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あくまで、家族ですから  作者: 汐多硫黄
第四章 「あくまで、好敵手ですから」
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「第四章 あくまで好敵手ですから」



 鈍感な奴。

どんな世界においても、そーゆー奴は必ずいるもんだ。んでさ、運悪くそーゆー奴が気になっちまったらさぁ大変。こっちがどんなアプローチをかけようが、こっちがどんな遠まわしなアピールをしようが、全くもって相手にされねー。あまつさえ、そんなささやかな努力ってやつすら気づいて貰えない始末。

 周りからすると、あたしみてーな部活一筋体育会系少女に、恋だの愛だのはにあわねーなんて言う奴もいる。全くもって失礼な話だろ? そりゃ、あたしだって年相応の乙女ってやつなんだからよ… あ? 誰だよ、今、笑った奴。

 それにさ、こーゆー事に焦りは禁物なんだ。ただでさえ、ここ最近あいつの周りが賑やかになっちまった。その殆どが人間とはいえねーやつ等ばかりだけどな。だからこそ、あたしはそんな中で唯一のただの人間代表として、いっちょかましてやろうと思ってるわけだ。


 ま、あたしが何を言いたいかって言えば、恋する乙女はつらいよって事… ったく、やれやれだぜ。


          ◆


「おはよーさん、路兎」

 いつも通り朝錬を終えたあたしは、クラスの奴らと挨拶を交わしつつ、自分の机へと着席する。


 今日も今日とてあたしは、平穏な学園生活ってやつを勇往邁進中だった。


「芦屋まじの、今日も私への挨拶を欠かさないとはいい心がけね」

「ってかさ、お前はもっと普通に挨拶出来ねーのかよ。それといちいち人の名前をフルネームで呼ぶんじゃねーよ。何か疲れる」

「五月蝿い! この私にいちいち難癖つけるとは、良い度胸ね芦屋まじの」

「もっと素直になろーぜ、路兎」

 自分でそう言っておきながら、内心苦笑するあたし。もっと素直になろう、か。自分の言葉ながら、なかなか痛いところをついてやがるぜ。

「ふん。そろそろ始業のベルが鳴るわ。芦屋まじの、どうやら命拾いしたみたいね」

 あの一見以来、あたしと路兎はこうして無駄話をするような仲になった。元々クラスメイトだったわけだし、別段喋るくらいいいんだけどよ、勇者としての血がそーさせるのか、いかんせんこいつは妙にプライドが高い。だから未だにクラスでは浮きまくり状態だし、友達だっていねーわけで。


 何の因果か、奴の正体ってか内面を知っちまった以上、そんなぼっち状態の路兎を無下に放置すんのも目覚めがわりーし、何だかほっとけないような気がするのも確かってわけだ。やれやれ、あたしも竜胆寺の極端な面倒見っぷりが移っちまったかな? しししっ。 


          ◆


 とある日、クラス内にて。


「だからよーっ。お前もいい加減その態度を何とかしろって言ってんだよ!」

「何よ何よ、芦屋まじの。私がどうしようと私の勝手でしょ!」

「あたしはともかくとしても、いちいちクラスメイトに食ってかかるのは止めろって言ってんだ!」

「そのクラスメイトごときに指図される覚えは無いわっ!」


 親切の押し売りなんてナンセンスだし、あたしのキャラじゃねー。だが、クラスに仇を成すような、触ったものをいちいち傷つけるような、そんなジャックナイフがいたとしたら。あたしはそんな奴を放置するわけにはいかねーのさ。相手がどう思おうと。


 … なんてったってあたしは、あくまで、クラス委員長だからなっ。

 

