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薔薇館で捕まえて  作者: どんC
3/3

 私と母と祖母

 母はフラス国のブルゴーニ地方のベリー伯爵の娘だった。

 名をフレイナ・ベリーと言う。

 祖母はロア国に革命が起きてフラス国に逃げてきた亡命貴族らしい。

 名前はエレナ・ベリー。プラチナブロンドで紫の瞳の美しい人だと母は言う。

 最も母を産むと直ぐに亡くなられたから。母は残された写真や肖像画でしか知らない。

 祖父は祖母が亡くなると嘆き悲しんだと執事長が母に語る。

 母は祖父に似て茶色の髪と瞳の平凡な顔をしていた。

 美人では無いが中々愛くるしい顔をしていたと思うのは娘の身贔屓だろうか?


「本当にシェリーはお母様にそっくりね」


 母はよく私にそう言った。

 何処か遠くを見つめて。

 多分母の瞳には懐かしい故郷の薔薇を見つめていたのだろう。

 薔薇館と呼ばれる祖父の館はいつも見事な薔薇が咲いていると母は語る。

 祖母も薔薇が好きだったらしい。

 祖母を溺愛する祖父は【エレナ】と名付けたバラを作り出した。

 光の加減で金にも銀にも見える不思議な薔薇だ。

 祖母に教えてもらった魔法で作り出された薔薇は、今でもブルゴーニの特産品として世界中の花屋に出荷されている。

 不思議なことにその薔薇はブルゴーニでしかできないらしい。

 祖母を溺愛していた祖父は母を疎んじていた。

 母のせいで祖母が亡くなったと思い込んでいる。

 母は使用人に育てられ。特に庭師のトムソンの家族と仲が良かった。

 チラホラと母に婚約者候補の名が挙がる頃。

 母が恋したのは焦げ茶の髪で琥珀の瞳の童顔の父だった。

 父の名はメット・ファルス。

 母は庭師のトムソンの孫メットと恋仲になり。

 二人は駆け落ちして、アリカ国に渡り。

 そして私が生まれ。

 決して裕福では無かったが、母が望んでいた暖かい家庭があった。

 私が生まれてから母は祖父に写真を送っていた。

 1年に1回家族写真を撮ってフラス国に送って居るのを知っていたが、父と私は何も言わなかった。

 何となく母は祖父と和解したいのかと思ったが、祖父から何の知らせも齎されることはなく。

 母がしょんぼりと椅子に腰かけているのを何度か見かけた。

 それでも私達親子は幸せだった。


 しかし……幸せは長くは続かなかった。


 父がひき逃げに遭い。亡くなった。

 私が10歳の時だ。

 それから母は工場に働きに出た。

 夜はドラックストアで働き。朝から晩まで働いた。

 私は幼馴染のナミの所に入り浸り遅くまで一緒に勉強した。

 ナミのルパート叔父さんは良くナミの家に訪ねてきて私達と遊んでくれた。

 ルパートおじさんは元グリンベレーでサバイバルを叩き込まれた。

 お陰で私とナミとナミの兄のコスタ共々強くなり。

 痴漢や変質者を何人返り討ちにしたことか。

 その頃から私は小説を書くようになった。

 ナミは出版社に就職していたコスタに私が書いた小説を読ませた。

 ロザリー・ボーンと言うのが私のペンネームだ。

 【魔女と忘れ去られ薔薇】が世に出るきっかけだった。


 売れた。


 大ヒットだ。


 映画化の話も持ち上がった。


 まさかここまで売れるとは私もナミも予想だにしなかった。

 私は浮かれ。

 私の懐は温まる。印税ががっぼがっぼ入ってきた。

 これでやっと母に楽をさせられると思った矢先。


 母が倒れた。


 癌だった。


 働きづめの母の体はボロボロで。慌てて入院させるも間に合わなかった。


『あなたにあの薔薇たちを見せてあげたい』


 母は微笑んで良く薔薇館の話をした。

 故郷に帰るには母の体は持たなかった。

 だから……

 私は祖父に手紙を出した。

 母が余命いくばくも無いから会いに来て欲しいと。

 電話も掛けた。取り次いで貰えなかった。

 ナミも色々調べて祖父の会社にメールを送ってくれたが……

 祖父からの返事はなかった。

 祖父は今でも祖母を殺したと母を憎んでいるみたいだ。


 そして母は亡くなった。


 母は父の墓の隣に眠っている。

 祖父は母の葬儀にも来なかった。

 私は母が亡くなるとホスピタルの近くに借りていたアパートを引き払った。

 執筆活動をするのにニューヨ都市シティーの方が活動し易いとの判断だ。

 私が契約しているアルカディア出版社はニューヨ都市シティーにあるからだ。

 母とホスピタルに行っている間に映画化の話はとんとん拍子で進み。

 ランス国で撮影が始まった。


『私が死んだら遺髪を薔薇館に埋めて欲しいの』


 母の遺言どおり私は薔薇館を訪れる。

 最初に出てきたのは若いメイドで、私の顔を見るなりぎょっとする。

 執事まで出てきて私を見てぎょっとする。

 全く失礼失礼しちゃうわ。

