第148話 譲れないモノ
アシーナ達はガイアに導かれアース神殿に訪れていた。
正門から続く開けたゆとりのある真っ白な石作りの通路に、見事に調和し共存する草木の壁。
遺跡にも似た、オリンポス神殿とはまた違った神秘的な雰囲気にアシーナは辺りを見回していた。
「何だかとても落ち着く空気ですね。自分でも不思議なくらいリラックスしています」
「あら♪ ユピテリアの王様に気に入っていただけたのなら光栄ですわ♪」
「神殿の外はまだ悲惨な状態ですけどね」
アフロディーテはため息をつく。
「もう! 余計な事は言わなくていいの!」
ガイアが振り向くとアシーナは肩を落とし、小さくなっていた。
「申し訳ございません。必ず修復しますので・・・」
「気にしないでいいのよアッシー! 悪いのはゼウスなんだから! あなたは堂々としていればいいのよ」
「ですが・・・」
ガイアは今にも泣き出しそうなアシーナを必死になだめる。
「ほら~!! アッフィーが余計な事言うから!!」
「わ、私は別にそんなつもりで言ったんじゃ・・・」
ガイアはアフロディーテの額を指で弾く。
「いたっ?!」
「アッフィーはもっと言葉を選ばなくちゃダメよ。誰にだって触れてほしくない事の一つや二つくらいあるものよ。あなたにもあるでしょう?」
「そ、それは・・・」
思い当たる節があるのか、アフロディーテは反論する事なくうつむいた。
「アッフィーには、そういう繊細な部分に平気で土足で踏み入るような人になってほしくないな。察してあげる事もまた思いやり。時には黙っている事が優しさになるという事、覚えておいてね」
ガイアは真剣な表情から一転し、満面の笑みをアフロディーテに向けた。
ガイアの言葉にアシーナの瞳はひと際美しく輝いた。
「ごめんなさいアシーナ」
アフロディーテは素直に頭を下げた。
「ゼウスがやった事とはいえ軽率だったわ。出身は違えど、私だってユピテリアに住み上級学院を卒業したのに・・・」
「い、いいのよ! 私が向き合わなきゃいけない問題なのは変わらないし、あなたが気を悪くする事ないわ!」
アシーナは慌てて手を振る。
「その代わりと言ってはなんだけど、アースを復興する時は手伝ってくれるかしら? 修復するには構造を良く知る人が必要でしょ?」
「アシーナ・・・」
見守っていたガイアとアポロンは互いに顔を合わせ自然と笑顔がこぼれた。
一通り神殿内を案内されたアシーナ達は王の間で一息ついた。
「お疲れ様。どう? 私の自慢の神殿は♪」
「初めてしっかりと中を拝見しましたが、やはり他の神殿にはない独特の空気ですね。とてもいい神殿です」
アポロンはしみじみと呟く。
「そうね。これだけ開放的な神殿で働く者はさぞ働きやすいでしょうね」
アシーナも同意する。
「ありがとっ♪」
「私は見慣れているから特に何も感じないわね。それにしても、いきなり神殿を回ろうなんて、一体どうしたのですか?」
アフロディーテは首を傾げる。
「だってこんなにいい神殿なんだもの! 新しく人を招き入れると、つい紹介したくなっちゃうのは仕方のない事だと思わない?」
ガイアは大袈裟に両手を広げ、植物の生い茂った高い天井を仰ぐ。
「は、はぁ・・・」
アフロディーテは目が点になっている。
「まあ良いではないか。実際、リラックスできていい時間だった」
「そうね。私も色々と参考になったわ」
アシーナとアポロンは伸びをする。
ガイアは大水晶を取り出す。
「今日の夜はエトナで食事をしましょ♪ その後は自由にしてくれていいわ。明日の朝、またここに集まってちょうだい」
「どこへいかれるのですか?」
「ひ・み・つ♪」
首を傾げるアフロディーテに、ガイアは悪戯っぽくウインクして見せる。
「ていうかまたエトナですか? アシーナもいるのに、いい加減神殿の料理を振る舞ってくださいよ・・・」
「ぶ~!! いいじゃない!! エトナのご飯は美味しいの! お気に入りなの!」
ガイアは頬を膨らます。
アフロディーテは何かを察し、口元に手を当てる。
「ま、まさか・・・ ガイア様は料理が・・・?」
「し、失礼ね! 私だって料理くらいできるわよ! これでも私の料理に惚れ込んだ男は多いんだからね?!」
「料理には、ね」
アフロディーテは思わず吹き出す。
「もう! 人の事バカにして!! とにかく、今日はエトナでご飯!」
そう言い残しガイアは光の中へ消えていった。
「ガイア様の手料理も気になる所ではあるが、エトナの料理もまた格別だ。俺は別に不満はないぞ」
「私も構わないわ。皆で食卓を囲めれば、場所や料理なんて関係ないわよ」
アポロンとアシーナをよそに、アフロディーテは納得のいかない様子で腕を組む。
「どうもおかしいのよねー。ガイア様、いつも頑なにアースで食事しようとしないのよ。エトナがお気に入りなのは分かるけど、あんなに否定しなくたっていいじゃない?」
「考え過ぎではないのか? ガイア様はいつもあのような感じだ。きっと本当にエトナが好きなのだろう」
「私から見ても特に変な感じはしなかったわよ? アフロディーテはガイア様とずっと一緒だったから、きっと汲み取れる情報が多くて色々と深く考え過ぎちゃうのよ。私もニケの事になると似たような感じになっちゃうから、ちょっと分かるな」
アシーナは二人も前に立つ。
「ね! まだ日が落ちるまで時間あるし、今からエトナの町を散策してみない?」
「それは構わないけど・・・ まだ完全に復興できたわけじゃないから、そこまで綺麗じゃないわよ?」
「ガイア様のような方が治める町だもの。一つの国の在り方として参考にしたい。それに、純粋に知らない場所を見て回れるのは楽しいじゃない?」
「良いのではないか? 三人でゆっくりするのも久しぶりだしな」
アポロンも同意する。
「それもそうね」
三人はエトナを散策すべく神殿を後にした―――。
何もない―――。
ただ広がる荒野の真ん中にガイアは一人佇んでいた。
周りにはたくさんのエーテルの光の球が浮遊し、色とりどりの、大小さまざまなエーテルが彼女の周りに集まって来る。
ガイアは側で浮くエーテルの球を救うように手に取り、悲しげな笑顔を向ける。
「みんな、ごめんね。もう少し・・・ もう少しだけ待って・・・」
光の球に優しく頰をすり寄せる。
「お願い。もう少し、私のわがままに付き合って・・・」
荒野を埋め尽くすほどの、星にも似たエーテルの光に包まれ、ガイアは目を閉じ光の海にその身を任せていた。
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