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第54話、いるはずのない魔獣


 トゥリ村からは徒歩で移動だった。

 俺とアクアは街道に沿って歩く。黙々と歩くことは体力の温存にはなるが、色々考えてしまうのが玉に瑕だ。


 これで天気が悪いとネガティブに寄っていくのは、実によろしくない。だからアクアという同行者がいるのが幸いと、お喋りをしてしまうわけだ。俺って意外と寂しがり屋なのかもしれない。


「疑問、冒険者パーティーの『流星』ってどういう構成?」


 俺が尋ねると、アクアは考える。


「四、いえ、五人……六人だったかな?」


 なにぶん子供の頃だったので、とアクアは苦笑した。


「でも、ウィロビーさんは、そのリーダーの人によく似ていましたよ」

「今の俺と違う格好だったってことか?」


 それとも名前の同じで似ている別人? 記憶がないから割と別人説も信じられるんだが。


「騎士ではないですけど、それっぽい姿でした。他に魔術師に、治癒術士がいて……凄く綺麗な人でした。女神様みたいで……」


 へぇ……それは一度お目にかかりたいものだ。


「あとは弓使いの方がいて、戦士、騎士だったかな? 前衛系の方が二人いたような……」

「ふうん……」


 まるで記憶にない。この辺り、俺が別人説を唱える一つの理由になっている。


「そもそもの話、俺はゴールドランク冒険者ではあるが、固定のパーティーに所属したという記録は見たことがないんだ」


 冒険者ギルドで、過去の戦歴、記録を見せてもらったことがあるが、臨時参加パーティーの記録はあっても、固定のパーティーについての記載は一切なかった。


「憶えていないだけでは……?」

「『流星』なんてパーティー名も、記録に見たことがない……気がする」


 見落としてなければ、なかったと思うんだけどなぁ……。


「じゃあ、わたしの記憶違いなのかな」


 アクアは考え込む。


「でも、確かにリーダーのウィロビーですって自己紹介をしていたような……」

「それが本当なら、寄せ集めが集まった臨時のパーティーという可能性もあるか」


 その場のノリで名乗ったパターン。俺とアクアが古代都市遺跡に挑んだ時みたいに、たまたま集まった面子で、その中でそのウィロビーがリーダーポジについたという可能性もある。


 などと疑問などを雑談として消化していると、ふと遠くで動くものが見えた。

 見晴らしのよい荒れ地は、太陽の光を浴びてじりじりと焼けるような熱を反射していた。蜃気楼めいてぼやけるそこを飛んでいたのは鷲――ではなく。


「グリフォン……!?」

「!?」


 何で山でもないのに、空を飛ぶ魔獣がいるんだ!?

 鷲の頭と翼、獅子の胴体に蛇の尻尾を持つこの化け物は、そのサイズもそこらの獣より大きく……まあ、片足で馬を掴んで運べるくらいだからお察し。


「ウィロビーさん……」

「姿勢を低く」


 俺はその場で片膝をつく。


「動かないように」


 真っ直ぐこちらに向かっているわけではなく、獲物を探して周回しているような飛び方をしている。まだグリフォンはこちらを見つけていないのではないか。

 いや、仮にそうでもこれからもそうとは言えない。ここには身を隠せそうな遮蔽物はない。飛行している上に、目もいいらしいからな……。たぶん、時間の問題だろう。


「……ほら来た」


 グリフォンが翼を翻し、こちらに真っ直ぐ飛んできた。間違いなく俺たちを見つけて向きを変えやがった。

 セブンスエポン、弓形態――俺は迫り来るグリフォンのやや上を狙う。


「ウィロビーさん、正面は危ない――」


 アクアが注意する。


「逃げないと……!」

「まだだ」


 早くに逃げ出しても、飛行する化け物から逃げられるものか。地上を走る生き物が、空を飛ぶ生き物より早く移動するなんて、魔法でも使わないと無理だろう。

 慌てて走ってもその足に捕まれて空へと連れ去られる。最悪だとその時点で足の爪に貫かれているかもしれないし、ただ捕まれたなら地面に叩きつけられて潰れた卵みたいな死にざまを辿るだろう。

 ろくなものじゃない。


「合図した左右どちらかに飛び込め」


 俺はギリギリまで戦うぞ。逃げれば即死亡ルートだからな。

 グリフォンが低空滑空で迫る。早ぇ(はえぇ)し近づいてドンドン大きくなってるから怖ぇよ……!


「エクス、プロージョン!」


 魔法矢を放つ。魔力をたっぷり込めた爆裂魔法矢が、グンとグリフォンに迫る。その脳天に当たれっ!

 グリフォンが翼をひとかきした。速度は落ちたが、急に上昇して、爆裂魔法矢を躱した。


「はああっ!? 避けやがったっ!」


 魔法矢を危険と判断できるだけの知能があるのか。……こいつ対人戦の経験があるグリフォンに違いない!

 そうでなければこちらの飛び道具を初見で避けようなんてしないだろう。


 グリフォンが咆哮を上げる。突撃の勢いはなく、足ですれ違いざまに掴むのはもはや不可能。だが四本ある足で大地に着地した。獅子の足は、翼を持つグリフォンの巨体をどっしりと支える。


 人間と比べても倍以上の身長差があるんじゃないか……? それが俺たちを見下ろし、翼を広げて自分をより大きくみせて威嚇してくる。


 俺はブロードソードに切り替えて構える。ここで注意すべきは、グリフォンの嘴による突っつき。斜め上からの突きは、体格差のせいもあってリーチは向こうが有利。


 それなら足元へ滑り込んだらと素人は思いつくが、翼で飛び上がり、そして着地というジャンプ&プレスで、潰される可能性が高くなるのであまり褒められたものではない。ジャンプされると近接武器がほぼ届かなくなるしな……。


 リーチ差を少しでも埋めるなら槍が欲しいところだ。弓などの投射攻撃も悪くないが、こうも目の前に留まられては突っつかれるのが先だろう。


 アクアが三又の槍を構える。……そうだったー。彼女は槍を持っている。がどちらかというと短槍寄りだから、リーチ面はあまり差はないか。


 俺が正面で奴の気を引く。ブロードソードの剣先をゆらゆらさせて、グリフォンの動態視力をこちらに向けさせる。動くものには敏感だろう?


 突っついてこい。そこを躱してカウンターぶち当ててやる!

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