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【後編】 異世界から勇者が帰って来た。頑張れ勇者! 負けるな勇者!



 魔王様の失恋の傷が癒える頃には、村は春になっていた。


 白姫は今日も元気に村の中をのんびり歩いている。

 サヨばあちゃんは、白姫が一度だけ出産したら避妊すると決めていたそうで、先日、白姫はばあちゃんの息子さんによって動物病院へ連行されていた。



 冬の間、虚ろな目で菓子パンヒーローの主題歌を歌う魔王様がウザ……いや、可哀想だったので、気分転換にと公民館へ連れ出した。

 公民館にはいろんな人が溜まっている。


 ご自慢の手芸品の品評会をするマダムたち、将棋を指すじーさんたち、囲碁をさすじーさんたち、麻雀をやるじーさんたち……などなどだ。


 魔王様はそこで将棋、囲碁、麻雀をそれぞれ学んで来た。


 日本語教室(6カ月コース)を終了した魔王様は、今ではきちんと読み書きが出来るようになっている。

 おかげで、魔王様の中のネットの地位の向上が凄まじい。


 将棋や囲碁の定石を調べたり、麻雀の筋を学んだりと、冬の間充実の時間を過ごしたようだ。


 そして、盆栽にも手を出し始めた。

 この人は、どこまで村のじーさんたちに染まる気なのか……。おっさん通り越して、マジでじーさん一直線じゃないか。


 あと、公民館で貰って来たマフラー、めっちゃ気に入ってるらしく外へ出る時は必ず巻いていたのだが、ローマ字で『MAOU♡』と入っていてお洒落過ぎる。

 タカヤの話によると、『魔王様ファンクラブ』なるものがあるらしく、その会員であるユキおばさんの手製らしい。因みに、ユメの母親だ。

 ユメが「クッソダサいから、捨てちゃってよ。アレはないわ……」と言っていたが、魔王様がめっちゃ大事にしている事を知ると、複雑そうな顔で黙ってしまった。


 盆栽に手を出し始めた魔王様が次に狙っているのは、家庭菜園である。


 まあ野菜はいい。上手く出来たら、美味しいご飯になる。

 麻雀で金を賭けない代わりに、半荘(ハンチャン)でラスだった人間が全員に発泡酒を一本奢る、というシステムと違い、家庭菜園なら特に失敗してもイラっとしない。素人の家庭菜園は、失敗が付き物だしね。

 魔王様はビールより発泡酒派である。タカヤに「舌おかしんじゃね!?」と言われていたが、まあ、好みはそれぞれだ。

 それに、発泡酒の方が家計的にはアリだ。私は酒は飲まないので、違いは全く分からないが。


 魔王様は、春になったら何を植えようか……と、ネット検索を駆使しながらワクワクと春を待っていた。



 雪が消え、村に遅い春が来て、魔王様の家庭菜園計画が始動した。種や苗は、魔王様がネット通販にて購入した。それ以外に、魔王様の計画を知った村の人たちが分けてくれたものもある。


 講師として農業一筋六十余年の木村のじーさんが来てくれている。

「クワの使い方、下ッ手くそだなぁ!」

 そんなじーさんの威勢の良い罵声が飛んでいる。微笑ましい光景だ。

 八十近い年齢ながら矍鑠(かくしゃく)としたじーさんだが、若い弟子が出来て更に元気になったようだ。良い事だ。



 魔王様の家庭菜園は順調なようだ。


 魔王様がこちらの世界へ来て、直に一年だ。

 魔王様はすっかり日本語が堪能になられている。ネットのおかげで、猛虎弁までマスターする始末だ。……ていうか、どこに入り浸ってらっしゃるんですか、魔王様……。


 月のお小遣いに一万円を渡しているのだが、そこからプロ野球の専門チャンネルを契約しているようだ。

 魔王様、まさかのやきう民化……。魔王様が畑で育ててらっしゃるきうり、何にするんですかねえ?


 私が暇な時にネットを見ていたら、『元魔王なんだけど、質問ある?』というスレのまとめを見つけてしまった。

 恐る恐る開いてみたが、どうやら魔王様が立てたスレではないようだった。めっちゃ焦った。

 スレの日付が二年前だったので、魔王様であるはずがない。ややこしいスレ立てんなよ!


