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三十路の社畜OLが出会った翌日に八才年下男子と結婚してしまった件につきまして  作者: 七転び八起き


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第14話 年下夫の正体

「勇凛としばらく会ってないからよくわからなくて。あいつ元気?」


「土曜日にお会いする約束だと伺ってますが、その時に会えますよね……」


「あいつあんま自分のこと話さないから」


 この人と勇凛くんは絶望的に相性が悪い気がする。

 そして私も。


「俺は勇凛が誰と結婚しようがいいんだけど、兄貴はねー」


 兄貴……。

 てことは、二番目のお兄さん?


「あ、勇凛から聞いてるよね?兄貴副社長って」


 ──副社長……?


「え、まさか知らないの?」


「はい……」


「うちの会社も?」


「え……?」


「なんも知らないんだ。林ホールディングスわかる?」


 ──林ホールディングスって、超大手企業のあの……?


「親父、社長だから」


 ちょっと待って情報量が多すぎる!!


「俺も経営には関わってるけど、そんなやる気ないし、ゆくゆくは勇凛もうちの会社背負うから」


 勇凛くんの実家がどうかとか、私と勇凛くんの間には関係ないと思っていた。

 ただ、そんな大企業の社長の息子なんて、全くどこにも感じなかった。

 そんな簡単に結婚していい相手ではなかった。

 また複雑な現実がのしかかってきた。


 そして車は駅に着いた。

 私はフラフラと車からロータリーに降りた。


「じゃあまた土曜日ね」


 勇凛くんのお兄さんが窓を閉めてようとしたけど、また開けた。


「俺、勇哉(ゆうや)。よろしく〜」


 手を振って、颯爽とロータリーを抜けて、都会の雑踏の中に消えた。


 私の感情は滅茶苦茶である。


 ◇


 駅に着いて、私が会社に向かおうとする途中、スマホに着信があった。

 勇凛くんからだった。


「はい」


『七海さん、兄に会ったんですよねさっき!?』


 勇凛くんの声から焦りが伝わる。


「うん。病院で会ったの」


『病院……?』


「入院した病院に診断書をもらいに行ってたの」


『そうだったんですね……。さっき兄から七海さんに会ったって連絡があって、居ても立っても居られなくて。兄に何かされませんでしたか?』


「……駅まで送ってもらっただけだよ」


 半ば無理やり……。


『そうですか……ならよかったです』


「……勇凛くんのお父さんって、林ホールディングスの社長さんだったんだね」


 ──沈黙が流れる。


『隠してたわけではありません。そのことについては、改めてまた話します。七海さんはこれからまた会社に戻るんですか?』


「うん。書類提出だけして今日は帰るよ」


『わかりました。じゃあ、どこかで待ち合わせしてもいいですか?』


「わかった。あ……勇凛くん今どこ?」


『大学です。卒論ある程度進めたら帰るつもりです』


 ──勇凛くんの大学。実は気になっていた。


「じゃあ、勇凛くんの大学の近くで待っててもいい?」


『いいですけど……七海さんの会社からは少し遠いかもしれません』


「いいの。行ってみたいんだ。何て大学?」


『慶王大です』


 ・・・。


 やっぱり勇凛くんは、特別な人間なんだなと痛感した。

 あんなお金かかる私立大学、とてもじゃないけど一般家庭じゃ無理。

 セレブや芸能人ばかりの幼稚舎からのエスカレーター式の大学。


「わ、わかった。じゃあ書類提出したらそっちに行くね……」


『大学の正門近くにカフェあるんで、そこにいてください』


「うん、じゃあまたあとでね」


 通話を切った。


 私は空を見上げた。

 そして深く深呼吸をした。


 とりあえず、やるべきことをやろう。


 ◇


 私は会社に着いてすぐに上司に診断書を渡した。

 上司は診断書の内容を一通り読んだ。


「わかった。君の仕事は派遣の矢野さんに半分回す」


 あの派遣の子に……!?

 不安すぎる!

 でも、もういいか。

 自分を大切にしてくれない奴に尽くすのをもうやめよう。


「あ、派遣のあの子、もう辞めるって言ってましたよ」


 パーテーションの向こうから森川さんの声がした。


「え……」


 上司の顔が青ざめている。

 ひょこっと森川さんの顔が見えた。


「ちゃんと部下のこと見てないと、あとで大変なことになりますよ〜」


 そう告げると鼻歌を歌いながら森川さんは行ってしまった。

 上司は何も言わずに俯いている。


「あの、私次は人事に行かないといけないので、これで失礼します」


 私は速やかに移動をした。

 人事部に行く途中、廊下で森川さんとまた会った。


「ちゃんと持ってきて偉い」


 ニコニコしている。


「はい。おかげさまで、ありがとうございます」


 森川さんの私への好意には驚いたけど、仕事ではそのことを考えないようにしよう。


「……あのさ、なんか悩んでることある?」


「え?」


「表情で。見てるとわかる」


「そ、そうですか……」


「いつでも聞くよ?」


「いえ!大丈夫です!」


 私はその場を急いで去った。


 なんで今まで大して深く関わってこなかったくせに今頃……。

 私はもう既婚者だ!

 頭の中のモヤモヤを必死にかき消していた。


 人事に必要書類を提出した。

 興味津々な人事部の先輩。


「え!旦那さん、二十二歳!?」


「声が大きいです!」


「ごめんねー!びっくりして。こんな若い子と結婚なんて……どんな馴れ初め?」


「すみません。これ以上は……ちょっと。じゃあ宜しくお願いしまーす!!」



 私は逃げた。

 この出会いは偶然か運命か。

 よく分からないけど、面白がって覗いて欲しくない。


 その後急いで駅に向かった。


 ──慶王大へ


 テレビでしか見たことない場所。

 勇凛くんはどんなキャンパスライフを送っていたんだろう。


 勇凛くんの今取り巻く環境。

 遥かに想像を超えていた。


 でも私は目を逸らせないんだ。


 ◇


 慶王大の前に私は立っている。


 華やかな学生たち。

 ブランド物のバッグ、服。

 今の私でも買えない。


 私は待ち合わせのカフェに向かった。

 大学生達で溢れている。


 そこに座る、地味なOL。

 身につまされる。


 待つこと数十分。


「七海さん、お待たせしました!」


 勇凛くんの澄んだ声。

 勇凛くんの方を向くと、まるで天使のように見えた。

 穢れなき魂というか。


 その時、カフェの女子学生の視線は勇凛くん一直線だった。

 やっぱりモテるんだろうな……。


「七海さん。ちょっと人多いですね……。場所変えましょうか?」


「うん……」


 今度は私に向けられる針のような視線。


 私たちはカフェから出た。


「凄いね……慶王大。別世界だよ」


 勇凛くんは複雑そうな顔をした。


「他がどうかよくわかりませんが、俺はサークルとかも入ってないですし。講義とバイトだけでしたよ」


 普通の大学生が楽しむ大学生活ではなかったってことかな。


「勇凛くんって、あんな大企業の息子さんなのに、なんでバイトしてるの?」


 そんなことしなくても、お金はたくさんあるはず。


「……俺、この世界に染まりたくないんです」


 勇凛くんの瞳は真剣だった。

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