46,―――――
長めですよー!
俺は、やはり慢心していたのだろう。
あるいは、驕っていた。絶望の森という死地から脱却した後、平穏な土地には俺に勝てるものなどいない、と。そんな下らない妄想に取り憑かれ、醜い我だけが肥大した。
そしてそれは、結果へと繋がり行くのだ。
***
「そういえば、最近ガルムたちを見ないな」
ギア特性の玉ねぎ(っぽいなにか)スープを飲んでいる中、ふとそんなことを思った。
独り言だったのだが、たまたま近くを通ったミーナが聞きつけ、律儀な答えをくれた。
「なんか、ベルさんがアジトを潰しに出かけたすぐ後に、領主様に呼ばれてたよ!」
「――そうなのか」
何かがあったらしい。まぁガルムたちもAランク冒険者だ。余程のことがない限り、また豪快に笑いながら帰ってくることだろう。
「ってあ!忘れるところだった!ベルさん、領主様が呼んでた!」
「あぶな」
背を向けて料理を運びに行ったかに見えたミーナが、大きな声を出してこっちを振り向く。
その拍子に飛んできた何かのフライを、空中でフォークで刺しながら。
何があったのだろう、と。やたらめったらデカい、領主館に思いを巡らせるのだった。
***
ギルドに着くと、すぐにそのまま奥の執務室へ通される。
「ああ、ベル」
「わざわざ呼ぶなんて珍しいな。何の用だ?」
執務室で何かの資料に目を通していたらしきギルマスだが、俺が部屋に入ったのに気づくと目をあげてそう言った。
「まあ、少し話をな」
「?」
何故か歯切れの悪いギルマスに、少し疑問がわいたが、とりあえず話に付き合うことにする。
「そうだ、ベル。最近、色々とやらかしてるらしいな」
「……なんの話だ?」
突然ギルマスがそう切り出した。
「最近お前、色々な依頼を受けていただろ?」
「ああ、そうだな。……Bランクにはならんぞ」
「違う違う」
いつものBランク催促かと思ってそう告げたが、どうやら今回は違ったらしい。
かといって、他に話題も思いつかない。
最近、特に何かやらかしたこともなかったはずだ。
「……はぁ、俺には腹芸は無理だな。単刀直入に行くか」
心当たりがなく、考え込んでいた俺に、ギルマスの諦めたような声が降った。
なんだかわからないが、ギルマスはここまで腹芸をしていたらしい。
「っと、その前に。ベル、防音を頼めるか?」
「……了解」
真剣な顔になったギルマスが、手に持っていた資料を机に置くと、そう頼んできたので、部屋全体を結界で囲って空気の振動を抑え、この部屋を即興の防音室へと変えた。
「助かる。……で、だ。何の話かっていうとな」
張り詰めた表情で、背筋を伸ばしたギルマスが、次の言葉を紡いだ。
「領主様について、言わないといけないことがある」
***
「……領主?」
「ああ。……順を追って話すぞ」
そういってギルマスは、先ほどまで見ていた資料を、再び手に取ってから先を続けた。
「始まりは、お前と領主様の娘の邂逅だ」
「……あれか」
領主とのつながりが、まずアリアと出会ったことだったからな。
「ベル。お前、領主様の娘と、何処で会った?」
「ん?……貧民街。なるほど、おかしいな」
「そうだろ。明らかに、領主の娘が行くようなところじゃない」
そういえば、あの時はそこまで疑問にも思わなかった。
何か事情があるんだろうと、それぐらいだ。
だが、冷静に考えてみれば、どんな事情があっても、領主の娘という立場の人を、よりにもよって貧民街という治安の悪い場所に一人で居させるなど、正気の沙汰ではない。
「そして、二つ目。領主様の、妻の話だ」
「……それも何かあるのか」
「ああ。おかしいと思わないか?辺境とはいえ、絶望の森付近という重大な土地を任される領主だぞ?魔力拒絶症の薬なんぞ、簡単に手に入るはずだ」
「……だが、ブルーフェニックスの聖火の粉なんて、簡単に手に入るものか?」
思わず口をはさんでしまった。
だが、仕方のないことだろう。ブルーフェニックスは、俺が命を懸けてようやく倒した、因縁の相手だ。
そう簡単に材料が手に入るとは思えない。
「――――ハァ!?ブルーフェニックスだと!?」
だが、ギルマスの反応は、一切の予想を裏切るものだった。
「……なんだ?」
