第174話 役割を終えて
「す、すげぇ・・・」
アレクトとメガイラはその圧倒的な力にただ見惚れていた。
「美女の命を頂くのはあまり気が進まないが・・・ これも世界の為だ」
ネメシスは飛び起きトゥヴァイハンダーでクロノスを振り払った。
「ハァ・・・ ハァ・・・ 原初の神。まさかここまでとは思いませんでした」
まだ立ち上がるネメシスに赤き大鎌の切っ先を向ける。
「いい根性だ。敵にしておくのは勿体ないな」
ネメシスは黒いゲートを展開する。
「少欲知足・・・ これだけのエーテルが集まれば任務に支障はありません。これ以上、ここに留まる意味は無くなりました」
後ろへ倒れ込むようにゲートに身を投げ、ネメシスは闇に消えていった。
「クロノス様!!」
「さすがはクロノス様です。思わず見入ってしまいました」
アレクトとメガイラが駆け寄る。
「何とか追い払う事は出来たようだな・・・」
クロノスは盲目で黒き大海を見下ろす。
「三分の二といったところか・・・ 戦いには勝利したが勝負には負けたようだ」
「奪われちまったもんは仕方ねぇよ。下手したらネメシスの奴に全員やられていた。今は助かっただけでも良しとしておこうぜ」
「そうですね。あの剣士の強さは異常でした。人間でありながら私達三人を相手取って圧倒していたのですから・・・」
「そうだな。すぐにアマルティアに知らせユピテリア、アースと連携してタナトスの召喚を・・・」
クロノスは違和感を覚え手のひらを見つめる。
「・・・アレクト。メガイラ」
クロノスは二人に向き直る。
「タルタロスを頼む。何としても、ペルセポネを救い出してくれ」
「頼むって・・・ 何だよ。急に別れ際みたいな言い方して・・・」
アレクトの頬に汗が伝う。
「そ、そうですよ。クロノス様らしくありません」
メガイラは頭によぎる不安を振り払うように取り繕って見せる。
「どうやら、俺の役割はここまでのようだ。全うする事はできなかったかもしれんがな・・・」
「な、何言ってんだよ?! ゼウスを倒すんだろ?! ペルさんを助けるんだろ!!」
「そうです! それに、もしその鎌の力が原因ならその力を解けば問題ないのではっ!」
クロノスの身体が赤く光り出す。
「クロノス様・・・? 」
身体から滲み出るエーテルが赤き大鎌に吸収されている。
もはや触覚はないが確かに流れ出ているのを感じる。
「≪死の大鎌≫の力は、文字通り全てのエーテルを狩り尽くすものだ。術者も例外ではない」
「そ、そんな・・・?!」
「俺から漏れ出るエーテルが鎌に流れているのを感じる。まもなく、俺のエーテルは鎌に集約され、その一部となるだろう」
二人はただ呆然と立ち尽くす。
「元々死んでいる身だ。ここらが潮時だろう」
「そんな・・・ どうして・・・?」
メガイラはその場に崩れ顔を覆う。
「何とかならないのかよ・・・?」
呆けたままアレクトは問いかける。
クロノスは首を横に振る。
「無理だな。≪死の大鎌≫の制約は非常に強力だ。だからこそ、全てを無に帰す力を得る事が出来る」
クロノスを纏う赤い光が更に輝きを増す。
「ペルセポネを助け出したら伝えてくれるか。眷属は解消する」
「ふざけんな!! 自分で伝えろよ!! 勝手に逝くなんて許さねぇぞ!!」
アレクトはクロノスの腕を力強く掴む。
腕はほろりと崩れ、小さな光の玉となり鎌に吸収されていく。
「そして、済まなかった、と・・・」
クロノスの足元が赤色に輝き出し、蒸発するように小さな光の玉と化していく。
俺は、役割を果たす事ができたのだろうか。
星の呼びかけに応える事ができたのだろうか。
少しでも、お前の役に立てたのだろうか。
ソフィアよ・・・
やがてクロノスは赤い光の束となり宙に浮く大鎌の中へ取り込まれていった。
鎌の輝きが収縮し、大地に突き刺さる。
大海を望むように静止する。
静寂だけが二人を包み込んでいた。
「う、うぅ・・・」
アレクトは呆然としたまま、肩を震わせすすり泣くメガイラを見下ろす。
「クロノス様・・・」
アレクトは膝から崩れ落ちる。
とめどなく流れる大粒の涙を拭わぬまま、静かに佇む大鎌を見つめていた。
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