ジョエルの夢
ーーその日久々にリゼはあの時の夢を見た。
『リゼ、リゼ、やっと二人になれたね。愛してる。ずっと一緒にいよう』
『リゼと番になりたいんだ。だから我慢してね』
『すごい、すごいよ!リゼは本当に何をしても死なないんだ。いいなあ、僕も一緒の身体になったら永遠に生きられたりするのかな?それとも不死なだけで不老なわけじゃないのかな』
『お嬢様、今日は血をいただきます』
ーーやめて、やめて……。
『血をいただきます。ジョエル様の許可は出ています』
『……やめて』
『それは聞けないお願いです』
ーーはやく終わって
『リゼの血を使った薬なんて、反対したんだけどこれも実験だって聞かなくてさあ。金が手に入るから渋々了承したよ。なんでかなあ、リゼと一緒にいたいだけなのにお金がかかるんだ。まあ薬を使ったやつは後から始末すればいいよね。リゼの血なんて。その味を知ってていいのは僕だけだよ』
ーー他人を傷つけないで
『なあに。僕がいるのに僕以外のやつのことを気にかけるの。気に食わないなあ。はあ、なんでリゼと番になれないんだろう。おかしいなあ。僕はこんなにリゼを番に望んでるのに。どうして番の証が出ないんだ?』
ーー私は番になんてなりたくない
『リゼ、今日も試そうね。番になれるまで、ずうっと、死ぬまで』
ーーやめて、
ーーやめて
「やめて!!!!いや!!!」
「リゼ!」
「いや!!離して!!!やめて!!!!!!」
「リゼ!!!僕だ、セドリックだ!」
ぎゅううと抱きしめられると同時に、肺いっぱいに安心する匂いが入ってくる。その匂いを嗅いで、セドリックのことを思い出す。
ーーああ、ここはあの地下じゃない。目の前にいるのはジョエルじゃない。
はあ、はあ、リゼは息を落ち着ける。
ああ、夢だったんだ。
わかっていても体はこわばり、目から涙がぼろぼろと勝手に出てくる。止められない。
「怖かったね、大丈夫だよ」
囁くように言いながら、セドリックはリゼの頭を優しく撫でる。
「ごめん、セドリック、寝てたのに起こしちゃった……」
毎朝早く起きて仕事に行ってしまう自分を気遣う言葉に、セドリックは苦しそうに顔を顰めた。
「そんなことは気にしなくていい。むしろいつでも起こしていいから。リゼが辛い時に呑気に寝てる番になんてなりたくない」
ふうふう、と息がが乱れる。何年経ってもあの日のことを忘れられない自分が嫌になる。約100年が経っても記憶は鮮明だ。
ここにジョエルはいない。ここにジョエルはこない。
そうやって自分にいい聞かせる。
「セドリック、お願い。折れてもいいから思い切り抱きしめて、それから背中を撫でてほしい……」
胸に顔を埋めて頼む
セドリックは弱々しい声に胸が苦しくなる
折れないように、でも強く、抱きしめる。隙間がなくなるように体を密着させる。そして背中を優しくさすってやる。
ーーもっと、もっと欲張って助けを求めてくれたらいいのに。、
そう思うけど、リゼが心を開くのはきっとまだまだ先だろう。
出会ってまだ日が浅いし、セドリックほど番を認識できないから。
わかっている。それでも、もっと、もっともっと自分に依存して、自分がいなくては生きられなくなって、全てを頼って、縋ってほしいのに。
腕の中のリゼは黙って俯き、静かに涙を流して耐えていた。
彼はそれがとても苦しかった。