 その後、魔王様に「デジタルタトゥーの恐ろしさとネットリテラシー」に関しての講義を行った。

 魔王様は「スレ立ては絶対にしない」と約束してくださった。ただ、書き込みはしているようだ。

 まあ、身バレしないようにだけ気を付けて欲しい。


 ネット上でこのイケメン魔王様が『ワイ』と言っていたりするのかと思うと、ちょっと面白い。ちな巨やが。




  *  *  *




 魔王様がすっかり村に馴染んでいる初夏、梅雨明け間近の夏空が眩しい日の事だった。


「見てくれ、フミカ! このナス、つやつやして丸くて綺麗だろう!」

 わぁー、満面の笑み……。

 一年前は青白くて、ちょっと頬もこけていた魔王様だが、今では浅黒く日焼けして、細マッチョのイケメンになっている。……ネット中毒気味だが。


 縁側から、ナスでいっぱいの籠を自慢げに見せて来る魔王様。


 うん、何だろう……。魔王様、どんどん『魔王』感が消えてってるね。

 イケメン農家にしか見えないね。某J民にも見えないね。


「タケゾウさんに丁寧に教えてもらったおかげだ。初めての家庭菜園で、これ程収穫できるとは……。そうだ! 公民館にもお裾分けを置いてこなければ!」

「うん、それがいいですねー。魔王様、気を付けて行って来てくださいねー」

「ああ! ちょっと行ってくる!」

 魔王様は眩しい笑顔で言うと、颯爽と出て行った。


 公民館には、それぞれが作って余った野菜を置いておくスペースがある。

 腐らせるよりはマシ、と、皆が様々なものを置いていく。

 勿論、タダだ。


 田舎は慣れない人には人間関係が煩わしかったりするだろうが、こういうシステムは純粋に素晴らしいと思う。


 魔王様が初めて収穫した野菜は、マダムたちの間でちょっとした争奪戦になっていたらしい。後に木村のじーちゃんに聞いた。

「かかあ共の目が血走ってて、おっかねぇのなんのってなァ!」

 大笑いしているが、ちょっとマジで怖いじゃん!


 魔王様は「皆に喜んでもらえたようで嬉しい」と、にこにこしておられるが……。

 魔王様ファンクラブ、ちょっと怖いよ……。みんなの娯楽になってるのは何よりなんだけども……。



 そして今日も、我が家の食卓を魔王様が丹精込めて育てた野菜が彩るのだった。


 今日の晩御飯は、夏野菜の天ぷらと素麺だ。素麺はサヨさんから大量に貰った。サヨさんの息子さんがお中元で大量に貰い、食べきれなくてサヨさんにお裾分けしてきたらしい。

 しかしサヨさんも、高齢女性の一人暮らしだ。

 大量の素麺を持て余してしまう。

 そこで私たち兄妹の出番である。


 親も居らず(居るけど)、(村の平均年齢に比較して)若い兄と妹二人で肩寄せ合って暮らしている家で、今は更に居候まで居る。

 そこなら、大量の素麺も消費できるのではないか。


 正解です、サヨばあちゃん。


 しかも魔王様、何だか凄くお素麺お好きらしい。

 大抵の人間が、夏場の食卓の素麺を見て「また素麺か……」とげんなりするだろう。だが魔王様は、三日に一回素麺の現状に、何の不満もないらしい。どころか、夕飯の素麺を見て「素麺か! いいな!」と喜んでくださる。

 いい事だ。

 まだ素麺は大量にあるのだ。


 お中元に素麺贈るの、法律で数量を限定してくんないかな……。

 素麺屋さんが困るか……。

 しかし皆、こぞって素麺を贈らないで欲しい。他にもあんじゃん。洗剤(腐らない)とか、タオル(腐らない)とか、商品券(腐らない)とか……。


「素麺は冷たくてのど越しも良くて、美味いな」

 ちゅるちゅると素麺をすすり、満足げに魔王様は微笑まれている。麺をすするのも慣れた物だ。

 『のど越し』とか、めっちゃ日本人的な味わい方ですね……。染まり過ぎな感もあるが、まあ本人が幸せそうなので、それで良しとしよう。


「てか俺、素麺飽きたんだけどー……」

 ひたすらに天ぷらだけを食いつつ言うタカヤに、私は椀に残っていた素麺を無理矢理飲み込んだ。

「私もいい加減飽きたけども。まだあとひと箱あるから」

「箱!!」

「重さでいうなら、一キロ」

「キロ!!」


「魔王様ー、『素麺 アレンジ』で検索してー……」

「今は食事中だ。ネットは食べ終えてからだろう」

「お行儀が良い!」

 実際、だらっとしてるタカヤより、数倍お行儀いいよ、魔王様。多分、元の育ちがいいんだろうね。



 飽きたと煩いタカヤは、台所から各種調味料を持ってきて、「素麺の可能性に挑む!」とオリジナルつけダレを作り始めた。

 食べ物で遊ぶなよ! ちゃんと食えよ!


 魔王様はかぼちゃの天ぷらにご満悦だ。


 平和な食卓だなあ。

 天ぷらに動物性たんぱくがなくて、なんか精進料理っぽいけど。まあ、魔王様は気にしてないみたいだし。……タカヤは「エビが居なァーい!」と煩かったが。しょーがないじゃん! エビ、高かったんだもん!



 飽き飽きしつつ素麺をすすっていると、開けっ放しだった窓から何かがするりと入って来た。

 いや、網戸閉めてあるよね? え? どっから入って来た!?


 入って来た『何か』は、ぼんやりと光る蝶だった。

 その蝶はひらひらと真っ直ぐ、魔王様の下へと飛んでいく。


 久々の、ド田舎の日常に唐突なファンタジー要素が!!


