第61話、奮闘する冒険者たち
グリフォンというのは、どうにも好戦的だ。人前に現れたということはそういうことなのだろうから、余計にそう感じてしまうのかもしれない。
護衛の冒険者たちがそれぞれの馬車から飛び降りて応戦の用意をする。しかし車列を止めるのは、果たして正しい判断なのか。
俺とアクアも最後尾の馬車を降りて――ガシャンと派手な破砕音が響いた。
「気をつけろ!」
隊商の誰かの叫び声。先頭の馬車がグリフォンによって潰された。先頭グループの冒険者が届きもしない槍や剣を構えて威嚇の声を上げ、弓使いが弓を構えて矢を放った。
矢はグリフォンに突き刺さったが、大して効いた様子もなく吼えられた。
セブンスエポン、魔法弓形態。爆裂魔法は周りの人員を巻き添えしそうにしそうだから、ここを電撃矢を……くらえ!
電撃弾の飛翔音にグリフォンが気づき、顔を上げたが回避する間はない。直撃! 僅かな間、痺れる大型魔獣。周りを固めていた冒険者たちが叫ぶ。
「今だ! かかれっ!」
怯んだ隙にグリフォンの胴体に槍を突き立て、剣を突き刺し、斧を叩きつけた。怒りの咆哮を上げてグリフォンは翼を広げて、羽ばたかせた。
「させるかっ!」
冒険者が重りをつけた縄を投げて、飛行魔獣の片翼に引っ掛けて、力強く引いた。
翼の自由を奪い、空へ逃げさせないようにするのだ。そうして地上に貼り付ければ、他の冒険者たちも攻撃のチャンスが来る。
グリフォンなどの飛行魔獣の何が厄介かと言えば、十中八九、空へ飛ばれることだ。
俺は素直に感心してしまう。
「手際がいいな」
まるで、初めからグリフォンが襲撃してきた場合に備えていたようだ。ヴォワの町やその近辺で、グリフォンへの警告が出ていたのが理由だろうな。この隊商についていた冒険者たちも、しっかり用意していたのだ。用心深くて好感が持てるね。
冒険者たちが再度アタックをかける。これは俺たちは後方支援に徹するべきかな。元気にぶん回しているもう片方の翼を今のうちに攻撃しておくか? ……うーん、ちょっと的が動きすぎて、当てたい場所には当たらないかもしれないな。
なんて考えていたら何もできない。ある程度思い切りは大事。ということで次弾、発射! 電撃弾は翼に命中! しかし翼の端っこであまり効果はなし。
冒険者たちはグリフォンを攻めたてる。
「おい! 誰か! こっちを手伝ってくれっ!」
縄で片翼を拘束している大柄の冒険者が叫んだ。
「この野郎! 馬鹿力を出しやがって!」
すでに縄に他の冒険者と隊商の人間が綱引きよろしく取り付いていたが、それでもグリフォンのパワーが、彼らを振り払おうとしているようだった。
「アクア、後ろから支援!」
「はい!」
彼女を前に出さないように指示をしつつ俺は前進。魔法弓で今度はグリフォンの顔面に電撃弾を当てて牽制すると、綱引きグループに加勢する。
「おりゃああぁ!」
俺を入れて五人がかりで、グリフォンの片翼を引く。凄まじい力で引っ張られそうなところをこらえ、大地を踏みしめて引っ張る。
『おおおおおぉぉぉっ!!!』
男たちは踏ん張る。そうこうしているうちに、残る片方の翼にも重り付きの縄がかかり、さらに地上に貼り付けるべくグリフォンを押さえつけにかかる。
グリフォンも抵抗する。武器で攻撃する冒険者たちだが、嘴を使った攻撃が上から降りかかり、運の悪い奴が肩を貫かれて、腕を裂かれた。
「うあああっ! 畜生ぉっ!」
「よくもっ!」
冒険者たちは一丸になってグリフォンにさらに武器という名の牙を突き立てる。すでに魔獣の羽毛は刺突や斬撃によって赤く染まりつつあり、中には肉を抉る一撃もあった。
翼を引っ張っていた俺たちだが、不意にグリフォンの重心が前に移動したのか緩んだように感じた。
「それっ、今だ! 引っ張れっー!!」
「おおおっ!」
両の翼と綱引きしていた俺たちはそれぞれ力を込めて、相手の勢いを利用し引っ張った。結果、グリフォンは前のめりに倒れ込んだ。
俺たちもあまりに引っ張れたせいで後ろへ倒れ込み、最前衛の冒険者たちはグリフォンの巻き添えでひっくり返った。
「やべぇ」
誰も攻撃できていない。グリフォンは倒れたが、そのトドメを刺せる奴がいない。
俺は素早く起き上がると最前線へ駆け上がる。グリフォンの頭が上がり、俺を見て――水球を顔面にぶち当てられた。
アクアが水魔法を撃ち込んだのだ。
「よくやった!」
わずかにグリフォンの意識が削がれたところに、俺はブロードソードを構え、魔獣の頭に渾身の斬撃を繰り出した。
血飛沫が舞った。致命的な一撃でグリフォンの顔面が修復不能な傷を負ったが、即死にはほど遠い。苦しめる時間を長引かせるつもりはない。もう一丁!
返す刃でもう一撃! これで沈めよ……!
・ ・ ・
グリフォンは倒された。護衛の冒険者たち全員の共同討伐だ。
「あんた、いい腕だな!」
冒険者たちは、トドメを刺した俺にそう言って称えてきた。いやいや――
「皆で押さえていたおかげさ」
あいつが倒れてなかったら、渾身の一撃が届かなかったんだからさ。だから皆で挑んだ結果なんだ。
隊商は一度、ヴォワの町に戻ることになった。馬車一つが潰れたとはいえ、残りは健在ではあったものの、グリフォン討伐の報告の方が優先だろうという判断なのだそうだ。まあ、町からまださほど離れていなかったというのも影響している。
「一日二日の遅れだな」
「仕方ないですよ、ウィロビーさん」
アクアは言った。
「それより、この近辺で脅威だったグリフォンを討伐できたんですから、そちらのほうがよかったと思います」
「最後の援護、ありがとうな。おかげで躱されずに済んだ」
「いえ、そんな……。あれくらいしかできなくて」
アクアは謙遜するが、あれはベストタイミングだったと思うぞ。
重傷者は出たが死者はなく、俺たちは町へ凱旋した。




