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ゾンビはレベルが上がった G  作者: 竹内緋色
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3 ゾンビたちは荒野を目指す

3 ゾンビたちは荒野を目指す


 雪がちらつく中、月明かりの元、地面の雪が、仄かに足元を明るくする。だが、それはゾンビには無用の心遣いだった。ゾンビは夜目が効く。暗黒の中でも昼間のように歩くことができるのだ。その点、逆に明るいものが苦手でもある。

「大分何にもないところを歩いて来たけど」

 ラシアは薄い下着のような衣服なので、はた目から見れば寒く思える。だが、ゾンビは基本的に温度を感じることができない。腐敗の度合いを熱さで感知はするが。

「もうすぐ町が見えるはずだ」

 矮人たちはラテの案内だけを頼りに荒野を移動していた。矮人は村から出たことがなかったし、ラシアは町から出たことがなかったのだ。この中で物事をよく知るのはラテのみだった。

「なんでも知っとるよなぁ。あんた、一体何歳なん」

「うぐっ。ゾンビに歳など関係あるか」

「もしかして百年くらい生きとるとか?」

「そんなわけあるか!」

 鋭い目つきでラテは傍らのラシアを睨む。その姿を矮人は仲が良いなと思いながら、自分が蚊帳の外にいることができてほっとしていた。

「お前たちの目にももうすぐ町が見えるだろう」

「そこにワイトがいるのか?」

「はた目から見ると分からないな。夜深いということもあって、町に一つも明かりがない。すでに滅んでいるか、よっぽど規則正しいかなのだろう」

 すでに滅んでいる、と簡単に言ってのけるラテに矮人はぞっとする。矮人は自分がそのような世界へと足を突っ込んでいることを再認識した。すでに死んでいる身であるのに生きているのは奇跡なのだ。だから、いつまた死んでもおかしくはない。死んでいるのだから、今度は完全なる消滅だろう。

「ウチの人間になるって願いも忘れんといてな」

「ふん。ガキのような願いだな」

「なんやて?」

「まあまあ、パフ」

 矮人はラシアとラテの仲裁に入るが、今度は仲裁に入った矮人がラシアに睨まれる。

「あんたもこの女子の言うことばっか聞いて変な語尾にしよって。男のプライドとかないん?」

「ほぉう。独占欲というやつか」

「ああん?」

 ラテとラシアは矮人が知るうちでは毎日一回は暴力沙汰ぎりぎりの喧嘩を行っていた。矮人はそのことに慣れつつあったが、どうして二人がこれほどまでに喧嘩をするのかよく分かっていない。二人が暴力沙汰ギリギリまで喧嘩をするときはいつも決まって、矮人に関わる問題なのであるが。

「あんたのことなぁ、まえまえからずぅっと嫌いやったんや。なんやねん、その人をバカにした態度。人の夢をバカにするんは最低やで。あんたは夢なんてないんやろ?」

「夢をゾンビが見るなど滑稽だろうが。人に戻りたい?そんなことが本当にできると思っているのか?夢を見るのは腐って死体になってからにしろ」

「やんのか?」

「ふん」

 ラテは袋から長銃を取り出す。ラシアは背中に掲げていた箒を毛の方をラテに向けて構える。

「止めるパフ。二人とも」

 矮人は必死で二人を止めようとするものの、間抜けな語尾ゆえに今一説得力に欠けた。

「今戦ったって消耗するだけパフ。頭を冷やすパフ」

 矮人は自分が二人を簡単に制圧できるほどの力があればいいと思った。矮人の村では、子どもたちの喧嘩を止めさせるのはいつも力のあるものだったからである。

「!?」

 そんな折、矮人は何かを感じて、意識を現実から遠ざける。それは矮人にとって初めての感覚だった。

(見られている……?)

「どうかしたのか?」

「ラテ。この近くに誰かいないパフか?見られている気がするパフ」

「なんや?戦わんのかいな」

「ちょっと黙ってろ。おしゃべり女」

 ラテは鷹の目を使い、辺りを見渡す。どこにもおかしなものはない、と思った矢先、目指していた町の城門の前に何者かがいることを発見した。荷物のない馬車と、そのそばに佇むもの。そのものはじっとラテたちを見つめているように見える。だが、ラテは偶然だと思った。ラテの能力はとても珍しいものであるし、ゾンビでもないものがこの漆黒の中、ラテたちを補足できるはずがないのである。

「町の前に何者かがいるが、10キロも先の話だ。私たちが見えるはずがない」

「そうか」

 矮人は冴えない顔をしてラテに答える。矮人は危険を察知したというわけではないことを矮人自身がよく分かっていた。ただ、先ほどからずっと見られているような気がして不快なのであった。その眼差しは矮人たちに敵意を向けるものではなく、だだ、観察するというようなものだった。ゆえにより不快に感じるのであった。