 驚いて見ていると、やはり驚いたような顔をした魔王様が差し出した指に、蝶は音もなくとまった。


「魔王様……、そのちょうちょ、何……?」

 タカヤが自分のお椀をさりげなくよけながら魔王様に訊ねる。

「いや、タカヤはそのお椀の中身片付けようよ」

「えー……。これ、すっげぇ不味いんだけど……」

 だろうな。だってさっき、何か大量の砂糖入れてたよな。あとラー油と。何故タカヤは、いらんとこにだけチャレンジャー精神を発揮するのか。


 魔王様は指先にとまった蝶をじっと見ている。

「これは……、私の居た世界の、通信の為の魔法だ。だが、何故、この世界に……?」

「あっちの世界の人が、魔王様に何か言いたい事があるんですかね?」

「かもしれんが……。……まあ、考えても分からん」


 魔王様は小さく息を吐くと、ごにょごにょと何かを唱えた。久々の、文字化け言語だ。相変わらず、何言ってんのかさっぱりだ。


 唱え終え、魔王様が蝶にふっと息を吹きかけると、蝶はゆらりと空気に溶けるように姿を消した。

 代わりに、空中にスクリーンのようなものが浮かび上がった。


 私とタカヤは、魔王様の後ろを陣取り、魔王様越しにそれを覗き込んだ。


「……っあ!! 繋がった!? 繋がってますか!? 聞こえますか!?」

 15インチモニタくらいの大きさのスクリーンには、一人の少年が映っている。因みにアス比は4:3だ。懐かしのブラウン管のアス比だ。

 黒髪に焦げ茶の目で、のっぺりした顔立ち。めっちゃアジア人ぽい顔立ちの少年だが。

「聞こえているが……、私に何か用だろうか?」


「申し訳ありませんでしたァ!!」

 スクリーンの向こうの少年は、唐突にがばっと頭を下げてきた。

 え? 何なん、コレ?


「魔王様……、この子、誰?」

 知り合い?と訊ねたタカヤに、魔王様は溜息をつきつつ首を傾げた。

「私をここへ送った勇者……だな」

「お前が犯人か!!」

 くわっとスクリーンを睨んだタカヤに、スクリーンの向こうの少年がまたぺこぺこと頭を下げた。

「ごめんなさい! 俺もなんか良く分かってなくて! いや、そんなの言い訳にもなんないのは承知なんですけども!」


「てかさー、タカヤ……」

 少年に何か言い募ろうとしているタカヤを制し、声をかける。

 さっきからずっと気になってたんだけども……。

「あの子、日本語喋ってない?」


「ぬぁ!?」

「ふぇッ!?」

 タカヤと少年から同時に、良く分からない声が漏れた。


 魔王様のあの謎翻訳技術が生きてんのかと思ったけど、そうじゃないよね?

 あの子、リップシンク完璧だし。

 ていうか、魔王様もフツーに日本語で対応してたけど……。


「魔王様の世界に、日本語とか、日本語に似た言語とかってあります?」

「いや、ないな……。言われてみたら、そうだな……。私もつい普通に日本語で話していたな……」

 魔王様、『つい』で日本語出ちゃうくらい馴染みましたか……。


「日本語……。て言う事は、そちらはもしかして、日本ですか……?」

「君はもしや、日本人なのだろうか……?」

 勇者と魔王様から、同時に疑問が発せられた。


「日本人です! 東京都出身、十七歳です!」

「こちらは日本だな。〇×県だ」

 だから何で同時に喋るんだ! 聞き取り辛いな!!

 そんでタカヤ、「ヒュー♪ シティーボーイ」とか言ってんじゃねぇ! いつの時代の茶化し方だ!


「えーと、勇者君、お名前は……? あ、私は野田文香と申します」

「あ、初めまして! 佐々木正義です」

「佐々木君は、どうして勇者に?」

 会話してみると、ものごっつ普通の日本人の男の子だ。

 それが『勇者』て……。


「信じてもらえるかは分かりませんが、所謂『異世界転移』というヤツです。野田さん、そういう系の話とかってご存知ですか?」

「まあ、多少は。ていうかそういうの、タカヤが詳しいんじゃない?」

 カモン、オタクよ! 今こそ、その知識が活きる時!!


「転生じゃなくて、転移? あ、俺は野田隆也ね。文香の兄です」

 私に代わって訊ねたタカヤに、佐々木君は頷いた。

「そうです。学校の帰り、歩いてたらいきなり……。地面に穴が空いて、そこに落ちちゃって……。俺はじめ、下水道工事かなんかやってて、そこのマンホールにでも落ちたかと思ったんですけど、気付いたらこっちの世界で……」

 もしそれがマンホールだったとしたら、君、死んでた可能性高いけどな! あと、水道局が作業するなら、規制線張るとかしてる筈だから!


「成程……。『穴に落ちたら異世界だった件 ~チート勇者になって、俺TSUEEEします~』って感じか……」

 タカヤ、何言ってんの?

