15,街<ギャザール>
ストックが……!!!!!!
ぐふっ(吐血)
バタッ
「見つけた……!」
走り続けて3日。
遂に、遠くに街が見えた。
森の木ほどではないが、高く聳え立つ城壁。
かなりおかしくなっている視力が、入口に並ぶ人々をとらえた。
門番に何かを渡してから入っていく人や、何かを見せて街に入っていく人。
その営みを見るだけで、頬が緩んだ。
「あ゛」
しまった。
金も身分証も持ってない。
どうしようか。
取りあえず、もう犯罪者扱いでも何でもいいから、人と会話がしたい。
デメテル?あいつは人じゃない。ノーカンだ。
走るのをやめ、歩く。
走っていると、恐らく攻撃される。
何せ速度がおかしいからな。
身なりをチェック。
髪は剣で適当に斬っていたから、そこまで伸びてはない。
黒髪だったはずが、何故か髪の毛先の方が、やや青くなっているのは気になるが、まあ誤差だ誤差。
服は、相変わらず自分で作った魔装だ。
黒い籠手に、黒いブーツに、黒いパンツに……。
……不審者?い、いやまあ、元の世界の常識とここの常識が同じとは限らない。
別に全身真っ黒で口許まで布で覆っていても、不審者じゃないかもしれない。
そう信じる。
とうとう列の最後尾までやってきた。
感動のあまり、前の人に話しかける―――――――――――。
「なあ」
「はい?」
……話すことがなかった。
やべえ、人と会話できることが嬉しすぎて、何もないのに話しかけてしまった。
ちょっと今泣きそう。
ああ、目の前の商人っぽい人が困った顔してる。
「……この街の名前は、何て言うんだ?」
「おや、知らずにここまで来たのですか。……此処は、<ギャザール>と呼ばれています。絶望の森が近いので、出てくる魔物も強く、腕に自信のある冒険者が多く来る街ですね」
何とか捻り出した質問に、親切に教えてくれる。
だが、今聞き捨てならない言葉が出てきた。
「……絶望の森?」
「……まさか、絶望の森も知らないのですか?どれだけ田舎に住んでいるんですか……?絶望の森は、あり得ないほど高レベルの魔物が群生している、危険度SSSに認定されている絶対に入ってはいけない場所として有名ですよ。流石に、これは一般教養だと思うんですが……」
「一般教養すらなくてすまんな」
「ああいえ、そういうわけでは……」
何処かいぶかしむような口調になったのをはぐらかす。
……俺、そんなところで生きてきたのか。
「ところで、貴方は商人か?」
「はい、そうですね。一応、ラムサール商会に属しております、オラルと申します。どうぞよしなに」
来た。
恐らく大きい商会なのだろう。商会名を告げるとき、少し自慢げに見えた。
だが、それよりも大事なことがあった。
「実は俺は今、金がないんだ。身分証明書もなくてな。取りあえず街に入るために、最低限の金が欲しい。少し取引をできないか?」
「身分証明書すらないのですか……」
「何せ田舎なもんでな」
「そういう問題でしょうかね……?まあいいです。取引には、もの次第で応じる、としか言えませんが」
取りあえずいきなり拒否、ということはなさそうだ。
これなら、いけるか?
