて知らん、今欲しいんだよ」


「プレイ人口が多ければなぁ」


「母数が必要って言っても、ゲームも無料じゃないし、デバイスにも結構かかるだろ」


「アルバイトくらいで十分買えるだろ」


 VRデバイスは一月もアルバイトすれば購入できる。一家に一台以上は必ずある物であった。


「はぁ、なんでサービス終わってしまうんや」


「そりゃ人が居ないからだろ」


 嘆こうとも決定は覆らない。四人の溜息が同時に聞こえ、小さく笑った。


「今日はくっそ多かったな」


「そりゃスペコン(スペースコンバットシム)系のジャンルはこれだけだから」


「最後だからってさっぁ」


「最後だからっていうのが宣伝になったんだよ」


「やっぱ数あるネトゲの中で輝くのは宣伝に使える財力、そして話題性」


 今日日ネットゲームはありふれている。溢れすぎていると言っていい。プレイ人口が増えても花火と同じ、最後だけ輝くのだ。


「ま、どうせまたこれ系のゲームは開発されるだろ」


「それまで待てと? どれくらい待つんだよ」


「このご時世AI発達してるからすぐだろ」


 AIテクノロジーの進化がゲームを溢れさせる。

 少数の人間がAIに指示、ある程度のアイディアやゲームの方向性などを設定すればゲームを作ってくれる。


「すぐ作れても長く続かなくちゃ意味無いだろ」


「この世の中簡単に良作が作れてしまうのが悪い」


 無名のネットゲームの運営期間はだいたい三か月前後である。

 プレイしている者の気持ちなど関係なく、いとも容易くサービスが打ち切られる。


「じゃあ今流行ってるネトゲするか? もう半年は続いてるぞ」


「は、半年!?」


「半年続いてるって、……いや、もうすぐ終わるんだろ?」


 普通なら真偽を疑う話だ。

 しかし男の一人が調子に乗る様に話し始めた。


「ファンタジー系MMORPG、ワールドライクメイク。WLMって最近聞いたことないか?」


「いや……」


「ボクも無いかな」


「なんだないのかよ~」


「うぜぇ……」


 うざったい絡み方をされて三人が苛立ちを覚える。


「なんと、このゲームの今の千倍以上」


「せ、千倍? えっと、今が、……600人? え、600?」


 600人程度で多いと感じてしまう。ちなみに普段は二桁である。

 千倍と言われても4人は想像が出来ず首をかしげていた。


「えっと、つまり、……600万?」


「ちげぇだろ、60万だ、小学校からやり直してこい」


 人工に夢を馳せるが、ネオンの光が4人を照らし現実に引き戻される。

 この静かな部屋も人が増えればどれだけ賑わっていただろうか。


「はぁぁっ、ファンタジーかぁ」


 ここでやっと黙っていた男から恨みつらみが漏れた。

 先ほどまでの対戦のリプレイから3人の方へ視線を向ける。


「ファンタジー嫌いなのか?」


「……まぁ、う~ん、いやぁ……はぁ」


 子供の様な表情で不満を漏らせば、3人はその様子に思わず笑う。

 大立ち回りしていた男とは思えないほど子供っぽい。


「何故かファンタジー系が飽和してるから、その気持ち分からんでもないぞ」


「ずりぃよなぁ」


 他に言いたい事でもあるのか、もごもごとして結局溜息だけを吐いた。


「なんでそんなファンタジー系ばかり多いのかな?」


「そりゃ手っ取り早くVRという快感を体験できるからだろ」


「五感を全て体験できるっていうのは強みだよな」


「あの空気感はいいぞぉ」


 現実では味わない猛獣を前に味わうスリル、撃破で味わう快感と体験。それらは老若男女問わず各層に刺激を与え、心を鷲掴みにする。

 仮想世界というにはあまりにも生々しく、夢の様な場所である。だから人々の心を掴んで離さないのだ。

 元々現実では体験しえないファンタジーというジャンルは、VRの普及により爆発的に人気の地位を確立していた。


「ってかよ、WLMって何がそんなに人気になる要素あるんだ? 運営開発が大手企業なのか?」


「いいや、運営開発は聞いたことないな。ただかなりの自由度があるとかって話」


「自由度ねぇ、一体何が自由なんだか」


