2 ゾンビはレベルが上がった Lv4→5
2 ゾンビはレベルが上がった Lv4→5
矮人とラテ、ラシアの三人は北へと進んでいた。
ヤルダバオトを北に抜けるとそこは荒野が続く。荒野の夜は地面が凍るほどに寒かったが、ゾンビである彼女らには関係がない事であった。
「早くレベルアップしないとまずいパフ。」
先日、矮人は世界最強の魔物の一匹、スライムと戦い負傷したのだった。なんとか逃げおおせたものの体に穴が空き、それをラシアの修復によって塞いだ。しかし、ゲージの減少は著しく、後二日以内にレベルアップをしなければならなかった。
矮人たちはゾンビである。ゾンビとは、人が死んだのち、何らかの要因によって再び生を得る現象のことを言う。彼らは再び生を得たのであるが、その代償として、腐敗というリスクを負うこととなった。腐敗とはゾンビの死であり、ダメージを受けたり、日光に当たったりすると、頭部のゲージが減少していく。そのゲージがゼロとなった時、ゾンビは腐敗する。すなわち死ぬ。それを防ぐためにはレベルアップをする必要があった。ゾンビは傷を縫い合わせてレベルアップすると体が元に戻り、ゲージも回復する。また、レベルアップするたびにゲージの絶対量も増え、身体能力も向上する。
「だが、荒野。」
「何を格好いいこと言ってるんだパフ。」
矮人はラテに言う。ラテは少しゲージが減少しているものの、レベルは11であり、まだ十分動けるのであった。
「魔物は何にもおらんなぁ。」
ラシアが茶化すように言う。そのラシアも先日のシ骸やワイトとの戦いでレベルアップし、ゲージにはまだ余裕があるのだった。
「く。どいつもこいつもパフ。」
レベルアップをするためには経験値を得なければならない。だが、明確な数字はなく、漠然と大体このくらいだろうと目安をつけてやるほかにない。経験値は敵を倒すことで得られ、より強い相手であればより多くの経験値を得られる。より強い相手とは、同じゾンビか魔物、もしくは人間、動物であった。
「ラテ。獲物を見つけてくれないパフか?」
「仕方がないな。」
長い赤髪を後ろで一つにまとめだゾンビ、ラテは溜息を吐いて自身の能力を使用する。ゾンビには固有の能力が備わっている時がある。ラテの能力は遠くのものを見ることができる能力、『鷹の目』であった。
「すぐそこにトコヤミモグラがいる。」
「どこパフ。」
矮人は腰に下げている剣、月下美人を引き抜く。欠け始めた月であれど、その刀身の美しさは損なわれることはない。何かを殺し続けた剣は、その刀身に油をこべりつかせ、その油に月明かりが程よく照らされる。その姿は月下美人と名付けるにふさわしいものだった。
トコヤミモグラとは、夜に活動する魔物である。魔物の多くは夜間に活動していたので、基本的にゾンビが戦う相手は魔物となった。
矮人は耳を澄ませる。耳を澄ませるが耳が良いわけではないので、どこに魔物がいるのか分かりはしない。
「後ろだ。」
ラテの声に矮人は振り向きざま刃を振るう。だが、そこには大きな穴が空いているだけで魔物の姿はない。
「右やで。」
矮人は右に向かって刃を振るう。今度はちらと魔物の姿を確認できたので仕留めることができたかに思えた。だが、刃は虚しく空を裂く。
「くそっ。なんなんパフ、こいつらはパフ。」
矮人の呼吸は荒くなる。生命活動を終えているゾンビは呼吸などしなくともよいが、ゾンビとは生前の習慣に引きずられる性質があり、呼吸もどきもその一つであった。
矮人のゲージは徐々に減っていく。運動により体内の熱が上がると腐敗が早まるのであった。矮人は能力を使おうという考えが頭の中に過った。だが、矮人の能力は諸刃の剣であった。身体能力を飛躍的に上昇させるがゆえに、体内の温度が急上昇し、腐敗ゲージが一気に少なくなってしまう。レベル4である矮人が何度も使ってもよい能力ではなかった。