「ていうか、『召喚された勇者ですが、帰る方法がないそうです。仕方がないのでチートで無双します』って感じです……」

 佐々木君も、何言ってんの?

 何でこの二人、通じ合ってんの?


「帰る方法がない?」

 魔王様の問いに、佐々木君は項垂れるように頷いた。

「はい……。俺を召喚した魔術師の人にそう言われて……。酷い目に遭いたくなければ協力しろ、とかって……」

「外道!!」

「非道!!」

 思わず叫んだ私とタカヤに、佐々木君はまた力なく頷いた。


「はい……。で、痛い思いすんのもイヤだし、テキトーに言う事聞いて、その内逃げ出せないかな……って思ってたんですけど……。意外とフツーにあっさり、魔王領まで着いちゃって……」

「戦闘とかは?」

 タカヤ、ワクワクすんな。佐々木君が可哀想だから。


「途中のバカでかい犬みたいのを何頭か倒したくらいです。めっちゃ平和な世界で……」

「その『めっちゃ平和な世界』で、何で侵略とかしてんの?」

「俺を召喚した連中が、勝手にやった事みたいです。あいつら、国からも切られて、国際指名手配みたいになってます……。何かあいつら、国でもマークされてたテロ組織みたいな連中だったらしくて……」

 何じゃそら!


「そんじゃ佐々木君、完全に巻き込まれ事故かぁ……」

「はい。俺に関しては、事情を説明したら、情状酌量の余地ありって事で無罪放免になったんですけども。……魔王様をどっかに飛ばしちゃったことが、すっげー気になってて……」

 言葉を切ると、佐々木君はこちらに向かって身を乗り出して来た。スクリーンに、佐々木君の顔面のドアップが映っている。というか、顔半分、寄り過ぎて見切れてる。

「何で日本に居るんですかぁ!! 俺も帰りたいのにぃぃ!!」

 おぅ……。正に魂の叫びよ……。


「私に使った術を、勇者本人に使ってみる……というのは、どうなのだろうか?」


 魔王様の言葉に、佐々木君の瞳がきらっと光った。

「そこ……、マジで日本なんですよね……?」

「だなー。……あ、あったあった。佐々木君、お家から失踪届出てるみたい」

 言いつつ、ホラ、とタカヤがスマホの画面をスクリーンに向けた。

 それは警視庁が公開している、行方不明者リストだった。そこには『佐々木正義』という名前が載っている。


「行方不明……。でも、そうなるか……」

「まあ、佐々木君が居た世界である事は、間違いないみたいだね。これ、佐々木君の事で合ってるよね?」

「合ってます。俺だと思います」


 タカヤはスマホをしまうと、佐々木君を見た。

「……で、これからどーすんの?」

「さっき魔王様が言ってたの、試してみます!」

 わぁー……、佐々木君、キラキラしてるわぁー……。


「そんじゃ俺、ちょっとやってみるんで! すんませんけど、これで!」

 一方的に言うと、スクリーンがふっと消えてしまった。


「てかさっきの行方不明者のヤツさぁ……」

 めっちゃ気になる情報があった。

「……うん」

 タカヤも頷くと、スマホの画面を見た。


 そこには、先ほどと同じ行方不明者リストが表示されている。


「佐々木君が行方不明になってるの、四年前、だよな……」

「四年前、だよね……」

 佐々木君は十七歳と言っていた。

 リストにある情報は、四年前に行方不明になっている事と、当時の年齢が十七歳であるという事。


「時間の流れ方が違う……?」

「その可能性が高いな」

 頷いたタカヤに、何か考えていた魔王様が口を開いた。

「というよりそもそも、一年間の長さも違う。勇者があちらへ行って何日経っているかは分からんが、勇者自身が時間の計算を間違えている可能性もある」

「あー……」


 実際は地球の時間で四年経っているが、あちらの時間の計算では一年しか経っていない……とか? あるかも。何てったって異世界だし。

 でも佐々木君、本当なら二十一歳な訳だけど、どう見ても高校生くらいだったよな……。


「まあ……、何にせよ、彼が無事にこっちに帰ってこられるといいなー」

 言いつつ、さりげなくお椀を机の端に寄せようとしているタカヤの手を、ぴしゃっと叩きつけた。

「だから、それ全部食えよ」

「目ざとーい!!」




 一週間ちょっとが経過し、そんな出来事があった事すらちょっと忘れかけていた昼下がり、私が一人で昼食を摂っているとタカヤがバタバタと廊下を走って来た。


 余談だが、魔王様の昼食は、おにぎりを握って持たせてある。畑作業のきりのいいところで、適当な木陰で食べるのだそうだ。水筒も二リットルの物を二つ持たせている。「熱中症は恐ろしいからな! 水分と塩分は適度に補給せねばな!」と、魔王様はネットで仕入れた知識で頷いていた。


「タカヤ、煩い!」

「フミカー! ヤベェよ!」

 ……なんかこんなの、前にもあったな?


