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楯無明人/もう1人の錬金術師現る

 ギルドの外で大きな音が聞こえたのと同時に、微かに地面が揺れた。



「なんだ!?」



 俺たちがギルドの外に出るとなんとそこにいたのは……大きな赤いドラゴンだった。


 レッドドラゴン、クエストの討伐対象になっていた奴だ。



「んなっ!? 嘘だろ!?」



 俺は反射的に短剣を抜き放つ。


 ……しかし、ドラゴンはぴくりとも動かない。



「オォーホッホッホ!!」



 代わりに聞こえたのはお嬢さまのお手本のような高笑い。


 そこにいたのはカヤの衣装によく似た服を着ている女性だった。


 

「あらあら、誰かと思えば、カヤじゃないの。相変わらず幸の薄そうな顔をしていますわね」


「……誰かと思えば、マドカじゃない。元気そうね」



 マドカと呼んだ女性に対し、カヤが興味無さそうにそう返す。俺が小さな声で「知り合いか?」と問うとカヤはぼそっと「錬金術師よ」と答えた。この人も錬金術師なのか……17人しかいないうちの1人ってことだな。



「「……」」



 そして、錬金術師2人は見つめ合って動かない。



「アキトさんアキトさん、なんか険悪っす」



 言われんでも見りゃ分かるっす。



「おや? そちらの殿方は、もしかしてあなたの勇者ですの?」



 カヤは面倒くさそうに短く返事をする。



「えぇそうよ」


「へぇ……コール。この殿方のステータスを写しなさいな」



 俺のステータスが記された念写の巻物を上から下まで熟読し、女性はプッ、と吹き出した。



「あっはは! 何この弱い男は!? これがあのイスルギ・リサの娘のパートナーとはね! 気をやったら笑い過ぎて死んでしまいそうですわ!」



 なんだこいつ普通にムカつく奴だな。カヤがかわいく思えるぜ。だけどまぁ、わざわざ突っ掛かるほどでもないか。エネルギーの無駄だ。


 と思っていた矢先、



「黙りなさい」



 カヤがその女のローブの首の近くを締め上げていた。



「おいカヤ! なにもそこまでやることは」


「あなたも黙りなさい」



 あ、俺もですか。



「母親のことを出されると血の気が多くなるのは相変わらずなんですのね。その癖を失くさないとうっかり死にますわよ? ……来なさい、モルドレッド」



 その女が誰かの名前を口にした瞬間、何の前触れも無くカヤが俺たちの方に吹き飛んできた。



「きゃっ!?」


「カヤ!?」

「カヤっち!」



 俺とナルで吹き飛ばされたカヤを受け止める。思いのほか衝撃は強く、俺とナルもろとも吹き飛ばされ、尻餅をついた。



「いってぇ……なんだってんだ」



 俺は頭を振ってから視線を上げると、そこにいたのは重厚な鎧に身を包んだ騎士だった。


 頭のてっぺんから足の先まで完全に鎧に覆われており、性別の判断はつかないが、大きな体と纏った雰囲気で中身が男であることを察する。



「マドカニ、テヲダスナ」



 突如現れた鎧の騎士は低くくぐもった声で、一言だけそう言った。やはり中身は男だ。



「感謝しますわ、モルドレッド」



 女はゆらりと歩み始めてすれ違いざまにコツンと男の鎧を叩く。



「ついでに紹介してさしあげますわ。私のパートナー、モルドレッドですわ。その殿方と違って、とんでもなく強いんですの」



 その女はけらけらと笑いながら俺達を見下ろし、こう続ける。



「私が直々に挨拶がてら宣戦布告をしようと思っていたのですけれど、その必要はなさそうですわね。こんな勇者では私のモルドレッドの相手にもならないですわ。オォーホッホッホ!!」



 マドカは鎧の大男共に、そのまま高笑いしながらギルドに入って行った。



「……騒がしい奴だったな……カヤ、あいつは何者なんだ?」


「イスルギ・マドカ。同年代の錬金術師で、血縁で言えば、私の従姉に当たるわ」



 カヤは起き上がってぱんぱんとお尻を払う。



「なんか、感じの悪い人っすね」



 ナルがむかっとした表情でそう言うとカヤはこう返した。



「そうかしら? 陰湿ではない分、まだマシな部類よ。全く持って気に食わない相手だけれど、悪い人間ではないわ」



 そう口にしたカヤの表情は何とも言えないものだった。訳ありっぽいし話を逸らすか。



「このドラゴン、あいつらが討伐したんだよな?」



 俺は目の前で横たわる竜に視線を向ける。よく見ると首から腹にかけて深く抉れたような傷跡が見て取れる。致命傷はこれか。



「えぇ、恐らくね」



 カヤは一言だけ言ってタナトスの出口の方へと向かって行く。



「あ、おいカヤ!? どこに行くんだよ!?」


「討伐クエストが無い以上、ここに長居は無用よ。それにね……」



 カヤは虚空から杖を現出させくるりと俺とナルの方を振り向き、口元を歪めて言う。



「言われ放題言われて、ほんのちょっとだけ、むしゃくしゃしているのよ。憂さ晴らしをしに行きたいの。付き合ってくれるかしら?」



 絶対ほんのちょっとじゃないですよね? とツッコみたいが、憂さ晴らしの対象が俺になりそうだったからやめた。


 結果、モンスターを鬼の様に討伐しまくって俺のレベルはその日のうちに2上がった。

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