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三十路の社畜OLが出会った翌日に八才年下男子と結婚してしまった件につきまして  作者: 七転び八起き


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第13話 現れた厄災

 私と勇凛くんは夫婦。

 ならもう勇凛くんは我慢する必要はないんだ……。


「すみません、寝る前にこんなこと言って。なんとか耐えるんで、七海さんは寝てください」


 勇凛くんは背中を向けてしまった。


 なぜだろう。

 今までそんなにしたいとは思ったことがないのに、私は無性に勇凛くんに触れたくなった。

 私は勇凛くんの背中に体をくっつけた。


「いいよ。我慢しなくて。」


 勇凛くんが振り返った。


「……え?」


「私たち夫婦だし。……私もそういう気持ちになってきてしまって」


 暗闇で見つめ合ったままの私たちは、しばらく動けなかった。

 だんだんと距離が縮まってきて唇が触れそうになった、その瞬間──


「七海さん、今日はやめましょう」


「え?」


 どういうこと?


「今勢いでするのは……なんか違うと思うんです」


 何が?


「ちゃんと日にちを決めましょう」


 なぜ!?


「それまでにちゃんと、心の準備をします」


 勇凛くんは深呼吸をしたあと、目を瞑った。


「七海さん、おやすみなさい」


 え、え?

 私は心の準備万端だったんだけど。

 寝ちゃうの?

 キツイ!!


 私はなかなか眠りにつけなかった──


 ◇


 ──朝


 やっと寝れたのは三時ごろだろうか。

 多分人生で発情したのは、これが初めてではないだろうか……。


 私が布団から起き上がると、勇凛くんも気がついて起きた。

 二人でベッドに座ってボーッとしていた。


「……七海さん、おはようございます」


 勇凛くんの表情は、心なしか力がなく虚だ。


「うん……おはよう」


 ──しばしの沈黙。


「俺、朝方まで眠れませんでした……」


 お前もかい!と心でつっこむ。

 二人で夜中に悶々として眠れなくて起きていたっていう。


「……ふふっ」


 私は笑ってしまった。


「どうしたんですか?」


 勇凛くんは戸惑っている。


「いや、私たちってもしかして、似たもの同士なのかな……」


「え?どういう意味ですか?」


「いや、いいの。気にしないで」


 二人で寝ぼけ眼で歯磨きをして、着替えて、朝ごはんを食べる。

 テレビで朝のニュースを見る。


「8時になったら行くよ」


「はい。じゃあ会社まで送ります」


「うん、ありがとう」


 一人で行く、は、勇凛くんには通用しないから、もう言うのをやめた。


 ◇


 二人で玄関から出て、朝日の中を歩く。

 寝不足のせいかお互い会話が出てこない。

 でも、手が触れ合って手を繋ぐ。

 それで満たされてしまった。


 もうすぐ会社。

 よーく見ると、見たことがあるシルエット。


 森川さんだ。


 気まずい!!

