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「イエス、マスター。確かにシャクは、元ご主人であるロリペチャパイ… 失礼、上位悪魔様の居場所を突き止めることが可能であります」
俺のジャージを身に纏ったシャクヤクは、相変らずのポーカーフェイスを崩す事無く、そう言い切った。
「やった、まじかよ!」
「従者は、いつでもどこでもご主人の下へと可及的速やかに駆けつける必要が在りますゆえ。とはいえ、今のシャクのマスターはあくまで虎丸様であります。本来ならばこの機能は現在のマスターである虎丸様用に書き換えが必要なのでありますが…」
「いえ、むしろこのままジェンシャン仕様でいてくれた方が好都合です。特に今は、ね」
「マスターがそう仰るなら、了解であります」
何となく納得がいかないというような雰囲気を漂わせつつも、相変わらずの無表情でシャクヤクが頷く。思ったとおりだ、やはり、シャクヤクはただの部下やシモベなんかじゃない。ジェンシャンの居場所をつかむ事の出来る能力といい、一緒に封印されていた事といい、恐らくだが、彼女はジェンシャンに最も近い人物。キーマン、キーパーソン。全てを知る人物に違いない。
「んで? んで? 実際のところ、どーやってあいつを探すんだ?」
そんなまじのの言葉を受け、コクリと再び頷いたシャクヤクは、何故か両手を挙げまるで万歳のポージング。
「おいおい、宇宙と交信とか始めるわけじゃないだろーな。勘弁してくれ、この緊急事態に」
「悪魔と宇宙ですか。深いですね」
「何が? どこが?」
「クトゥルフ的コズミックホラーとか感じません? 魅惑的な宇宙的恐怖」
「はぁ? 日本語喋れよ、竜胆寺」
そんな俺達の様子など意に介さず、今度はブツブツとなにやらスペル染みたワードを発しはじめるシャクヤク。
「お、おお。何かそれっぽいけど、大丈夫なのか、これ? ってか、悪魔語? それとも呪文か何かなのかな?」
「まじまじ様、少し黙っていてくださいませんか?」
そう言いつつギロリとまじのを一瞥するシャクヤク。その格好と相まって何やらシュールな光景だ。
「わ、わりぃ。あたしが悪かったからその珍妙なポージングのままあたしを睨みつけるのは止めてくれないかな。夢に出そうだぜ、それ」
まじのに返事を返す代わりに、今度はその場で何故かくるくると回転し出すシャクヤク。勿論、ポージングは維持したままで。
「るーるー。らんらるー」
「何か言い出したー! コイツ、何か電波的なことを言い出しやがったー!」
「成る程、つまり何か電波的なものを受信したと言う事でしょう」
「いやいやいや竜胆寺、んな冷静に分析してる場合じゃねーだろ。ってか分析にもなってねーだろそれ! 大丈夫なのか? 本当に大丈夫なのかコレ? 主に頭的な部分とかが」
「俺は知りませんよ」
「でしょうね!!!」
そんな俺達の漫才じみたやりとりを余所に、シャクヤクによる謎の儀式は継続していく。その動きから察するに、どうやら術式は佳境に突入しているらしい。たぶんだけど。
と、思ったのも束の間、唐突にその動きを止めたシャクヤク。
「止まった。これって終わったってことか? なぁおい、あのチビロリ悪魔の場所は分かったのか?」
「スワッ!」
これまた珍妙な掛け声と共に、シャクヤクの体の一部が力強く発光を始める。
そう、彼女のアホ毛が。
「あっちであります」
その言葉と共に彼女のアホ毛が指し示したのは、やはり竜胆寺家の敷地外の方角、紛れも無く街中へ向かう方向だった。
「糞ッ。やはりジェンシャンが外へ向かったのは確かのようですね」
「…… あのさ、竜胆寺が突っ込まねーからあたしが突っ込むんだけどさ。何なの、これは? つまり、このですます悪魔のぴょんと跳ねてるアホ毛があのチビ悪魔を追うレーダーてきなアレなわけなのか?」
「イエス。その通りであります、まじまじ様」
「ああ、やっぱそうなんだ。なんつーか、アナログなのか魔術的なのか、いまひとつ微妙な力だな。今のご時世、GPSなんて便利な文明の利器が在る位なのにさ。けどよ、あたしが言いたいのはそんなことじゃねーんだよ」
「と言うと?」
「さっきの踊りとかポーズとか、掛け声とか…… ぶっちゃけ必要だったか? あたし達は仮にもあのチビ悪魔を追いかけようとしてたんだよな、確か。それってつまり、超急いでるって状況だよな? な?」
妙に迫力のあるそんなまじののツッコミに対し、シャクヤクはと言えば。
「イエス。あくまで気分的なものであります。しいえて言えばシャクの趣味。勿論、ショートカット可能であります」
「でしょうね!!!」
