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名探偵・ザ・グレート  作者: 真山砂糖
11/19

11 オレオレ詐欺

続きます。

 翌早朝、110番通報があった。「高齢の祖父がある人にお金を渡すと言っているのでどうすればいいのか」と、その老人の家族からの通報だった。どうやらオレオレ詐欺に引っかかっているようだった。

 私たちは急行した。T市の青木さん一家。世帯主の青木さんの父親で85歳の富三郎さんが、スナックで昔知り合った女性から交通事故の示談金が必要だと、現金を求められているということだった。富三郎さん本人はもうろくしていて、現金を用意して渡す気満々でいた。家族の了解の下、現金を新聞紙に替えて、富三郎さんに騙されているフリをしてもらうことになった、本人は認知機能低下のために理解していないのだが。

 所轄署に応援を要請して、私たちはすぐに指示された受け渡し場所へ移動した。現金受け渡し場所のS百貨店のフードコートは、開店後すぐに賑わっていた。フードコートを取り巻くように並んでいる雑貨店や喫茶店で、私たちは新聞紙入りの紙バッグを持つ富三郎さんを見張っていた。とても時間が長く感じられた。緊張の糸を切らさずに集中し、数十分経った。すると突然、火災報知器が鳴り出したのだ。その大きな音は、無線連絡の声をかき消してしまうほどだった。フロアの客が叫びだしたりして、誰かがその場から離れ去ろうとすると、それにつられて徐々にではあるが、逃げ出そうとする人が出てきた。店舗の従業員たちが慌てて集まるものだから、拍車をかけ、騒々しさが激しくなっていった。

 富三郎さんは心配になってきたのか、席から立ち上がり、キョロキョロしていた。富三郎さんを見失いそうになるかと思うくらい、人々が騒ぎでごった返していた。その時、富三郎さんの背後を通過する若い女性が目に入った。その女性は歩く速度を上げて去っていくように見えた。

「《灰色のスウェットのソバージュの女だ! 紙バッグを奪って逃げた!》」

 すぐに係長から無線連絡がきた。その女性と対極の場所にある喫茶店にいた私は、富三郎さんの手元に目を向けた。やはり、すでに紙バッグはなくなっているようだった。

「京子、バッグが奪われた!」

「みたいねー!」

 私と京子は保護するために富三郎さんに近寄った。所轄署の刑事たちが走り去る女を追って行った。

「《嶋村、高木。お前らの右手にカレー屋があるだろ。そこの看板の陰にいる帽子の男を確保しろ!》」

 係長の指示で先輩たちが瞬時に動いた。走り去る女を見つめる深々と帽子をかぶった怪しい男を、先輩たちが取り囲んだ。係長は確保を見届けると、私と京子の元へ来た。

「おう、後はあの女を確保できれば」

 この時ばかりは、いつもの三枚目な係長とは違って、仕事のできる刑事という感じがして少しカッコ良かった。いつの間にか、火災報知器の音は止んでいた。帽子の若い男が係長の前へと、先輩たちに連れられてきた。そして唐突に高木先輩はその男の帽子を取った。

「係長、この男、岡村正義です」

「えー!」

「えっ!」

 私も京子も驚いた。係長もだ。

「何とまぁ、君が岡村正義か。はじめまして、だな」

 係長にそう言われて、岡村さんはさらにしょんぼりとした。


 私たちはすぐに百貨店側に事情を説明した。館内放送が入り、混乱はたちまち収束に向かった。

 守衛室で、防犯カメラの映像を確認させてもらった。そこにはっきりと写っていた、岡村が火災報知器のベルを押すところが。私たちは岡村を県警へと連行することになった。

 複雑に絡み合ったこの事件のおかしな人間関係を覆っている霧が晴れていく気がして、私は少し嬉しくなった。しかしそんなことを完全に意味なくしてしまう悪い知らせが入ってきた。紙バッグを奪って逃走した女性の確保に失敗したというのだ。小柄な女は人混みの中をすいすいと走り抜けて行って、捜査員が六人がかりで後を追ったが、まともに追いつけるような状況ではなく、見失ってしまったらしい。

「全ての防犯カメラをチェックしてくれ。どこかで服を着替えて変装したか、駐車場から車で逃げたか。失態は気にすんな。気持ち切り替えていけよ」

 係長は所轄の刑事たちに指示を出して、鼓舞した。

「嶋村、引き続き春日井のマークを頼む」

「はい」

「さてと、俺たちは岡村の取り調べだな」

 私たちは気合を入れて県警へ戻った。


なんと、火災報知器を押したのは岡村正義。

で、逃げた女は誰?

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