「勇者君、マジでキタ!!」

 タカヤはそう言うと、勇者君の腕を引っ張ってきた。

 腕を引かれて戸口に現れた勇者君は、私を見て「あ、ども……」と頭を下げている。


「タカヤもしかして、木村のじーちゃんちに行く途中だった?」

「だった! 何なん!? 木村のジジイ、異世界との中継点とかなんか!? てか、冷やし中華いいな!」

「勝手に茹でれば?」

「具はぁ!?」

「切れば? 私もう、食べ終わるし」

 言っている内に食べ終えてしまった。


「あ、佐々木君、お昼ご飯は? お茶漬けくらいなら出来るけど」

 冷やし中華は具の用意が面倒なんだ、すまない。

「あ、お気遣いなく。別にハラ空いてないんで」

 ぺこっと頭を下げつつ言う佐々木君。……余り見慣れぬ舞台衣装か何かのような服装がなければ、普通の日本の少年だ。


 というか、服装がすごい。


 時代がかった西洋の軍服のようなものに、革か何かで出来ているらしき胸当てと肩当てがついている。下はぴっちりとしたタイツのような黒いパンツだ。

 何かアレだ。十九世紀ごろのイギリスの軍服みたいなヤツ。

 ……言っちゃ何だが、似合ってない。魔王様がこちらへ来た時より、コスプレ感が強い。何だろう。見慣れた日本人の容姿だからだろうか……。


 タカヤが居間の隅から座布団を引っ張って来て、佐々木君に座るように促した。

 佐々木君は「あ、すんません……」とぺこぺこ頭を下げつつ、座布団の上にきちんと正座した。


 台所で麦茶を用意し、それを佐々木君とタカヤに配る。

 食べ終えた冷やし中華の皿も、ついでに流しに下げておいた。


 佐々木君はタカヤに言われ、身体に付けていた防具的な物をガチャガチャと外している。背中の金具を外すのを、タカヤが手伝っていた。

 そして着ていた上着を脱ぐと、下は木綿のタンクトップのような粗末なシャツだった。


 上着を脱いだ佐々木君は「ふぃー……」などと息を吐いている。

 まあ、あの格好は暑いだろうね。真夏だし。


「……でだ!」

 佐々木君が一息つくのを待ち、タカヤが膝をぺしっと叩きつつ口を開いた。

「まず、佐々木君に確認しなきゃいけない事がある」

「はい?」

 きょとんとした佐々木君に、タカヤはポケットからスマホを取り出すと、以前も見た行方不明者のページを表示させた。


「これ、佐々木君で間違いないんだよね?」


 佐々木君はタカヤに断りスマホを借りると、そのページをじっと見た。

「はい。間違いありません」

「日付なんかも、間違いない?」

「はい」

 間違いないのか……。


「佐々木君が向こうに居たのって、どれくらいの時間?」

「四か月くらい……ですかね?」

 その会話を聞きつつ、私は居間の隅にあるラックから、今日の新聞を引っこ抜いた。


「……佐々木君、落ち着いて聞いてね。佐々木君が居なくなってから、もう四年経ってるの」

「………は?」

 やっと絞り出したというような声に、私とタカヤは思わず溜息をついてしまった。

 まあ、そうなるよね……。信じられないというより、信じたくない。


「ほら。これ、今日の新聞」

 新聞を差し出すと、佐々木君は上部に印刷されている日付を食い入るように見た。

「平成が……、終わってる……」

「終わったね。今は令和」

「令和!! なんスか、その元号! もっとカッコいいのなかったんすか!?」

「いや、決めんの俺らじゃないし……。国のえらい人たちだし……」

 私は嫌いじゃないけどな、令和。何かもう慣れちゃったし。


「俺……、友達と『平成終わる瞬間、全員でジャンプしよう』って約束してて……」

 ああ……、居るね、そういう人たち。

「……四年……」

 新聞を見つめたままフリーズしてしまった佐々木君を、今はそっとしておく事にした。


 異世界に拉致られ、訳の分からないまま騙され魔王様を異世界へ吹っ飛ばし、やっと帰って来られたと思ったら浦島太郎。

 中々ヘヴィーなんじゃなかろうか。

 あと多分、現状では高校中退だ。何気にこれが一番キツい気がする。


 たっぷり十分程度フリーズしていた佐々木君は、再起動すると「とりあえず、ウチ帰ります……」と力なく呟いた。


「それがいいねー。お家の人、心配してるだろうしねー。あ、服とお金貸してやるわ」


 タカヤは自室からTシャツとハーフパンツを持ってきて、佐々木君に貸してあげた。佐々木君が着ていた異世界の衣類は、後で宅配で送る事にした。

 小さな保存袋に新幹線代その他として三万円入れ、それも持たせた。

 タカヤ自慢の、マジックテープがバリバリいう戦隊ヒーローのプリントが入った財布を貸そうとしたら、佐々木君に「イヤ、バリバリ財布はちょっと……」とマジで遠慮された。

 あの財布、ダサさとかあり得なさが三周くらい回って、色んな事がもうどうでも良くなるいい財布だと思うけどな。……私は絶対、使いたくないけど。あれで「支払いは任せろ」とか言われたら、色んな意味で「やめてー!」てなるけど。



