表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あくまで、家族ですから  作者: 汐多硫黄
第一章 「あくまで、悪魔ですから」
3/15

下1


          ◆


 一先ず俺、は蔵近くの道場へと件の悪魔を連れ込み、告げる。

「悪魔さん、一先ずこれを着ていてください」

 そう言って俺は道場のロッカー内あった一枚のワイシャツを彼女渡した。

「なんじゃ、ぶかぶかではないか」

 俗に言う裸ワイシャツ状態である。男なら誰しも一度は憧れるシチュエーションらしいので、ここぞとばかりに試してみたものの、俺の琴線はぴくりとも反応しなかった。なぜだろう。やはり俺がロリコンではないからか。それとも彼女がまな板だからか。

「さっきから何なのじゃ、そのようにあてを見つめたりして。むふふん、分かったぞ。おぬし、あてに惚れたな? ゾッコンなんじゃな? よいよい、無理も無い、無理もないことじゃ」

「…………」

「何か言ってたも!」

「何か。さて、冗談はこれくらいにして、これからのことについて話し合いましょう」

「ううっ。あて、とんでもないやつに開放されてしもうたみたいじゃ。どうしてこのようなやつに」

「とりあえず座ってください。ここは一応道場ですが、礼も作法も必要有りませんので安心してください」

 俺は彼女を道場の中心に座らせる。そしてその真正面に俺も座る。

「すみません。そういえばきちんとした自己紹介がまだでしたね。ついついハッスルしてしまいすっかり忘れていました。俺の名前は竜胆寺虎丸。この道場の現師範代です。ついでにさっきのまじまじ言ってたのが芦屋まじの。お隣さんです。それで、あなたのお名前は… ああ、分からないのでしたね」

「リンドージ? 何やら面妖な響きじゃの」

 どこに面妖な要素があるのかは分からなかったが、確かに悪魔からすれば少々言いにくい名前かもしれないと妙に納得してしまった俺は、悪魔相手にこう告げる。

「では、虎丸で構いませんよ。それに、先ほどはまじのの手前だったので突っ込んだ質問は避けましたけど、ここでは二人きり、互いに遠慮は無用です」

「虎丸。ふむ、虎丸か。いい名前じゃの。あては嫌いではないぞ? それにの、先ほどおぬしが言い当てた事はほぼ正解じゃ。実際のところ、あては自分が悪魔だと言う事以外、なーんにも覚えておらぬのじゃ。恐らく、あの箱に閉じ込められた際に記憶を失ってしまったんじゃろうな。全く、はた迷惑な話じゃ」

 … やはり、嘘はない。俺の視たところ、今度も嘘は無い。

「成る程。そうでしたか」

「そうじゃ、逆にあても虎丸に質問がある。ええかの?」

「ええどうぞ。俺ばかり質問していては不公平ですからね」

「うむ。あてから言わせれば、虎丸、ぬしこそ一体なにものなんじゃ」

 俺は、彼女の質問の意図を理解できず思わず首を傾げる。

「あてはこんななりでも一応悪魔じゃぞ? ほれ、耳も角も、尻尾もこの通りじゃ」

 彼女の言うとおり、先ほどと異なり確かに尻尾まで生え揃っていた。これで後は羽でも生えてくれば完璧だ。完璧なコスプレ少女の完成だ。

「あの女はあれだけ愕いておったのに、ぬしときたら愕くどころか逆にこちらを質問攻めにしよる。まるであてのような存在がこの世におることを知っておったような素振りじゃった。その上、嘘が見抜けるじゃと? どーやら…… 普通でないのは、お互い様ではないかえ?」

 腐っても悪魔。

 攻めるつもりが逆に攻められる事になろうとは、俺とした事がその見た目に惑わされ、聊か気を抜きすぎていたかもしれない。やれやれ、まだまだ修練が足らないな。

「そうですか? 何の事か分かりませんが、俺はただの人間ですよ。生憎、君と違ってね。ですがあえて言うとすれば、今回の件、親父殿の陰謀のような気がしてならない」

「虎丸の親父殿?」

「ええ。俺の親父は我が竜胆寺流剣術の師範代であり、冒険家だったのですが、数年前突然失踪してしまいましてね。実際、色々と噂の絶えない人でしたから。裏では何をやっていたのかわかったもんじゃない」

