迷子
……ここは何処じゃ?
しまった、地図を買えばよかった。
立ち止まったからか、オルトスが不思議そうに見てくる。
「ウォン?(主人?)」
「いや……迷ったわい」
「ウォン!(だから言ったのだ! さっきの村で休もうって!)」
「す、すまんて」
ここに来る道中に、小さな村を発見した。
しかし冒険者ギルドもないところで……オルトスを連れてくことを躊躇してしまった。
儂が昇格したから従魔を連れてく許可を得たとはいえ、流石に驚くであろう。
折角アルトとエルのおかげで儂以外の人にも慣れてきたのに、ここで傷ついたら可哀想だと思ったのだ……無論、そんなことを悟られるわけにはいかん。
「ウォン?(どうするのだ?)」
「もう日も暮れてきた。今日は、この辺りで野宿にするかのう。幸い、川も見つけたしな」
「ウォン(わかったのだ)」
「では、準備をするか」
儂は魔法袋から、ローザ殿に分けてもらったトンガの肉を取り出す。
ちなみに、今回はバラの骨つき肉を使うことにした。
「オルトス、葉や薪を集めてくれるか?」
「ウォン!(任せるのだ!)」
その間に、儂は軽く仕込みを行う。
まずは肉の両面に塩と胡椒を塗りたぐる。
更に道中の村で手に入れたスパイス類も足していく。
「これで少し置いとくと……スープもいるかのう」
手頃な岩を見つけたら、そこにまな板と包丁を用意。
そしたら、森で手に入れたキノコ類や野菜などを軽く切り分ける。
鍋に魔法袋にある水を入れ、そこに椎茸などを浸しておく。
「ウォン!(持ってきたのだ!)」
「おおっ、早かったな。では、火を起こすか」
火石にて手早く火をつけ、少し位置をずらして椎茸が入った鍋を置く。
確か、水から煮るといい出汁が出るとか。
「ウォン!(肉!)」
「ええい、わかっておる。だから大人しく待っとれ」
じゃれついてくるオルトスを制し、火元の中央にフライパンを置く。
そこに油を入れ、味が染み込んだバラ肉を焼いていく。
すぐにスパイスの香りがし、それが食欲を刺激した。
「ククーン……(良い匂い)」
「全く、すっかり人間臭くなりおって。お主は、本来なら生肉を食べるだろうに」
「ウォン(仕方ないのだ。人間が作る料理は旨いのだ)」
「まあ、儂も人のことは言えんか」
ローザ殿の飯もそうじゃったが、最近の料理は旨い。
そもそも孤児で騎士生活が長く、そこからは魔王討伐の旅。
適当に腹に入れることしか、考えていなかった。
しかし、こうして余裕ができた今……飯の大事さがわかる。
「ウォン(主人も、めちゃくちゃ食べてるのだ)」
「うむ、若返った影響もあるじゃろう……よし、鍋は沸いてきたか」
沸く前に火口から避け、そこに野菜類を投入する。
あとは塩ひとつまみと、肉の切れ端を入れたら放置。
フライパンの方の肉を返すと、良い焼き色が付いていた。
あとは蓋をして、火口から少し離す。
「ウォン?(まだ?)」
「まだまだじゃよ。旨いものを食べるというのは、大変なことなのだぞ」
「ククーン……(暇なのだ……)」
「仕方のない奴じゃな。ほれ、川遊びでもするか」
「ウォン!(する!)」
すると、尻尾をブンブン振って嬉しそうにする。
アルトとエルのおかげか、此奴も子供らしくなったわい。
結局、儂らはずぶ濡れになるまで遊ぶのだった。
「やれやれ、自国でよかったわい」
「ウォン?(そう言えば、この辺りは暖かいのだ?)」
「うむ、お主がいた北の大地は年を通して寒かったからのう。この辺りは比較的、一年を通して暖かいのだよ」
「ククーン……ウォン!(ふーん……そんなことより肉!)」
「それには同意じゃな」
上半身裸のまま、焚き火の前に座る。
そして鍋の方も野菜類が柔らかくなっているのを確認し、フライパンの蓋を開けると……鼻に強烈に旨い香りが入ってきた。
「うおっ!?」
「ワフッ!?(凄いのだ!?)」
「こりゃ、堪らんわい……オルトスよ、食べるぞ」
「ウォン!(うむ!)」
最早言葉はいらない。
儂は大きい方の肉をオルトスに渡し、肉の誘惑に耐えてまずはスープを飲む。
「ズズ……ほう」
思わず、口から息が漏れた。
冷えた体に、暖かいスープが染み渡る。
「塩のみだが、椎茸の出汁と肉の脂が良い仕事をしているのう」
「ハフハフ……」
ふと横を見れば、肉に齧り付いているオルトスの姿が……もう我慢できん。
儂はスープを置き、骨の部分持って豪快に肉にかぶりつく。
「もぐもぐ——くははっ」
思わず、笑みがこぼれる。
噛めば噛むほど、肉の旨味が口いっぱいに広がっていく。
スパイスも良く染み込み、脂っぽさを相殺していた。
「ウォン!(旨いのだ!)」
「ああ、そうじゃな。しかし……」
「ウォン?(主人?)」
「いや、これを食えるのも若返ったからだと思ってな」
北の大地に食料が少なかったのもあるが、そもそも還暦を迎えていた儂の身体。
当然、脂っぽいものなど食べられなくなっていた。
しかし、今は逆に脂っぽいものが食べたい。
「ウォン!(我はもっと食べたい!)」
「うむ、これからはどんどん食べていくぞ」
「ウォン(街の料理も良いけど、こういうのもいいのだ)」
「確かに……よし、定期的にやるとしよう」
そうして星空の下、二人でひたすら肉に齧り付く。
それはとても贅沢な時間で、街で食べる食事とは一味違う。
儂は今後もやると、改めて思う……ただ、迷子には気をつけんと。




