元夫を「無料の家庭教師」にして、私は自由を手に入れた
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第3話は、ついに由夜がすべてを捨ててパリへと飛び立つスカッと回です!
前夫・陸斗は「妻は一人じゃ生きていけない」と高を括っていますが……由夜の口座にはすでに隠された巨額の資産が……!?
豪快な高飛びと、取り残された前夫のパニックをお楽しみください✨
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深夜の羽田空港、国際線VIPウェイティングルーム。
ガラス張りの大きな窓の向こうには、深夜の滑走路と誘導灯の冷たい光が地平線まで広がっていた。遠くでは、大西洋を越えて欧州へと向かう長距離便が、静かに離陸の時を待っている。
ウェイティングルームの室内は静まり返っていた。時折、高級スーツケースのキャスターが絨毯を滑るかすかな音と、フライトを待つ乗客たちの落ち着いた会話が響くのみだ。
神城由夜は、滑走路を見下ろせる窓際のソファに深々と腰掛け、温かいハーブティーのカップを両手で包み込んでいた。
彼女はもう、あの息苦しい神城家の「完璧な専業主婦」の装いをしていない。
数百万クラスのハイブランドのドレスも、神城陸斗の好みに合わせて着けさせられていた大粒のダイヤモンドのイヤリングも、すべて陸家の大理石のドレッサーに置いてきた。
今の彼女が纏っているのは、上質な肌触りのカシミヤニットに、動きやすいシンプルなダークグレーのスラックス。長い髪は後ろでひとつにゆるく束ね、幾筋かの髪が頬に落ちている。
装飾をすべて削ぎ落とした彼女は、過去三年のどの瞬間よりも、美しく、そして自由に見えた。
由夜はふと、己の左手の薬指に目を落とした。
そこにはかつて、陸斗から与えられたプラチナの婚戒が嵌められていた。だが今、その指にはかすかな日焼けの跡と痕跡が残るのみで、金属の重みは消え去っている。
結婚二周年の記念日に、彼から渡されたパテック・フィリップの限定レディースウォッチも、今はもう陸家のクローゼットの奥底だ。
あの日、彼女はその時計が届いたことが嬉しくて、わざわざ時計に合うドレスを選び、深夜まで彼の帰りを待っていた。しかし、彼が帰宅したのは翌朝の五時。しかも「急な海外役員との緊急電話会議が入った」という素っ気ない一言だけで、彼女の装いに目すら留めなかった。
後になって知ったことだが、その夜、陸斗は橘晩晴が主催するプライベートなサロンパーティに顔を出していたのだ。
由夜は一度も彼を詰問しなかった。
失望を胸の奥深くに押し込め、静かに微笑むことだけを覚えていった。
「何をそんなに真剣な顔で見てるの?」
凛とした鮮やかな声が、由夜の思索を断ち切った。
向かいのソファに腰掛けた橘晩晴が、エレガントに赤ワインのグラスを傾けている。彼女はシャープなシルエットの黒いジャケットに、シルクのキャミソールドレスを合わせ、真っ赤なリップを引いていた。
そこには、六本木のサロンで陸斗の袖を引いていた可憐で思わせぶりな女の面影など、微塵もない。そこにいるのは、鋭い知性と圧倒的な気場を纏った、真のビジネスパートナーであり、由夜の唯一無二の理解者だった。
「何でもないわ」由夜は薄く微笑んだ。「ただ、過去の馬鹿な自分を少し思い出していただけ」
「馬鹿? ふん、あんたのどこが馬鹿よ」
晩晴はグラスをテーブルに置くと、腕を組んで眉をひそめた。
「あのサロンでの一幕、見事だったわよ。陸斗のやつ、私がちょっと仕掛けただけで『分重』なんて冷たい顔をしておきながら、あんたからのLINEには速攻で目を走らせてたわ。あいつ、自分が完全に優位に立ってると思い込んでるのよ。本当に反吐が出るくらい傲慢ね」
由夜はカップに視線を落とし、静かに言った。
「感謝してるわ、晩晴。今夜、あなたが協力してくれなかったら……私はまだ『彼にも忙しい理由があるのかもしれない』なんて、自分に都合のいい言い訳をし続けていたかもしれないから」
「お礼なんていらないわよ。私たちは友達でしょ?」
晩晴はそう言うと、不意に身を乗り出し、真剣な眼差しで由夜を見つめた。