 私は勇凛くんの背後に隠れた。


「どうしたんですか?」


「ごめん、ちょっとこのままでいさせて」


 しばらく身を潜めていると──


「おはよ〜」


 ああ……


 勇凛くんの肩越しに見ると、ガッツリ気づかれていた。


 勇凛くん、無言。


「なんで二人ともそんな元気ないの?」


 森川さんは揶揄うように言う。

 勇凛くん、相変わらず無言。


「朝から仲がいいことで。じゃあまた後でね〜」


 そう告げてビルに入る森川さん。

 微妙な空気が流れる。

 振り返った勇凛くんの顔は険しかった。


「あの人馴れ馴れしくないですか?」


「……気さくな人、なんだよね」


 でもさっきのは悪意を感じた。


「七海さん。気をつけてください」


「うん」


 勇凛くんと私は、別れを惜しむように離れた。


 ああ

 恋してるな。


 朝の空を見ながら思った。


 その時スマホに通知がきた。

 勇凛くんからだった。


『兄から連絡が来ました。土曜日に来いと言われますが、予定空いてますか?』


 土曜日……

 はやっ

 心の準備が


『予定ないよ。大丈夫』


 勇凛くんのお兄さん。


 どんな人なんだろう。


 ◇


 私は午後休をとって、役所と病院に来ていた。

 人事に提出する書類と、森川さんに言われた診断書をもらいに。

 病院に着いて、受付まで歩いている時、うっかり持っている書類を落としてしまった。

 慌てて拾っていると、落ちた書類を拾ってくれた人がいた。


「ありがとうございます」


 その人の顔を見ると──勇凛くんだった。


「どういたしまして」


 ん?

 なぜここに?

 っていうか、なんでスーツ着てるの?

 私は顔を凝視してしまった。


「え、なに?」


 勇凛くんが戸惑っている。


 ──違う。


 そっくり。

 本当にそっくり。

 だけど、顔つきや体格がしっかりしている。

 他人の空似……?


「スミマセンでした!」


 私は慌てて受付に行った。

 そのあと、診察を受けて、診断書をもらった後、病院から出ようとすると、またさっきの男の人に会った。


 本当にそっくり……。


 まさか

 まさかね


 軽く会釈をしてその場を去ろうとした。


「ねぇ、君が勇凛の奥さん?」


 ──え?


 その人の方を見ると、謎めいた笑みを浮かべている。


「さっき落とした書類見てわかった。勇凛の名前あったから」


 これは、まさか……


「あ、あなたは──」


「勇凛、俺の弟」


 勇凛くんのお兄さんに早速遭遇してしまった。


「ふーん。こういう女が勇凛の好みなんだ」


 勇凛くんの顔をしているのに、人を見下したような態度をしている。

 でもこの人は、勇凛くんの家族なんだ。

 私も“林 ”七海なわけで。


「はい、七海と申します」


 私は頭を下げた。


「色々聞きたいんだけど」


 ここで……?

 私が何も答えられないでいると、勇凛くんのお兄さんは手招きをした。


「車で送ってくよ」


 え?


「あの」


「どこ行くの?これから」


「会社……です」


 なんか怖い。


「あの、今日は別の用事もあるので、結構です」


 私が踵を返すと、腕を掴まれた。


「え!?」


「大丈夫だから。手だしたりしないから」


 は??

 何この人、怖すぎる!!

 私はそのまま車の助手席に乗せられた。


 高級車。

 ハイブランドの時計。

 スーツも高そう。

 でもなんかチャラい。


 運転席にその人が座ると、タバコを出して吸い始めた。


「どこ行くんだっけ?」


「あの、いいです本当に」


「他人じゃないんだから少し話そうよ」


 なんて強引なんだこの人!!


 車のエンジンをかけると、洋楽が爆音で流れた。

 驚いて恐怖を感じた。


 逃げたい!!


「駅まででいいです!」


「え?聞こえない」


 お前の音楽が煩いんじゃ!!

 イライラしてきた。


「駅まででいいです!!!」


「顔こわっ」


 笑い出した。


 これがお兄さん……?

 顔しか似てない。

 ショックだ。

 完全に遊ばれている。


「駅までねー。てか何歳なの?」


 年齢をダイレクトに聞くとか。


「……三十です……」


「え??」


「三十です!!」


「え、俺とタメじゃん。やば」


 同い年……?

 お兄さんと歳離れてるのか勇凛くん。

 確かお兄さん二人いるって言ってたけど……。


「七海ちゃん勇凛の顔面で決めたでしょ?」


「え??」


 七海ちゃんって、いきなり!?


「あいつ顔だけじゃん。まだガキだし」


 ──この人、本当に……

 はらわたが煮えくりかえる。


「勇凛くんは顔だけじゃありません!!」


 今までで一番大きな声が出た。


「びびった。運転してるんだから、考えてよ」


 私を怒らせるからだ!

 とにかくタバコ臭!


 地獄のドライブだ。

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