6 展覧会
中山道さんの俳句の展覧会へ。
"中山道 俳句展覧会" の看板を掲げた芸術文化センターの大会場は、思っていたよりも幅広い年代の人達で賑わっていた。私は正直、俳句の展覧会とは一体どんなものなのか想像がついていなかった。五・七・五の詩を並べて見せることで、人が集まるのだろうかと疑問に思っていた。しかし、壁に掛けられた作品を見て、俳句の展覧会に興味を持った。それぞれの俳句が筆で書かれ、おしゃれな額縁に入れられて壁に掛けられてあり、まるで絵画のように人を惹きつけるものだと理解できたからだ。
「小春ー、退屈ー」
「おう、ギャルには俳句の良さがわからんだろうな」
「ウザいー」
「京子、面白いわよ。クスッと笑えるような句もあるし」
「えーーー」
京子は心底退屈そうだった。そんな私たちの側へ、和服姿の上品な物腰の年配の女性が近づいてきた。
「会社の上司と、部下の方たちかしら?」
その女性は気品を感じさせる穏やかな話し口調で私たちに声をかけた。
「あ、いえ、妻と愛人です」
係長は間髪を入れずに素で返答した。京子は怒りのこもった目つきで係長を睨んだ。
「キモいー」
「あの、係長、そんなこと、絶対に、絶対に、ありえませんから」
「香崎、そんな嫌そうに否定すんなよな……」
私も間髪を入れずに素で係長に言い返していた。係長はへこんでいた。
「まあ、仲の良いこと。息ぴったりな冗談でしたわね。おほほほ」
「あ、すみません、おっしゃったように、上司と部下たちです」
係長はみっともなさげに後頭部を触りながら言った。
「やっぱり。申し遅れました。私、当展覧会を主催しております、中山道と申します」
60代半ばくらいに見えるこの女性はとても丁寧に自己紹介をしてきた。
「スーツを着てらっしゃる方が珍しいので、お声をかけさせていただきました」
「あ、これはどうも、ご丁寧に」
「どれも特徴ある字体で、見てるだけでも楽しくなりますね」
「おほほほ。よく料理は見た目って言いますでしょ、俳句も見た目なんですのよ」
「係長はー、見た目最悪ですねー」
「あのなぁ」
中山道さんはにこやかに二人のおバカなやり取りを聞いていた。
「おばあちゃーん、あんま筋肉ないねー」
京子は下品に中山道さんの肩の辺りを触りながら尋ねた。私も係長も、京子の不躾な行動に一瞬固まってしまった。
「あら、もしかしたら、私の息子のことをご存知で?」
私と係長はさらに固まってしまった。
「どうしてー?」
「突然、筋肉の話をされるから、もしやと」
「あ、そうそう、そうです、以前、息子さんの探偵事務所に仕事を依頼したことがありまして、今回はその時の縁で……」
係長が咄嗟に話を取り繕った。
「まあ、そうでしたの」
中山道さんは嬉しそうだった。京子は舌を出して反省していた。私は、この時ばかりは親友のことをアホだと思ってしまった。
中山道さんはスタッフや来場者に、ものすごくゆったりと優しく冷静で、それでいて忙しそうに応対していた。
展覧会に一時間ほどお邪魔して、その後、私たちは芸術文化センターの向かいにある喫茶店に入った。私は紅茶を、係長はコーヒーを、京子はメロンソーダを注文した。
「ふう、なかなか面白かったな、香崎」
「そうですね、係長。私、日本文学専攻だったので、結構楽しめました」
「あー、なんかー、疲れたわねー」
京子だけが疲弊しているように見えた。
「中山道さん、品のある素敵な方でしたね」
「おう、日本を代表する大先生だからな」
「ちっちゃいおばあちゃんねー、いい人そうだったよねー」
「中山木さんとは、とても親子だとは思えなかったんですが、係長はどう思われました?」
「おう、俺も同意見だ、偽の親子じゃねえか?」
「係長、なんか、失礼な言い方……」
「おう、香崎、本人がいないからいいんだよ」
「そうよー」
京子はギャル丸出しだった。
「係長ー、なんでそんな難しい顔してるんですかー、砂糖たくさん入れたコーヒー飲んでるからー、似合わないー」
「おう、似非ハードボイルドで悪かったな」
私は係長を見た。確かに眉にシワを寄せて何か考え事をしているようだった。
「係長、どうかしましたか?」
「ん、いや、何かおかしい気がしてよ……」
「係長の頭がですかー」
「やかましい」
いつものおバカな会話だったが、係長は真剣に考え事をしているように見えた。
「ま、気のせいか」
「係長のせいですねー」
「うるさい」
「ちょっと、京子」
係長はコーヒーに角砂糖を追加して飲み干した。私たちは捜査会議という名の雑談をしばらく続けてからその喫茶店を後にした。
中山道さんと、中山木ニック(中山季二句)探偵、ホントに親子なの?




