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あくまで、家族ですから  作者: 汐多硫黄
第三章 「あくまで、勇者ですから」
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10/15


 俺たちは、《決着》をつめるため、舞台を我が道場へと移した。


「おいおい竜胆寺、本当に大丈夫なのか? ちなみにだが、路兎は学園フェイシング部のエースで全国大会出場者だぜ。確かに変わりもんで、友達の一人もいねー残念なやつだが、腕は確かだ。ま、頑張れよ!」

「まじの。君、応援する気あるんですか? それ」

「おうよ。なんつってもあたしは、竜胆寺を信じてるからな」

 最高の笑顔と共にそう宣言してくれる我が幼馴染。

「まじの…」

「だから、とっととこんな茶番終わらせてよぅ、あたしの宿題をみんなで仕上げようぜ!」

 そう言って実に良い笑顔でサムズアップしてみせるまじの。ああ。そんな事だろうと思った。

 けど、それが本心ではないと分かってしまうのが俺の性。そして、そうと分かっていてそんな発言をしてしまうのがまじのの性。

「の、のう。とらまるぅ」

「マスター」

 お次は、珍しく心配そうな顔をしているジェンシャンと、自然なそぶりでそれに寄り添うシャクヤクの悪魔の主従コンビ。

「ふっ。何て顔してるんですか二人とも。特にジェンシャン、君にそんな顔はすこぶる似合わないですよ。いつものように笑っていてこその君です。俺が守りたいのは、いつだってそんな笑顔なんですからね」

 それだけを言うと、俺は路兎さんの待つ道場の中心部へと向かう。相手は相当の使い手。加えて勇者の子孫だという。正直に言って、緊張していないと言えば嘘になる。

「ふん、遅い。随分慕われてるみたいね、変態さん」

「やれやれ、それが俺の人徳ってやつですよ、路兎さん」 


 互いに定位置につき、まずは一礼。互いに装備を整え、俺は竹刀、路兎さんは勿論フェイシングの剣を得物として用意。

 ギャラリーが何やら騒がしいが、もはや俺の耳には入ってこない。ここからは真剣勝負の世界。


「今更ですけど、ルールはどうします?」

「本当今更ね。いいわ、ルール無用がルールよ。相手の戦意を喪失させたほうの勝ち」

「怖いなぁ」

「ふざけないでっ! いい? 私はあんたを殺す気でいくわよ。覚悟なさいっ!」

「ええ勿論ですよ。俺だってみすみす殺される気は無いですし、家族に手を出させるつもりも毛頭無い」

「だったら、私に勝つしかないわね」

「その予定ですが何か?」

 そんな俺達の様子を見かねたまじのがひょっこりやってくる。

「おいおいお二人さん、勝手にヒートすんのはいいけどさ、まだ勝負は始まっちゃいないぜ。一、体育会系少女として、あたしもこーゆー熱い展開って奴は確かに大好物だけどな」

「…… 芦屋まじの。まさかあなたとこんな場所で会うとは思わなかったわ」

「おう。こいつとはお隣さんなんでな。ま、あたしの事は気にスンナヨ。それと、スポーツをこよなく愛する体育会系美少女として中立の立場で審判を買って出てやるぜ」

「いいわ、お願い」

 俺も同意の証として一度だけ静かに頷く。

 まじのは散歩ほど後ろに下がり、その片手を大きく掲げる。

「うっし。んじゃいくぜぇええ。れでぃー…… ゴー!!!」

 