これからすることは、少し危険かもしれない。
だが、この人のよさそうな商人と、自分の《直感》を信じよう。
「取引内容は、他言無用で頼めるか」
「勿論です。依頼者の情報を漏らすことは、商人にとってタブーですから」
「分かった、その言葉を信じよう」
「ですが、商品は―――――?」
オラルの声が途切れた。目を見開いている。
俺が、影からスマトートの死体の余りを取り出したからだろう。
やはり、影魔法の収納は珍しいのだろう。良い情報を得た。
「今、何処からそれを……?いや、詮索はしない方がいいですかね」
「ああ、そうしてくれ。で、これはいくらで売れる?」
「見せてもらっても?――――これは……スマトートですよね。綺麗な切断面です……。これだけ綺麗な切断面であれば、かなり高く売れますよ。もともとスマトートもかなりランクが高いモンスターですし」
「……いくらぐらいになる?」
取りあえず、門番に金を払えるぐらい、あとはテンプレで行くなら冒険者ギルドのようなところで身分証明書を作ってもらう分のお金が必要だろうか。
「そうですね……。此処まで質がいいものは久しぶりに見ました。血抜きも完璧、皮に傷なし……牙がないのは少し残念ですね。あと解体がされていないので少し値段は下がりますが……百万ゼンといったところでしょうか?」
「ふむ……」
如何にも理解している様に頷いたが、それがどれほどの価値なのか全く分かっていない。
だが、それを悟られないようにポーカーフェイスを意識する。
<スキル《ポーカーフェイス》を獲得しました>
なんというグッドタイミング。
早速使っておく。
あとでスキルレベル上げておこう。
「一応確認なんだが……この街で一晩泊まるには、いくらかかる?」
「ええとですね―――――」
そのあと話を聞くと、どうやらお金は統一硬貨が用いられているとのこと。
硬貨は、よくありがちな金貨、銀貨ではなく、法貨という独自の通貨のようだ。
因みに、法貨といっても、地球で言うところの法定通貨ではない。
特殊な金属と魔法を用いて作られているため、お金としての価値もあり偽造も困難なんだとか。
そして、通貨単位はゼン。法貨にもいくつかの種類があり、日本の感覚で言うところの100ゼン硬貨、1000ゼン硬貨などと分かれている。
1ゼン=下級小法貨1枚
5ゼン=下級中法貨1枚
10ゼン=下級大法貨1枚
100ゼン=中級小法貨1枚
1000ゼン=中級中法貨1枚
1万ゼン=中級大法貨1枚
10万ゼン=上級小法貨1枚
1000万ゼン=上級中法貨1枚
10億ゼン=上級大法貨1枚
1兆ゼン=特法貨1枚
まあそうだよな、1ゼン単位しかなかったら、一万円の買い物をするのに1万枚法貨を用意しなければならなくなる。どこのギャグだという話にもなる。
随分細かく分かれていると思ったが、冒険者稼業は稼ぐ量も金額も多く、区別が少ないと大量の硬貨を持ち歩かなければならなくなるという、至って当然の理由だった。
一食が50ゼン程度で、宿一泊が500ゼン相当。
……いまいちわからんが、ざっくりで言うと大体1ゼン=10円くらいか?
つまり100万ゼンは、円に直すと1千万円。
――は?
スマトートの死体一体でか?
ヤバいな、絶望の森……。
もう金のなる木にしか見えなくなってきた。
しっかりと準備をしてから、また行こう。
……流石に暫くは行きたくない。
「なるほど……ありがとう、よくわかった。それでいい、取引をしよう」
「いえいえ、こちらとしてもこれほどの取引は中々できませんから、有難い限りですよ」
お互いにwinwinのいい関係だ。
「ですが、残念なことに今お金は用意できません。生憎と商品を仕入れてきたところでして、お金は殆ど使い切ってしまっていまして。なので、紹介状を渡しておきますので、街に入った後に商業ギルドにお越しいただけませんか?そこで代金の支払いをさせていただきたいと思うのですが」
「ああ、分かった。取りあえずは街に入る金と身分証明書を発行してもらうための金さえあればいいから、その分だけは先払いを頼めるか。スマトートの死体は今渡す」
「分かりました。では、死体はお預かりいたします。……先払いの1500ゼンとなります。こちらが金券となっておりますので、商業ギルドにお越しいただいて受付に提示いただければお支払いさせていただきます」
15000円か。入街料意外と安いな。
助かった。
これでまっとうに街に入れる。
気配操作を使わずにすんだのは有難い。
「良い取引だった」
「こちらこそ。これからもラムサール商会をどうぞご贔屓に」
そういってオラルは馬車を連れて先に街に入っていった。
ようやく人と会話したベル君でした。
ちなみに本来のベル君はもう少し陽気な話し方ですが、余りにも会話が久々すぎて少しコミュ症になっています。慣れてくれば少しずつ口調は戻っていく……はずです。
スマトートの本当の価値を理解できている人なんて、いません。
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