「とりあえず、陽が上る前には町へとついておきたいな。城門の前に人がいるということはまだ何者かが住んでいるということだ。外で待ちぼうけということは、昼間出ないと中に入れてくれぬのだろう。できるだけ近づいておきたい」

「逃げるんか、この意気地なし」

「ガキか。置いて行くぞ」

 ラテは呆れた風に言って町の方へと歩みを進めるが、先ほどまで喧嘩をしていたのは誰だったのでしょう、と矮人は困った顔をする。

「ラシア。行くパフよ」

「ふん」

 またしばらく板挟みだと思うと、矮人は頭が痛くなってきた。


「あの……すいませんパフ」

 話しかけるのはお前の仕事だろうという目で女性二人に見られてしまったので、矮人は仕方なく城門の前の人影に話しかけた。

「うおっ!」

 男の声は驚いたような声を上げる。

「すいませんね。驚いてしまって。あまり目が良くないものですから、気がつかなかったです」

 男は雪の降り積もったフードを下ろす。そこから現れたのは老人の顔であった。まだ初老と言った感じなのかもしれないが、どことなくかび臭さを感じさせる。

「旅人の方のようですね」

「矮人と言いますパフ」

「ラテ」

「ラシアです」

「ほう。どうも可愛らしいお嬢さんがたのようですな。でも、たった三人でどうしてこんなところへ。道中魔物などに襲われはしなかったのですか」

「一団で行動しとったんやけど、魔物の群れに襲われて、バラバラになってしもて。この町に保護してもらおうとおもとったんです」

 よくもこうすらすらと嘘が出てくるものだとラテと矮人は感心する。

「なるほど。それは災難でした。しかし、夜中はやはり入れないようですね。小さな町というのもありますが、この辺りは民間伝承とやらの言い伝えが守られていますから、よそ者には厳しそうです」

「あなたは商人ですパフ?」

「ああ!申し遅れました」

 矮人は男の姿をまじまじと見た。古臭いローブを被り、ローブから見え隠れする衣服は田舎のものだったが、白髪交じりの髭や頭はしっかりと切りそろえてあり、どうもちぐはぐな印象を受ける。

「私は『先生』と呼ばれています。商人の集団で年配だからなのでしょうか。そこは私にはなんとも言えないのです。ただ、ずっとそう呼ばれておりましたし、家の名などの高名なものを持ってはいないので、特定の名前などないのです。ある時期は「お前」としか呼ばれなかったですよ」

「先生、ですパフ?先生はどちらからいらっしゃったんですパフ?」

「北の方です。空白地帯などと呼ばれているところですが、どうも今年は気候がおかしいようで、ずっと先だと思われていた砂嵐が私の移動中に起きてしまって、命からがら、空白地帯に一番近いここにたどり着きました。お蔭で荷物は全て捨てる羽目になりましたが」

「北には抜けられるのですパフ?」

「今の時期は難しいでしょう。冬が終わるまでは、砂嵐は止みません。特大のものとなると、体を簡単に吹き飛ばしてしまいますから、気を付けてください。今、北に向かわれるのでしたら、東の森から北に渡る方がいいと思いますよ」

「なるほどパフ」

 商人の話す内容はとても役に立つと矮人は感心した。この辺りの事情にも詳しそうだった。

「ちなみに、俺たちはこの町のことを知らないパフが教えてくれるとありがたいパフ」

「確かに規模や行政から見ると、ここは町と呼ぶべきでしょう。でも、どちらかというと一つの町に近いと私は思います。ここは聖圏側の侵略の要の都市ではありますが、どこの支配も実は受けていないのです。中に入ってみれば、詳細はよくわかるでしょう。荒野の町はどこもそのような感じです。支配者がいないゆえに、村のように独立して運営をしている」

「なるほど。参考になったパフ」

 矮人が先生に礼を言おうとした時、ラテは長銃を先生に突き付けていた。

「何をするパフ」

 矮人は怒りを込めた視線をラテに送る。折角の恩人に何をするのか、と。

「私たちは訳あって、昼間は自由に活動できない。だから、その荷車に私たちを乗せて、中へと進め。そして、日陰もしくは屋内へと導け」

 ラテのしていることは強迫だった。故に先生は怯えていると矮人は思ったが、そうではなかった。

「ええ。いいですよ」

 先生は笑顔で言って、突きつけられている銃口を手で覆う。

「このような恐ろしい手段を使わなくても、美しいお嬢さん方のためならなんでもします」

 ラテは驚いたように目を大きく開け、銃を自らの体に引き寄せて、先生から振り払う。矮人たちは先生の大胆さに警戒しつつも、申し出を受けるほかになかった。



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