1-8 悪女独占契約
待ち切れない作者の本日何話目かの投稿です。
「エリィ」
「………はい」
「そろそろ顔上げて」
「……………無理です」
流されるまま、なんと、キ、キキキ、キスをしてしまったが。
うん、困った。
一体どうしたらいいのか。
夜更けの研究室。
抱き合う二人。
大変なシチュエーションに私はもうどうしていいか分からない。
とにかく今、私は大変な事態にやっと気が付き、カチコチに固まっている。
「……嫌だった?」
「っえ!?」
「俺にキスされたくなかった?」
想像以上に悲しそうな声にびっくりする。
そんなわけない。
そんなわけないのだが、なんと言っていいかわからず、とにかく頭をふるふると振る。
沈黙の後、一拍置いて、ルヴァイが私の顔を覗き込もうとした。
無理。恥ずかしすぎる。
必死で顔を伏せて拒否する。
「おい」
「なんでしょう」
「顔上げろ」
「なんでよ」
「もっとキスしたい。可愛い顔が見たい。エリィが俺以外のこと考えられないようにしたい」
「っは!?」
聞き間違いだろうか。
ものすごく甘い言葉が並んでいた気がするんだけど。
私の頭の中、おかしくなったんだろうか。
混乱してきて首を傾げる。
「………夢?」
「は?」
「これ夢かな」
「現実だ」
「じゃあ耳がおかしくなった?」
「…………お前な」
ルヴァイが呆れたように、ハァ、とため息をついた。
そして諦めたように俯いたまま固まっている私の脳天にチュッとキスをした。
甘すぎるその行動に、やっぱり夢なんじゃないかと首を傾げる。
ルヴァイはぼんぽんと私の頭を撫でると、しょうがないなという雰囲気で話題を変えた。
「まぁいいや。で、なんで泣いてたの」
「その……だから……強くなくて……」
「もっと具体的に」
「…………内緒」
「はぁ?言えよ」
「……………………無理」
レミィに、私みたいなのはルヴァイと釣り合わない的なことを言われて泣いてました。
……なんて言えるわけない。
思い返しても女々しいし恥ずかしい。
黒歴史だ。
絶対に言えない。
ふぅとため息が頭上から聞こえた。
なんだろう。
何か、企むようなオーラを感じる。
そんな私を少しあざ笑うかのように、ルヴァイの声がまた頭上から響いた。
「………実は俺、ロッケリーニ酒造の幻のNo99持ってる」
「えぇ!??ほんとに!?」
ま、幻のお酒!!
もちろん飲んだことはない。
ゴクリと喉を鳴らす。
そんな私などお見通しだというような残酷な魔王の声が、また頭上から降ってきた。
「言わなかったら今すぐちょび髭教授とミリアルと飲み干す」
「そ、そんな……!嘘でしょう!?」
死刑宣告だ。
そんな、そんなバカなことがあっていいのか!
「じゃあ言え」
「え、えぇ……!?」
究極の選択にオロオロする。
ちらりと見上げると、ルヴァイが悪い顔でニヤリと笑った。
「10、9、8、7、6」
「ちょ、ちょっとまっ」
「5、4、3、2、1」
「レミィが!!!」
「……レミィが?」
焦って言ってしまった。
でも、先の言葉に詰まる。
「………レイミリアがどうした」
なんだかルヴァイの顔が怖い。
細めた目がギラリと光った気がする。
「……その、レミィが……」
「うん」
「………………ルヴァイの、隣にいるなら……」
「………」
じぃ、と見られる。
ここまで言ったら、言うしかない。
「…………アイドルみたいなルヴァイの隣にいるなら……普通の子じゃなくて、物凄くかわいい完璧な子じゃないと、みんな納得しないって……」
「…………………」
「だから…私がルヴァイの隣にいると、納得されないんだろうなって……」
沈黙。
ルヴァイの顔が見れない。
そして恥ずかしい。
何という女々しさ。
これじゃ私がルヴァイの隣にいたいって言ってるのと同じじゃないか。
急に恥ずかしくなってきて顔が熱くなる。
再びしっかりと俯いて必死で顔を隠す。
「わ、わかってるよ!?くだらないこと悩んでるって。その、いつもなら、これぐらい寝ればすぐ忘れるし……」