 そもそもこの御時世に、職業冒険家などと堂々と名乗っていた人物である。裏で何をやっていても可笑しくは無い。何より、息子であるこの俺でさえ、その人となりを把握しきれなかったような人物なのだから。

「それともう一つ。あなたが入っていたあの黒箱。竜胆の花が描かれていたんです。しかも黒い竜胆。竜胆は我が竜胆寺家の家紋であり、さらに黒い竜胆は親父殿が好んで使っていた模様なんです」

「つまり、お主はあてがあの箱に閉じ込められていた事と、お主の親父殿との間には何か関係があると言いたいのかえ?」

「端的に言えば」

「あてとしても、自分が何者なのかは大いに気になるところではある」

「利害は一致していると思いますよ。お互いにね」

 わるーい笑顔を浮かべる俺と悪魔。が、そのとき、道場に大きな爆音が響き渡る。

 と、同時に目の前の悪魔は、照れ笑いを浮かべながら舌を出す。

「へぇ、悪魔の癖にお腹は減るんですね」

「当然じゃ。おけらじゃって、ミミズじゃって、悪魔じゃって減るもんは減る。じゃ、じゃから虎丸、その」

 そう言って人差し指同士をつんつんあて、上目遣いで俺を見つめる悪魔。時折見せる可愛らしいそんな仕草は、正に年相応のそれ。とてもじゃないが悪魔なんぞには見えないし、思えない。それはそれとして、この先何が待ち受けているかは別としてまずは腹ごしらえが先決という話。俺としても、例え相手が何者だとしても、おなかをすかせた人物を見過ごせるような出来た性格ではなかった。それだけの話。

「分かっています。難しい話はこの辺にして朝ごはんにしましょう。時間的にも丁度いいですし」


          ◆


「適当に作ってきます。君はここに座って大人しく待っていて下さい」

 いつまでも裸ワイシャツでいるわけにもいかず。俺は悪魔に自分のジャージを着せ、一応そのしっぽをズボンへと隠させた。

 角と耳は、まぁ、彼女のぼさぼさの銀髪に隠せなくも無い。そこまで工作を施した後、俺は彼女をリビングへと残し、いそいそと朝飯を作る作業へと移った。

 … と、待てよ?

 いつもの癖で、目玉焼きに焼き魚、味噌汁におしんこという和食の定番のメニューを作ってしまったのはいいが、そもそも悪魔って何を食べるのだろう。

 こればかりは考えても仕方が無いので、俺はリビングでちょこんと椅子に座り、足をぶらぶらさせている悪魔に思い切って尋ねた。

「あのー、念のためお聞きしますが」

「何じゃ改まって。もはや虎丸とあての仲じゃ、遠慮なく申すがよい」

「人とか、食べないですよね?」

「当たり前じゃ!」

「これは失敬」

 定番メニューを作り終えた俺は、悪魔さんをその場に残し、一旦母を起こしに向かう。

 成り行きとはいえ、母さんとあの悪魔を引き合わせてよいものかとちょっとだけ逡巡したものの、まぁ、あの母なら問題あるまいという結論に至る。

「母さん、起きていますか? 朝ですよ」

 いつも通り、返事は無い。俺は溜息をついて部屋に侵入する。その瞬間、ベッドからずり落ち、何故か半裸状態の母の姿が目に入った。

 … いつも思うのだが。この状況、一体誰得なのだろうか?