「でも、由夜。本当にいいの? 離婚協議書、あんな条件でサインして出てきちゃって。神城グループの総資産がどれだけあると思ってるの? あなたには三年間、妻としてあの男を支えた正当な権利があるのよ。数億円規模の財産分与だって一言言えばむしり取れたのに」
由夜はクスクスと笑い、バッグから離婚協議書の控えを取り出してテーブル滑らせた。
「神城家の財産なんて、一円もいらないわ。私は手ぶらで出てきたの」
「はぁ!? あんた正気!? あの男に一銭も払わせないなんて、いくらなんでも物分りが良すぎるでしょう!」晩晴が思わず声を張り上げそうになり、慌てて口元を押さえた。
由夜は小さく首を振り、ポケットから一台の端末を取り出した。
それは市販のスマートフォンではなく、軍用レベルの暗号化が施された独自の金融取引専用端末だった。
由夜が画面を指でスワイプし、セキュリティを解除して晩晴に見せる。
「だって……彼のお金なんて、最初から必要ないもの」
画面に表示されたのは、世界中のポートフォリオを一括管理するプライベートバンクの資産概要ページだった。
【Y.KAMI CAPITAL / Portfolio Executive Summary】
・Total Liquid Assets(流動資産合計):€780,000,000-
・Private Equity & Hedge Fund Holdings(未公開株・ファンド保有分):€3,100,000,000-
[換算日本円概算:約 6,500 億円相当]
晩晴の視線が画面の数字に固定された。
一、十、百、千、万……。
桁があまりにも多すぎて、一瞬脳の処理が追いつかない。
「……っ!?」
晩晴は息をのんだまま凍りつき、数秒後、信じられないというように由夜の顔と画面を交互に見つめ直した。
「これ……これ、マジなの!? 桁、見間違いじゃないわよね!? 千億……いや、六千億オーバー!?」
「ええ。三年前、神城家に入った直後から、私は自分の独身時代の僅かな貯金を元手に、陸斗が書斎に放置していた巨額案件のIRデータや市場予測ロジックを独自に分析し始めたの。彼が『リスクが高すぎる』と捨てた冷門銘柄の裏にある技術特許を見抜いて買い集め、彼が『買いだ』と過信したヘッジファンドの空売りを仕掛けた」
由夜の瞳に、静かだが圧倒的な知性の光が宿る。
「神城陸斗は確かに優秀な経営者よ。でも、彼の投資スタイルには決定的な『驕り』と『盲点』があった。私は三年間、彼の隣で最高のビジネスロジックをタダで学び、それを上回る精度で市場を動かしてきた。今の私の個人資産は、神城グループの時価総額の半分を余裕で超えているわ」
晩晴は開いた口が塞がらない様子で、ゆっくりと大物を見るような目を向けた。
「……凄すぎるわ、由夜。あんた……神城家にいた三年間、陸斗を『無料の最高級ビジネス家庭教師』にしてたってこと!? あの傲慢男、自分が妻にノウハウをすべて吸い尽くされて、自分を超える怪物に育て上げられたことすら気づいてないのね!」
「そういうことになるかしらね」由夜は爽やかに微笑んだ。
「だから、陸家の財産分与なんていらないの。あんなお金をもらったら、一生あの男と『神城家の威光』に縛られることになるでしょう? 私は完全な自由が欲しいの」
由夜は窓の外、滑走路の先に広がる夜空を見上げた。
「ねえ、晩晴。これから私と一緒に、フランスのパリへ行きましょう」
「パリ!?」晩晴は目を丸くした。
「ええ。セーヌ川のほとりに、ずっと前に個人名義で購入しておいたアパルトマンがあるの。そこを拠点にして、欧州の金融市場で正式に『Y.KAMI Capital』のオペレーションを開始するつもり。パリの街並みが好きなの。誰の目も気にせず、焼きたてのクロワッサンを食べて、静かに絵を描いたり、市場を動かしたりしたい」
晩晴は驚きを通り越して、可笑しそうに笑い出した。
「ちょっと待って、あんたパリに家まで買ってあったの!? 準備良すぎでしょ!……でも、本当にこのまま黙って行っちゃっていいの? 陸斗のことよ。今夜のあんたの冷たい態度と、突然の離脱に、今頃血眼になってあんたを探してるはずわ」
由夜は少しだけ視線を落とした。
「あの人は……私を愛していたのかもしれないわね。彼なりのやり方で」
「気づいてたの?」
