人材発掘
四ヶ月後――
孤児院。
いや。
もう孤児院ではなかった。
畑。
牛舎。
鶏舎。
職業訓練校。
学習棟三棟。
そして。
孤児達の笑い声。
あの日。
人身売買組織から救い出された子供達は。
少しずつ。
前を向き始めていた。
「シキー!!」
元気な声が響く。
少年が嫌そうな顔をした。
「勝手に名前呼ぶな」
だが。
本気で嫌がっているわけではない。
四ヶ月。
毎日のように現れる変な女に。
少しだけ慣れてしまった。
「今日は裏山へ行きます!」
ミレイユが胸を張る。
「山葡萄です!」
「ジャムを作ります!」
「嫌な予感しかしねぇ」
シキが呟く。
隣では。
レオンが額を押さえていた。
「ミレイユ様」
「はい」
「熊の目撃情報があります」
「そのためのあなたです」
即答だった。
レオンは空を見上げた。
今日も苦労しそうだった。
「今日は説教する奴いねぇのか?」
シキが聞く。
ミレイユが笑った。
実に嬉しそうに。
「ルシアン様ですか?」
「今日は牛舎です」
「人手不足ですので」
その瞬間。
ミレイユの笑顔が三割増しになった。
シキが察する。
「あぁ」
「今日は監視いねぇんだな」
「最高です」
即答だった。
レオンが深いため息を吐く。
⸻
裏山。
木漏れ日。
鳥の声。
山葡萄の蔓。
シキは慣れた様子で進む。
すると。
後ろから。
ざりっ。
葉を踏む音。
「待て!」
シキが叫んだ。
レオンの足が止まる。
「踏むな」
指差した先。
小さな草。
「毒消し草だ」
「あとそっち」
「葉が尖ってるやつ」
「熱冷ましになる」
ミレイユが固まる。
ぱちぱちと瞬きをした。
「どうして知っているのですか?」
「別に」
「よくありません」
即答だった。
「どうしてです?」
「なんでそんな必死なんだよ」
シキが顔をしかめる。
そして。
少しだけ目を逸らした。
「……じいちゃんが薬師だった」
風が吹く。
森が揺れる。
「小さい頃、
色々教わっただけだ」
ぶっきらぼうだった。
だが。
その声は少しだけ優しかった。
ミレイユは黙る。
そして。
突然。
シキの両手を掴んだ。
「素晴らしいです!!」
「うおっ!?」
シキが飛び上がる。
「離せ!!」
顔が真っ赤だった。
ミレイユは離さない。
絶対に離さない。
「薬師を目指しましょう!」
「はぁ!?」
「才能です!」
「将来有望です!」
「意味分かんねぇよ!!」
ミレイユは目を輝かせる。
完全に獲物を見つけた顔だった。
「勉強しましょう!」
「先生も探します!」
「いや聞けよ!!」
シキが叫ぶ。
レオンが天を仰いだ。
また始まった。
この王女は。
畑だけでは飽き足らず。
人材まで発掘し始めたらしい。
そして。
ミレイユは満面の笑みで言った。
「大丈夫です」
「わたくし」
「人を見る目には自信がありますから」
シキは知らない。
この笑顔の意味を。
目を付けられた時点で。
もう逃げられないことを。




