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若返った老騎士の食道楽~英雄は銀狼と共に自由気ままな旅をする~  作者: おとら@9シリーズ商業化


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迷子

 ……ここは何処じゃ?


 しまった、地図を買えばよかった。


 立ち止まったからか、オルトスが不思議そうに見てくる。


「ウォン?(主人?)」


「いや……迷ったわい」


「ウォン!(だから言ったのだ! さっきの村で休もうって!)」


「す、すまんて」


 ここに来る道中に、小さな村を発見した。

 しかし冒険者ギルドもないところで……オルトスを連れてくことを躊躇してしまった。

 儂が昇格したから従魔を連れてく許可を得たとはいえ、流石に驚くであろう。

 折角アルトとエルのおかげで儂以外の人にも慣れてきたのに、ここで傷ついたら可哀想だと思ったのだ……無論、そんなことを悟られるわけにはいかん。


「ウォン?(どうするのだ?)」


「もう日も暮れてきた。今日は、この辺りで野宿にするかのう。幸い、川も見つけたしな」


「ウォン(わかったのだ)」


「では、準備をするか」


 儂は魔法袋から、ローザ殿に分けてもらったトンガの肉を取り出す。

 ちなみに、今回はバラの骨つき肉を使うことにした。


「オルトス、葉や薪を集めてくれるか?」


「ウォン!(任せるのだ!)」


 その間に、儂は軽く仕込みを行う。

 まずは肉の両面に塩と胡椒を塗りたぐる。

 更に道中の村で手に入れたスパイス類も足していく。


「これで少し置いとくと……スープもいるかのう」


 手頃な岩を見つけたら、そこにまな板と包丁を用意。

 そしたら、森で手に入れたキノコ類や野菜などを軽く切り分ける。

 鍋に魔法袋にある水を入れ、そこに椎茸などを浸しておく。


「ウォン!(持ってきたのだ!)」


「おおっ、早かったな。では、火を起こすか」


 火石にて手早く火をつけ、少し位置をずらして椎茸が入った鍋を置く。

 確か、水から煮るといい出汁が出るとか。


「ウォン!(肉!)」


「ええい、わかっておる。だから大人しく待っとれ」


 じゃれついてくるオルトスを制し、火元の中央にフライパンを置く。

 そこに油を入れ、味が染み込んだバラ肉を焼いていく。

 すぐにスパイスの香りがし、それが食欲を刺激した。


「ククーン……(良い匂い)」


「全く、すっかり人間臭くなりおって。お主は、本来なら生肉を食べるだろうに」


「ウォン(仕方ないのだ。人間が作る料理は旨いのだ)」


「まあ、儂も人のことは言えんか」


 ローザ殿の飯もそうじゃったが、最近の料理は旨い。

 そもそも孤児で騎士生活が長く、そこからは魔王討伐の旅。

 適当に腹に入れることしか、考えていなかった。

 しかし、こうして余裕ができた今……飯の大事さがわかる。


「ウォン(主人も、めちゃくちゃ食べてるのだ)」


「うむ、若返った影響もあるじゃろう……よし、鍋は沸いてきたか」


 沸く前に火口から避け、そこに野菜類を投入する。

 あとは塩ひとつまみと、肉の切れ端を入れたら放置。

 フライパンの方の肉を返すと、良い焼き色が付いていた。

 あとは蓋をして、火口から少し離す。


「ウォン?(まだ?)」


「まだまだじゃよ。旨いものを食べるというのは、大変なことなのだぞ」


「ククーン……(暇なのだ……)」


「仕方のない奴じゃな。ほれ、川遊びでもするか」


「ウォン!(する!)」


 すると、尻尾をブンブン振って嬉しそうにする。

 アルトとエルのおかげか、此奴も子供らしくなったわい。

 結局、儂らはずぶ濡れになるまで遊ぶのだった。


「やれやれ、自国でよかったわい」


「ウォン?(そう言えば、この辺りは暖かいのだ?)」


「うむ、お主がいた北の大地は年を通して寒かったからのう。この辺りは比較的、一年を通して暖かいのだよ」


「ククーン……ウォン!(ふーん……そんなことより肉!)」


「それには同意じゃな」


 上半身裸のまま、焚き火の前に座る。

 そして鍋の方も野菜類が柔らかくなっているのを確認し、フライパンの蓋を開けると……鼻に強烈に旨い香りが入ってきた。


「うおっ!?」


「ワフッ!?(凄いのだ!?)」


「こりゃ、堪らんわい……オルトスよ、食べるぞ」


「ウォン!(うむ!)」


 最早言葉はいらない。

 儂は大きい方の肉をオルトスに渡し、肉の誘惑に耐えてまずはスープを飲む。


「ズズ……ほう」


 思わず、口から息が漏れた。

 冷えた体に、暖かいスープが染み渡る。


「塩のみだが、椎茸の出汁と肉の脂が良い仕事をしているのう」


「ハフハフ……」


 ふと横を見れば、肉に齧り付いているオルトスの姿が……もう我慢できん。

 儂はスープを置き、骨の部分持って豪快に肉にかぶりつく。


「もぐもぐ——くははっ」


 思わず、笑みがこぼれる。

 噛めば噛むほど、肉の旨味が口いっぱいに広がっていく。

 スパイスも良く染み込み、脂っぽさを相殺していた。


「ウォン!(旨いのだ!)」


「ああ、そうじゃな。しかし……」


「ウォン?(主人?)」


「いや、これを食えるのも若返ったからだと思ってな」


 北の大地に食料が少なかったのもあるが、そもそも還暦を迎えていた儂の身体。

 当然、脂っぽいものなど食べられなくなっていた。

 しかし、今は逆に脂っぽいものが食べたい。


「ウォン!(我はもっと食べたい!)」


「うむ、これからはどんどん食べていくぞ」


「ウォン(街の料理も良いけど、こういうのもいいのだ)」


「確かに……よし、定期的にやるとしよう」


 そうして星空の下、二人でひたすら肉に齧り付く。


 それはとても贅沢な時間で、街で食べる食事とは一味違う。


 儂は今後もやると、改めて思う……ただ、迷子には気をつけんと。

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