41,領主様の依頼
「――ということがあった。直ぐにギルドで通知を出してくれ」
「成程な……」
ギルドに帰ってきた俺らは、真っすぐギルドに向かうと、ギルマスと、そこに待機していたベラルツに状況を説明した。
――ガルムが。
「一応既にアカディア洞窟のダンジョン化は報告を受けて、立ち入り禁止の指令を出しているが……指令を出しなおした方が良さそうだな。ガルム、難易度はどう思う?」
「……Bランク。最低でもBランクだな。ボスだけで言うなら、間違いなくAランクだ」
真剣な顔で内容を詰めていく二人。
そこいら辺については、俺が手を貸せることはないだろう。
最終的にまとまったものを、ギルマスがギルドに通知を出し、アカディア洞窟は正式にB級ダンジョンとして扱われることとなった。
……初めてのダンジョンが、あんなものになるとはな。
後、ガルムがあの後苦い顔で謝ってきたのが印象的だった。
「まさかあんなにダンジョンが既に成長しているとは思わなかった。罠が無かったが奇跡としか言えないほどのものだったのに、俺は甘く見て、お前を危険な目に合わせてしまった。済まなかったな」
気にしなくていいと告げたものの、ああいうところでしっかりと謝る彼に、少し何故か安心した。
そして、彼らとなら上手くやっていける。そんな確信も。
***
「おいベル、今回の実績的に十分Bランク冒険者になれるぞ。試験を受けろ」
「拒否する」
「………………とか言って?」
「断る」
「――――かーらーの―――?」
「だが断る!」
「……クソッ、ここまでの難敵とは……。今まで経験してきた中でも群を抜いてやがる……」
「…………なんだこの茶番」
***
「え?」
ギルマスの言葉に思わず訊き返す。
それは、適当な討伐依頼をこなしてギルドにやってきたときだった。
唐突にギルマスに呼び出され、奥の部屋に案内された後の第一声がびっくりするものだった。
「領主様が、お前を呼んでいるんだ」
「……なんでまた」
「さてな。指名依頼だ、中々ないぞ。……それにしても、いつの間に領主様と知り合ったんだ?」
「あぁ……まあ、ちょっとあってな」
適当にはぐらかす。
指名依頼か……。
「ってちょっとまて、指名依頼はBランクからじゃないのか」
「――チッ、気付いたか……冗談だから殺気は止めような?」
惜しかった、みたいな顔をするギルマスにちょっと殺意が沸いただけなんです。
「本来はそうなんだけどなぁ……お前さんがBランク冒険者になろうとしないのが悪いんだぞ」
「やだよ面倒くさい」
そう、本来なら俺はもうBランク冒険者になるだけの実績は重ねてきているらしいのだ。
だが、Bランク冒険者になるための試験として、護衛依頼を受けていないといけないという制限がある。
これは、魔物討伐しかやっていない俺にとっては無縁の話となる。
別に、護衛依頼を受ければいい話なのだが、そこで冒険者の義務という話が出る。
Cランク冒険者までは、街の存亡が脅かされるような事態に対して対処する『緊急要請』ぐらいしか義務がないのに対し、Bランク冒険者からは、「指名依頼」という義務が追加されるのだ。
内容は名前の通り、指名されて受ける依頼。
指名依頼は基本断れない上に、指名依頼を出すのは大体が裕福な人、つまり貴族なわけで。
権力を笠に着た横暴貴族に指名依頼をされると、特にそう言った輩が嫌いな奴にとっては、最悪なわけだ。
更に言えばこちとら権力も何もない平民。権力を盾に何かを言われると従うしかなくなる。
(まあ、ベル君がそんな貴族に唯々諾々と従うとは思えないけれど……。い、いや、何でもないですなんでもないからベル君こっち向かないで来ないで怖い怖い怖い!)
一応、依頼内容はギルドの方で許可を通したものなので、そこまで無茶ぶりな依頼がないのが救いか。
で、俺はそんな義務が嫌でCランク冒険者のままでいるわけなのだが……。
「領主権限でな……」
「公私混同すぎるだろうが」
「本来は貴族の権威なんて冒険者ギルドには効かないんだがな、この街は領主様とギルドの距離が近い。ちょっと、断り切れなくて……」
「お前のせいか!」
元凶が、巨体をすぼめながら申し訳なさそうに言う。
人のよさそうなギルマスのことだ、押し切られたな。
「はぁ……まあいいか。俺も、領主に恩を売れると思えば」
「そうしてくれると助かる」
「で、依頼内容は?」
「害虫駆除、だそうだ」
***
「やあ、また会ったね」
「貴方が呼び出したんでしょうに……」
おどけた風に告げるジェームスに、何となく疲れが沸いてきてため息を零すと、ジェームズは隣に立つアートと笑った。
「おっと。ため息をすると幸運が逃げると言われているんだよ?そんな辛気臭い顔をしてないで、もっと楽しく生きようよ」
「誰のせいだと思っているんでしょうかね」
「うーん。生憎と全く分からないね。魔物じゃないのかい?」
何処までも飄々としている彼に、これ以上嫌味を言う気にもなれず、俺は本題に入ることにする。
「で、公私混同してまで俺を呼んだのは、何故ですか?」
「まぁまぁ。取りあえず座ってよ」
朗らかに笑うと、彼はそういって席を勧める。
お俺が大人しく座ると、ジェームズは表情を改めた。
「さて、今回の依頼なんだけど……娘のことなんだ」
面倒事の、予感がした。