 母はとても小柄な人。例えば俺と並んで歩いていると、その姿は見る人が見れば俺の妹に見えるらしい。見た目だけで言えば、まじのの方がまだ上に見えるだろう。こんななりして俺を生んだのが15の時なのだ。人は見かけによらない。

「母さん、またそんな格好して。だらしが無いですよ。全く」

 母さんはぼんやりと目を開けると、いつも通りのニコニコ顔で俺を見つめた後、がばっと抱きついてきた。

「抱きつかないでください。というよりまず服を着なさい」

「あらあら」

 のろのろとパジャマの乱れを戻す母。一旦部屋から出て待つこと数分。

 が、あまりに遅い。それに音が全くしないどころか反応が無い。俺は溜息を一つついて再び母の部屋へと侵入する。

「やはり二度寝ですか、そうですか。成る程、母さんがそういうつもりなら、俺はもう知りません」

 俺はぐっすりと二度寝する母さんを尻目にきびすをかえす。と、部屋から出ようとした瞬間、何者かに足元を掴まれる。相手は言わずもがな。

「ぐすっ、ううっ」

「… はぁ。分かりました。分かりましたから泣かないでください。ほら、朝ごはんが出来ていますよ?」

 母は再び満面の笑顔で俺の腕に捕まる。母の特技、嘘泣きである。嘘泣きと分かっていても、どうする事も出来ないのもまた事実。例え相手が母であろうと、男という生物は女性の涙に滅法弱いという悲しき生き物なのだ。

 


 俺が母を連れ再びリビングへと戻ったとき… 瞬間的に、俺の理性は飛んだ。



「な、こ、これは」

 惨状。

 この光景を一言で言い表すなら正にそんな言葉がぴったりだった。

「おお、虎丸。遅かったではないか。あてなー、もー、おなかぺこぺこじゃ。早くしてたもー」

 つまり、リビングは戦場だった。俺と悪魔との戦場だった。

 あんな短時間で、どこをどうすればこのような惨劇を生み出せるのか。部屋はもう、足の踏み場も無かった。

「とらまるぅー。この部屋は面白いものがたくさんあるのぉ。あて、悪魔じゃから、現代の知識事体は自然と頭に入ってくるんじゃが、やはり知識でしっておることと、こうやって実物を手に取るのとでは大違いじゃ」

 そう言いつつも、テレビを分解する事を止めない悪魔。

「…… すみません、悪魔さん。一つ、言い忘れていた事がありました」

「なんじゃー? まーた改まって。むふふん、先ほども言ったじゃろ? もはや、あてと虎丸の仲じゃ。遠慮するでないぞえ」

「ああ、そういえばそうでした、俺と君との仲でしたね。一蓮托生でしたね。それでは遠慮なく………… 俺の、眼の前で、部屋を、汚すんじゃねえよ!!!!」

「と、虎丸?」

「てめぇ、悪魔だか天使だかしらねーがよぉ。俺の城で、俺の聖域で一体全体何してくれちゃってんだよ。あぁ?」

 

 悪魔も親父殿も、今はどうでもいい。

 今は何一つ関係ない。この時の俺の頭にあるのは唯一つ。


「てめーは俺を怒らせた」


 俺は部屋の隅に立てかけてあった竹刀を手に取り、一歩、また一歩と悪魔の元へと近づく。

「ぬ、ぬし、眼、眼が血走っておるぞ? ふ、ふん、あ、あああ、あてがその程度の脅し文句で怯むとおおお、おお、思っておるのかえ?」

 が、タイミング良く、或いは悪く。奴の眼の前に到着した瞬間、我が家の玄関が勢い良く開いた。

「おーい、竜胆寺いるか? あたしとしたことが制服を…。って、うっわ、まじかよ。あたしってば相変わらずナイスタイミングと言うか最悪と言うか」

「た、助けてたもー。あてはあては悪くないのじゃ。あてはちょっと遊んで、ちょっと散らかしてしもうただけなのじゃー」

「やれやれ、御愁傷さん。それがあんたの死因だよ、ロリ悪魔」

 そう言って大きな溜息をつくまじの。

 どうでもいいが邪魔しないで欲しい。今から、この悪魔を月に代わっておしおきしようというところなのだから。

「意味が分からん。全然意味が分からんのじゃー」

「だからさ、竜胆寺の病気みたいなもんだよ。こいつはさ、潔癖症というか、妙な整理整頓魔みたいなところがあってさ。程度にもよるんだが、自分の部屋とか道場とかを汚されり、散らかされたり、勝手に触られたりすると性格変わっちまうんだよな、これが。あたしの見たところ、ま、見るまでも無いんだけど、特に今回は最悪だな、うん」