「なんだ、じゃねぇんだよ!お前、ブルーフェニックスの聖火の粉なんてもん持ってたのか!?」
「そうだが」
「いったいどうやって……。いや、それはいい。なんで、今その話が出てきた?」
質問の意図が理解できず、思わず聞き返す。
「……は?いや、薬の話だろ?」
「……魔力拒絶症の薬に、ブルーフェニックスの聖火の粉なんて、一切関係しないぞ?」
今度こそ、絶句した。
「――――――――。いや、鑑定で調べたものだ。間違えるはずが……」
「ベル。お前、鑑定を万能かなにかと勘違いしてないか?」
「?」
「鑑定なんて、いくらでもごまかす方法はあるぞ。それに、表示を乗っ取ったり、偽造したりすることだって出来なくはない。逆に、なんでそんなに鑑定を信頼してるのか疑問なんだが」
青天の霹靂というのだろうか。
今まで、無条件に鑑定をチートスキルとして扱ってきていた。
だが、よく考えれば、初めて冒険者ギルドに来た時も、鑑定が通らず、警告が表示されたはずだ。
俺は、いつの間にかラノベとこの世界を混同していたのかもしれない。
「おそらく、そういった類の魔道具でも使ったのだろう。領主様自身にそういった力はないはずだからな」
「……そう、なのか」
「そうなってくると、さらに事態は悪いかもしれん……」
「どういうことだ?」
難しい顔をするギルマスに、事情が呑み込めずに質問するが、答えは返ってこない。
「最後にまとめて説明する。――――三つ目だ。ベルが少し前に灰鼠という組織をつぶしたのは覚えているか?」
「ああ」
「あの組織に、ガルム相当の実力を持った大太刀使いがいたんだよな?それも、組織員でもない奴が」
「……そうだな」
「はっきりと異常だろう?流石に証拠はつかめなかったが、これも領主が絡んでいると俺は睨んでいる。それに、アジトには書類が残っていたらしいが、普通はそんな首謀者がはっきりと分かる書類など残さん。たしかに、契約書を交わすことはよくあるが、まず間違いなく暗号化する。安全な貴族の方にしか解き方が書かれていないような暗号で、契約をするものだ。今回に限って何故、メディチ家に都合の良い書類だけが、暗号化もされていない状態で見つかったんだろうな」
信じられなかった。
俺の中で、物腰の穏やかで、理知的であった領主のイメージが崩れていく。
「……だが、何故?」
「時間稼ぎだと思っている。お前の探索可能範囲は、はっきり言って異常もいいところだからな。出来るだけ、意識を向けさせたくなかったんだろう」
「何にだ?」
「もう少しで説明するから待ってろ。四つ目、最後だ。……<宿り木亭>の女将を治せる医者が、急に来れるようになったらしいな」
「…………ああ」
もはや、絞り出すような声しか出なかった。
そうして並べ立てられて初めてわかる、異常さ。
まるで物語かのようにご都合主義な展開の数々。そしてそれを疑うこともしなかった自分。
愚か。
「もう説明はいらないな?じゃあ、最後に」
俺が話に集中できたのは、そこまでだった。
「ッ?お、おい、どうした」
ギルマスが何事か言いかけた瞬間。突然、物凄い悪寒に襲われた俺は、導かれるようにある方向を見た。
勿論、そこには天井があるだけだ。
俺はギルマスを無視して立ち上がり、俺が飛び出るのに遅れてギルマスも執務室を飛び出る。
ギルドは、いつも通りの喧騒に包まれてた。
だが、はっきりと感じられるようになってきた気配は、そんな日常を壊す異物だった。
ギルドの中を突っ切り、外へと飛び出す。
此処からは見えないはずの絶望の森。
その方向上空から、飛来する一つの青い炎。
「なっ……まさか」
「ブルーフェニックス……!」
俺の後ろに続いていたギルマスにも、それが見えたのだろう、驚きの声をあげる。
否、炎ではない。
青い炎を身にまとう、不死の鳥。
何故。あいつは、確実に仕留めた筈……。
だが、見覚えのあるその姿は、急速に街へと近づいてくる。
視認し始めたのだろう、町の人々が騒ぎ始める。
「くそっ……早すぎる……緊急依頼を出さねば!おい、ベル――――」
ギルマスが俺の名前を呼んでいたが、俺は別のことに気を取られ、気づいてすらいなかった。
「ガルム……!?」
――――気配察知に、ガルムの弱弱しい気配の反応があった。
ガルムの気配、今――――どこから現れた?