沈黙が恐ろしくて焦りつつ次の言葉を探す。
「その……でも、まだ、言われてすぐで……夜だったから……つい弱気に………」
困った。
どうしよう。
「………それで、泣いてたの?」
ルヴァイの静かな声が頭上から響く。
「あ、うん……はい………」
ボソボソと答えると、なんだかルヴァイの身体にぐっと力が入ったように感じた。
「俺の隣にいたらダメかもって、泣いてたの?」
「あの……まぁ……そうだね………」
恥ずかしい。
死ねる。
はっきり確認しないで欲しい。
黒歴史間違いない。
物凄くルヴァイの視線を感じるけど絶対顔を上げられない。
とにかく事態を収集しよう。
焦りつつ次の言葉を探す。
「ええと……っこ、これまで通り、ルヴァイと、仲良くしても、いい、よね……………?」
「…………これまで通り?」
「そ、そう。あ、や、やっぱり、ちょっと離れたほうが良い、かな?」
「…………は?」
急に怒気を含んた声になってビクッとする。
そしてついにぐいっと顔を上に向けられた。
想像以上に色気のある熱い目線が間近にあって呼吸が止まる。
「俺の隣にいたかったから泣いてくれたんでしょ?」
「っは、はい……」
「なんで離れようとする」
「ご迷惑かなと……!」
「んなわけ無いだろ」
吐息がかかる距離でドロリとした表情で見つめられて見動きが取れない。
「エリィ以上に俺の隣にいて欲しい人とかいないから」
するりと唇をなぞられる。
あまりにも大人なその仕草に気が遠くなる。
そして怖い。
やっぱり目が光ってる。
「レイミリアの言うことは一切気にしなくていい。金輪際悩まなくていい。俺の隣にいていいのはエリィだけだ。分かったか」
「っハイ、分かりました……!」
「次そんなことで悩んだら二度とロッケリーニは飲めないと思え」
「ココロニチカイマス!!!」
まさに魔王なその様子に完全服従する。
内容はとても甘い台詞のような気がするのに怖すぎて恥ずかしがる余裕はなかった。
引き続きギラリと目を光らせたルヴァイが、今度はニヤリと笑う。
「……なぁ、エリィは立派な悪女だよな?」
「そ、れはもう……仰る通りの立派な悪女です………」
「エリィは悪女がなんだか分かってるの?」
「っえ……??」
そう言われてみると。
あまり真剣に考えたことは無かったかもしれない。
悪女の定義?
頭をめぐらせて、何となく心に浮かんだ事を言ってみる。
「………妖艶で美しく、強く賢く屈せず堂々としてる人…………」
「いいね、それから?」
「そ、それから?」
「……いい男を自信満々に連れてないとダメだろ」
「っいい、男を……!!?」
ルヴァイはニヤリと笑った。
「キスしたぐらいで照れちゃうエリィも最高に可愛いけど、エリィが悪女だっていうなら、ここはもう俺の唇をガバって奪いに来るぐらいの勢いがないと」
「なっ……!?」
「あれだけ自信満々に悪女悪女だって言ってたのに、出来ないの?」
ワナワナする。
こいつ。
勝ち誇った顔をしている。
信じられない。
やはり弱さを見せるべきではなかった。
「……っもちろん出来るわ!!」
「へぇ。じゃあしてみて」
「っ今!?」
「三日後に致しますっていう慎重な悪女とかいる?おかしいでしょ」
「そ、そうね……も、もちろん今するわよ」
「じゃあ、はい」
ルヴァイはそう言って少し顔を近づけた。
熱を持った視線が絡む。
綺麗な顔。
滑らかな肌。
さらりとした黒髪から覗く、ほんのり光る紅い目。
思ったより綺麗な形の唇。
「………エリィ、息して」
「っはぁ!うん、はい、してるわ」
「…………しないの?」
「す、する!するわよ!」
ルヴァイはほんのり甘く微笑んだ。
「さっきキスの仕方は学んだから、わかるよな?」
「…っえ……?」
「復習だ、エリィ。得意だろ?」
そう。
予習復習。
得意だ。
だから、だから、できるはず。
なんとなくその声に反応して、頭を働かせる。
ルヴァイは、さっきは、どうした?