「本当に一匹なのパフ……」
ゾンビに身体的疲労はない。だが、精神的疲労は存在する。ゾンビになった直後、そのゾンビは現実が受け入れられず精神的疲労のため急速に眠たくなる。普段のゾンビは不眠不休である。矮人は疲労を感じていた。それは一向に倒せる気配のない魔物を相手にしているが故である。
「このくらいならばお前のレベルでも倒せるだろう。」
「相手が悪すぎるパフ!」
魔物は完全に矮人をおちょくっているようだった。不気味な赤い瞳で穴から矮人の姿を見つめている。
「ちなみに三匹いるぞ。」
「おかしいと思ったパフ!」
だが、矮人は一匹限りの魔物と三匹いる魔物、どちらが倒しやすいか考えた。
どちらにせよ、トコヤミモグラは相手にすべき敵ではないと悟る。
「次行こうパフ。」
矮人は月下美人を収め、自分の周りの穴の開いた個所を乗り越える。
「そろそろ夜が明ける。寝床の準備をせねばならん。」
「あれ、大分負担なんパフ。明日までに仕留めないとまずいパフ。」
矮人が腐敗しかけであることをラテとラシアは気にしていないようだった。自分よりもレベルの高いゾンビが自分と行動を共にしてくれているだけありがたいと矮人は思うことにした。
生憎、トコヤミモグラのおかげで寝床の作成には苦労しなかった。矮人はこれを計算してラテはトコヤミモグラと戦わせたのではないかと疑った。
ゾンビたちは穴の中に潜り込む。日中をその中で過ごすのだ。本来ならば、土を上にかぶせて完全に光を防ぐのがベストだが、生き埋めというか死に埋め、つまり土の中で動けなくなる可能性も高く、また、今が冬場ということもありあまり光も強くなく、日中の温度も低いため、穴の上にぼろ布を何枚か被せて、それでその日はしのぐことにした。
ゾンビは眠れない。それ故に色々なことを考える。矮人は自分がゾンビになってから今までに起きてきたことを思い出していた。自殺した後、老人に出会った。そして、生きるためには誰かを殺さなければならないという運命を知らされた。次にラテと出会った。ラテがピンチになった時、死んでいるけれど死に物狂いで敵を倒した。ラシアと出会った。ラシアは勤めていた酒場の常連を皆殺しにするほどクレージーな奴だけど、人間に戻りたいという大きな夢を持っていた。そして、数々の出会いと別れがあった。今、矮人たちはラテの使命であるワイトと呼ばれるゾンビを探すことを目的としているのか、ラシアの望みである人間に戻る方法を探しているのか。どっちつかずの旅であった。矮人には特に望みなどなかったが、二人とともに旅をすることに意味を見出そうとしていた。
夜が明け、そして、また夜が訪れた。
「はぁ。穴の中はキツイなぁ」
ラシアが大きく伸びをする。ラシアが動くたび、胸の双丘は大きく揺れる。
「ちっ」
「なんで舌打ちすんの」
舌打ちしたラテにラシアは尋ねるが答えは返ってこない。
「でも、本当にこの子のレベルを上げんとなぁ。ずっと狩りはしてきたから、もうすぐあがるんやろうけど」
「とっておきの獲物がいる」
ラテの発言は今一信用できないのだが、自身を腐敗させるようなことは決してさせないと矮人は信じている。
「ほら。あれだ」
ラテは銃で獲物を指し示す。
それは荒野の中、まるで城のように大きな体をくねらせている。
「サンドワームじゃねえパフ」
荒野もしくは砂漠など乾いた土地に住む特大の魔物であった。時おり行商人の荷車を襲う。最近は数を減らしているらしいが、荒野を進むといずれ出くわす敵ではあった。
また、その巨大な様子から、神の住む領域を守っているとさえ言われる。だが、神などもう存在しない。
「やつは体内にあるコアを潰さない限り復活する」
ラテは長銃を二丁取り出し、それぞれ片手に持つ。それはラテが本気を出しているということだった。本当は最大十丁を同時に操るのだが、矮人はまだそのことを知らない。