竜胆寺家に響き渡るまじのの投げやりな突っ込みをスルーしつつ、俺達はシャクヤクのアホ毛レーダーだけを頼りに、ジェンシャンの捜索へと乗り出した。
◆
「ぶっちゃけ、お前はあの時ロリ悪魔の奴が、怒ってどこに出てっちまったのか分かってたってことだろ?」
俺とまじのとシャクヤク、三人でのジェンシャン追跡。その途中、未だそのイライラが収まりきらないまじのがそう叫んだ。
「イエス。シャクの力を持ってすれば、当然であります」
「言えよ! あたしらが無意味に家ン中探してる時に何で言ってくれなかったんだよ!」
あまりに正論なまじのの主張。流石は俺達の良心。
「聞かれませんでしたので」
……… 違う。
嘘、だ。
ここに来て、シャクヤクが俺たちに吐いた二度目の嘘。
だが、今度の嘘は最初の嘘とは根本的にその性質が違う。何故なら、彼女は俺が嘘を見抜けると力があると知っておきながらあえて、嘘を吐いたのだ。
これは、シャクヤクなりのメッセージなのか? それとも…。
「シャクヤク。竜胆寺家の家長として、ジェンシャンの家族として、どうしてもはっきりさせなければならない事があります」
俺は、これをチャンスと捉えることにした。
例えそれが彼女によって作られたチャンスだとしても、もしくはこれが彼女なりの俺に対するテストだとしても。
「おお? シリアスモードか竜胆寺! 良し行け、いっちょガツンと言ってやれ!」
「では遠慮なく… 俺の見たところ、君はBカッ」
「死ねええええええええええ」
俺は、日頃の修練の成果を遺憾なく発揮し、まじのの正拳突きをひらりとかわす。
「勿論、冗談ですが」
「あたしは未だに竜胆寺って人間が分からない」
「分かろうとしてはいけませんよ、まじの。感じるのです。フォースです」
「流石はマスター。感服いたしました」
さて、適度に場も和んだところでここからが本番だ。アレを聞き出すには、正に今が絶好のチャンスなのだから。
「ところでシャクヤク。すみませんが、もう一度聞きます… 君は何を隠している?」
「申し訳御座いませんマスター。その質問の意味が分かりかねます」
「… もう一度言う。一体、何を、隠している?」
「お、おいおい竜胆寺?」
俺達の足はすっかり止まってしまっていた。だが、俺の勢いは止まらない。
「君の嘘には、青とオレンジの色が含まれていた」
「青とオレンジ?」
俺は、《嘘》を《色》として認識出来る。その色によって、嘘の性質を探る事が出来る。
「青は不安と孤独、オレンジは優しさと包容力。まぁ、俺の勝手な解釈ですがね。精度は、色占い程度と考えてください」
「ってことは何か? こいつは、ロリ悪魔を庇ってるってのか? あいつのために、真実を話さないってことか?」
俺は、肯定を示すように静かに一度だけ頷いた。最も、その真実ってやつは当の本人、シャクヤクにしか分からないことではあるが。
「いいですか? シャクヤク。家族に遠慮は無用です。俺が君のマスターだというならば、君がジェンシャンの下部だというなら、君もまた既に竜胆寺家の一員なんですよ」
「マスター…」
「俺は、竜胆寺家の家長としてシャクヤクを正式な家族として迎えることをにここに宣言します」
「あーあ、ついに言っちまったよ。あたしはもう付き合いきれねーぜ。しーーらね」
静寂だけが場を支配する。
一見物凄い感動的で良いことを言っているようだけど、その実家出娘を探しているだけという事実。
しかも街のど真ん中の往来でこんなクサイセリフを言っちゃう俺は、間違いなく痛いと思う。
それでも俺は待った。シャクヤクからの答えを。
「………。マスターは、上位悪魔の日常をご存知でありますか?」
「色黒陸上女子高生の日常なら良く知っていますが」
「その例え必要か? あたし関係なくね?」
しーーらねなどと言いつつも、やはり最後まで付き合ってくれるまじのに感謝しつつ、俺は続ける。
「悪魔の日常生活。いえ、ジェンシャンの日常生活、ですか。容易に想像がつくような、全く想像できないような」
「イエス。きっと、今のあんなロリペチャパイ… 失礼、元ご主人様の姿を見ていては、とても想像など出来ないと思われます。それほど、元ご主人様の末期の生活は… 最低最悪でありました」
「何だよ、そんなにだらしねー生活を送ってたって事か? どうせ悪魔なんて毎日遊んで暮らしてんだろ?」
そんなまじのの予想に反して、シャクヤクの口から語られた悪魔の日常は…。
「ノー。悪魔の日常は、戦いの連続であります。悪魔の本質は打ち滅ぼす事。悪魔には家族も仲間もありません。ただひたすらに自分以外を滅することだけに費やす日々」
「…」
「まぁ、悪魔らしいっちゃらしいよな、ある意味。ふーん、あんなわがままロリ悪魔がねぇ? 人は見かけによらねーぜ。ま、人じゃねーけど」
