08 告白
「な、な、何を!?」
言ってるんだ、この阿呆は!?
私が口をパクパクさせていると、ルル様とライルが私とトバイアス王子の間に入ってその視線から遮った。
「聖女殿、そこをどいてくれぬか」
ルル様を盾にしているのは心苦しい。だけど、カッサ王国の貴族が注目している中で、私がトバイアス王子に向かってとんでもない暴言を吐いてしまったら、それこそ取り返しがつかないことになってしまうだろう。
ここはルル様に対処してもらった方が絶対に間違いがないと思う。
何かあればライルもいるし、さすがにゼ・ムルブ聖国の聖女に対して酷い行いはしないはずだ。
だけど、さっきの王妃の態度を考えると、この国はダンダリア王国よりも扱われ方が怪しそうな気もしないでもない。
あー、私はいったいどうしたらいいんだ。
「トバイアス殿下、皆様の前でわたくしが発言することををお許しいただけますでしょうか」
それでも、ルル様に任せるしかない。
「なんだ?」
「先ほどのトバイアス殿下のお話ですが、ファーガス皇帝陛下は敵と見なした相手にはとても冷徹で無慈悲な方ですのよ。わたくしが皇帝陛下のお許しもなく、男性に力を貸すと約束しただなんて、それが万が一お耳に入ったらと思うと恐ろしすぎます。トバイアス殿下にどのような災難が降りかかることかと、わたくしは心配でたまりませんわ」
「え、あ、違うのだ。その、なんだ……聖女殿が人々を助けたいと言ったから、それは遠回しに私を応援してもらえるものと思い違いをしてしまっただけで……」
さすがにファーガス皇帝を敵に回すようなことはまずいと思ったのか、しどろもどろになりながらトバイアス王子が言い訳を始めた。
カッサ王国の貴族だけに向けた、はったりをかますために、自分でも言っている通り、ルル様の話を都合よく解釈したんだろう。
実際、ルル様が反論しない限り裏の取りようがない話だし。
「そうでしたか。わたくしが、迂闊にもファーガス皇帝陛下のお名前を出してしまって、勘違いをさせるような言い方をしてしまったから、いけなかったのですわね。大変申し訳ございません」
「いや、聖女殿のせいではないのだ。私もその場で、言葉の意味を確認をするべきだった。ウォークガン帝国の件は発言を取り消すことにする」
「でしたら、わたくしも、ファーガス皇帝陛下から問い合わせがあったとしても、何もなかったと伝えておきますわ」
周りを見渡せば、集まった貴族たちがいろんな表情で二人のやり取りを見つめていた。
がっかりしている人たちはトバイアス王子に肩入れしている貴族で、苦笑やにやけている人たちがジュリアス王子派なのだろう。
この流れのまま、私への発言もどうにかして取り消しさせたい。
「聖女殿の懸念はこれですんだであろう。私はローザ殿に用があるのだ」
トバイアス王子がグイっと前に出てルル様と距離を詰めた。
それでもルル様はその場から動く気配がない。
だけど、ルル様と私は頭ひとつ分ほど背の高さが違うので、ルル様を挟みながらもトバイアス王子がこちらに顔だけ乗り出してくる。
ライルが邪魔に入ってはくれたんだけど……。
「護衛はそこをどけ。私の婚約者に気安く触れるでない」
トバイアス王子が押してくるからでしょうが。
「ローザ殿、皆の前で挨拶を」
「お待ちください。私にそんなことを言われても困ります」
「ローザはまだ修行の身ですので」
ルル様もぐいぐいくるトバイアス王子の胸を押しながら説得しようとしている。
「聖女殿のように先約があるわけでもなし、いずれ王妃として迎えようと言っているのだ。それの何が不満だと言うのか。お主だったら見目も良いから、私の隣で十分映えるだろうしな」
「先約がないって? なんでそんなこと?」
「すべてリンダに聞いている」
なんでリンダが? 私は隣にいる彼女に非難の目を向けた。
「そんな目で、見ないでください。聖女様たちがお出かけをしていた時にトバイアス王子がうちに訪れて、ローザさんのことを根掘り葉掘り聞かれたので、恋愛は眼中にないそうですと伝えただけです」
「だからか……」
「とにかくこちらへ来いローザ。まさか、見習い風情が臣下が注目しているこの場で、一国の王子に恥をかかすことはあるまいな」
貴族たちには聞こえないようにトバイアス王子が私に向かって脅しをかけてきた。
突然こんなことを始めたのは、私に拒否権を与えないためだったんだ。
でも、そんなこと知るか!
ルル様のようにすでに決まった相手がいると伝えた方が、たぶん一番断りやすいし、周りも納得すると思う。
「トバイアス殿下。私にもこれから先、死ぬまでそばにいると誓った相手がいます」
「嘘をつくな」
「嘘じゃありません」
「それはどこのどいつだ」
私は答えるまに唾を飲み込んだ。
そして――。
「私は……この方のことが大好きなんです。ですから、トバイアス殿下のお話はお受けできません」
私はそれまでトバイアス王子としていたひそひそした話し方ではなく、集まった人たちに聞こえるように大声でそう叫んだ。
「なんと!?」
みんなの視線が一斉に集まったのは、トバイアス殿下に手が出せないこの状況でも、身体を盾にしてなんとか私のことを守ろうとしているライル。
こんな大衆の面前での告白……。
なんでこんなことになっているんだろう。




