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28,黒無形流剣術開祖

この世界の人間は朝が早い。

日が昇るのと同時に起き、日が沈むと寝る。


最近の朝の日課。

俺は街外にある小さな野原で、剣を握った。

剣道など習ったことがないので、自我流である。

そうだな、黒無形流剣術とでも名付けようか。


剣を振ること。

これは、最早ルーティンになっていて、定型化してきているので、そろそろ名前でも付けようか。

そもそも「型」は、練習として必要な動きを全て取り入れて凝縮した、いわば知恵の結晶なのだから、俺が実戦で使ってきた技を纏めて「型」として練習することは無意味ではないはずだ。



取りあえず、型をつくり、それをこなした後に実戦形式で臨機応変に戦う、といった一連の流れが、最近の毎朝の動きだ。


息をゆっくり、深く吸い、目を閉じる。

目を開け、息を鋭く吐き出すのと同時に動き始める。


「ッ……!」


気合の声を僅かに漏らしながら、左袈裟斬りから剣を上げつつ踏み込み、腰を入れて首を狙った片手一文字斬り。

その勢いを殺さないように仮想敵にタックルをかまし、再び、今度は逆からの片手一文字斬り。


その後左手を開け、右手で片手突きをして敵を突き放しながら、左手で魔法を放つイメージをする。

実戦ではないし、今は剣術の練習なので魔法は放たない。

多重思考が出来るので、二刀流とかでもいいかもしれない。刀じゃないけど。



剣の重みに振り回されないように、常に正中線を意識して。

剣の先の重みを特に強く意識しながら、真向斬り、左逆袈裟斬り等を次々と流れるように放つ。

時には体術を交えて剣の隙を減らすことを意識し、集中を高めていく。


やはり、距離というものが大事で、近いと剣を振り回しにくいうえに威力も減衰し、隙も大きくなる。

かといって遠すぎてはこちらの攻撃が通じぬまま相手の魔法に撃たれるのみ。


丁度よい距離感というものを常に考えながら、時には柄で相手の胸のあたりを突き放し無理矢理に距離を取りながら、段々と動きを激しくしていく。


その後も何度も切り結んだあと、仮想敵の首を刎ねて朝の訓練は終わりになる。

最後にひとつを残して。


「……ふぅ」


剣を下ろし、自然体になる。

そして、目を閉じ、意識を集中させる。地面に擦れる、剣先に。


――――見通せ、聴け、感じろ。

自然の一部に溶け込むかのように。意識を、全方向に向ける。

目を閉じながらも、周りの景色を、見通せるほどに深く、集中する。


一瞬の静寂の後。


「――――シィッ……!」


短く、裂帛の声を放つ。

身体のありとあらゆる部分を螺旋する発条に見立て、完全に掌握する。


地面を蹴り、足の底から爆発的な力を生み出し、脚、胴を捩じりながら力を増幅していく。


イメージは、螺旋。力を完全に制御し、更に加速させる螺旋的動作。


それでいて、絶対に姿勢は崩さない。どんな姿勢であろうとも、剣に、力に振り回されることはしない。

腕、手首で余すところなく膨大なエネルギーを剣に伝え、剣の先まで一瞬のうちに力で満たす。

だが、手首は柔らかに、最大限生み出した力が相手に捩じ込まれるように。


ただ力を強くするのではなく、螺旋的に身体を捻り利用することで、発条の様に爆発的な力を生み出し、その力を最大限剣まで伝え利用する技。


ステータスボードに表示されるものをシステムと呼称するなら、さしずめこれは。


システム外スキル。

純然たる、技術である。


会心の手ごたえで空気を鋭く裂いたその剣は、振りぬいた位置で完璧に静止した。

一切の余波は生まれない。空気抵抗が発生するような振り方は、していない。


身体を、数秒停止させる。

のち、残身を意識しながら、力を抜いた。


「……おっし」


良い手ごたえだった。

さあ、帰って汗を流そう。

嬉しいことに存在してくれていた、風呂が俺を待っている。