「ラテは相手の足止め、私は敵の注意を惹きつける。矮人はコアを見つけ出し破壊しろ」
「了解パフ」
「がってん!」
ラテとラシアが先行する。ラシアは箒を使いサンドワームを殴る。サンドワームの注意がラシアに向いた途端、ラテが銃でサンドワームの注意を惹きつける。
「どこがコアパフ?」
観察しても見つかりそうもなかった。そうなると、もう一つの手段しかない。
「ラシアパフ!」
矮人の言葉にラシアは頷く。矮人はラシアに向かって走って行く。それと同時に腰から月下美人を引き抜く。艶めかしい光が魂を狩らんと煌めき始める。矮人はラシアのもとにたどり着くと、ラシアを蹴り飛ばそうとする。そのタイミングでラシアは矮人の足の裏を箒で殴りつける。
矮人の体が宙に舞う。その姿が月と重なり、幻想的な風景が描き出される。そして、矮人は月下美人を天高く掲げる。そのまま目前のサンドワームの頭部らしき場所に向かって剣を振り下ろした。すぱり、と軽い感触がする。サンドワームの体はそのほとんどが砂であり、コアを破壊しない限り復活してしまう。だから、矮人はこの攻撃が失敗であると悟った。そんなとき、月下美人を通して、硬い感触が響いた。
「いっけぇえええええ!」
すぽり、と硬い感触は消え去る。それとともに、サンドワームの体を構成していた砂は風に向かれて霧散していった。
矮人は大地に着地する。足がおかしな方向へとねじ曲がっていた。
テレレレッテレー。
矮人の脳内にレベルアップを知らせる音が響く。足のケガはなかったかのように消え去っていた。腐敗ゲージももとに戻る。
「敵が強ければ強いほど効果を発揮するというのはどうなのか……」
「とりあえず行けるところまで行こか。狭い穴一つで夜を過ごすんは嫌やしな。せめて屋根があるところに行きたいわ」
ラテの呆れ声をかき消すようにラシアは言って、先へと進む。
自分の心配をしてくれるような仲ではないか、と肩をすくめて矮人も足を前に出し、進み始めた。
これから東の大陸をゾンビたちはめぐっていくわけですが、とりあえず、東の大陸がどのような感じなのか大雑把に説明します。
まず、黒、緑、茶色、灰色の色鉛筆を用意してください。そして、白い紙に大きく黒で円を描きましょう。円の外は海ですので、青で塗りつぶすもよし。次に、円の内側上部と右側部を緑で塗りつぶしてください。円の中央を広く残すように書くのがポイントです。緑の部分は森エリアで、特に東の方は不帰の森などと呼ばれています。
次に円の内側下部から左側部までを灰色で。そこは人が住んでいる開拓エリアで、主に南都の勢力圏となります。そして、残りの円の中央を茶色く塗りつぶしてください。茶色いところは荒野です。
赤鉛筆などを持っていらしたら、荒野を三分割するように横に線を引いてみてください。赤い線の間は空白地帯。つまり、どこの勢力圏でもない場所です。そして、砂嵐がひどく、砂嵐が収まる時期も決まっていたりします。最後に不帰の森と荒野の境目に赤い線を引いてみてください。北までは伸びません。それは山脈を意味します。結構険しく、不帰の森などがあることもあって、南都は北都を攻め切れていないという状況になっています。
私が絵が描けないのでこんな大雑把な説明になってしまいましたが、その大雑把な地図に都市などを書き足してあなただけの地図を完成させてください。また、『勇者の荷物持ち』と地形は共通していますので、そちらの都市も書き足すと面白いでしょう。前作の都市はまず、ヤルダバオトは不帰の森と都市エリア、つまり、緑と灰色の境目辺りに書いておいてください。矮人の住んでいた村は森の中、ヤルダバオトの近くに。とりあえず、今はここまで。長々と失礼しました。
現状精神的余裕がないのでどこまで書き進められるかはわかりませんが、お付き合いをよろしくお願いいたします。