「ま、まま、まじのとやら、何とかしてたも、あ、あて、腰が抜けて」

「やれやれだぜ。しょうがねーな。貸し一つにしといてやるよ、ロリ悪魔。あんたにゃ聞きたい事もあるしな。ま、そこで見ときな。こーいうときはな」

 先ほどから俺を無視してまじのと悪魔が何やら話し込んでいる。気に入らないな。こうなったら俺の竜胆寺竜剣術裏奥義が火を吹くのも時間の問題だと言うのに。

「おい、竜胆寺。せーの、ふひゅーーー」

 まじのに呼ばれ、振り返った瞬間、俺耳元に生暖かい風が大量に送り込まれた。

 な、、な、な……………


 その瞬間、俺の思考は、停止した。


「竜胆寺の弱点その一。こいつは耳が弱い。一番簡単なのはこうして耳に息を吹きかけてやればいんだ。どーだ? 覚えておいて損は無いと思うぜ」

「う、うぅぅ、うぇええん。こ、こわかったのじゃぁ」

「あははは。ちびったか? ちびっただろ?」

「ば、馬鹿にするでにゃい。ちびるか! 誇り高き上位悪魔であるあてが、たかだか人間一匹にちびるわけないもん!」

 

 そして、時は動き出す。俺、再起動。


「… はっ。俺は一体何を」

「おっ、眼が覚めたか竜胆寺。あんた、性懲りもなくまたダークサイドに堕ちてたんだよ。たまたまあたしが制服を取りに戻らなかったら、えらいことになってたぜ。悪魔と人間との全面戦争だ」

