第28話 初陣
──初陣前日の夜
姉から電話がかかってきた。
『あれからどう〜?』
姉ちゃんが私をあの頃の平凡な私に戻してくれる……。
「姉ちゃん……私、林ホールディングスに入社することになったんだ……」
『え、転職?大企業じゃん。よかったね〜』
「実は……勇凛くんはその会社の社長の息子だったの……』
『は?』
今まで聞いた中で一番大きな『は?』である。
「実は……副社長のお兄さんに結婚反対されて、二人であそこに入社する流れになったの……」
『なぜ??』
「お兄さんの秘書になって、私が有能だって証明しないと認めないって感じ」
『秘書!?結婚してからそんなことになるって。やっぱ結婚までの順序はちゃんとするべきだったね……。今言っても仕方ないけど』
「ハイ……」
ぐうの音もでない。
『そんな無理する必要あるの?そんな扱いうけて。もう手を引いたら?』
わかってる。その方が楽。
──でも
「勇凛くんと一緒にいたいんだよ〜〜〜!」
号泣。
『そうか……“勇凛くん ”はどうなの?今』
「他の会社の内定取り消されて、強制的にあの会社に入社になって、研修中」
『えぐ。……とりあえず二人でやってみて、しんどかったら話し合って決めるしかないね……』
「うん……。ねえちゃん、話聞いてくれてありがとう」
『心配だわー。また教えてね』
電話を終えた。
少しスッキリした。
その時、スマホに通知が来た。
『明日、何かあったらすぐに連絡ください。心配です』
私を心配してくれる人がいる。
その人たちのためにも頑張ろうと思えた。
◇
──朝
私は早朝から起きて、全身を林ホールディングス社員にできるだけ相応する格好にした……つもり。
緊張する!!
あまり眠れなかったし、心臓はずっと強く早く鳴っている。
よし!!
私は時間になって家を出た。
◇
会社最寄駅の出口。
勇凛くんが立っていた。
「七海さん、おはようございます」
「おはよう!」
空元気。
勇凛くんと会社まで向かう。
「不安です……」
勇凛くんの方が緊張しているのではないか……?
「大丈夫。私、これでも社畜として何年間もやってきたから!」
「また倒れたらと思うと……」
それはなんとも言えない。
でも。
「倒れても私は辞めない。折れない」
勇凛くんが手をそっと握ってくれた。
「二人で乗り越えましょう」
朝日が私達を照らす。
そしてビルのエントランスに入った。
エリート社員がどんどんビルに吸い込まれる。
私は受付に直行した。
「林七海です。副社長につないでください」
受付嬢は内線を繋いで話していた。
「28階の会議室へどうぞ」
私と勇凛くんはエレベーターに向かった。
途中の階で降りる勇凛くん。
「七海さん……気をつけてください」
「うん」
後ろ髪を引かれるように、私たちは別れた。
そして28階。
静けさに包まれたフロア。
会議室に向かった。
会議室の前で深呼吸。
ノックをする。
「入れ」
重くのしかかる声が聞こえる。
ゆっくり開けると、勇輝さんが上座で腕を組んで座っている。
「今日からよろしく」
口元は微笑んでいるのに、目は鋭い。
「はい。よろしくお願いします」
睨み合う。
勇輝さんは紙袋を差し出してきた。
「これに着替えなさい」
紙袋に書かれている文字。
ハイブランドのものだ。
「どこで着替えればいいでしょうか」
「私はこれから自室に戻るからここで着替えなさい。着替えたら、29階に来るように。あと、この書類に記入して」
入社書類……。
彼は会議室から出て行って、私はすぐに着替えた。
新しい自分。
社畜の時とは違う。
目標のために、大切な人のために働く。
◇
着替えて会議室から出ると──
待ち伏せていた厄災。
「あ!七海ちゃん!何その服、いい感じじゃん。これから宜しくね」
「よろしくお願いします……」
追い討ちをかけるように現れる。
「これから毎日会えるねー。仕事帰りとか遊びに行こうよ。俺今日空いてるからさ」
煩いんじゃ。
「人妻なんで、お断りします」
無視して副社長のところへ。
またエレベーターを上がる。
29階。
社員の声が聞こえる。
そちらの方向へ行こうとすると
「君の仕事場はこっち」
勇輝さんが待ち構えていた。
勇輝さんの後についていくと、たどり着いたのは『秘書課』とプレートに書いてある。
勇輝さんがその扉を開けると──
誰もいない。
デスクは沢山あるのに。
どういうこと……?
私が戸惑っていると──
「秘書課の社員は全員別の部署に配属させた」
え……?
恐る恐る彼の顔を見る。
少し口角が上がっている。
「秘書課はこれから君一人だ」
とんでもない試練がさっそくのしかかってきた。




