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冒険者ウィロビー 気ままに冒険者ライフ  作者: 柊遊馬


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第47話、前提から間違っているかもしれない


 重騎士を頭から両断した。

 黒い靄を吐き出しながら倒れるそれは、どう考えても人間のものではない。禍々しい感覚も相まって、切り倒したところで素早く俺は下がった。


 呪いはない……と思いたいが、ないとも断言できない。特に呪いって、倒した直後がもっともかかりやすいって言うからな。

 足元の水が、滴る血によってどす黒く染まる。


「ウィロビーさん、ここを離れたほうがいいかも」


 アクアが神妙な調子で言った。倒した重騎士の死体をじっと見つめる。


「これ、きっと倒せていないと思います」

「倒せていない……?」

「というより、しばらくすると元に戻るかと思います。これはおそらく『汚れ』。かつて人だったものが、負の感情に取り付かれて魔と化したものではないかと……」


 つまり……ゴーストの類い? それは……確かに物理でどうにかするのは難しいな。俺も簡単な除霊魔法は使えるけど、ちょっとこれは手にあまるかな。


「どうするべきだと思う、アクア?」


 俺より詳しそうだから、何かよい案が?


「ここは先に行きましょう。魔を祓うことができれば別ですが、今の私の力では……」


 無理、ということか。そうだな。動かないうちに先に行くのもありか。

 俺たちはその場を離れる。洞窟のさらに奥へと。


「考えていたんだが、あの騎士、聖女を返せって言っていたよな?」

「ええ、そんなことを言っていたと思います」


 アクアも聞いてきたようだった。よかった、俺の聞き違いじゃなくて。


「ここで聖女って言ったら、水の聖女のことだろうか?」

「……そうですね。ここ、何かといえば水が関係していそうですし、可能性は高いと思います」


 そう、最初の都市遺跡の段階で、水に関係する仕掛けがあった。至るところで水が流れ、今も薄く張った水の上を歩いている。


「どういうことなんだろうな? 水の聖女を返せ、とは」


 返せということは奪われたということだ。何者かが聖女を誘拐した。あの重騎士は聖女を守る使命を持ちながらそれを果たせず、無念のあまりあのような姿になってしまった、か……?


 そういえば、水の聖女とおぼしき、今回の俺たちの目標。彼女はこの遺跡のどこにいたか。

 あの眠るような姿は、その何者かに連れ去られた結果だったとしたら?


「サハギン……」

「何です?」

「いや、聖女が眠っていた遺跡の中にはサハギンの武器庫があったから、もしかしたら連れ去ったのは、サハギンかもしれないと思った」


 ちょっと安直かな? 苦笑してしまう俺。


「それ、案外正しいかもしれませんよ?」


 アクアは考えながら、そう口にした。


「今のところ、一番辻褄が合っているかなって」

「ありがとう。……だがそうだとして、次の疑問だ」


 俺の中で浮かぶ新たな疑問。


「サハギンは何故聖女を連れ去ったのか?」


 あの重騎士も聖女を取り返そうとはしたのだろうが、それが果たされず、あのような姿になった……。それはそうなのだろうが、そもそもサハギンが聖女をさらわなければ、そうはならなかった。


「マーメイド的な見地から、何かあるかい?」

「そういわれてしまうと……。答えるしかないじゃないですか」


 アクアは微妙な顔になった。


「サハギンのことですから、なにがしら問題が発生した場合、それを鎮めるために水の聖女を狙い、そして誘拐したんじゃないかなと思います」

「なにがしらの問題とは?」

「自分たちの力では解決できない時に、外から解決策を探すのがサハギンのやり方なんですよ。それがなければ、他の生物に対して攻撃的なんですけど」


 サハギンは非常に攻撃的なモンスターというのは、人間だけの認識ではなかったらしい。その様子だとマーメイドにとっても、サハギンは攻撃的厄介者という扱いかもしれない。


「で、その解決策が、水の聖女?」

「力のある存在をさらう理由というのは、大抵は生贄なんですけど」

「生贄?」

「サハギンは海の神を崇拝しています。つまりは神に捧げる生贄ですね。それと引き換えに問題を解決する」


 ふーん、海の神か。サハギンにも信仰なんてあるのか。あのモンスターが、そんな知的な種族だったなんて思いもしなかった。

 ……知的種族にしては攻撃的過ぎる。蛮族だ――そう思ったところで、人間にも蛮族はいて神様を信仰しているから、それほどおかしなことではないかと思い直す。


「サハギンの問題とは?」

「さあ、わたしもそこまで詳しくはないですけど、海の環境に異変が起きた時とかじゃないでしょうか」


 あぁ、なるほど。飢饉で雨乞いをしたりするアレか。確かに自分たちではどうにもできないから、神頼みになるというのもわかる話だ。


「となると、先日の遺跡で見つけた聖女らしき女性の周りに、サハギンの装備がある部屋があったというのは、あの遺跡自体がサハギンの拠点なり神殿だったということか」

「その可能性は高いですね」


 でも――アクアは視線を宙をさまよわせる。


「あの都市遺跡がマナンティアルで、その地下にサハギンの神殿がある、というのはどうにも結びつかないんですよね」

「確かに」


 水の都マナンティアルと、他種族を認めないサハギンの拠点が隣接しているのは、ちょっと考えられない話だ。


「それに、さっきの重騎士もですけど、転移魔法陣が変な場所に繋がっているのも、よくわからないんです。最初の都市遺跡の地下の回転して場所の変わる仕掛けだって理解できない」

「そもそもの話、ここが水の都マナンティアルって、やってきた俺たち人間が勝手に言っているだけなんだよな」


 俺は思い起こす。


「ここがマナンティアルであるという明確な証拠はなくて、それを確かめようとしている状態だ。だから水の都と決めつけているところから、すでに間違っているかもしれない」

「謎ですね」

「ああ。大いに謎だ」


 俺とアクアは立ち止まる。目の前にはまたも転移魔法陣と思われる光。


「進むしかないんだよな」

「そうですね」


 アクアも同意した。今度は果たしてどこに通じているのか?

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