 まじのによる、実に彼女らしい威勢の良い掛け声と共に始まった俺達の勝負は、一転静寂からのスタートとなった。


「どうしました? 来ないんですか路兎さん。俺に遠慮なんてする必要はないですからね」

「誰が遠慮なんてするかっ! いいわ、私の実力、とくと見せてあげる」

 流石はフェイシング部のエース。目にも止まらぬ衝き、衝き、衝き、衝き、衝き。俺は、成す総べなく壁際へと追い詰められていく。



「のぅのぅまじの、虎丸は虎丸は大丈夫なのかえ? 勝てるのかえ?」

「あん? 何だよロリ悪魔。竜胆寺が信じられないってのか?」 

「ち、違うもん。あては、あてはただ」

「ははーん。さては竜胆寺が心配なんだな? 何だよ、お前も結構可愛いとこあんじゃないの」

「だってだって、とらまるはあての家族、じゃから」

「ああ。わーってるよ。だがな、あいつも伊達に竜胆寺流古剣術の現師範代やってるわけじゃないんだぜ? つまり、あたし達に出来る事は、あいつを信じて待つ。それだけだ」

「イエス。考えるのではなく、感じるのです。ロリペチャパ… 失礼、元ご主人様」

「信じて… 待つ、か」


 ギャラリーが何やらいつも通り騒がしいが、俺はそれらを意に介さず、目の前の相手だけを見据える。さて、では、こちらも反撃と行きますか。

「突然ですが路兎さん。ここでクイズです」

「分かってるの竜胆寺虎丸!? 今、正に真剣勝負の最中なのよっ? 正気?」

 防戦一方。

 俺は、尚も降り注ぐ衝きの大波を寸前でかわしながら、続けて言う。

「俺はいつだって本気で正気ですよ」

「だったら、よっぽどの自信家かとんだ間抜けね、あんた」

「生憎、そのどちらでもありませんがね。では第一問、俺は竜胆寺流古剣術の現師範代ですが、我が剣術の真髄とは何でしょうか?」

「し・る・かああああああ!」

 一世一代の真剣勝負。

そんな彼女にとって、その最中にクイズを出されたのがよほどお気に召さなかったらしい。

 さらに怒りのボルテージを上げて怒涛の勢いで俺に襲い掛かる。

「そうですか? 今の路兎さんなら絶対分かると思ったんですがね」


 さて、仕上げだ。


 俺は、竹刀の切っ先に全神経を集中させ、その一点を、一点だけを相手の右手に、その先の得物に 《舞わした》

 

直後、路兎さんの得物、フェイシングの刃が中を舞い、そして、決して高くは無い我が道場の天井へと突き刺さる。


「それでは正解です。我が竜胆寺流古剣術の真髄、それは… 技ではなく、心で相手を圧倒する事、ですよ。大切なのは剣の強さより心の強さってね」

 正直な話。我が竜胆寺流古剣術に存在する剣術は少ない。それは、我が流派の真髄に由来すると共に、実際問題として、俺自身がその多くを会得できていないという問題が大きい。竜胆寺流古剣術の中でも秘伝奥義は一子相伝。俺にその総てを伝える前に、父は失踪してしまったからだ。我が親ながら、例え親父殿が婿養子だとしても、その自由さはどうなのだろうと思うわけで。

 今持ちうる剣術と、そして俺の特技である《嘘分け》を駆使し、相手を翻弄する。嘘の通じない俺にとって、当然フェイントも効かない。だからこそ、避ける事事態が俺の奥義と言える。それが俺流の剣術。

 今回の場合は、元々彼女が心に抱え持っていた、《怒り》の感情を行動や言動であえて増幅させてやったにすぎない。剣を握る人間にとって、怒りの感情は冷静さを失う以外の何者でもないのだから。


「… 手が届きそうで届かない。何なのかしらね、この状況」


 路兎さんは、天井にぶら下がった自身の剣を見上げながら、そう、ぽつりと呟いた。

 その顔から、先ほどまでの緊張感と怒り、焦りが消えて行くのが分かる。

「路兎さん。勝負、続けますか?」

「換えは用意してないわ。ってか持ってない、私の得物は最初からあれだけ。だから、剣を失った剣士に、価値なんて無い…… 竜胆寺虎丸。私の、負けね」

「そうですか。でも流石はフェイシング部のエース。あと一歩違えば、負けていたのは俺のほうでしたよ」

「あなた、嘘が見抜けるなんて言ってたけど、自分で嘘を吐くのは苦手みたいね? 私は、最初っから負けてたって事じゃない」

 そう言って路兎さんは、俺達の前で初めてその笑顔を見せてくれた。普段見せているツンツン顔の何倍も何十倍も魅力的だと、俺は心の底からそう思った。


         ◆ 

        

 竜胆寺家リビング


 ジェンシャンを賭けた真剣勝負を終えた俺たちは、道場を離れリビングへと戻った。

「でも、どうしてジェンシャンを粛清しなくてはならなかったんですか?」

 再び人数分のお茶を用意し、すっかりまったりモードになった俺たちは、ここぞとばかりに路兎さんに質問をぶつける。

「どうしてって。竜胆寺虎丸、私は勇者の子孫よ? 悪魔退治をする事も立派な勇者の仕事だもん」

 だもんって。すっかり気の抜けた路兎さんは、気合の表れだったポニテも崩し、その言葉遣いすら素に戻っているようだった。まぁ、それはそれで悪くないというか。これが噂のツンがデレる瞬間というか。俺は、何とも言えない感動の余韻に浸りながら、話を続ける。

「では質問を変えましょう。どうやって、ジェンシャンがここにいると分かったのですか? 勇者の能力か何か… ですか?」

 我ながら何だか馬鹿馬鹿しい質問だとはおもったものの、現にこうして俺の元には二人の悪魔がいるのだ。勇者という職種の人達が実際にいて、何らかの特殊能力を持っていたとしても、俺は何ら驚かない自信があった。

「勿論、ゲームみたいに便利な呪文なんて使えないけど、それに近しい事だったら、少しは」

「ま、まじかよ、路兎」

 そう言いながら、まじのが一歩後ずさる。びびってる。珍しくまじのがびびっている。

「見ていて?」

 目を瞑った路兎さんは、ブツブツと何かを唱える。すると…

「おっ、おおお?」

 路兎さんのロングヘアーが一部湧き上り、まるで兎の耳のように立ち上がる。そして、それらはジェンシャンのいる方向を指し示した。

 さながら方位磁石のように。

「名付けて、悪魔探知レーダーよ。他にも特売品レーダーにもなるわ。凄いでしょ?」 

 ここ一番のドヤ顔で、そのまな板を張って見せる勇者の子孫殿。

「何か、可愛いですね」

 勇者という割には、その能力が。そもそもその手の能力はシャクヤクで既に見ているからなのか、それほど新鮮な驚きは無い。むしろ、特売品レーダーとやらには聊かの興味を覚えたのは事実なのだが、今は棄ておく。

