第12話 お泊り2
勇凛くんの行った方向に走ると、勇凛くんが見えた。
勇凛くんは一人だった。
勇凛くんが振り返った。
「あ、七海さん!どうしてここに?」
驚いている。
「えっと……さっきまで会社の人と一緒にいて」
「そうだったんですね。タイミングが合ってよかったです。家まで送りましょうか?」
腕時計を見た。
もう23時……。
「ううん、大丈夫。家までまた来たら終電なくなっちゃうよ」
勇凛くんの顔を見れただけで嬉しかった。
「……俺の家来ますか?」
「え」
「ここからそんなに遠くないんで」
勇凛くんの家。
私が酔い潰れて運んでもらった時初めて行った場所。
ほとんど記憶がない。
まだ一緒にいたい。
──でも
「……明日仕事あるからまた今度にするよ」
胸が苦しくなった。
「七海さん」
顔を上げたら勇凛くんが目の前にいた。
「わ!」
「そんな顔するの反則ですよ」
「え、私なんか変な顔してた?」
勇凛くんが私の顔を覗き込む。
「寂しそうだなって」
恥ずかしい……。
「うん。まだ一緒にいたいって思っちゃったんだ……」
まだ自分にこんな乙女な心があっことに驚きだ。
「そんなこと言われたら、連れて帰りたくなりますよ」
勇凛くんの、穏やかで優しい表情。
今までの彼女にもこうだったのかな……。
◇
私は導かれるように勇凛くんの家に向かった。
勇凛くんの部屋。
うっすら覚えてる記憶と一致している。
ふと目に入った、人生ゲーム。
入院していた時に遊んでいたやつ。
「七海さんどうぞ」
ついてきちゃったけど、どうしよう……。
このままゆっくりしていたら終電。
でももうここまできたら──
「……勇凛くん、泊まってもいいかな……」
リュックを置いた勇凛くんが私を見る。
「え、元からそのつもりですよ?」
「ありがとう……」
「これから二人で暮らすんですから、遠慮しないでください」
勇凛くんは直ぐにお風呂を洗いに行った。
「私コンビニで必要なもの買ってくるね」
スポンジを持った勇凛くんが慌てて出てきた。
「俺ついていきますよ!」
「いや、申し訳ないから。一人で大丈夫だよ」
「ダメです!!」
釘を刺された。
その後、深夜のコンビニに勇凛くんと向かった。
私がスキンケア用品や下着を買ってる間、勇凛くん雑誌コーナーで何かを見ている。
『漢字てんつなぎ』
ハマってしまったのだろうか。
買い物を済ませ勇凛くんの家に向かう途中、不動産屋のガラス窓に貼られた物件の間取り図を二人で見た。
「七海さんはどんな間取りがいいですか?」
「うーんと、それぞれ部屋があった方がいいよね」
「……なんでですか?」
何も言えなくなる。
「二人で住める期間、そんなに長くないかもしれないじゃないですか。子供産まれたら引っ越さないといけませんし」
もう頭が追いつかない。
なんで勇凛くんはそんなに落ち着いて考えてるの?
わかってる。勇凛くんは私との将来をちゃんと見据えている。ずっと先まで。
「勇凛くんはすごいね……。大人顔負けだよ」
「俺も大人なんですけど……」
声が低くなる。
「スミマセン……」
私が子供なんだ。
◇
勇凛くんの家に着いた頃には、日付を跨いでいた。
「七海さん先に風呂に入ってください」
「え!わたしはあとでいいよ!」
「七海さんは明日仕事なんですから、早く上がって寝る準備した方がいいです」
勇凛くんはクローゼットから何か持ってきた。
「これ、着てください」
勇凛くんの服……。
勇凛くんの服を着るって。
なんかムズムズする。
「じゃあ先に入るね、ありがとう」
私はすぐに風呂に入って湯船に浸かった。
お風呂の中がピカピカ。
ちゃんと掃除してるんだな……。
家事もちゃんとしてる。
自立してる。
うーーーん。
しっかりしなきゃ。
急いで湯船を出て、シャワーを浴びる。
勇凛くんのシャンプー。
いい匂い。
素早く洗って、風呂のドアを開けると──
タオルを持った勇凛くんが目の前にいた。
「あ……」
二人で固まった。
全身濡れてて素っ裸な自分と、まさか出てくるとは思ってなかった勇凛くん。
これは、ラブコメ的展開ですよね?
リアルでは勘弁してください!!
「すみません!!渡しそびれたんです!」
慌てて目を逸らしてタオルを渡す勇凛くん。
「私こそごめん!」
なにが??
自分につっこむ。
急いで自分を拭きながら、もっとボディケアをしておけばよかったと、元お一人様社畜女は考えていた……。
勇凛くんの服を着ると、勇凛くんの匂いがして安心した。
「お、おまたせしました……」
勇凛くんを見ると、ずっと俯いている。
「どうしたの……?」
ガッカリしたの……!?
結婚したの後悔されたらどうしよう!!
「すみません……俺」
え……え??
「女の人の体見たの初めてで……」
・・・。
「え?」
勇凛くんは、今まで何人か付き合っていたと言っていた。
何が何だか全くわからない。
私は激しく混乱していた。
「え……勇凛くん彼女いたんだよね……?」
勇凛くんは頷いた。
「彼女はいたんですけど、そういうことはしませんでした」
何か訳があるのだろうか。
「勇凛くん、もしよければ、理由聞いてもいい……?」
「……俺は、結婚するまでしないって決めてたんです」
その言葉に驚いた。
男でそんな考えの子がいるの!?
女ならともかく。
「それ……今までの彼女は納得してたの……?」
「いえ。求められる時にそれを言ったら、別れを切り出されました」
女だって性欲はある。
好きな人となら深く繋がりたい。
なんとなくわかるけど……。
「勇凛くんは相手に誠実なんだね」
「わかりません。ただ、もし万が一ってこともあるので」
相手のために自分の欲を抑えられるのか。
「……引きますか?」
「え?」
「言われたことあるんです。引いたって」
勇凛くんは少し苦しそうな顔をしている。
「ううん。引かないよ。むしろ尊敬するよ」
そんなに真剣に向き合ってくれる男の人と会ったのが初めてだ。
私なんて、避妊拒否されそうになったり、すごい雑な扱いを受けていて、あまりそういう行為に良い思い出がない。
「私は勇凛くんが旦那さんでよかったって思ったよ」
勇凛くんは優しい笑顔に戻った。
「ありがとうございます。そう言ってもらえて安心しました」
その後、勇凛くんがお風呂に入った後、私たちは同じ布団の中に入った。
今回は迷わなかった。
自然と手を繋いでいた。
「勇凛くん、おやすみなさい」
勇凛くんの方を向いたら、キスをされた。
完全に目が覚めてしまった。
「すみません、今までは我慢できてたんですけど……」
けど──?
「ちょっとヤバいです」
勇凛くんの手の力が強くなった。
勇凛くんの今まで見たことがない熱い眼差しから目が逸らせなかった。