「ええ。でも、彼の愛はいつも『所有物』に対する愛だったわ。自分が上に立ち、私が下で健気に待っていることを前提とした愛。そんなものに付き合うのは、もう限界だったの。私は彼の『飾りの妻』じゃなく、神城由夜という一人の人間として生きたい」
由夜の言葉には、迷いが一切なかった。
晩晴はその凛とした横顔を見て、胸の奥が熱くなるのを感じた。彼女は豪快にワイングラスを飲み干すと、バンと音を立ててテーブルに置いた。
「決まりね! あの傲慢男なんて、パリの塞がれた空の下で永久に後悔させてやりましょう! 会社のアジア事業は全部、優秀な齋藤秘書に丸投げしてきたわ! 私も行くわよ、パリへ!」
「あら、あなたの『大切な侑世君』は連れて行かなくていいの?」由夜がいたずらっぽく小首をかしげると、晩晴は真っ赤になって由夜の頬をつねった。
「なによそれ! あんたが陸斗を未練がましく連れて行くなら、私も考え直してあげてもいいけど!?」
「いたたた! 参りました、私の負けです!笑」
VIPルームに、二人の明るい笑い声が静かに響き渡った。
『――搭乗案内を申し上げます。シャルル・ド・ゴール空港行き、エールフランスAF275便をご利用のお客様は……』
アナウンスが流れる。
由夜は立ち上がり、ポケットから日本のキャリアのSIMカードを抜き取ると、迷いなくゴミ箱へと投げ捨てた。
「さようなら、神城陸斗。あなたの退屈な世界には、もう二度と戻らないわ」
同刻――六本木にそびえる神城家の豪邸。
「くそっ……なぜ繋がらないんだ……!?」
静まり返った巨大なリビングで、神城陸斗は荒い息を吐きながら、暗闇の中で何度もスマートフォンをタップしていた。
画面に表示されるのは、虚しく响く電子音と【お呼び出しましたが、お出になりません】の表示。
テーブルの上には、冷めきった三周年のデコレーションケーキ。
その横には、白く冷たい紙が一枚――『離婚協議書』。
女方署名欄には、見慣れた、だが恐ろしいほど流麗で迷いのない筆致で『神城由夜』とサインされていた。条件はすべて「放棄」。彼女は家も、車も、カードも、神城家の名前すらも捨てていた。
「専務……っ!」
汗だくになった秘書が、息を切らしながらリビングへ駆け込んできた。
陸斗は血走った目で秘書を睨みつける。
「どこだ!? 由夜はどこにいる!? どのホテルに泊まっている!? 橘晩晴の家か!?」
秘書は恐怖に震えながら、手元のタブレットを差し出した。
「そ、それが……奥様(いいえ、由夜様)名下のクレジットカード、及び神城家のブラックカードは、今夜一切使用された形跡がございません。そして……先ほど羽田空港の出入国管理データを確認いたしましたところ……」
「速く言え!!」陸斗が咆哮した。
「は、はいっ! 由夜様は橘様と共に、二十分前に出国手続きを完了され……パリ行きの直行便にて、すでに離陸されました……!」
カチャン、と鈍い音が響いた。
陸斗の手から、肌身離さず持っていたパテック・フィリップの万年筆が床へ落ち、転がった。
「パリ……? 離陸した……?」
陸斗の思考が真っ白に染まる。
泣き叫ぶこともなく、金も要求せず、浮気を責めることすらなく。
彼女はただ、静かに、完璧に、彼の人生から消え去ったのだ。
「そんな……バカな……。あいつが、僕なしで海外で生きていけるわけがないだろう……! 一体何を使って……!?」
陸斗は力なくソファに倒れ込み、テーブルの上の離婚協議書を固く握りしめた。
胸の奥が、焼き切れるように痛い。
冷酷無比と恐れられた男が、生まれて初めて「底なしの恐慌」と「取り返しのつかない喪失感」に突き落とされた瞬間だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
隠されていた巨額資産を手に、親友の晩晴と共にパリへ高飛びした由夜。
一方、冷たい指輪と離婚届だけを残された前夫・陸斗の後悔とパニックが、ここから本格スタートします!
次回から【パリ編・優雅なカフェ生活&世界金融を動かす隠れトップ投資家無双】が始まります✨
「由夜カッコいい!」「陸斗のざまあ展開が楽しみ!」と思ってくださった方は、
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