「ば、ばかっ」

 そう言ってその兎のように白い頬をほんのりと赤く染める路兎さん。まぁ、言わぬが華というやつだろう、これは。

「うむぅー。不思議なもんじゃのう。よもやこんなにも身近に、本物の勇者がいるとは思わなんだ。しっかし、勇者というからには、もっとごっついオッサンかと思っておったんじゃがのー。やっぱりちょっとガッカリじゃのー」

「一番の不思議生物筆頭であるあなたに言われたくないし、私だって悪魔があんたみたいなちびっ子で拍子抜けよ。それに、夢を壊しちゃって申し訳ないけど、現代に生きる勇者なんてこんなものよ。遠い昔の私のご先祖様たちならともかくとして」

「ご先祖様、ですか?」

「ええ、そう。この際だから言っちゃうけど、私の本当の目的はね、私の一族の汚名を晴らす事なのよ。由緒正しき私達路兎家を馬鹿にした奴らを見返すために」

「あてらはその見せしめかえ? 失敬な! 失敬な!」

 ぷんすかとジェンシャンがその小さい体を精一杯使いながら怒りを表現している。まぁ、その気持ちは分からなくは無いが、どうみても子供が駄々をこねているようにしか見えないのが悲しい。

「冷静になって見ると、確かにすまなかったとは思っているわ。だからこそ、商店街で勝負をしかけずちゃんとここまで来たんでしょ? それに、だって、あなた見たいな悪魔がいるとは思わなかったし、何より、そんな悪魔を家族として迎え入れている人間がいるなんて… 思いもよらなかったんだもん」

「そうじゃろそうじゃろー。何せ虎丸は、このあてが認めた男じゃからなー」

「そうそう。このあたしが認めた男だからなー、竜胆寺は」

 何故か自分の事のように嬉しそうに胸を張るジェンシャンとまじの。同じリアクションという事で、嫌でも比べてしまう二人の胸元。やはり、その胸が全くのまな板なので、ジャンシャンのは見ていてどこか悲しい。

「時に虎丸。お主、今、何か不埒な事を考えておらんかったか? ここは素直に感動するしーんじゃぞ?」

 … どうやら、俺は嘘が下手ってのは、紛れも無い真実らしい。やれやれである。

「まぁ、勇者なんて有名人(?)の子孫なのに、その名が知れ渡ってねーってのがどうにも可笑しいと思ってたんだよなーあたしは」

「そもそも私達一族は、歴史の表側には名を残していないわ。影、裏側で活躍することを美徳としていたの。だ・か・ら・こ・そ!」

 路兎さんは、何やら一層の力を込めて言い放った。ま、ご先祖うんぬんはともかくとしても、たった一人で我が屋敷に乗り込んできたり、わざわざ正々堂々真剣勝負を申し込んでくる辺りは、確かに勇者並の勇気があったと、認めたくなる。流石は勇者。真の武器はその勇気というわけだ。

「だからこそ、現代の路兎家の家計は火の車なのよっ! 替えの剣を用意出来ないくらいにはねっ! あぁ、ご先祖様のばかっ。あんた達がもっと歴史の表舞台に立っていたら、私は今頃特売品を買いあさってはいなかったはず!」

 何だか、現代に生きる勇者の悲しい現実を見せられたような気がして、とてつもなく居た堪れない気分に陥る俺たち一向。

「一気に所帯じみた話になっちゃったな。夢も希望もねーぜおい」

「成る程。昔から、無い乳は触れぬと言いますからね」

「言わないわよ! なに? なんか文句ある? 私だってしたくてこんな生活してるわけじゃないってのよ! ってかどこ見てんのよ竜胆寺虎丸! やっぱりあんた変態男ね!」

「まぁ、まぁ、落ち着いてください。貧乳も微乳も乳のうちです、俺は好きですから。そうだ、路兎さん。こうして知り合ったのも何かの縁です。どうです? 今度また夕食を食べに来てください。君だったらいつでも大歓迎ですから」

 確か、兎って寂しいと死んでしまう繊細な生き物だったはず。などとは口が裂けても言えないが。

 そして、そんな俺の発言を受け、件の勇者様はといえば…。

「ば、ばっかじゃない! ばっかじゃない!?」

「二回も言ったのう」

「ああ、二回も言ったな」

「イエス。きっと、大切な事なので、繰り返したに違いありません」

「あんた達ねぇ、言わせておけば。あー良いわ! いつでも来て上げる。有難く思いなさい、毎日だって食べに来て上げるわ! この悪魔が何か変な事しでかさないかどうか、私にはそれを見張る義務があるもの」

「おいおい、勇者の癖に生意気なやっちゃな」

 路兎さんは、これまで俺たちに見せた中で、一番とびきりの笑顔を浮かべつつ、こう言い放った。


「だって私は、あくまで、勇者ですからっ!!!」



 第三章 END


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