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あくまで、家族ですから  作者: 汐多硫黄
第四章 「あくまで、好敵手ですから」
12/15

          ◆


 そーゆーことで(どーゆーことだ!?)、何故かロリ悪魔も交えて三人での大食い勝負となっちまった今回のイベント。まぁ、相手が勇者だろーが、悪魔だろーが関係ない。ようは死ぬほど食った奴が勝つ。それ以上でもそれ以下でもねーんだからな。シンプルな程奥が深く、そして燃える。それよりなにより、あたしは、お隣さんのよしみとして幼馴染としてガキの頃からずっと竜胆寺の料理を食ってんだぜ? 今だって竜胆寺の料理ならどれだけだって食えるし、あたしの一番の好物だ。

 だからこそ、あたしは負けるわけにはいかねーのさ。あたしの中に眠る一握りの乙女の矜持に賭けて、な。


「それでは皆さん、準備はよろしいですか? 内容や経緯はともかくとして真剣勝負です。恨みっこ無しでお願いします。《竜胆寺家のお約束条項、いつでも真剣勝負。そして、昨日の敵は今日の友で候》です」

「当然だな」

「良いわっ」

「おーなーかすいたー。あて、もう我慢できんもん」

「やれやれ、それでは」


『いただきますっ!』


 こうして始まったあたし達二人と+一匹による大食い勝負対決。ちなみに、気になる今日の献立はと言えば…。

「さぁ。まずはまじのリクエストによるラーメンです。熱いですから気をつけて食べてくださいね」

「キタキター、なんつっても最初は竜胆寺の塩ラーメンだよ。このさっぱりした味がたまらねーんだよなぁ」

「むぐむぐむぐむぐ」


「さて、お次は路兎さんリクエストによるナポリタンです。麺類が続いてしまいましたが、それもまた一興。大食い勝負の醍醐味ですね」

「んー。良い香り。このシンプルでどこか懐かしい味付けは、真似してあげても良いレベルね」

「はむはむはむはむはむ」


「さらにさらに、飛び入り参加ジェンシャンのリクエスト、竜胆寺家特性カレーです。大量に作りましたから遠慮なくどうぞ」

「あて、知っておるもん。虎丸のカレーにはチョコレートが入っておる! もにゅもにゅもにゅもにゅ」

「ええ、まぁ。この間のジェンシャンとの買い物をヒントに、隠し味として実際に使ってみました。我ながら、コクとまろやかさが増したのではないかと思います」

「悪くない! こいつは驚いたぜ」

「ええ。まるで一晩置いたカレーのような味わいね」


「お腹の調子はどうですか? お次は最近少し凝っているフランス料理。まずはスズキとラタトゥイユの南仏風オーブン焼きです」

「おいおいすげーなおい」

「くっ、やるわね、竜胆寺虎丸」

「んぐんぐんぐんぐんぐ」


「皆さん流石に良い食べっぷりですね。こちらとしても腕が鳴ります。ちなみにお次もフランス料理。またまた小説で一発当ててくれた母さんに感謝しつつ、スペイン産イベリコ豚ヴェジョータの特性チョリゾです」

「お、おお? 日本語でおk?」

「あてつけね? こんな高級食材を使うなんて私へのあてつけね? 勇者への挑戦ね?」

「はぐはぐはぐはぐはぐ」


「さぁ、ゴールが見えてきたかもしれませんよ? お次は俺の得意料理チャーハンです」

「待ってました。あたしもさぁ、せめてチャーハンくらいは作れるようになりたいんだよなぁ」

「チャーハンは私も好きよ。残り物とか色々活用できるし」 

「がつがつがつがつがつ」


 洗い場に溜まっていく食器の数々。次々と消えていく食料の数々。そして、少しずつ限界が見えてくるあたしのお腹。

 勝負は、いよいよ終盤。あたしがたどり着くゴールは、果たして天国か地獄か。


「く、苦しい。美味いけど苦しい。人間としての限界って奴を感じさせてくれるぜ、畜生」

「うっぷ。はん! 情けないわね、芦屋まじの。うっぷ。私はまだまだいけるわ。げっぷ」

「おいおい、この期に及んでツマンネー見栄をはるんじゃねーよ、路兎。つーか、品がねーなぁ… お互いに」

「ぱくぱくぱくぱくぱくぱく」

「お二人とも、次の料理を運んでもいいですか?」

 ま、まじかよ。いよいよもって竜胆寺の作るペースにおいつけなくなっちまってる。だが、路兎の様子を見る限り、奴の限界も近いはず。次だ、恐らく次で勝負はつく。真のフードファイターはこのあたしだという事実、今こそしらしめてやるぜっ!