ルヴァイに視線を絡ませる。
熱を持った、でも、思ったより真剣なルヴァイの眼差しが、私の視線と絡む。
あぁ、そうか。
ルヴァイだって、少し、緊張してる。
ほのかに私を伺うような視線に、何となく、そうなんだなって分かって。
急に愛おしい気持ちが湧き上がってきた。
自分より高い背に届くように、少し背伸びをして。
何も言わず固まったままのルヴァイの唇に、自分の唇を重ねた。
軽く、触れるだけだったけど。
チュッとしたら、ルヴァイの優しさのある温もりに、なんだか満たされた気持ちになって笑ってしまった。
妙にしっくりした、幸せな気持ち。
ルヴァイはそんなふうに笑った私を見て、なんだか瞳を揺らして少し黙った。
「えぇと、ルヴァイ……?」
ルヴァイの顔を覗き込む。
なにかを、ぐっと考えている?
「あの……何か間違っ―――」
ほんの少し、ルヴァイの切羽詰まったような表情が見えたと思ったら、強く抱きしめられていた。
そして急くように私の頭を抱え込むと、今度は熱く深く私に口付けた。
ルヴァイの腕に包まれて、何度も唇が重なって。
ふわふわとした、幸せな気持ちに包まれる。
もっと、ずっと、こうしていたい。
愛おしくて、大好きだって、何か少しふたをしていたような気持ちが溢れ出す。
それから、何だかよくわからないけど、おかえり、という不思議な気持ちになった。
何でだろう。
変なの。
でもなんだか、すごく安心する。
「エリィ」
暫くして少し身体を離したルヴァイが、私のことを覗き込んだ。
甘くて、でも、少し心細そうな、そんな顔。
ルヴァイの手が、優しく私の頬を撫でる。
「エリィのこと、もう俺のにしてもいい?」
「俺の………?」
「うん。俺だけのエリィ」
甘すぎる言葉にびっくりして、思考がフリーズする。
お、俺だけのエリィ!?
ルヴァイはびっくりしている私を見て優しく笑うと、はらりと落ちていた髪の毛を私の耳にかけながら怪しげに目を光らせて笑った。
「エリィの周りに色んな奴がうろちょろしてるから、気が気じゃない」
「え?」
「俺のだから触るなって言いたい」
「え!?!」
「エリィの頭の中俺だけでいっぱいにしたい」
「はぁ!??」
甘すぎる言葉に驚いて目を丸くする私を見て、ルヴァイは壮絶に色気のある顔で笑った。
「まだ俺に独占されたくないって言うんなら、全力で落とすけど、どうする?」
「お、おと!?」
「うん。エリィが俺のこと好きって言ってくれるまで何でもするし何年でも追いかけるから」
「はっ………はぁ!??」
「他の男の事なんてあっという間にエリィの頭の中から追い出してやる」
「ほ、他の男!?誰!?」
「……誰でもない、もう忘れて」
体温が急上昇している気がする。
もはや発熱しているのではないだろうか。
甘い、甘すぎる。
ドロドロだ。
糖尿病になってしまう。
ルヴァイはそんなのお構いなしだというふうに、額をコンっとくっつけて、はぁ、と熱いため息をついた。
「……ずっと待ってたんだ」
「ず、っと……?」
「ずっと好きだったし、今はもっと好きだ」
「……っす、すき!?」
強烈な言葉ばかりを浴びせられてフラリとして実験台に寄りかかる。
ダメだ、もういっぱいいっぱいだ。
甘い言葉に頭がくらくらして、溶けそうだ。
それなのに。
ルヴァイは容赦なく、実験台に寄りかかる私の両脇に手をついて、熱を持って光る紅い目で私を覗き込む。
白衣の衣擦れの音が静かな夜の研究室に響く。
絡む視線が熱くて、でも目が離せなくて、甘く痺れる。
また、何度か優しく唇が重なって、とろけそうになる。
ちゅ、と唇を離したルヴァイは、真剣な目で、私のことを見つめた。
「好きだよ、エリィ。全部、俺のになって」
「お、れの……?」
「うん、俺だけの、恋人。誰にも触らせない」
頬を優しく撫でられる。
とろりと熱を帯びた、でも真っ直ぐな視線が胸を甘く痺れさせる。
「エリィ、返事は?」
吐息のかかる距離で見つめられて、ふわふわして、そのまま口を開いた。
「……っは、い………」
大体拒否なんて出来るわけない。
私はとっくの昔にルヴァイのことが好きなんだから。
私はふわふわして甘く痺れた気持ちのまま、赤くなった顔で、素直にこくりと頷いた。
ルヴァイは本当に嬉しそうに柔らかく笑うと、また私に優しく口付けた。
読んで頂いてありがとうございます。
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※ちなみに色々気になる作者は今夜は糖質ゼロのビールです(-_-)