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22 その頃

本日更新1回目です。

続きは明日の予定です。

 ユングヴィ王城がハインリヒによるクーデターによって騒乱に包まれていた頃。

 ステラ魔導院を挟んだ反対側に隣接するヴァナディース王城では、年齢不詳の美男子が物憂げな表情を浮かべていた。

 彼の名はアレクシス・ケーニヒ・ヴァナディース。ユングヴィ・ヴァナディース双聖国の頂点に立つ聖王の一人だ。

 そんな彼は現在、腹心の配下達を自室へと集めて何事かを話し合っていた。


「どうやらハインリヒが動き出したみたいだね。こっちに連絡が無かったのが少し気掛かりだけど……。何かトラブルでもあったのかな?」


 ハインリヒの無二の親友である事を自負するアレクシスにとって、彼が自分と同じ立場へと昇ってくるのは歓迎すべき事態だった。立場上、表立っての協力は難しいにせよ、その後押しは全力で行うつもりでいた。

 実際に彼からも、ハッキリとした内容はボカしてではあったものの、内々に何度か相談を受けていた事もあり、決行の際にはなんらかの報せがあるものと考えていたのだが……。


「こちらから情報が洩れる事をハインリヒ殿は懸念したのでは? 残念ながら我が方も完全な一枚岩とはいきませんので」


 部下の一人が淡々とそのような見解を述べる。


 そうなってしまった原因は今から20年以上も昔、大戦初期の頃へと遡る。

 当時のヴァナディース聖王の座には、アレクシスではなくその兄ゲルハルトが就いていた。だがゲルハルトは古参貴族のみを優遇する差別主義者であり、国内の情勢に要らぬ不和を招く存在であった。そんな中で大戦が巻き起こり、双聖国の全貴族が一丸となってその危機に対処せなばならない事態に際し、アレクシスはゲルハルトの排除を決めた。アレクシスはその優れた実力を持って、大聖印をゲルハルトから半ば強制的に譲渡させ、ヴァナディース聖王の座に就く事となったのだ。

 だが身内に甘かったアレクシスは、そんなゲルハルトに対しても情を見せてしまう。大戦が終わった時点で不穏分子は取り除くべきだったのに、それを怠ったってしまったのだ。そしてそのツケが今になって回ってきてしまう。現在ゲルハルトは実の息子を次期ヴァナディース聖王の座につけ、復権を狙うべく裏で絶賛暗躍中なのであった。


「そうだね。それは完全に僕のミスだ。いい加減覚悟を決めねばならないのだろうね」


 半分とはいえ血の繋がった兄を殺す事に対し、強い抵抗感を抱くアレクシスであったが、これ以上の双聖国内での混乱は避けるべきだという聖王としての判断を優先させる決意をようやく固めるまでに至った。


「ハインリヒ殿のクーデターによってユングヴィ側は当分の間、荒れるでしょう。こちらとしてはハインリヒ殿への支持をすぐさま明確に示し、混乱を最低限に抑えるべく動く他ありませんね」


「そうだね。向こうがある程度落ち着いたら、いい加減兄上の始末をつける事にするよ。それまでに根拠となる物証を集めておいて欲しい」


 実力は兎も角として、血筋は向こうが明らかに上なのだ。理由もなく始末しては反発も大きい事が懸念される。


「そちらについてはご安心を。既にあの方の不正の証拠は山ほど集まっておりますので」


 そんなにべもない部下の言葉に対し、アレクシスはただ苦笑する他なかった。



 そうしてユングヴィ側の状況を窺いながら、今後の方針を話し合っていたアレクシス達。だがそんな彼らへと、ユングヴィ王城の方から放たれた謎の魔術が襲い掛かる。


「なっ!? これはまさか……っ」


 アレクシスが魔術攻撃を認識した次の瞬間には、精鋭たるはずの彼の腹心達が次々と床に倒れ伏していく。


「くぅぅっ! この魔力圧……まさか誰かが禁呪を行使したのか……?」


 咄嗟に懐刀で膝を突き刺した事で、辛くも夢の世界への招き手を振り払う事に成功したアレクシス。


「僕の魔術障壁をこうもあっさりと打ち破るなんて……。けど今のユングヴィにそんな事を出来る魔導師なんて……。まさかハインリヒの仕業なのかな? いや仮に彼が大聖印を手に入れていたとしても、そこまで大それた事が可能だとは思えないな……」


 自他とも認める双聖国最強の魔導師であるアレクシスだったが、そんな彼の心中には初めて現れた格上の存在に対する未知の感情が芽生え始めていた。



 その頃とある国のとある城の一室にて。2人の女性が秘密の会話を交わしていた。


「母上、双聖国で何やら動きがあったようですよ」


「そう。貴方が撒いた種がようやく芽吹いたのかしら? それと私の事は姉上と呼ぶようにと何度も言っているでしょう?」


 色素の薄い桜色の髪といいおっとりとした風貌といい何かと良く似た2人だが、一番そっくりなのは全てを見透かすような漆黒の瞳だろう。様々な瞳の色を持つこの大陸の人々の中にあって、これほど混じりっ気のない黒というのはまず彼女達の他に居ない。

 それ程までに似通っている2人だったがその実、親子ほど歳が離れていた。しかし同じ父親の遺伝子を受け継いでいるという意味では、2人は姉妹であると言えるのかもしれない。


「はいはい。分かりましたよ姉上。それでどうしますか?」


「この国の今の長は貴女よ」


「……分かりました。ではそのように」


「ええ。我らが始祖の悲願を果たすとしましょう」


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