42,領主様の依頼②
***
「以前、娘が攫われそうになった時があっただろう?」
「……ええ」
「あれを尋問したところ、やっぱりというか、別の貴族の指図だったことが分かったんだ」
「……狙われる心当たりでも?」
「貴族だからね。逆にありすぎて困ってるぐらいだ」
やれやれと肩をわざとらしくすくめて見せるジェームズ。
アートは先ほどから静かに座っているだけだ。
貴族の女性というのは、そういうものなのだろうか。
「で、だ。君に頼みたいのは、組織の情報を持ち帰ることだ」
「組織?」
「そう。今回の誘拐に手を貸した組織がいるんだ。捕まえた奴らはそれの下っ端というか、トカゲのしっぽ切り用」
「……なんで俺なんです」
「事情を知っていて、しかも実力もあるとギルマスから聞いたよ。こんなに丁度いい人材はいないだろう?勿論、報酬は弾むよ」
「――――。組織のアジトはもうわかっているのですか?」
「おっ、乗り気だね。うん、わかってるよ。ただ、人数が多くてね。情報もなしに一気に殲滅するのは難しそうだから、先に隠密で情報を集められないかと。どうやら君は、隠密の能力に特に秀でているようだし、丁度いいんじゃないかい?」
前向きな姿勢に気をよくしたのか、顔を明るくして説明を続けるジェームズ。
「……ギルマスの前で気配を消したことはなかったはずなんですが、その情報は何処から?」
「まぁ、僕にも伝手はあるってことさ」
のらりくらりと躱される。段々慣れてきた。
「はぁ……分かりました。受けますよ」
「そうこなくっちゃ」
満面の笑みを浮かべると、ずずいっと顔を近づけてくる。
「じゃあ、詳細を教えようか」
***
どうやら、組織の名前は【灰鼠】という、王都の方で有名な犯罪組織らしい。
それ内に大きい組織のようで、騎士たちの怨敵なんだとか。
ちなみに、騎士というのは、地球で言うところの警察だ。
王家に忠誠を誓い、戦争時には兵士として、普段は治安を維持すべく活動しながら非常時に備えて体を鍛えている人々のことを、騎士団と呼ぶのだ。
騎士になるのは、かなりハードルが高い。
厳しい試験を、実技とペーパーテスト共にクリアしたもののみが為れるというその難易度と、それに見合うだけの給料の良さから、騎士は多くの子供たちの憧れとなっている。
閑話休題。
その組織のアジトの一つが、ギャザールにあるらしい。
そのアジトに、誘拐を命じた貴族の証拠となるようなものが無いか探る、また、制圧の作戦に使うためアジトの内部の情報を持ち帰るのが、今回の俺の仕事の様だ。
隠密には自信があるし、貴族に貸しも作れる。受けて悪いことはないだろう。
***
「分かった」
「頼むよ」
最後に、短い言葉を交わし、俺は宿へ帰ることにした。
アジトに侵入するのは、明日の仕事だ。
今日はゆっくり休むとしよう。
……と、思っていたのだが。
宿でのんびり魔法の練習をしていると、ふと酒場から気になる話が聞こえてきた。
「……今度、またお忍びで王女様が来訪なさる運びとなった」
「…………狙い目はその時か」
……明らかに、よからぬことを企んでいるよな、これ。
その後、声の持ち主たちは一言二言交わすと、直ぐに別れ、酒場を離れた。
「……追うか」
腰かけていた椅子から立ち上がり、気配を消して酒場へと向かう。
軽く走り、直ぐに男のうちの一人の元に着いた。
普通、という言葉がしっくりくるような服装の男は、貧民街の方向を目指して真っすぐに向かっていった。
その行先に、俺は妙な既視感があった。
気配を消して尾行を続けると、随分と中心部から離れたのち、やがて男は一つの襤褸小屋にたどり着いた。あたりは閑散としており、常に暗い空気が漂うような、社会の闇の部分。
凡そ真っ当な人間ならば近づかないような場所だった。
辺りを少し見渡した後、自然な動作で小屋へと入っていった男を見送り、俺はため息をついた。
これは、運命のいたずらか、はたまた神の遊びか。
ジェームズに教えられた、【灰鼠】のアジト。
男が向かっているのは、まさにそこだったのだ。
気配を追っていたもう一人の男は、また別の小屋へと入っていった。
念のため、そちらの小屋もマークしておく。
もしかしたら、別の組織のアジトになっているかもしれない。
俺は
明日、ギルマスに王女様の来訪とやらについて聞いてみるとしよう。
***
「――おお、きたな」
「すまん、遅れたか?」
「いや、むしろ早いぐらいだ、心配するな」
次の日俺がギルドに行くと、既にギルマスとベラルツが待っていた。
「……ベラルツは何故だ?」
「ベルさんとは別件ですよ。どうやらこの街に、他にも組織がいるようだとの報告を受けまして、一応Aランクである私がそちらに呼ばれたというわけです」
「――ああ、そのことなんだが……」
どうやらギルドももう一つの組織について嗅ぎつけていたらしいので、俺はその場で昨日の酒場の話をギルマスとベラルツに話した。
「――――ということで、もし王女様がこの街に来るのであれば、襲撃される危険性が高い」
「……成程な。ったく、面倒なことを……。情報提供感謝するぞ」
「これは少し不味いですね。【灰鼠】だけでもかなりの大きさの組織なのに、他にも組織が絡んでいる可能性が高まったわけですから」
「……確約は出来ないが、【灰鼠】の規模によっては、そのまま殲滅してくるか?」
顔を曇らせる二人に俺がそう告げると、ギルマスが若干顔をひきつらせた。
「【灰鼠】は一応Aランク相当の奴が数人いるんだぞ?この街に居るかは分からんが」
「……まあ、なんというか。Aランクの奴の前で言うのもどうかと思うが、ガルム達ぐらいの強さなら負けることはないと思うぞ。……まあ、本気を見たわけじゃないから、言い切ることは出来ないけどな」
「……言ってくれますね」
苦笑気味にベラルツがそう言うが、特に反論はしてこなかった。
ギルマスは、少し考え込んだ後、一つうなずくと言った。
「そうだな。作戦変更だ。情報を集めることを最優先したのち、もしベルがいけると思ったら、そのまま【灰鼠】の戦力を減らしてきてくれ。自分の命を優先しろよ」
「ああ、勿論」
「それでは、僕もそろそろ行ってきますね」
「二人とも気をつけてな」
そうして、俺らはギルドを出て、各々の担当場所へと向かうのだった。
***
明日は投稿をお休みします(`・ω・́)ゝビシッ!
後、言い忘れていたかもしれないのでここで言っておきますが、私は伏線がとても苦手です!
基本出来ません!
なので、こっそりとあとから前話に伏線が追加されていることがあります!
ご了承を……ご了承をお願いします!!!
伏線とは何ぞや?という質問は受付を終了いたしました。