 私は階段の踊り場に賭けられた肖像画を見て私もぎょっとする。

 ああ……

 彼らを責められないわ。


『シェリーは本当にお母さんにそっくりね』


 母は私の髪をとかしながらよくそう言った。

 本当にそっくりだわ。

 肖像画に描かれた女性はプラチナブロンドに紫の瞳。

 白いドレスを身に纏い。豪華な椅子に腰を下ろし、手にはバラを持っている。


『あなたのお婆様もプラチナブロンドで紫の瞳だった』


 母は裁縫が得意でよく私に服を縫ってくれた。

 この間縫ってくれた黒いワンピースは何となくこの肖像画のドレスに似ている。

 色違いではあるがレース使いがそっくりだ。

 このドレスをイメージして作ったんだろうか?


『あの薔薇館をもう一度見たかった……お願い……一度だけでいいの、お父様に会いに行ってあげて……』


 それが母の遺言だった。

 母を無視した男の事などどうでもいいが。

 母の最期のお願いだ。

 私は渋々祖父に会いに行くことにした。


 私は祖母にそっくりらしい。

 男の趣味は似ないで欲しい。

 あのクソ爺と祖母は相思相愛だったとか。

 母を捨てた男が祖母の好みだなんて。

 どうにかしている。


 母が言う通り、薔薇館は素晴らしかった。

 噎せ返る様なバラの香りの中で私はレンタルした車を止めた。

 館は思っていたより大きく館と言うより城に近かった。

 川まであり可愛い黄色い跳ね橋がかかっている。

 祖父は留守だった。

 私は仕方なく執事に伝言を託す。

 私の名前を訪ねたのは若い使用人の男だ。


『君の名は?』


『シェリー』


 なんかうざそうな男だったからサッサと館を出た。

 私は車に乗り込み館を後にした。

 母と祖母が愛した館は今を盛りに薔薇簿花が咲き乱れている。


 あら? いけない。


 遺髪を埋めるのを忘れたわ。

 まあいいわ。今度写真を取りに来た時に埋めるとしましょう。

 私はパリリの都に車を走らせた。


 祖母の墓はパリリの都に行く途中にある。

 私は近くの村により花屋を探す。


「すいません。花屋はないかしら?」


 私は学校帰りの学生に尋ねる。


「あ……この道をまっすぐ行って信号を左に曲がって100m行ったところにあります」


 眼鏡をかけた男子学生は顔を真っ赤にして教えてくれた。


「ありがとう」


 私は学生に礼を言い、花屋に向かい花を買った。


「別嬪さんカスミソウをおまけに着けとくよ」


 花屋の主は黄色いバラにカスミソウをつけてくれた。


「ありがとう。所でこの近くにお墓地があったはずなんだけど」


「ああ。ガウデリア教会の墓地の事かい?」


「ええ。確かそんな名前だったわ」


「この道を真っ直ぐ行って三叉路を左に曲がって病院があるからさらにまっすぐ行くと5㎞ぐらいの所にあるよ。暗くなる前に行くと良い。街灯がないから真っ暗になるし、墓地は5時には閉められる」


「ありがとう。そうするわ」


「お嬢ちゃんあんたランス語が上手いね」


「母がこの地方の出身なのでランス語を習ったのよ」


 私は花屋のおじさんから花を受け取ると墓地に向かった。

 教会と墓地は直ぐに見つかり、車を止めて墓地に入っていった。

 墓守のお爺さんにベリー家の霊廟を尋ねた。

 墓守のおじいさんが親切に案内してくれて、ベリー家の霊廟は直ぐに見つかり、私は花を捧げた。

 私は墓守にお礼を言うと車に乗り込み国道に出た。

 パリリの都に行くには今からだと時間がかかる。

 私はホテルかモーテルが無いかと地図を広げ近くにホテルがあるのを見つける。

 観光ガイドブックを広げると小さな古城を改築したものでデートコースにピッタリだと書いてある。

 羊の料理が美味しいらしい。

 白い小さなお城は可愛くて、新婚旅行に来たいと思わず思ってしまった。

 恋人も婚約者も居ないけど。

 ラッキーな事に部屋は開いていて、二階で眺めもいい部屋だった。

 蝋燭の明かりの中とてもロマンチックで羊料理も美味しかった。

 ただ残念な事に私には一緒に語り合う恋人も婚約者も居ない。

 ふん。いいもん。いいもん。

 婚約者も恋人も居なくったって一人でも楽しく生きていけるわ。

 誰よ!! 負け犬の遠吠えなんておっしゃるのわ。

 私の正拳突きをくらいたいの?


 ___ 明日パリリの都に着く ___


 私はナミにメールを送信するとふて寝した。



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 2019/8/10 『小説家になろう』 どんC

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最後までお読みいただきありがとうございます。

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