第48話、都市遺跡の正体
「ここは……」
転移魔法陣をくぐった先は、以前見かけた地下遺跡。例の水の聖女かもしれない女性がガラスの棺の中に入れられていた部屋のある遺跡だ。
「どうやら、知っているところに出たかもしれない」
「ウィロビーさん?」
「たぶん、この建物の中だろう聖女は」
サハギンの武器トライデントが大量にある保管庫もあるから、ここはサハギンの神殿なり拠点だったの可能性が高い。
お貴族様からの依頼を果たさないといけないから、知っている場所に戻ってこれたのは一安心だ。
「アクア、用心はしてくれ。前回来た時は、サハギンに出くわすことはなかったが、ジャイアントスパイダーやスライムはいたからな」
「……」
「アクア?」
振り向けば、彼女は室内を興味深そうに見回していた。
「どうした?」
「いえ……何でもないです」
アクアは頷くと、俺の後に続いた。知っている場所とは言ったが、正しく前回通った場所ではないようだったので、見覚えのある通路に出ないかちょっと不安になる。聖女の眠っている場所の正しい行き方もまだわからない。
……と、ここは。
「サハギンの武器庫か」
中には奴らの武器がいっぱい保管されている。
「ウィロビーさん……」
「ん?」
「ここ、サハギンの神殿じゃありません」
アクアが至極真面目に言った。サハギンの、じゃない?
「どういうことだ?」
「ここ、マーメイドの神殿です」
え……? マーメイド? ……ええっと。
「そうなの?」
「はい」
頷くとアクアは、例の武器庫に入っていった。立てかけられている無数のトライデント。
アクアはそれを確かめると、手元に三又の槍――トライデントを出した。
「これ、わたしの愛用している槍なんですが……どうですか?」
「似ている……というか作りが同じか?」
俺は武器庫のそれとアクアの武器を見比べる。これはあれか、俺の勘違いか。
「トライデントと言えばサハギンの印象が強かったから間違って解釈しちゃったんだな。じゃあ、さっきまでの推測も大ハズレだろう」
すると、どうなるか。
「ここはマーメイドらの神殿で、水の聖女はそこに安置されていた」
「ここに聖女がいるというのであれば、そうです。ここがマーメイドの聖域になります」
アクアはそこで顔をあげた。
「ついでにいえば、ここはマナンティアルではない……」
「水の都ではない……?」
じゃあ、何だと言うんだい?
「ここは、マーメイドの古代都市、アクアポリスの一つでしょう」
マーメイドの……。
「古代都市……その遺跡か」
都市遺跡に入ってすぐの無数の塔。水位に満たされれば、水中の生物が出入り自由な塔という時点で、水の中を活動できる種族にとって居住に適しているという印象があった。
あの塔の住人は古い時代のマーメイドだった。……なるほどな。
俺は武器庫を出て、覚えのある通路に出た。こっちに行けば聖女とやらのいた部屋だな。
「そうなると……どういうことだ?」
「何がです?」
アクアは首を傾げる。
「あの重騎士は聖女を返せと言っていた。サハギンが無関係で、先の説が否定されたわけだが、じゃああの騎士は何故返せになるのか」
彼が聖女の護衛だと言うのであれば、奪ったのはマーメイドということになるのか……?
マーメイドの古代都市、そしてその聖域とやらに水の聖女がいるということは、マーメイドたちに連れてこられたということにならないか?
「昔話をしましょうか」
アクアは言った。昔話……?
「その昔、とある人魚が、地上の騎士に恋をしました」
そして騎士もまた、彼女に恋をした。二人は海辺で会い、仲を深めた。だが海の人魚と陸の人間、両者を隔てる種族の壁は大きい。
「そして想いを募らせた人魚は、人魚であることを捨て、地上に移った。秘薬を使って人間として」
それは、つまり……。
「彼女は水の聖女として、地上で有名になった。彼女が住む町は水の都マナンティアル――でも、マナンティアルは海神の怒りを買って、陸地から切り離され海に没した」
「……」
「マーメイドたちは、水の聖女である人魚――我らの姫を救うべく駆けつけた。でもそれは、騎士から思い人を連れ去る結果になった」
あの重騎士は……。彼から聖女を奪ったのは……。
これには、ちょっと俺も軽くショックを受けた。
俺たち人間が、マナンティアルかと思った都市遺跡ダンジョンは、マナンティアルではなかったこともそうだが、アクアの話はこの遺跡の謎の答えを示しているように説得力があった。
「悲恋だな」
「ええ、そうですね」
アクアは同意した。彼女がこのダンジョンに来たこと、水の聖女を探している云々というのは、マーメイドの昔話も関係しているのだろう。
「ここがマーメイドの聖地って話だったけど、君たちは知らなかったのか?」
「水の聖女を連れ出したマーメイドたちの都市についても、よくわからなくなってしまったんですよ。マナンティアルが滅びた際の余波なのかもしれませんが、昔話――伝説では、海神の怒りで海がひっくり返されたみたいな話もありますし。結局、聖女も助からなかった、という風に昔話では語られていますし」
それが、ここにきてマナンティアル、水の聖女という話題が出たからこそ、マーメイドの彼女が、代表してかはわからないが調べにきた、というところか。
何となく、アクアの本当の目的が見えてきた気がする。
「……おっと、話している間に目的の場所に着いた」
この先の部屋に、水の聖女と思われる女性が眠りについている。