 ここから東京へ行くには、最寄りの新幹線駅まで車で二時間、そこから新幹線で二時間だ。飛行機? そんな文明的な乗り物、知らないわぁー。

 タカヤは佐々木君を駅まで送ってくる、と佐々木君を連れ立って出て行った。


 木村のじいちゃんちに行くんじゃなかったのか……? まあ、いいか。木村のじーちゃんは逃げも隠れもしないしな。……言葉の用法、間違ってる気がするな。



 夕方、畑仕事を終え帰宅した魔王様に、佐々木君が無事にこちらの世界へ帰って来た話をした。

 因みにタカヤはまだ帰って来ない。

 街は遠いもんな……。


「そうか……。やはり、時間の経過の仕方が違うのか……」

「みたいですねー。佐々木君、向こうに居たの四か月くらいって話でしたし」

「では向こうでは、私が居なくなってからひと月ほどが経過しているという事か」

 魔王様は「ふむ……」と考え込んでしまった。


 もしかしてなんだけど、佐々木君がこっちに来るのに使った術か、向こうに召喚されるのに使われた術とやらを使えば、魔王様は元居た世界に帰れるんじゃないのかな?

 その『術』とやらがどんなものなのかは、全く見当もつかないけど。


「彼とは話なんかは出来るだろうか?」

「あー……、落ち着いたら連絡くれとは言ってあるけど、今は多分、無理じゃないですかね?」

 何と言っても、向こうに行った時にスマホを無くしている。着ていた筈の制服もどこへ行ったか分からないそうだし、背負っていた通学用のリュックの行方も分からないそうだ。

 借りたマンガ、入れっぱだったんすよね……と項垂れていた。というか、彼は始終項垂れていたが。


「そのうち、連絡くるんじゃないですかね?」

「そうか。ならば、それを待とう。……で、今日の夕飯は何だろうか?」

「素麺です」

「そうか! いいな!」

 ……喜んでくれて何よりです、魔王様。……喜んでるの、魔王様だけですけどね。




 夏野菜たちは大豊作に終わり、秋も充実の実りの秋となり、そろそろ雪でも降るかな?という冬の入り口。

 魔王様は動画サイトでアニメをご覧になられている。最近の彼のブームは、ロボット系アニメだ。

「いずこの世界も、戦争とは悲しいものよな……」

 と、切なげな溜息をついておられた。

 将棋、囲碁、麻雀の自主練も抜かりない。


 魔王様の毎日が充実しているようで、何よりだ。

 こんな過疎村で、じーさんとばーさんだらけの限界集落なのに、楽しそうにしている魔王様を見るのは何だか面白い。



「おーい! フミカー! 魔王様ー! 居るかー?」

 玄関の方から、タカヤの呑気な声がした。

 どたどたと必要以上に煩い足音を立てて歩いてくると、居間のふすまを開けようとした。……が、最近建付けが悪くなってきていて、開けるのにちょっとコツがいる。


「ふすまの建付けを何とかせねばな」

 お。魔王様がそう仰るって事は、やってくれるって事ですね! 助かるゥー!

「今度、シゲさんにやり方を聞いてこよう。あと、道具も借りねばな」

 シゲさんは、現場一筋六十年の大工さんだ。今では引退し、拾ってきた木切れで色々な木工品をこさえては、それを公民館にぽいっと放り投げていく。欲しい人は貰ってもOKだ。

 我が家にも、冬場みかんを入れるのに重宝する小さな竹籠がある。こたつにはやはり、食べようが食べまいがみかんは必要だ。風情、大事。


 ふすまをガタガタやっていたタカヤが、ようやくふすまを開けて現れた。

「これ、556的なヤツとかで滑り良くなんねーかな……」

「なると思うけど、アイツ、滑り良くなりすぎて怖いんだよ。軽い力でスターン!ていくようになっちゃうからさ……」

 あれを網戸にやったら、酷い目に遭ったのだ。

 少し強めの風が吹いただけで、網戸が勝手に開いてしまう程に滑りが良くなってしまった。

 効き目が良すぎるのも困りものだ。


「どうした、タカヤ? お前はまだ仕事中だろう?」

 そう。まだ午後三時だ。タカヤのお役所は、定時は六時だ。

 本当は受付業務は五時なのだが、呑気な人々はそんなものお構いなしにやってくる。

 なので、五時で一応締め切って、その後六時まで待ってみて、六時になったら有無を言わさず役場自体を閉める、という事にしている。


「今日もう、上がってきた。役場に佐々木君が訪ねて来てくれたからさー」

「ども。お久しぶりっす」

 タカヤの脇から、佐々木君がひょこっと顔を出し、ぺこっと頭を下げてきた。

「あ、久しぶりー。元気だった?」

「はい。何とか……、一応……」

 歯切れ悪いな……。


 お茶を淹れ、四人で居間で集まった。

 佐々木君、何しに来たのかな?


