第53話、馬車は向かうよ、どこまでも
港湾都市カミバルへ向かう道中、俺たちを乗せた冒険者ギルドの連絡馬車はザガンの町に到着した。
「じゃ、ウィロビーさん、ここまでありがとうございました」
連絡馬車の御者とギルドスタッフが頭を下げるので、いえいえ、と俺も首を振る。
「こちらこそ、ここまでありがとう」
この連絡馬車の行き先が別で、カミバルには行かないので、俺とアクアは降車。
ザガンの町までの護衛も兼ねたせいか、あるいは俺がゴールドランク冒険者だからか、ギルドスタッフはザガンの町の冒険者ギルドにカミバル方面へ行く連絡馬車などあるか、確認をとってくれた。
結果をいえば、今すぐ出る予定はないとのこと。わざわざ確認してくれてありがとう。
ザガンの町から乗合馬車があればそれを使うか、あるいは徒歩で移動することになるが――
「冒険者は、一応クエストがないか確認する」
俺はザガンの町冒険者ギルドのフロアで掲示板を眺める。
旅馬車や小規模商人の移動の護衛依頼というのが割と発生する。この手の依頼は数日、数週間町を離れるものもあるから、案外残っていたりするものだが――
「あ、ウィロビーさん、あれそうじゃないですか?」
「トゥリの村のまでの護衛……。トゥリって、カミバル方面?」
「うろ覚えなんですけど、海から内陸に進む道中で立ち寄った記憶があります。間違っても内陸に戻るということはないでしょう」
「よし、じゃあこの依頼を受けてみるか」
俺は掲示板から依頼用紙を剥がし、カウンターの受付嬢のもとへ提出。
「ここで依頼を受けるのは初めてなんだが……」
ちら、と冒険者票を出す。
「ゴールドランク! ……かしこまりました」
受付嬢が少し驚いてくれた。凄いなぁ、ゴールドランクって。受付嬢はクエスト内容を確認し、条件その他を見た上で言った。
「――あまり報酬は高くない依頼ですけど、よろしかったのですか?」
「ああ、移動の途中でね。そのついで、というやつだ。……駄目かな?」
「いいえ、正規の冒険者証を持っている冒険者は、どこの冒険者ギルドであろうと依頼の受注はできますから」
でもギルドの本音を言えば、地元に根付いてくれるほうを優遇する傾向にあるんだよな。それも当然の話ではあるんだけど。
ただこういう別の場所への移動系クエストは受注率があまりよろしくないので、どこの誰でも、受けてくれるというのなら歓迎されがちではある。
ということで、クエストを発行してもらった。報酬については依頼達成後、依頼人からもらうこと。達成した後の発行証は、近場の冒険者ギルドに提出するようお願いされた。
依頼をちゃんとこなしたか、ギルドも確認したいからな。いつまで経っても達成が確認されないと、ギルドが人をやって依頼人に確認する。それで未達成だったり、あるいは依頼人が死亡していて冒険者がバックレたりしているのがわかると、その冒険者がブラックリストに乗って追われたり、クエスト受注できなくなったりとペナルティーがつく。
……ただ手続きを忘れただけ、というパターンもあるにはあって、その場合は次回クエストを受ける際に、ギルドから注意を受けたりする。
閑話休題。
俺たちは、クエスト依頼人のもとを訪れた。何の変哲もない民家にいたのは、オイルとアブラルと名乗る兄弟商人。
「いやー、案外早く来てくださって、ありがとうございます。……ひょっとして、今から移動しても大丈夫ですか?」
兄のオイルは中肉中背、口髭をはやし、喋りなれている雰囲気。弟のアブラルは、顔立ちはよく似ているが、若干背が高く細めである。
兄弟姉妹あるある。歳が近いと割と弟、妹の方が背が高くなるという話。
またまた閑話休題。
別段ゆっくりする理由もないので、さっそく移動。荷馬車に乗ってザガンの町を離れる。
二人はトゥリの村で雑貨商を営んでいるそうだ。ザガンの町に買い出しにきて、行きは旅の冒険者を雇ったが、その冒険者は別の方向へ行くので帰りの護衛を雇うべく、町の冒険者ギルドにクエストを発注したらしい。
その冒険者は、俺たちと同じように護衛依頼を移動手段に使用したんだな。よくあることだ。
のんびりとした荷馬車の移動。このまま何もなければ、雇われている俺たちも楽ではあるのだが……そう簡単にはいかないよな、うん。
「いやー、狼の集団が現れた時は正直肝を冷やしました」
オイルは快活だった。
「ウィロビーさんが狼どもの前に立ちふさがって吼えたら、あいつら逃げちゃって。いやー、ゴールドランク冒険者って凄いんですね」
「……まあ、うん。何だろうね」
俺としては気合い一発、ちょっと脅してやろうと思っただけだったんだ。それで狼たちの勢いが少しでも落ちたら、こっちから踏み込もうと思ったのに……。
先頭の奴が滅茶苦茶うろたえて足をもつれさせたかと思うと、後ろの連中も驚いた顔をして逃げ出した。
こんなことを言うのもなんだけど、狼も驚いた顔をするんだね。ああもはっきり間抜け面をさらしているところ、初めて見た。
俺としてはバッタバッタと剣を振るうことなく終わったので、肩透かしを食らってる。いやまあ、あれだけの数を相手しなくて済んでホッとしているんだけど、覚悟していた分、拍子抜けだ。
その日の夕方、トゥリ村に荷馬車は無事、到着。
「いやー、助かりました。道中に現れる獣で、旅人や商人がやられるというのは割とある話ではありますからね。ザガンの町に行く時もちょっと追いかけられたので、心配してはいたのですが……。お陰様で事なきを得ました。ありがとうございました!」
オイルはよく喋る男であった。
その日は、オイルの紹介でトゥリ村の宿に泊まった。時々通る旅人のための、こじんまりした宿ではあったが、よそ者に慣れているのか店員の対応はよかった。
屋根のある部屋で、ベッドで寝る。いいものだ。