「シャクは、もう元ご主人様をそんな戦闘の渦中に身を置いて欲しくなかったのであります。それに、まじまじ様の仰られる通り、シャクどもは人間ではありません。こんな話をしてしまい、万が一マスターに危険が及ぶ事になったらと思うと…」
「あたしは? なぁ? あたしは?」
相変わらず絶妙の合いの手を入れてくれるまじのを無視しつつも、答える。
「成程。シャクヤクの言い分はだいたい分かりました。だったら、俺が戦います。人間も悪魔も関係ない。家族を守るのは、家長である俺の仕事ですからね。シャクヤク、良く話してくださいましたね、ありがとう。さぁ、ジェンシャンを迎えに行きましょう。きっと、首を長くして待ってるんじゃないですかね」
◆
それから数分。ジェンシャンは、街の中心街… からは程遠い、とある寂れた路地裏でひっそりとこっそりと、そして半べそをかきつつ一人さびしく座っていた。
「ジェンシャン!」
俺がそう声を掛けると、一瞬だけ物凄いこれでもかと言わんばかりの満面の笑みを浮かべたものの、すぐにわざとらしく顔を背ける。
相変わらず素直じゃない。本当は死ぬほど嬉しいくせに。
「まったく、手間かけさすんじゃねーぜ、ロリ悪魔」
「だ、だれも探してくれなんて頼んでおらぬもん」
「もんってお前な。やれやれ、この期に及んで素直じゃねーな」
俺は、ジェンシャンへと近づくと、躊躇することなくその小さな体をぎゅっと抱きしめながら言う。
「安心してください。君の事は、俺が護って見せる。君を二度と争いに巻き込んだりはしない。《竜胆寺家のお約束条項、約束は絶対守る候》です」
「と、とととと、と、虎丸? な、ななななななんじゃ、なんなのじゃこれ?」
「や、まぁ、確かに変態だが。根本的には熱いやつなんだよ、竜胆寺はさ」
そんな俺達の様子を少しだけ離れたところからじーっと見つめる視線が一つ。
俺はジェンシャンを熱い熱い抱擁から解放すると、その小さな背中をドンと押す。
「ジェンシャン。ちゃんとお礼を言わなければなりませんよ、彼女に。シャクヤクがいなければ、君を探す事は難しかったはずですから」
そう言って俺が指し示した先にいる人物。俺達をここまで導いてくれたポーカーフェイスの従者。当然のことながら、シャクヤクである。
「ぬしが、あてを?」
「ノー。別に、シャクは…」
キョロキョロと、俺とまじのと、そしてシャクヤクの顔を行ったりきたりと視線を泳がせるジェンシャン。俺は、そんな彼女の心を決心させるかのように、一度だけ大きく頷く。親しき仲にも礼儀あり。例え記憶が無いにしろ、誰よりも付き合いの長い二人だからこそ、それは、必要な行為だと俺には思えた。
「あ、あ、あり」
「ジェンシャン? 聞こえませんよ、全然聞こえません。もっと大きな声ではいどうぞ」
「出たよ、竜胆寺のSッ気」
シャクヤクは、人差し指同士をツンツンと合わせながら、もじもじする目の前のロリ悪魔を表情の無いその顔で、じぃーっと見つめる。
そして、ついに。
「ありがとっ!」
「シャクは。シャクは、あくまで、従者でありますから……… やれやれ、であります。そして皆さん、コンゴトモヨロシク」
オレンジ色の夕日が、二人の人外を優しく照らす。
「それで?」
「何ですか、まじの。藪から棒に」
そんな余韻に使っていたのも束の間、まじのが急に怖い顔で俺に詰問する。
「分かってんだろ? さっきのアリマス悪魔の話だよ。ロリ悪魔の日常の話。あれ、どこまで本当でどこまで嘘だったんだ? 竜胆寺なら分かったんだろ。なぁなぁ」
やれやれ。それを今聞きますか? このタイミングで。俺は、答えの変わりにぽつりとつぶやく。
「さっきの話といえば、聞きましたか? 悪魔には家族も仲間もないはずなのに、主人と従者の関係はちゃんと存在しているんですよ。親子は一世、夫婦は二世、主従は三世とは良く言ったものだと思いませんか?」
「何だそりゃ」
「諺ですよ、諺。主従の絆って奴は、実は親子や夫婦のそれよりずっと深いっていう諺。知りませんか?」
「知らない。だってあたし、国語苦手だし」
確かに。ばりばり体育会の彼女にそれの理解を望むのは少々酷だったかもしれない。などと思ってしまうのは、やはり失礼な話。
「で、どこまで本当だったんだよ?」
「さぁて、どこまででしょうか… でもあんな笑顔を見せられたら、そんなのどうだっていいって、そう思いません?」
夕日に輝くシャクヤクの顔は、これまでの彼女のイメージとは裏腹に、美しい笑顔を咲かせていた。
そう。それはまるで、シャクヤクの花のような。気高く美しい、一輪の花のように。
第二章 END




