送り届ける
ひとまずオルトスと別れ、無事に街についたが……。
やはりアルトとエルは衛兵の目を盗み、こっそり出て行ったらしい。
故に母親から捜索願いや、誘拐かと思い人員が動いていた。
当然、その疑いの眼差しは儂に向けられた。
「失礼ですが、貴方は? ここらでは見ない顔ですが……」
「お、お兄さんは悪くないよ!」
「僕達を助けてくれたんだ!」
さて、どうしたものか。
その時、儂の脳裏に浮かぶ……そう言えば、ユリア様から何かもらったことに。
ひとまず、それを魔法袋から出しておく。
「衛兵さんよ、その子達の言う通りじゃ。儂は偶然出会って、ここまで送ってきたに過ぎんよ」
「……何か、身分を証明出来る物はありますか?」
「これでどうじゃろうか?」
簡単には疑いが晴れないと思い、その鷹の紋章を見せる。
よくわからないが、国王陛下が持たせたのだから何かしらの証明にはなるはず。
受け取った三十代後半らしき男は、それを見ると顔色が変わっていく。
「それは……鷹の紋章……王族の紋章!? こ、これを何処で手に入れたので!?」
「何処って……」
「いや、深くは聞かないことにいたします。とにかく、これがあれば身分の保証は問題ありません。むしろ、こちらから歓迎をしなくては……」
どうやら、儂の思った以上の効果があったらしい。
有難い話じゃが、少し困るかのう。
儂としては、目立たずのんびりと過ごしたいのだ。
「いや、それには及ばんよ。儂はお忍びで来ている故に」
「それは失礼いたしました。では、そのように取り計らいましょう。私はこの街の守備隊長を務めているロハンと申します」
「ロハン殿か。儂の名前はシグルドと申す。田舎者故に無作法があれやもしれんが、よろしく頼む」
「し、シグルド殿? かの英雄と同じ名前……そして、王族の刻印が入った紋章を持っている……いや、しかし年齢と姿が」
おっと、いかん。
儂がいうのもおかしな話じゃが、シグルドというのは珍しい名前ではない。
なにせ、儂を元につけた人もいるくらいだ。
しかし、亡き主君から頂いた名前を偽ることはしたくない。
「ねえねえ! 早くお母さんにお薬あげなきゃ!」
「ロハンさん! お兄さん良い人だよ!」
「……そうですね、子供達が無事に帰ってきてるわけですし。何より、詮索をしないと言ったばかりです……シグルド殿、ザイルの街は貴方を歓迎いたします」
「ロハン殿、感謝する」
二人のおかげもあり、儂はどうにか街の中に入ることができた。
門を抜けると大通りがあり、大勢の人々が行き交っている。
そこには人族が中心だが、ちらほらと異種族の者も見受けられる。
人族に友好的なドワーフ族や、時折龍の顔を持つリザード族もいた。
「初めてくる街じゃが、中々に栄えておるのう」
「でも、ほんと最近なんだよ! 魔王ってやつを、英雄シグルド様が倒してくれたから! そのおかげで、人がいっぱいやってきたんだ!」
「お兄さんと同じ名前! その名前って、お兄さんの親がつけたの?」
「ほほっ、そうじゃな。もしかしたら、シグルド卿を元にしたのかもしれん」
儂の名前をつけたのはロイス様なので嘘は言っておらん。
とりあえず、その設定で誤魔化すのが一番か。
そんな中、とある銅像が目に入る。
「これは……」
「英雄シグルドだよ!」
「この間、出来たの!」
「そうか……」
目の前には顎髭や髪を伸ばした、歳のとった老人の銅像がある。
自分にとっては見慣れた顔であり、なんとも不思議な気持ちだ。
それにしても……むず痒いのう。
儂はそそくさと退散し、アルトの案内の元歩き出す。
「そういえば、わんちゃんは良かったの?」
「うん? ……ああ、下手に混乱させるのも悪い。何より、オルトスには窮屈じゃろう」
迷ったが、オルトスは街の外に置いて自由にさせてきた。
王都でもそうだったが、彼奴は本来なら草原の民だ。
人がいるところより、たまには草原を駆け回る方が良いだろう。
「確かにあんな狼がいたら注目されちゃうよなぁ」
「わんちゃん、おっきいもんね」
「ほほっ、あれでもまだまだ子供なのだがな」
そんな会話をしつつ人混みを抜け、路地裏に入る。
そして平屋の建物の前で、二人が立ち止まった。
