第27話 初陣前夜
私に続き、森川さんまで退職という状況になった今の職場。
森川さんも引き継ぎで忙しい。
森川さんは特に重宝されていた人間だから空いた穴はでかいし、女子社員からの人気も高かったからモチベが下がっている。
でも、仕方ない。
もう後戻りはできない。
次が地獄であろうと──
◇
勇凛くんは本社での研修がスタートした。
大学に行く日以外は会社。
心配で心配でメッセージを送って安否確認をしていた。
『勇凛くん大丈夫??』
返信が返ってくるのは昼休憩。
『大丈夫です。覚えることが多いですが、頑張ります』
ため息がでる。
「母親みたいだな」
なぜか間近にいた森川さんがトーク画面を覗いていた。
「わ!プライバシーの侵害ですよ!」
「まぁ、他の内定者もいるかもしれないし、一人ではないよ。たぶん」
「ところで、森川さんは勇哉さんとはどうなんですか?」
「とりあえず、おだてて適当にあしらっている。呼び出しが多いが……。まぁ向こうのおごりだから」
森川さん……気の毒すぎる。
あの人の気まぐれにつきあうなんて。
「でも、一般人じゃ行けない場所にも連れていかれるから、割と面白かったりはする」
「そうなんですね……」
「それより、もうすぐだろ。社長秘書みたいなもんだから、今より見た目気合いれないとな」
う……。
そう言われるとプレッシャーが。
でもその通り。
「色々服とか探してきます……」
入社前からコストかかってめんどくさい!
◇
仕事帰り。
百貨店の割と高めのアパレルショップにいた。
高い……貯金が。
私が悶々としながら商品を見ていると
「何をしている」
──この声は
振り返ると、そこには勇輝さんと……謎の女性。
女の人は彼の腕にべったりとしがみついていて、奥さんだとは到底思えない。
そして彼女に睨まれる。
「見ての通り、服を見ているんです。今後のために」
「言っておくが、勤務中の服はもう用意してある」
「え?」
「私と同行することもあるから、見た目だけでも相応な姿をしてもらわないと困る」
そう言って、彼は女と行ってしまった。
相応……ですか。
仕事だけじゃダメってことか。
用事がなくなってしまったから百貨店から出ると、勇凛くんから連絡が。
『連絡遅くなりました。今終わりました。七海さんはどうですか?』
勇凛くん……。
『今大吉百貨店にいるよ』
『俺もそっちに行ってもいいですか?』
仕事終わりの勇凛くん。
スーツの勇凛くん。
見たい!
『うん。待ってるね』
──しばらく近くのカフェにいると
「七海さん!」
スーツ姿の爽やかな勇凛くん。
スーツの勇凛君を見るのは二回目。
やっぱり似合ってるしかっこいい。
生きててよかった。
嫌な気持ちがその瞬間ふっとんだ。
「お待たせしました。あの……一緒に近くでご飯食べませんか?」
仕事終わりのデート。
いや、仕事帰りに会うのは今に始まったわけじゃないけど、オフィスラブっぽい。
にやにやしている怪しい三十路女であった。
◇
「何か食べたいものありますか?」
「勇凛くんは?」
「俺は……和食がいいです」
「うん!じゃあそうしよう!」
私たちは和食レストランに行った。
「勇凛くん、今はどんなことしてるの?」
「社会人の基本的なマナーですね……。あとは兄から渡された課題が」
課題……?
「え、どんな?」
「会議の議事録作成です」
「え!?」
まだ正式入社もしていない勇凛くんにそんなことを!?
鬼!悪魔!
「勇凛君……無理しないでね」
「ありがとうございます」
その笑顔が健気だった。
「私も頑張るよ」
「七海さんも無理しないで下さいね」
あの男が無理をさせないわけがない。
どんな屈辱を味わっても成し遂げてやる。
「勇凛くんはいつ引っ越しなの……?」
「来週ですね」
私たちの思い出がある場所。
寂しく感じる。
「今から来ますか?」
「え、いいの……?」
「はい」
その後私たちは勇凛くんの家に向かった。
◇
勇凛くんの部屋は段ボールがあって、部屋のものがだいぶ整理されていた。
「なんか寂しいな」
「そうですね」
その時、目に入った。
──人生ゲーム
「勇凛くん!人生ゲームやろう!」
「あ、いいですよ」
私が入院していた時以来結局やってなかった。
前と同じコマを使って、ルーレットを回して進む。
あの時を思い出す。
まだ結婚の実感も湧かなかったし、むしろやめようともしていた。
今は、結婚してよかったって思える。
「あ……」
私が止まったところに書いてあったのは、『こどもが生まれた』。
あの時は、産もうなんて微塵も思ってなかった。
でも──
「私、こどもほしいかも」
そう思えた。
勇凛くんとの間に。
今は厳しいけど。
「沢山じゃなくていいので、俺もほしいです」
二人で見つめ合って、少し笑顔になった。
そのあとも人生ゲームを続けて、無事に二人ともゴールした。
山あり谷あり。
でもきっとゴールにたどりつける。
そう信じた。
◇
そしてとうとうその日がきた。
「川崎さん、元気でね~!」
今の会社の最終出勤日。
色んな社員に声をかけられた。
「お世話になりました」
そういって挨拶巡り。
すると視線を感じた。
森川さん。
「なんかあったら連絡して。俺はまだかかるけど、繋がりはあるからさ」
「はい……。ありがとうございます。心強いです」
森川さんには申し訳なさでいっぱいだけど、すごく助かる。
「じゃあ、またあそこで……」
そして私はこの会社を去った。
平凡なOL卒業。
次は大企業の副社長秘書。
気合を入れた。