 見ていると、正座をした佐々木君が魔王様にすっと向き直った。

 お? と思っていると、彼はそのまま、流れるような美しい動作で土下座をした。


「あ、佐々木君!?」

「何やってんの!? どーした!?」

 慌ててタカヤと二人で佐々木君の頭を上げさせようとしたが、どうなっているのかビクともしない。佐々木君、何筋だか知らんけど、筋力あるな! 体幹も非常にしっかりしている!


「申し訳ありませんでしたァッ!」

 突然謝られた魔王様は、「あ、うん……、ああ……」とよく分からない返事をしている。因みに魔王様、土下座の意味はきちんとご存知だ。

 麻雀の負け(面子に発泡酒を一本奢る)が払えなかった吉川のじーちゃんが、その場で土下座して爆笑をかっさらった事件があったからだ。吉川のじーちゃんはそれで許してもらえる筈もなく、後日、公民館に焼酎を一本差し入れていた。……公民館に差し入れるな。公民館を飲み屋にでもする気か。


「どうしても! どうしても、直接謝らないとスッキリしなくて! 自己満足であるのは理解しています! でも、謝らせてください! 許してくれとは言いませんから!」

「ああ……、いや、あの……。取り敢えず、顔を上げてもらえないだろうか……。落ち着かん」

 魔王様がおろおろしておられる。珍しい。


「ほら、魔王様もああ言ってるから。な? まず顔上げよう」

 佐々木君の両腕を持つように手をかけたタカヤだが、佐々木君は顔を上げなかったため、土下座したままの佐々木君を十センチほど持ち上げる結果となった。体幹、素晴らしいね!!

「佐々木君、頑固だな!」


 持ち上げた佐々木君をそっと座布団に戻し、タカヤも座り直した。

 佐々木君の顔を上げさせるのは諦めたようだ。まあ、持ち上げちゃったしな。ムリだよな。


 土下座したままの佐々木君を囲み、困惑する私たち。

 何の儀式だろうか……。


「……本当に四年、経ってました……」

 ややして、土下座体勢のまま、佐々木君がぽつりと言った。

「俺ん中だと、四か月だったのに……、俺、成人式も終わってるらしいです……」

 書類じゃ二十一歳だもんなぁ……。成人式か……。……ロクな思い出ねぇな。なんせこの村の成人式だからな。


「家族には、異世界に召喚されてた事、話しました……。……カウンセリングに、連れてかれました……」

 あぁ~……と、私とタカヤ双方から、「そうなったか……」という溜息が漏れた。


「家族の俺を見る目が、憐みに満ちてて、居た堪れなくて出てきました……。異世界行ってて高校中退とか、自分で言っててクソ痛いのは分かってます……。でもあんな、腫物に触るみたいな扱い、余計に心にキます……」

 いやー……、ご家族の気持ちも分かるけどねぇ……。

 普通、信じられないしねぇ。


 何らかの事件に巻き込まれて、そのトラウマから言動がおかしくなってるのかな?とか思っちゃうよねえ。


「俺、次男なんです……」

 お? 唐突にどうした? そうなのか。

「このままだと俺、人間不信からの引き籠りの末、ちょっとした事で家族に暴力をふるう『暴カニ男』になるんじゃないかって……」

 『暴カニ男』言いたいだけやろがい!!


「『暴カニ男』だと……。次男にしか許されていない見出しじゃないか……」

 おいタカヤ! そこに食いつくな!


「兄は『異世界召喚とかクッサwww』と、火の玉ストレートで煽ってきます……」

 佐々木君の兄、中々のクソだな……。


「暫くでいいので、俺をこの村に置いてもらえないでしょうか……? 適当な空き家でもお借り出来れば、そこで勝手に一人で暮らしますから! 家賃はきちんとお支払いします!」