 言葉では簡単に自由と言えるが、想像を膨らませても真っ白な光景が広がるだけ。

 しかし眠っていた想像力が、白いキャンバスに色を付け始めた。


「……少しだけならやってみようかな、どうせ時間はあるし」


「そうだな、食わず嫌いもなんだしな、次のスペコン系が来るまでの繋ぎにはいいか」


「興味あったし、そうだ、この四人でやれるならやらないか?」


「お、いいね」


「一人でするよりはお前達とやるのが楽しそうだ」


「お前も一緒にやろうぜ」


 話が勝手に盛り上がるが、男は1人不貞腐れたまま。


「すまん、パス、気が向いたらする」


 「えー」という声が漏れるが3人は必要以上に誘う事はしなかった。


「ま、連絡手段あるし、気が向いたら俺達に連絡くれよ」


「そうは言うけ――『この度は当ゲーム≪ブラン――――――』」


 男が呟くと突然ゲーム全体にアナウンスが流れ始めた。

 それはこのゲームを運営する開発チームの人物であり、ゲームをプレイしていただいた事に対する感謝と、サービスを続けられない事に対しての謝罪であった。


「後5分でサーバー閉じる時間か」


「早いもんだな」


「んだな」


 長い事プレイしたわけではないが、このゲームをプレイした記憶が蘇りしんみりとした空気が包み込む。


「はぁ、何度味わってもこの空気は嫌だ」


 耐えきれなくなったのか、男が1人立ち上がり踵を返した。


「なんだサーバー閉じるまで居ないのか?」


「ネトゲ廃人でも嫌なものは嫌か」


「そ。嫌なものは嫌、だからログアウトさせてもらうよ」


 男は最後に三人と向かい合う。名残惜しみ、何か声を掛けようとしたが言葉は出てこない。


「お疲れ様でした」


 ぺこりと礼儀正しくお辞儀をして、このゲームから姿を消した。


 ☆☆☆


 壁と一体型のパソコンからケーブルがベッドの上へ伸びている。その先には半透明な緑色のサングラス型のVRデバイスを装着した者がいた。


『佐藤 癒里ゆり、ただいまのログイン時間は2時間53分です、長時間のログインを確認いたしました、これよりバイタルチェックを行いします』


 VRデバイスのヘッドホンから聞こえる声に辟易しながら黙り込む。


『バイタル正常、お客様の健康を維持するため、これからこちらの指示する様に体を動かしていただき――』


 視界に表示された人型が体を動かし始める。

 ベッドの大きさ半分以下の少女は、右へ左へと身体を動かす。


「……疲れたぁ」


 指示が無くなると、VRデバイスを取り外しベッドの片隅に置く。

 6歳児くらいの女児は、目を擦り欠伸をした。


「はぁ、ファンタジー系かぁ」


 ぼんやりと天井を眺めながら、次のゲームを考える。

 癖毛を弄り悩むが、やはり次プレイするゲーム候補は思い浮かばない。


「面白い、ゲーム」


 起き上がり殺風景な部屋を眺める。埃が無い無味無臭の部屋。

 少女はベッドから降り、ストレッチをしながら外を眺める。


「雪、止まないかな」


 思わず身震いしてしまう。

 空調の利いた部屋であっても、見た目通りの情報が身体を刺激していた。


(そろそろ秋服片付けねぇとなぁ)


 見下ろせば道路を除雪車がゆっくりと移動している、その除雪車の運転席には人が居ない。


「そう言えば何年ぶりに交通事故があったんだっけ?」


 その言葉と同時に目の前に立体的なスクリーンが表示される。

 半透明なその四角い光に、先程呟いた交通事故の情報が表示されていた。


(独り言に反応されても困る)


 困っていても表示された情報を眺める。


(えっと2367年、去年か)


 記事の隅には広告が表示され、1日20万で宇宙ステーション旅行などとかかれていた。


「電気付けて」


 街灯から電灯へ色が変わり、部屋の中が浮かび上がる。

 机の席に座り、パソコンに繋がれたディスプレイへ手を伸ばす。


「あ~、明日から何のネトゲしよ、……やっぱりファンタジー? ……けどなぁ」


 癒里はネットゲームを生活の中心とし生きている。所謂ネトゲ廃人であった。

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