「ここがうちだよ!」
「おかーさん!」
「儂はここで待ってるから、まずは母親に説明してくるのじゃ」
二人が頷き、玄関に入って扉が閉まり……少しすると、怒鳴り声が聞こえた。
「なにをやってたんだい!」
「ご、ごめんなさい!」
「だ、だってぇ……!」
どうやら、お叱りを受けたらしい。
まあ、これは当然じゃな。
そのまま、儂が待っていると……玄関の扉が開く。
そこには三十代後半らしき、恰幅のいい女将さんがいた。
「貴方がシグルドさんかい?」
「ええ、儂がシグルドです」
「……なんだか、歳下には見えないねぇ」
うむむ、中々に鋭い。
しかし、今更言葉遣いも変えるのはめんどい。
「はは、このような口調なので。そこは流してもらえると助かりますな」
「まあ、二人を助けてくれた恩人だ。私の名前はローザっていうよ。ささっ、入っておくれ」
「うむ、お邪魔させて頂こう」
玄関から中に入り、居間に案内される。
テーブルと座布団があり、そこに座るように促された。
儂は邪魔をしないように、そこに腰を掛ける。
すると、エルが膝の上に乗ってきた。
「えへへ……」
「ん? どうしたのじゃ?」
「なんか、お父さんが家にいるみたい!」
「ふむふむ、そういうことか」
すると、ローザ殿がお茶を持ってやってくる。
立ち上がろうとするが、ローザ殿に手で制された。
「これはこれは……具合が悪いとのことなので、お構いなく」
「大丈夫さ、少し二人が大げさに言ってるだけだから。それより、うちの子がすまなかったねぇ」
「いや、儂は構わんよ」
「そうかい……珍しい若者もいるもんだね。佇まいが老練されてるし、子供の扱いにも慣れてそうだわ」
あのじゃじゃ馬じゃったユリア様と比べれば……ゲフンゲフン。
いかんいかん、口は災いの元というわい……口に出してないから平気じゃろ。
「小さい女子の相手は、良くしていたのでな。そういえば、アルトはどうしたのじゃ? それに薬は?」
「薬なら有り難く頂いたよ。あれは煎じて飲むだけだから。それと、アルトならお使いに行かせた。お茶菓子さえも用意してなくてね」
「そんなに気を使わんで良いのだが……」
「そう言うわけにはいかないよ。というわけで、お茶でも飲んで待ってておくれ。ついでに、話を聞かせてくれるかい?」
「ああ、もちろんじゃ」
儂はいつのまにか膝の上で寝てしまったエルを撫でながら、ローザ殿に二人と出会ったところから説明をする。
「そうかい……よくぞ、無事に生きていてくれたわ。シグルドさん、本当にありがとうございました」
「ローザ殿、頭を上げてくだされ。儂はたまたま助けたに過ぎないのじゃ」
それでも頭を上げないローザ殿の肩に、儂はそっと手を置く。
すると、ようやく顔を上げてくれた。
「ふふ、とんだお人好しがいたもんさね。出来れば、夕飯のご馳走もしたいんだけど……大したものがなくてねぇ。お使いには行かせたけどあんまり元手もなくて」
「それでは、トンガなどは如何かな? 一頭丸ごと持っているのじゃが……」
「それは助かるが、あんたのもんだろう? ご馳走をしたい相手から食材をもらうのは……」
「エルから料理上手だと聞いたので、それを報酬としたい。無論、体調が悪いのであれば無理はせんでくれ」
「そうまで言われちゃ仕方ないね。大丈夫さ、薬を飲んで元気になったから。あれには即効性があるからね。さて……じゃあ、腕によりをかけて作らせてもらうよ。ほら、エルも起きな」
ローザ殿の声によって、エルが反応する。
「……んー」
「儂はまだ寝かせてやっても良いが……」
「それは有り難いけど、この子が自分で料理を手伝うって言ったからね。エル! シグルドさんにお礼をするんじゃなかったのかい!」
「うひゃぁ!? そうだった! 私、頑張る!」
「よし、良い子だね。それじゃ、悪いけど庭に出してくれるかい? どうやら、魔法袋を持ってるみたいだし」
「うむ、わかった」
その後、儂は庭に出て魔法袋からトンガを出す。
二人はすぐに解体作業を始めたので、手伝おうと思ったが断られてしまう。
仕方ないので縁側に座り、夕日を眺めつつ待つことにする。
それはとても気持ち良く、儂は微睡みに身を委ねるのだった。