 

「ここらで趣向を変えて、お次の一品はシャクヤクによる刺身の女体盛り…」


『なんでだよっ!!』


 次々と運び込まれる料理の数々。あたし達の胃袋はやがて限界に到達し、そして、限界の向こう側であたし達が見たもの、辿りついた先ソレは…。


「なんじゃなんじゃー、もう終わりかえ? ぬしら情けないのー。あてならまだまだいけるとゆーのに」


 人として超えられない、超えちゃいけない一線があるように、あたし達と悪魔との間にも高くて険しい壁ってやつがあったらしい。だが、それでも構わない。例え負けたとしても、あたしたちは互いに一歩も譲る事無く全力を出し合ったんだ。後悔なんて、あるわけない。

 あたしとそして路兎は、そんな満足そうな表情を浮かべながら、その意識の手綱と乙女としてのプライドを手放したのだった。


          ◆


「よう、おはよーさん路兎」

「ふん。お、お早う芦屋まじの」

「そうそう。そーやって普通に挨拶すりゃいーんだよ。人間素直なのが一番だぜ」

「相変らず偉そうなやつね、あんたは」

「おいおい、お前がソレを言うかね?」


 あの大食い勝負から数日。やっぱりあたし達の関係は、やはりこんな感じだった。だがまぁ、何も変わらなかったわけじゃない。


「ねぇ、芦屋まじの。あんたってさ… やっぱり、あの変態男の事が、その、好きなの?」

「ちょ、おまっ。何でいきなり竜胆寺の話になるんだよっ!」

「… 私、変態男とは言ったけど、竜胆寺虎丸とは一言も言っていないわよ?」

「てめーっ! 勇者の癖に汚ねーぞっ!」

「だって、大食い勝負を提案したのだって元々あんたからだったし、あんた、あいつと居ると嬉しそうだし」

「う、嬉しくねーよ。全然嬉しくねーよ」

 ってか、あたしって、そんなに分かりやすい性格してたっけ? なんつーか、他はともかくとしても、この路兎にあたしのそんな秘めた何たるかを知られたっつーのが恥ずかしい。やけに恥ずかしい。めっちゃ恥ずかしい。

「竜胆寺とあたしは、その、ただのお隣さんでただの幼馴染ってだけだっつーの」

「その割には、一緒にいる場面が多いような気がするけど?」

「はぁ? ちげーし。なんつーか、あいつはさ、あたしが見てねーと何やらかすか分かったモンじゃねーからな。あたしが見張ってやってるだけだっての」

「それ、この間私がいったセリフにそっくりよ? 芦屋まじの」

「うっせーよ! お前だってちょくちょく夕飯たかりに来てんじゃねーかよ。兎だけに寂しいと死んじゃうってか?」

「誰が兎よっ! それ以上馬鹿にするとひのきの棒で殴るわよっ!」

「ってかアレか? 実はお前こそ竜胆寺のこと好きになっちまったんじゃねーの? さては、奴に負けて惚れちまったんだろ?」

「ば、ばっかじゃない! ばっかじゃないの!?」




「あー、またまたやってるよぉ、あの二人」

「感動した! むしろあの二人からあんなピンク色の女子高生らしい恋バナが聞ける日がくるなんて感動した!」

「んー。確かにちょっと安心はしたよねぇ。まじのっちと路兎っちには一生縁のない事だと思っていたのにねぇ」

「だから言い過ぎ。つまりは、委員長も路兎さんもウチらが心配するまでもなく、立派な乙女だったってことよ」

「へー。でもさぁ、会話の内容からして二人ともおんなじ変態男を好きになっちゃったっぽいよねぇ。親友同士がいずれドロドロの愛憎劇に発展するのかなぁ?」

「ちっちっち。それはちょっと違うでしょ。良い面悪い面、両方あるからこそ人間よっ。それになんと言っても二人の関係は、親友って言うよりあくまで、ライバルだからねっ!(ドヤッ」

「わぁー。ドヤ顔で締めちゃったよぉ。恥ずかしいなぁ。まーでも、これぞ青春? って感じでいいかもねぇ。色々とぉ。はーい、これにて終幕ぅ。ちゃんちゃん」



 第四章 END



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