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三十路の社畜OLが出会った翌日に八才年下男子と結婚してしまった件につきまして  作者: 七転び八起き


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第10話 結婚報告

 眩暈だった。

 眩暈は割とよくある。

 耳石が剥がれやすい体質だからだ。

 だから別に特別なことでもなかった。


 ただ──


 勇凛くんが私に覆い被さっている。


「すみません!大丈夫ですか?」


 勇凛くんが顔を上げた時、目が合った。

 見つめ合ったまま、時計の秒針の音だけが聞こえる。

 心臓が早く脈打つ。


 その時自然に私たちの唇が重なった。


 あの時は一瞬だった。

 今度は、10秒くらい。


 そのあと、私も勇凛くんもお互いの顔が見られなかった。


「……眩暈は割とよくあるんだ。驚かせてごめんね」


「そうなんですね……俺今日も泊まりますよ」


「ううん。大丈夫。明日学校あるんだから、今日は帰って」


 私が促すと、「わかりました」と渋々了承してくれた。

 勇凛くんは立ち上がって、私に手を差し伸べてくれた。


「帰ります」


「うん」


 ぎこちなく話す私たち。

 私は勇凛くんを見送ったあと、部屋のフローリングにへたりこんだ。


「こんなんじゃ心臓がもたない……」


 その時、スマホに着信があった。

 姉からだった。


「もしもし」


『退院した?』


「うん、退院したよ」


『あの男の子とはどうなったの?』


「うん……。これから夫婦として二人でやっていくつもりだよ」


『そうか〜。おめでとう!式は?』


「まだ何も考えてないよ」


『まあ急がなくていいからねー。ところでさー、あんた、その子の扶養とか社会保険関係ちゃんとやってる?』


「え?」


 何も考えていなかった。


「え、扶養って、どうすればいいの?」


『今彼学生なんでしょ?なら親の扶養に入ってるんじゃない?』


「たぶん……」


『あんたの扶養に入れれば、配偶者控除で手取りあがるよ』


 わけわからない……。


『彼のご両親に会いに行って相談すれば?』


「え──」


『早くやった方がいいと思うよ。名義変更とかもね〜』


 やらなきゃいけないことが、どんどん増えてゆく。

 勇凛くんの親に会いに行く……?

 可愛い息子を奪った社畜OLとか絶縁されたらどうしよう……。


「姉ちゃん……ヤバい私色々自信ない」


『あんた一人じゃないんだから、二人で頑張りなさいよ』


 電話を切った。


 もう何を言われても、行くしかない。

 まず勇凛くんに連絡しよう。

 私は勇凛くんにメッセージを送った。


『扶養のことで相談がある』


 しばらくすると返信が来た。


 勇凛『なんでしょうか』


 七海『勇凛くん親の扶養に入ってるよね?』


 勇凛『はい』


 七海『私たち結婚してるから、私の扶養に入った方がいいと思って』


 その後返信がなかなか来ないと思ったら着信があった。


「もしもし」


『七海さん。俺、七海さんの扶養に入るのはキツイです』


「え、なんで……?」


『妻に養われてるって感じが、ちょっと……』


 プライド的に難しいかな……。


「勇凛くんが扶養に入ってくれると、家計が助かるんだ……」


『そうなんですか?』


「うん。税金の関係で」


 ──沈黙


『……わかりました。じゃあ、四月まではそうします』


「ありがとう。あとね、その件も含めて、勇凛くんのご両親に会おうかと思ってるの」


 正直めちゃくちゃ怖い。


『両親は仕事で海外に住んでます』


「え?」


 海外……?


『家の細かいことは兄達がやってます』


 お兄さん達……?

 じゃあ私、お兄さん達に会いに行かないといけないの?


「わかった……。じゃあご家族が都合がいい日にお伺いできれば」


『……わかりました。一応両親にも説明します。ただ──』


 ただ……?


『兄達は厄介なので、必要最低限の会話で早く切り上げましょう』


 どういうこと!?


「厄介ってのは……?」


『会ってみればわかると思います。俺は七海さんと兄たちを会わせたくないです』


 不安すぎる!でも逃げていても仕方がない。

 夫婦としてやっていくにはこの試練を乗り越えねば……。


「わかった。お兄さんたちに挨拶と必要な事だけ話そうと思う」


『……兄に連絡しておきます。それより』


 それより?


『俺たちの住む家を探したいです』


 あ。そうだ、後回しにしていた。


「そうだね。じゃあ今度物件見に行こうか」


『はい。早く一緒に暮らしたいです』


 一緒に暮らす──

 毎日一緒。仕事以外。

 この距離でも私の胸は騒いでるのに、一緒に住むとか、過呼吸起こすんじゃないか?


「じゃあ、そろそろお風呂入るから切るね」


『……七海さん』


「ん?」


『好きです』


 そのあとすぐに通話が切られてしまった。


 悶える私。

 なんで私が好きなのかさっぱりわからない。

 ただ、勇凛くんを大切にしたい。

 そんな気持ちが宿っている。


 ◇


 ──翌日


 私は上司と面談している。

 結婚の報告をするためである。


「先日結婚しまして、そのご報告です」


 上司は顔色一つ変えない。


「そうか。おめでとう」


 人の心がないんか!

 その後すぐに人事へ。


「え!川崎さん結婚したの!?」


「はい。必要なものが知りたく」


「え~おめでとう!これに書いてあるもの持ってきて~!」


 リストを渡された。


「相手どんな人?」


 人事の先輩は興味津々である。


「優しくて誠実な人です……」


 言って恥ずかしくなった。


「どんな仕事してるの??」


 なんでこんなに聞いてくるんだ!


「フリーランスです」


 適当に答えた。


 そのあと自分の部署に向かう途中、森川さんに会った。


「あ、川崎──今はなんだっけ?」


「旧姓のままでいいですよ」


「いやーびっくりした」


「え?」


「いつの間にか結婚してて」


「私もびっくりしてます」


「なんで?」


「初めて会った次の日に結婚──」


 あ、まずい口を滑らせそうになった。


「え?どういうこと?」


「あ、なんでもないです!」


 森川さんは腕を組みながら、何かを考えている。


「あの子見た事あるんだよね」


「え!」


「前飲み会の時にいたような気がするんだよ」


 あー!やばい!


「勘違いですよ。全然違いますよ」


「今日あの居酒屋行ってみようかな」


 やばいやばいやばい。

 今日勇凛くんバイトの日じゃん!!

 どうしよう。


「あ、あの、今日一緒に別の所に食べに行きませんか!?」


 咄嗟に回避しようとした。

 が……。

 森川さんとサシでご飯?


「いいけど。なんで?」


「森川さんと話してみたかったんです~」


 自分でどんどんドツボにはまっていく。

 とりあえず勇凛くんバレ回避すればいいんだ。


 て、まだ隠そうとしている自分を脳内で殴っていた。


「わかった。じゃあ、川崎さんのおごりね」


 げ。

 まぁ仕方ない。私が言いだしたことだ。


「わかりました!ありがとうございます!」


 森川さんとご飯行くことになってしまった……。

 勇凛くんにバレたらヤバい。

 ああ、バカなの私??

 その後、ずっとそのことを考えてモヤモヤしていた。


 ◇


 今日も無事に帰らせてもらえた。

 安堵してビルを出ると、森川さんが立っていた。


「じゃあ、行こうか」


「はい」


 いったい何を話せばいいかわからないけど、適当に話して乗り切ればいいんだ!

 と甘い考えでいた。

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