俺の気配察知の範囲内、一切の前兆なくぽつんと現れたガルムの気配。
何が、何があった?
猛烈に嫌な予感がする。<直感>が、俺を外へと駆りだした。気配を消し、疾走。
ギルマスがなにか言っていたが、今はそれを聞いている余裕がない。
ブルーフェニックスの気配を感知したのか、騒がしくなってきた街を飛ばし、急いで門外へ。
門を止まらず走り抜ける。アウトだが、緊急事態なので許してほしい。
――――ッ!
「また、か……!」
突然魔物の気配が現れた。
そう、明らかに居なかったところから現れた。
何故だ?俺の気配察知の範囲に外側から接触したなら分かる。だがちがう。こいつらは、中に突然現れた。まるで、瞬間移動でもしているかのように。
――――帰還石。
ふと、ダンジョンのときの言葉を思い出す。緊急脱出用のワープ機能。まさか。
というか、待て。
こいつ――――――絶望の森に居た魔物だ。
そのあとも続々と魔物が現れる。脳内の疑似マップが、敵を表す赤い点で埋まっていく。
――――ッ見えた。
「ガルム!大丈夫か!?」
「――――ベル、か……!たの、む。ギルマスに、スタンピードだ、つた―――――――」
ボロボロの状態で必死に声を絞り出すガルムは――――左腕と、両足がなかった。
――――その周りに踊る、数体のフェミンキーを見て、俺は状況を理解した。せざるを得なかった。
「………………………………」
俺の中の何かが、切れた音がした。
もはや、言う言葉などなかった。無言のうちに俺が放った闇魔法が、現れてきた魔物の急所を打ち抜く。その様を見ないまま、俺は抜いた剣で次々に現れる魔物を片っ端から切り捨てる。
――どこだ?どこから湧いてきている?
にらみつけるように周囲を睥睨する。
探せば一目瞭然。如何にも怪しい、紫色に揺らめく光を見つけた。
――そこか。
無銘の剣を振れば、キィィン――と甲高い音をたて、ポータルらしきそれは掻き消えた。
同時に、その周囲に現れていた魔物が途切れる。つまり、正解だ。
戦闘は1秒にも満たなかっただろう。
魔物を全て切り捨てると、俺は死体には目もくれずガルムに駆け寄った。
「ガルム!」
返事はない。
血が止まらない。
影の中から何となく買っておいたポーションを取り出し、ガルムに振りかける。
効果は、無い。ポーションで回復できる限度を大幅に超えている。
光魔法は、使えない…………!
「クソが!」
見る見るうちにガルムの気配が弱まっていく。
目の前で人が死のうとしているのに、俺は何もできないと、そう現実が残酷に告げる。
溢れそうな衝動を、荒れ狂う衝動を必死に押さえる。
――光魔法さえ使えれば……ッ!
ステータスボードの、灰色になった《光魔法》を睨みつける。
藁にも縋る思いで、情報を求めた。
「《鑑定》ッ!」
情報は、表示されない。
無情にも、何ら変化を見せることはなく、只々鎮座する。
《鑑定》
それでも、行使する。
祈り続ける。
《鑑定》
信じてもなかった、好きでもない神に、それでも縋り続ける。
《鑑定》《鑑定》《鑑定》《鑑定》《鑑定》《鑑定》《鑑定》《鑑定》《鑑定》――――――!
「ッ」
目の奥に鈍痛が走る。ぽたぽたと、血が地面に落ちる。
だが、とらえた。
一瞬、ステータスボードがブレたのを、俺は見逃さなかった。
見せろ。
お前が奥に隠しているソレを―――――――――――――――!
《鑑定》。
ぐちゅり、と。
俺の両目が、つぶれる音がやけに明瞭に響いた。遅れてやってくる、激痛。限界を超えてスキルを行使する、その代償。
だが。
見えた。
ほんの一瞬。
黒いボードが現れたのが。
?????????????????????????
《***の寵愛》
*************************。
効: 戦闘スキルの効果を500%上昇。
回復魔法の効果が他者に効かなくなる。
?????????????????????????
「―――――はっ」
思わず、息が漏れた。
回復魔法の効果が他者に効かなくなる。そんな、絶望的な情報が、俺の網膜に焼き付くのと同時に。
ガルムの気配が―――――命が、絶えた。
***
ガルムゥゥゥウゥゥウ!
ということで突然のシリアス!一体話はどこへ向かっているのか?それは私にもわかりません!!
※2021/10/22 大幅な修正を入れました。ぜひ再読いただければ。