 佐々木君はガバっと身体を起こすと、持っていた大きなバッグをごそごそと漁りだした。


 何が出て来るかと見ていると、預金通帳と印鑑だった。


「高校入ってからバイトしてたんで、ちょっとは金もあります! 家賃が払えなくなったら出て行きますから、それまでおいてもらえませんか!?」

「……ここに来ること、ご家族には?」

「『ちょっと旅行に行ってくる』としか……。落ち着く場所決まったら連絡しようと……」


 タカヤは「ふー……」と息を吐くと、立ち上がって佐々木君にも立つように促した。

「ちょっと今から役場行こうか。これからの事とか、ちゃんと決めよう」

「あ……、はい……」

 頷いた佐々木君は、タカヤにがっちり腕を掴まれて役場へ連行されていった。


「……また、彼と話が出来なかった……」

 残ったのは、展開について行けず呆然としている魔王様と、私だった。

「取り敢えず、淹れたお茶、勿体ないんで飲みましょうか」

「そうだな」

 そして二人で、冷めてしまったお茶をすするのだった。




 その後。


 佐々木君は我が家の隣の空き家を借りて暮らす事になった。東京のご両親にも、きちんとお話をし、ご了承を得ている。

 どうも家の方でも佐々木君を扱いあぐねていたらしく、佐々木君が落ち着くなら是非そうして欲しいと言われたそうだ。

 佐々木君の生活費なんかは、ご実家でもって下さるそうだ。


 過疎も過疎の、限界ギリギリ集落だ。空き家など売る程ある。……買い手が居ないが。


 新しめの空き家は役場の方で貸し出したりもしている。

 持ち主が居なくなり、家族とも連絡が取れず……という家が、かなりあるのだ。

 田舎で土地が安いとはいえ、固定資産税に相続税に……と払うのが面倒なのだろう。


 そういう行政で接収した空き家を、ちょっとだけリノベーションして貸し出しているのだ。

 お家賃はひと月一万円と破格だ。しかも、建物は借りた人間が勝手にリフォームしてもOKだ。村としても、住み手の居ない家を税金で取り壊すより、リノベーションして貸し出した方が安いし楽なのだ。

 好条件ではあるが、如何せん立地が悪すぎ、村の人間くらいしか借主が居ない。


 我が家の隣もそういう家だ。


 食事なんかはウチで一緒に食べる事にしてある。彼一人では、何かと心配だからだ。電気、ガス、水道の手配はタカヤがやり、ネット開設手続きは私がやった。……まあ最悪、wi-fiは我が家の電波にタダ乗りしてくれても構わないのだけれど。


 どんよりとしている佐々木君を魔王様が心配し、村の色んな場所に佐々木君を連れだしてくれた。おかげで、佐々木君も日を追う毎に元気を取り戻していった。

 今では公民館に入り浸りになってしまい、それはそれでちょっと心配ではある。佐々木君まで、おっさん通り越して一気にじいさん化してしまうのではなかろうか……。


 佐々木君の話では、魔王様の治めていた土地は、今は新たな領主さまが立っているそうだ。

 魔王様曰く「統治者は普通に、候補者数人から投票で選ばれる。私が居なくなったのなら、新たな領主が立つのは当然だな」だそうだ。……意外と民主的なんですね……。


 魔王様は自身が居なくなった後の領地を心配していたようだが、佐々木君から新たな統治者の話を聞いて安心したようだ。

「これでもう、何の憂いもない」

 と、晴れ晴れとしたお顔で笑っていらした。……ていうか、今まで『憂い』なんてあったんですね……。毎日、めっちゃ楽しそうでしたけども。


 何の憂いも無くなったらしい魔王様は、どうやらこの村に定住する事にしたらしい。

 ……まあ、住民票もパスポートも何もないから、ウチくらいでしか暮らしていけそうにないしね。仕事を探すのも、家を探すのも無理ゲー感すごいし。




 さらにその後。


 佐々木君が通信で高卒資格を取ったり、一念発起して起業したり、そのおかげで村に移住者がやってきたりする事になる。

 あと、佐々木君は自身の異世界生活を小説にして、無料投稿サイトに投稿して誰からも見向きもされなかったという悲しい過去を背負う事にもなる。

 タカヤ曰く「もう何万回と擦られ過ぎてるネタだしな……」だそうだが。

 ついでに佐々木君は、住民票を村に移すという暴挙に出る。東京のままで居なよ! 過疎村、結構大変だよ!?


 魔王様は獲れすぎた野菜の処理に困り、ネット通販で売るという方法を思い付き、生産者の顔写真付きでサイトにアップしたら爆売れしたりもする。

 魔王様では納税できないので、販売者はタカヤが代行している。しかもちゃっかり、『事務手数料』とか言って売り上げを多少ピンハネしている。


 あと、知らん内にタカヤとユメが付き合ってて結婚したり、私が魔王様から何の前触れもなくプロポーズされたり、そのプロポーズが村を巻き込んだ一大フラッシュモブでサプライズ嫌いの私を軽く切れさせたりもするのだが。


 まあ、それらは全て、また別の話だ。




 とりあえず、過疎も過疎の限界突破気味集落だが、私たちは毎日楽しく呑気に暮らしている。

 そんなファンタジーがあっても、たまにはいいではないかと思うのだ。

 ……あ! 白姫! また自分で食べないトカゲなんか獲ってきて! だからダメって言ってるでしょ!


 そんな感じで、私たちの日常は続いていく。

 ……この村が、あとどれくらい地図に残っているのかは、今の私たちでは分からない事だが。私たちが生きている間くらいは、細々と存続していて欲しいと願うばかりだ。



 最後に言っておく。

 だから、モテない訳じゃないって言ったでしょ?

 別にモテない訳じゃないんだよ! ……特殊な人に好かれ易いだけなんだよ……。



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― 新着の感想 ―
[良い点] このお話、結構好きです。 魔王さんがイタ可愛い。
[良い点] これもおもしろかったです。
[一言] こんにちは♪ あれ?見逃してた!って感じで読みました なんでつけられる星が5個しかないのかと思いましたw サバサバしているけど情に篤い面倒見がいいフミカちゃんを 魔王さんが放っておくわけがな…
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