こんな奇跡みたいに都合がいいことがなにもなく起こるわけも無い。
ギロチンが落ちて、魔王の頭と胴体が簡単に千切れて飛んだ。
魔王の首はぽんっと飛んで高台の下の広場まで落ちてきて。
一人の男の腕の中に吸い込まれるように落ちていった。
男は歓声を上げる人々の中で異質だった。
ただ一人だけぼろぼろと涙をこぼして魔王の処刑を見ていたからだ。
そして魔王の首が、自分の腕の中に吸い込まれるように収まると。
魔王の首を抱きしめて、がむしゃらに走り出した。
その速さは動きは、もはや人間のものではない。
魔王の首を持って逃げ去った男を兵士も人々も追ったが、だれ一人として追いつけるものは無く。
森の中に逃げ込んだ男の姿を、誰も捕まえることは出来なかった。
追っ手を振り切って、男は手の中の大切なものを見る。
守りたかったのに守れなかったもの、あんなに酷い最後だったというのになぜか幸せそうに笑う少女の首を。
悲しくてどうしようもない男の頭の上に、少女がいつも持っていた黒い本が落ちてくる。
本は魔王の本だ。
少女はそれを生まれた時から持っていたものだと話していた。
意思を持っているかのように男の頭の上に落ちてきた本を、男は何かにすがるように読み始める。
大体のページは文字が滲んで読めなかった、まるで男には読む権利が無いとばかりに。
ただしいくつかのページだけ読めた、それは男に関する内容のようだった。
魔王のそばにおりその影響下に長い間いると魔族化する。
魔族化すると魔王の一部能力が扱えるようになる。
主の魔王がいなくなると、魔族化はおさまり徐々に人間に戻っていく。
魔王も魔族も特定の条件下において、転生することが出来る。
男はそのページを何度も何度も読んだ。
泣きながら読んで笑った。
そこには、男が心から望んだこと全てが書いてあった。
こんな奇跡みたいに都合がいいことがなにもなく起こるわけも無い。
きっとこれは神様みたいに強大な力を持つ誰かが願っていたのだろう。
心の底から、男に幸福が訪れることを。
そして男が心から望む幸せは、たった一つだけだった。