「良ーし分かった。路兎、あたし達の間に言葉はいらねー。勝負だ! 正々堂々あたしと勝負しやがれっ」

「ついにこの日が来たわね。勇者は敵から決して逃げないもの。いいわっ、受けて立ってあげる」

 例えどんな理由であり、あたしだって負けるわけにはいかない。これは、そう、あたしのプライドの問題なのさ。


「あー、まーたやってるよぉあの二人」

「相変らず仲良いからね、委員長と路兎さん。何だかんだでやっぱり似たもの同士だし」

「えー、似てるかなぁ?」

「似てる似てる。だって二人とも後輩から結構もてたりしてるジャン」

「あー。陸上部とフェイシング部のエースだからねぇ。なるほどなるほど、まじのっちも路兎っちも脳筋ってわけだぁ」

「それ言いすぎ。ま、同性にだけはもてるって点ではやっぱり似てるよ。二人とも男勝りだし。女子高の華ってやつ」

「ほえー。まじのっちも路兎っちも、生暖かく見守りたくなるタイプだもんねぇ。空回りも多いけど、見ている分には楽しいタイプぅ」

「だから、アンタは言いすぎだってば」


 放課後。


「で、何で勝負するの? 言っておくけど私だって運動神経は良い方よ。私は勇者の子孫ですからね」

「はいはい。何度も聞いたっつーの」 

「お、お金はない、けど… プライドはあるわっ!」

「おう。それも聞いたよ。ってか貧乏キャラは今は関係ねーだろ」

 勝負。

 とは言ったものの、ぶっちゃけその場の勢いだけで始まっちまっただけに、その内容までは全く考えてなかったりするのが何ともあたしたちらしかったりする。

 路兎の言う通り、実際あたし達はそれぞれ陸上部のエースとフェイシング部のエースなんて、一部の輩から言われてたりする。審議の程はともかくとして、相手は曲がりなりにも勇者の子孫だ。そりゃー、運動神経だって良いだろうさ。ま、あたしだってそれなりの自信を持っちゃいるが、何しろ陸上とフェイシングじゃ異種格闘技にもなりゃしねー。つーか、そもそもあたしが独断で選んだって、路兎は絶対納得しねーだろうしなぁ。

 う~む。こういう時、あいつだったら、竜胆寺だったらどうするんだろーか。たぶん、突拍子もねーこと言って周りを呆れさせたりするんだろうな。… んー。ん? 竜胆寺か。そうか、そういうのも面白いかもしれねーな。いや、むしろ面白い。


「おい、路兎… あたし達の共通項はクラスメイトってだけじゃねーぜ。同じ釜の飯を食う仲として、料理勝負ってのはどーだい?」


          ◆


「まじの。やはり君の発想は独創的ですね。普通、料理勝負って言ったら作るほうじゃありませんか?」

「おいおい何言ってんだよ竜胆寺。あたしが料理出来ねーって事くらい知ってんだろ?」

 

 誰にでも相性はあるもんだ。その点で言うと、あたしと料理の相性は、昔から最悪ってレベルじゃなかった。ああ、ガキの頃、竜胆寺にドス黒い玉子焼きを作って失神させたのが懐かしいぜ。

「ちなみに私は得意よ。伊達に特売品ハンターを名乗ってるわけじゃないもの、貧乏勇者を舐めてもらっては困るわ」

「はいはい。だからよっ、料理を作る勝負となると、悔しいが路兎の圧勝ってわけだ。だからこそ、あえての大食い勝負ってわけよ」

「はぁ。なにがあえてなのかは、良く分かりませんが。俺も男です。《竜胆寺家のお約束条項、一度引き受けた事は死んでも貫き通す候》です」

「そうこなくっちゃな。んじゃまぁ、一つよろしく頼むぜ、竜胆寺シェフ」


 あたし達の勝負内容。それは、異性のために料理を作る事… なんかじゃ断じて無い。むしろ逆。それを平らげる方。まぁ、一言で言えば、竜胆寺が作った飯をどこまで食えるかっつー、所謂大食い勝負だ。


「んにゃー。誰かと思えば、まじまじにツンツン勇者ではないかー」

「おう、ロリ悪魔。今日も元気そうだな」

「… か、勘違いしないでよ。私は料理がただで食べられるから、わざわざ勝負を受けてあげただけなんだからね? それだけなんだからね?」

「相変らずツンツンしておるのー」

「あたしたちはこれから真剣勝負をおっぱじめるんだ。邪魔すんじゃねーぜ」

「真剣勝負とな? なんじゃー、ぬしら面白そうな事をやっておるのー。あてもあてもっ! あても混ぜてたもっ!」


『はぁ!?』


        


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