***


「あ、ベルさんお帰りなさい!また鍛錬ですか?」

「ああ」

「凄いですね!あ、お風呂の用意はできてますよ!」


帰ってきた俺を目ざとく見つけたミーナが挨拶をしてくる。

もう日課なので向こうも慣れたものだ。


「有り難う」

「いえいえ!お金も貰ってますからね!」


感謝の気持ちを込めて、ついでにリハビリも込めて微笑む。というのは、長年森で暮らしていて、表情筋を動かすことが少なかったせいで、どうにも表情を変えるのが難しいのだ。意識しないと動かない。


そんな俺の微笑みを見て、ミーナがパタパタと風呂の方に走り去っていってしまった。

少し頬が赤いのが見えたが、熱でもあるのだろうか。


風呂は、本来は夕方にしかない。だが、俺はミーナと交渉したのだ。

お金はそれなりにかかるが、水は自分で生み出せるし、そこまでお金にも困ってないので、俺は毎朝風呂を使わせて貰えるように交渉した。


有難い限りだ。

俺はそんなことを思いつつ、湯を張りに向かった。


***


服を脱ぎ、湯に入る。

大衆用なので、それなりに広い。


お湯を出すのは俺なので、自分好みの温度に設定できるのは有難い。

日本人的には熱めが好きなのだが、この世界の一般的にはそこまで熱いのは嫌らしく、もっと温度が低い。朝風呂だけの贅沢だ。


「はぁ~…………」


そろそろ服装がなぁ。

色々と冒険者を見て、やはり俺の服装が少し特殊なのがわかった。といっても全身真っ黒なのが珍しいわけではなく、単純に全部布製なのが珍しいのだ。


基本皆金属の当てがついていて、全身真っ黒の布ずくめな俺は少し浮いている気がする。


一応黒ずくめといっても、ところどころに青いラインは入っているんだけどな。

芸術センスのない俺には、ゲームで見たことのあるような服を再現するので精いっぱいだった。


今は、もうなんか周りがみんな中二病みたいな格好しているので恥ずかしさが消えてきて、黒いロングコートを着てみたりしている。一応、留め具に金属らしきものをつけている。


まあ実際は魔法で金属を生み出すことはできないので、魔力をこめて硬くした布を金属らしい見た目にして使っている。

まあ実際その方が格好良いしな。


このコートは、飾りではない。

勿論影支援で最大限のバフがかかっているので下手な金属よりは固い。それでいて肌触りは柔らかいのだから、これほどいいものはないだろう。自分の身を守るものだ、自重はしていない。


更にこのコート自体に隠密効果がついていて、スキルを使わずとも身に着けているだけで隠れやすくなるという代物。……そのせいでか、なんだか影が薄い気がするのは気にしない。



他には、気配を消すとき、視線が通っているときと通っていないときでは隠密の効果に差があることが分かったという理由もある。


まあ、見えないところで隠れるより、目の前で隠れる方が隠れにくいのは当然なのだが、気配を消す前にこのマントに隠れることで、相手の視線を切ることが出来るのだ。相手の視線を切ることが出来れば、隠密効果はぐっと上がる。


人間相手ならそこまで今のところ心配する必要はないかもしれないが。


要は隠密効果の増幅ってことだな。

特に動きにくいわけでもないので、これからは格好がデフォルトで行くのかもしれない。


ロングコートをたなびかせながら闇の中敵を切り裂いていく戦闘スタイル。

……格好いいだろ?別に中二病じゃないからな?




もうちょっと黒以外があってもいいと思うので、そこいら辺は本職のデザイナーに相談したいところだが。今のところ他の色はところどころに走る青い線しかない。


そんなことを考えながら、風呂を上がる。

さあ、今日は何をしようか。

すみません、明日の投稿はお休みさせていただきます。


明後日はまた投稿する予定ですので、お待ちいただければ幸いです……!


では、また次回でお会いしましょう!

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