「そう、ですか。ありがとうまじの。またあなたに助けられてしまったようですね」

 続けて俺は、部屋の隅でガタガタ震えている悪魔に眼を向ける。

「悪魔さん、すみませんでした。その、君を怖がらせる気はなかったのですが。部屋のあまりの惨状に、つい我を忘れてしまって」

「ふ、ふん。どーしてくれるのじゃ。あての悪魔としてのプライドはズタズタじゃぞ。これではどちらが悪魔かわからんではないか」

 強がりが言えているのならば、恐らく大丈夫だろう。俺は悪魔に手を差し伸べ、彼女を立たせた。

「とはいえ、君にも責任はあるんですよ? 部屋で遊ぶなとは言いませんが、幾らなんでもこれはやりすぎです… 仕方が有りませんね、一緒に片付けましょう」

「う、うむ。仕方が無いの。その、あの、あても、ちょっとは悪かったと思っておる。だから、な? もう、怒らないでたも」

「ホント、やれやれだぜ。っと、もうこんな時間か。竜胆寺、それじゃあたしは本当にもういくからな? もう喧嘩すんなよ?」

「勿論です、まじの。それに、部屋は綺麗でないと落ち着きませんからね。と言いますか、こう、物や家具が規則的に整然と並んでいると興奮しますよね? … はぁはぁ」

「真顔で変態なことを言い出しおったー!」

「変態だぜ、こいつは。竜胆寺の場合、整理整頓された部屋は聖域っつーより、性域だからな」

「ごほん。それと、助かりましたまじの。あなたはいつでも頼りになります。俺にはやはりあなたが必要みたいですね」

「ば、馬鹿っ。やめろよ、そんな、まじで、照れるじゃねーか。じゃーな、まじであたしはもういくぜ、まじで」

 まじのは、何度もまじまじ言って顔を真っ赤にしながら走って出て行ってしまった。

「なんじゃ。言葉遣いは悪いくせして、意外と初心なやつじゃの」

「分かりますか? それと、意外とどじっ子なんですよ、まじのは」


 俺は、部屋の片隅に置かれたままになっているまじのの制服を見つめながら、そう呟いていた。


          ◆


 リビングの掃除をようやく終えた俺達は、改めて朝食の席に座る。


「ちかれた。あてはちかれたぞ、虎丸。それにお腹がぺこぺこじゃ」

「ええ、お疲れ様でした。これに懲りたら俺の眼の前で二度とこんな真似はしないでくださいね」

「それはもう」

 眼の前の悪魔は、死んだ魚のようなどこか虚ろな目をしながらそう断言した。

「ところで虎丸よ、先ほどから部屋の入り口に突っ立っておるのは誰じゃ? ぬしの妹かえ?」

「え? ああ、というかすっかり忘れてました。あれはですね、恥ずかしながら、母です」

 あれほどの騒ぎがあったにも関わらず、相変わらず眠りほうけている母。しかも立ったまま、だ。

「変わっておるの」

 さしもの母も君にだけは言われたく無いセリフだろうなと思いつつ、俺は母を担いで椅子へと運んだ。

「ほーら、母さん、起きて下さいよー」

 俺は、母の眼の前で猫騙しをかます。我が両掌から発せられる破裂音が部屋中に響き渡る。

「にゃ!?」

「いや、君が反応してどうするんですか」

「仕方なかろう、分かっておっても反応してしまうのじゃ。悪魔ゆえ」

「猫か何かですか、君は。で、それはそうと、やっと起きましたね、母さん」

 母はようやくその細い目を開けた。

「あら?」

「ん、何ですか母さん」

「あらあら?」

「ええ、そうですね。お客さんです」

「あらー?」

「やはり母さんには隠し事できませんね、そうです。俺の彼女です」

「あらあら、うふふ」

 あらあらだけで大抵の事は通じてしまう。

 これが母の言語中枢。これが昔からの俺と母とのコミュニケーションのとり方。俺やまじのなど、母と近しい人には何故かその言葉の意味を理解出来てしまうから不思議。理屈ではないのだ。

「… 変わっておるの」

「ええ、残念ながら」

「っと、そ、それより、それより、じゃ。あ、あてが彼女? あてはいつからぬしの彼女になったのじゃ! その、あの、うー、そ、その、悪い気は、まぁ、せぬが」

 最後の方は良く聞こえなかったが、彼女の言う事も最も。だが当然理由あってのこと。俺は、母に悟られぬよう、小声で悪魔に言う。

「君は仮にも、というかあくまでも悪魔なのですから。そのまま正直に言ったところで母が信じてくれるとは思えませんし、俺の彼女という扱いにしておいた方が何かと都合がいいんですよ。だから一先ず俺に話を合わせてください。お互いの利益のためにも。今後のためにもね」

 多少不安はあったものの、どうやら俺の言葉に納得してくれたらしく、彼女はその頬を可愛らしく膨らませながらも最後には頷いてくれた。

「し、仕方なくじゃからな。あくまで、仕方なく」

「御理解頂き何よりです。可愛い悪魔さん」

 俺は、母にも聞こえるようはっきりそう言った後、彼女の頭を優しくなでる。彼女の悪魔耳は、やはり温かく柔らかかった。

「ぎにゃー! と、虎丸。突然にゃにをする」

「何がです? だって、君はあくまで俺の彼女ですから。これくらいは朝飯前でしょう?」

「ふにゃー。そ、そうじゃな。うむ、そうかもしれん。ふ、ふん。仕方ないの。ぬしに誇り高き上位悪魔であるこのあてを愛でる権利を授けよう」

「あらあら♪」

 この日の食卓は、いつにもまして騒がしいものとなったのだった。

 ちなみにこの悪魔、俺の作った朝飯がよほどお気に召したらしく、ご飯10杯もおかわりしたということを付け加えておく。見た目に反し、食欲だけは確かに悪魔レベルだったらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