40,ボス戦③
エルを抱えて跳び、何とかエレメンタルロックの転がりを避ける。
「あ、ありがと……」
「ああ」
流石に見えないほどの速度ではなかったが、あれが後衛組に当たったら危険だし、避けれるかも微妙だろう。
俺は決意を決め、ガルムに声を掛けた。
「ガルム、後衛を守ってやってくれ」
俺の声色から何かを察したのか、ガルムが俺に尋ねてきた。
「ああ、勿論だ。……ベルはどうするんだ」
「――――今からすることは口外禁止で頼む」
ひとつ、警告してから空間魔法を使う。
確かに、出来れば隠しておきたかった札ではあるが、命に代えるほどではない。
出し惜しみをして誰かが死んだら、後悔してもしきれない。
「何をする気――――」
「――――――シッ!」
どうせなので、鍛錬でやっていたことを使う。
力強く踏み込み、一瞬にして未だ転がり続けるエレメンタルロックに近づくと、勢いをそのままに右袈裟斬り裂空&越空。
剣は、一切の音無く振り下ろされる。
単純なように見えて、実はかなり難しいこの技。
力をそのまま剣に乗せるのが、意外と難しいのだ。
「――――なっ!」
俺は、剣を振り下ろした体勢のまま残心。
勢いそのままに真っすぐ転がり続けたエレメンタルロックは、壁を駆け上がり――――。
ドォォォォォオオオオオン!
轟音と共に、地面に降った。
綺麗に二つに割れて。
「ラー!」
「ッ!分かったわ!」
直ぐに何をするべきか察してくれたようで、ラーは火魔法をエレメンタルロックの断面にぶつける。
大きな爆発とともに、くっつこうと藻掻いていた二つの塊を内側から吹き飛ばした。
――良かった。
剣のみで斬った時、二つの面から互いにくっついていくように動いているのが見えた。
ならば、二つを一撃で完璧に分てば、くっつくまでに猶予が出来るのではないか、と。
そう考え、剣より明らかに大きいエレメンタルロックを一撃のもとに切り伏せるために、越空を使ったというわけだ。越空は剣の長さに依存しないから、エレメンタルロックを両断できる長さに調節することが出来るからな。
ただ、越空で斬る範囲を伸ばすと、それに応じて斬撃の鋭さは失われてしまうようなのだ。
なので、それをカバーするために、裂空も使う。
マジでこの二つ相性いいな。
とにかく、浅い推理だったが、うまく決まってくれてよかった。
「おいベル、今のはどうやったんだ!?」
完全にエレメンタルロックが死んでいることをアナウンスから確認すると、俺は軽く息を吐いた。
と同時に、ガルムが詰め寄ってくる。
「……空間魔法だ。他人には言うなよ」
そんなことはしないだろうが、一応釘をさしておく。
「――空間魔法って言った!?ねえ、ベル君空間魔法使えるの!?」
驚いたように目を丸くするガルムが声を発するより前に、物凄い剣幕のラーが迫ってきた。
「空間魔法って滅茶苦茶使うの難しくて、殆ど使える人がいない魔法よ!?なんでそんな簡単そうに使ってるの!?」
「といってもな……図書館にあった本を読んで覚えたとしか」
「超希少な空間魔法使い……まさか生きているうちに空間魔法を見ることが出来るとは思わなかったわ……」
「私もです!まさかベルさん、空間魔法まで使えるなんて……!」
「てかおい、そんな難しいもんを、本で読んだだけで覚えたっつったか?」
「……止めておきなよ、詮索はタブー」
興奮気味に迫るラー、メネ、ガルムの三人に若干気圧されていると、見かねたのかエルが声を上げた。
「あ、ああ。そうだったな、すまん。つい興奮した」
「いやまあ、別に構わないんだが」
「それにしても、空間魔法を本で読んだだけで使える、か……天才ってやっぱり、居るのね」
「そんなこと言ったら、【神の堕とし子】の方が天才でしょ」
「あー……でも、なんと言うのかしら、あれは異常、の方がしっくりこない?」
神の堕とし子の話が、ここでも出た。
どうせなので、ガルム達にも訊いてみよう。
「神の堕とし子について、どう思う?」
「どうって……まあそうだな、ラーの言うとおり、異常、か」
「本来人に許される領域を超越した能力を持つので、教会の見解としては、神が来るべき災害の為の……いわば防波堤として地上に天使を落としているのだと言われています」
「教会はそういう理屈好きよねー」
「ラー、宗教関係の悪口はしない方が良い」
饒舌になったメネを、揶揄うような口調になったラー。
それに、冷静な、ともすれば冷たい口調でエルが苦言を呈する。
それについては俺も同意見だ。
「【三賢者】だっけか、あれは?」
「質問の意図が分からんが……まあ、あの機関のお陰で国がはっちゃけずに済んでいるんだ、有難いと思うぞ」
「そうね。あれ以上の抑止力はないでしょうね……」
「世界の調停を図るその姿、まさに天使ではないか、と教会では教えられていますね……」
「……」
若干苦笑い気味にメネが教会の見解を伝える。
エルが冷たい目をしているが、正直俺も同じ思いだ。
エル、気が合うな。
まあどうやら、【三賢者】は世界平和を守っているらしい。
今後関わる機会があるかは分からないが、悪い奴らじゃないことを願おう。
相当強いらしいしな。
「……さて、このダンジョンに話を戻すぞ」
真剣な顔に戻ったガルムが、そう話を切り出した。
「はっきり言って、このダンジョンは異常だ。こんな浅い階層で出るはずのない魔物がうようよしている」
「それは、ダンジョン化する前と比べてと言うことか?」
「ああ、そうだな。ダンジョンの中で言うなら、確かにこれくらいの難易度のものもある。だが……元となった洞窟のレベルに対して、難易度が上がり過ぎなんだ。本来は、基となったものに比例して難易度が変化するはずだからな」
「成程……」
ダンジョンにも、法則があるんだな。
「早くギルドに報告して、低レベルの奴らが此処に迷い込まないようにするぞ。知らずに入ったら、あっさりと死ぬぐらいにはこのダンジョンはキツイ」
「……そこまでか?」
「ベル君とガルムが可笑しいだけで、普通はあの硬さの魔物を一発で殺るのは無理なのよ?」
「そうですよ!」
「……普通は、硬さに手間取っている間に囲まれてフルボッコにされる」
成程。
Aランクの彼らがこれぐらいなら、俺は戦闘力で言うと結構上位勢に入るのかもしれない。
少なくとも、ガルムと戦っても俺が勝つだろうしな。
パーティで来られるとどうなるか分からないが。
集団の力というのは森で嫌と言う程味わってきたからなぁ……。
「まあいい、早く帰るぞ」
そんなガルムの鶴の一声で、俺らは帰路を急ぐのだった。
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