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第10話、追いついた!


 冒険者は、五感を大事にするものだ。


 ゴブリンの姿は見えないが、奴らの独特の臭気は、鼻腔を刺激している。好き好んで、こんなクソのようなゴブリン臭を嗅ぎたいとは思わないが、追跡のためには仕方ない。

 ここで、また別のものを今度は聴覚が捉えた。


「水の流れる音……」


 地下水が流れている。この感じだと、川のような。ゴブリン臭を辿っていくと、地下を流れる川が見えてきた。


 ヤバいな。割と急な流れのせいで、他の音をかき消してしまう。ゴブリンが潜んでいたら、初動が遅れるかもしれない。毒矢でも飛んできたら、目も当てられないな。

 とはいえ、こちらはほぼ一本道で、川に沿って俺は歩いた。待ち伏せに備えて、すぐに駆けられるように。


 左腕の小型盾(バックラー)は心臓の前に。腕の動きに合わせて盾も動くから頭部や他の部位を狙われてもカバーはできる。もっとも、盾自体は大きくないから、自分で守らなくてはいけないわけなんだが。


「おや……」


 この先、広い空間になってそう。流れている川が、滝になってるー!

 ぽっかり大口を開けた巨大な化け物みたいだと思ったのもつかの間、あれ、意外に明るい。


 大きな地下、無数のクリスタルが生え、それらが淡く白く光っていた。その明かりに空洞内を照らしていて、白い光の森のようだった。


「魔法鉱物の空洞、か……」


 何か凄いところに当たってしまった。あの光るクリスタルのようなもの、魔法鉱石だろうから、持ち帰ればそこそこのお金になるかもしれない。

 それはそれとして、この崖になっているところから下に下りないと、それらクリスタルを採れないが、俺がここにいるのは、鉱石採集ではない。


 屋敷から連れ去られた少女を、ゴブリンから助け出さないといけない。名前も知らない子だけど、旅の道連れに荷車に乗せてくれた恩もあるからね。それでなくても、ゴブリンに誘拐だなんて、寝覚めが悪すぎる。


「臭いはするんだが、下りる道がないと、ここじゃないってことになるよな」


 確かめるように独りごちる。おっと、崖沿いに細いが下り坂がある。ここなら少女を運びながらゴブリンも通行できる。

 追跡続行だ。俺も坂を下りつつ、警戒する。


「ん……? 見えた!」


 クリスタルの点在する岩地を、少女を運ぶ二体のゴブリン。そしてその周りにも複数のゴブリンの姿があった。

 俺は駆ける。目標が見えたなら、歩くのはやめだ。一気に追いついて、彼女を奪回する!


「ホブがいやがる……!」


 小柄なゴブリンに加えて、大の大人か、それよりやや大きいホブゴブリンが数体。俺の行く手を阻むように現れた。


 ゴブリンども、応援を呼んでいやがったか。だが、それでも、ここで引くわけにはいかない!


 グォォォー、とホブゴブリンどもが敵意を剥き出して向かってくる。体が大きい分、ゴブリンと違って正面から突っ込んでくる。


 だが、それでもオークと同等くらいなんだよな! 振り上げられた棍棒をすり抜けるように躱して、ブロードソードを叩きつける。


 まずは一体! 先頭のホブゴブリンを切り裂き、流れるように次に向かってきた奴を睨む。そいつの持っている武器と構えから、攻撃軌道を予想。突き出された突きをすり抜け、剣で胴体を斬る!


 体は大きくても、こいつらは人間が使うような武術を会得しているわけではない。単なる力任せ。単純な攻撃方法しか知らない。型がないというのは、若干面倒ではあるが、そう複雑な読みが必要な戦い方はできないのだ。


「負けるかよ、お前たちに!」


 むしろ、ホブゴブリンを相手にしている間に、ちょっかいを出してくるゴブリンの方が厄介なくらいだ。


『ギギッ』


 ほうら、弓を構えているアーチャーがいやがる。三体目のホブゴブリンを切り、四対目に向かおうとしているところに、矢を撃ち込もうとしている。


「そうそう、上手くは――」


 前進せずに、一歩身を引く。矢は、俺の前を通過していった。


「いかないってよ!」


 四体目のホブゴブリンとの交戦タイミングを遅らせて、奇襲回避。ゴブリンアーチャーを何とかしたいが、遅らせた四体目が突っ込んでくる。棍棒を振り上げるホブの、そのがら空きの胴体を一撃。そしてしゃがむと、左手で落ちている石を掴み、矢を番えるゴブリンアーチャーに投石!


『ギャッ!』


 石だって、当たり所が悪いと死ぬんだぜ。俺は怯んでいるゴブリンアーチャーに肉薄し、ブロードソードで両断した。ホブと違って、真っ二つだ。


 と、五体目と、六体目のホブゴブリンが左右から挟撃してきた。一対複数の怖いところだな。


 こういう時は間合いを操作するものだ。敢えて片方のホブへと突進。もう片方から離れる分、俺への攻撃が数テンポ落ちる。

 突進したほうのホブゴブリンは、慌てて俺をぶっ叩こうとするが――


「遅い!」


 その土手っ腹にブロードソードで切り裂く。そのままホブの後ろに回り込むことで、背後から迫っていた六体目への盾に利用する。倒れる五体目のせいで、六体目はさらに攻撃が遅くなる。

 ホブはこいつで最後だが、周りにはまだゴブリンが数体。


「一対一なら!」


 突っ伏したホブゴブリンの背中を踏み台に、躊躇している六体目へ飛びかかる。渾身の横薙ぎで、首を刈る!


 これでホブは全滅! 少なくとも見える範囲には。

 漁夫の利を狙っていたゴブリンを蹴飛ばす勢いで切り伏せ、少女を運ぶゴブリンに全速力で追いすがる。


「逃がさねえよっ!」

「ギギッ!?」


 ゴブリンの瞳孔に、俺の姿が映る。恐怖に満ちたその表情。だがそうなったのは、人間に手を出そうとするからだぞ!


 ゴブリンが少女を手放した。このままだと殺されると察したのだろう。離したところで、見逃さないけどな!


 顔面にブロードソードを叩き込む。まるでボールのように飛んでいくゴブリン。ホブどもに渾身の一撃を当てていたから、小柄のゴブリンが軽いのなんのって。


 もう一体のゴブリンも慌てて逃げ出す。……遅いな! 少女を置いてくことも含めて、何もかもがな!

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