楯無明人/『MH』モデル
もう1人の錬金術師イスルギ・マドカに出会った後、むしゃくしゃしていたカヤと共にタナトスを出て3日が経過した。
その間にスライムやバトルボアといった俺でも討伐可能な魔物を相手にし続け、俺のレベルは晴れて16に上がった。
「この男のステータスを表示しなさい」
カヤが念写の巻物で俺のステータスを確認する。依然として俺のパラメーターは素早さが第1位を占め、その次に運の値が高いらしい。
「相変わらず回避タンク向きのステータスね。やっぱり、当面の間は囮役ね」
「反対!」
高らかに右手を挙げて俺は異を唱える。
「却下」
「無慈悲!!」
「慈悲が欲しいのなら、まずはその剣を使いこなしてみなさい」
「くっ……」
これは昨日の話だ。
俺達3人は森の中で大きな猿に遭遇した。
「でかっ!? カヤ、あいつは?」
「ミザエルエイプ、レアな部類の魔物よ。経験値がたくさん貰えるわ。ちなみに弱点は頭」
メタル的な位置づけがあいつかよ。
「あの猿は火に弱いっす。私の魔法石が火を噴く番っすね!」
ナルの右手の火の魔法石が炎を纏い始める。2人ともえらくやる気だな。俺も負けてらんねぇな。
「よし! トドメは俺に任せろぃ!」
俺はホームラン予告の様に短剣の切っ先を眼前のゴリラに向ける。
「アキトさん、珍しくやる気に満ちてるっすね。頼もしいっす」
「もっと俺を褒め称えるが良い。俺にはこの英雄王の剣があるからな! はぁっはっはは!!」
今思えば、負けフラグ全開だったな。
「防御は私に任せて。解散!」
俺たちはそれぞれの持ち場についた。ナルは猿の後方、カヤは全体が見渡せるように木の上、そして俺は攪乱の為に右側面に立った。
「ナルちゃん、お願い」
「はいっす! いでよ『火炎の城壁』!」
ナルの目の前に巨大な火の壁が出現し、猿目掛けて倒れ始める。
「アキトさん! 次よろしくっす!」
「任せろ!」
火の壁が大猿に覆い被さり、暴れ出す。弱点は頭って言ってたよな。今ならそこが狙える!
「アキト、今よ。経験値ボーナスは譲ってあげる」
「あんがとよ!」
俺は握っていた英雄王の剣を構え叫ぶ。
「光の刃よ、出ろ! おぉおおお!」
右手に力を込め、次第に短剣に光の刃が……出ない。
「なぜに!?」
「アキトさん!? 早くしないと逃げられるっす!」
「そんなこと言われてもぉ!! こんの、出ろよぉー!!」
結局、どれだけ力を込めようとも、光の刃が出ることはなく、大猿は森の奥に消えて行った。
戦闘前の負けフラグの回収速度よ。
そして時は戻り、その翌日。
「まったく、つくづく不思議な武器ね」
カヤが俺の腰に目を向けて言う。
「『英雄王の光剣』といったかしら。威力は絶大。しかし、発動条件は不明。扱いづらい武器ね」
「くそぉ……なんで反応しねぇんだよ」
うんともすんとも言わない短剣。売っちまうぞ。
「ナルちゃん、その短剣を鑑定してくれないかしら? 私では気付けない情報が分かるかも」
「合点承知の助っす!」
俺は手を差し出したナルに短剣を渡し、ナルはそれをまじまじと見つめて鑑定する。
「……んー、装備可能レベルが1の割には武器攻撃力が50と破格ではあるんすけど、それ以外には特段おかしなところは無いっすね……んん!?」
ナルがアイテムウィンドウを読み進めて驚いたような声をあげる。
「どうした? その短剣の秘密が分かったのか?」
「いえ、光の刃の発動条件は不明っすけど、製作者の名前が分かったっす。その人の名前は……ミヤ・ハンマースミス。つまり、これは『MHモデル』っす」
「なんですって!?」
今度はカヤが驚いたような声をあげた。
「うおびっくりした! そんなに驚くことなのか?」
「驚くどころの話ではないわ。ミヤさんは王都に籍を置くこの世界最高の鍛冶師の名よ。彼女が打つ刀剣は通称『MHモデル』と呼ばれているわ」
なるほど、ミヤ・ハンマースミスで『MH』か。
「そのMHモデルってのはどんだけすげぇんだ? 高いのか?」
「能力は他の武具と一線を画し、値段は数千万オーダーもざらよ」
「まじか、そんなもんをうっかり引っこ抜いちまったのか……ん? ってことはそのミヤって人の所を訪ねれば光の刃のメカニズムとか教えてくれるんじゃねぇか?」
それに同調したのはナル。
「私もそう思うっす。王都なら魔王討伐の道中に立ち寄るから時間の無駄にはならないっす。どうすかね、カヤっち?」
「私も賛成よ。ただ王都はまだ3つ先の大陸、その間この短剣をまったく扱えないままじゃ話にならない。平行してこちらはこちらで条件の策定を行いましょう」
俺たちの旅の目的が新たに加わった。
王都の鍛冶職人、ミヤ・ハンマースミスの元を訪ね、この短剣のことを聞く。うん、如何にも冒険っぽくなってきたな。
「そうと決まれば、先を急ぎましょう。ミザエルの町はもうすぐよ」
カヤが先導を取って移動を始めたその時、茂みが動き『黒い瘴気を纏った魔物』が姿を現した。
俺たちはこの魔物に、まさかの敗走を余儀なくされることになる。




