07 巻き込むのはやめてほしい
トバイアス王子に連れられて、王族の席が用意されている壇上の前までやってくると、そこからこちらをきつめの眼差しで凝視している男性と一瞬だけ目が合った。
「あの方がジュリアス殿下ですわ」
リンダが隣からこっそり教えてくれたけど、言われる前からそうじゃないかと思っていた。
その姿は小柄で線が細くトバイアス王子とは正反対。子どもの頃から病弱で寝込むことが多かったから、長子でありながらも、国王になってからの激務に耐えられるかわからないという理由で、王太子としての認定が保留になっているそうだ。
そのせいで伝統を重んじる嫡男推進の第一王子派と能力重視の第二王子派という派閥の争いが勃発してしまい今に至るらしい。
まあ、どちらについている貴族家も、それぞれいろんな思惑があるんだとは思う。
二人の王子はどっちも王位を欲しているみたいだけど、兄弟で争うなんて虚しくないのだろうか。みんな仲良く暮らしたらいいのにと思う私には、人を退けてまで覇権を握りたい人たちの気持ちがよくわからない。
「母上、ゼ・ムルブ聖国の聖女殿をご紹介します」
トバイアス王子が壇上に声をかけた。
重厚で豪華な椅子に座って、こちらに厳しい視線を向けている王妃はジュリアス王子と似ている。
視察のため今現在遠出をしているカッサ王とは会わずにこの国から去ることになるけど、トバイアス王子はそっちに似ているのかもしれない。
王妃からすごく睨まれているように見えるんだけど、ただ単に目つきが悪いだけなのだろうか。ジュリアス王子もそんな感じだし。
「貴女がゼ・ムルブ聖国の聖女?」
王妃は一瞬目を見開いたあと、扇子で口元を隠して、ルル様を見続け観察していた。
そして最後に私の方にも視線を向ける。
「その年で聖女の称号を授与されているのだから、とても優秀なのでしょうね……」
ルル様は年齢より幼く見えるから、聖女の癒しを施す際にも、私と見比べてから、こういう含みのある態度を取られることはよくあった。それに対してルル様自身はなんとも思っていないようだから、私が気にしすぎるのもよくないだろう……。
「過分なお言葉、恐れ入ります。わたくしはルルと申します。以後お見知りおきください」
私もルル様と同時に、王妃に向かって習っていた淑女の礼をする。ちゃんとできているだろうか。
そんな心配をしているとトバイアス王子がパンパンと大広間に響くように手を打った。
「私から皆の者に報告がある。こちらへ集まってくれ」
「え?」
その言葉に驚いたのは私だけではなかった。聖母たちもこれから何が始まるのかわからず困惑の表情をしている。
トバイアス王子はいったい何をするつもりなんだろう。訝し気にその姿を見つめていると、その場に集まった貴族たちにルル様の紹介を始めた。
「この方はゼ・ムルブ聖国の聖女殿である。ゼ・ムルブ聖国の聖女は不思議な力で人々を癒すことができる得難い存在だ。わざわざそれを私が説明する必要もないだろう。ルル殿がこれほど若くして聖女になったということは、聖女の中でも極めて才能があるということだ」
トバイアス王子とルル様は初対面だと思っていたけど、実は始めからルル様が聖女の中でも特別な方だということを知っていたの?
「ルル殿は私の力になってくれるそうだ」
は!?
ルル様を見ると一度だけ首を横に振った。やっぱり話がついているわけではないようだ。
「この方は何を隠そう、あのウォークガン帝国のファーガス皇帝陛下のご寵愛をうけている。私にはウォークガン帝国が後ろ盾についたということだ」
はあ!?
なんか、凄いことを言い出してる。
「そして……」
大広間がざわざわ騒がしくなって、みんなも驚いているところへ
「その弟子でもあり、いずれ聖女になることが決まっているローザ殿に私の婚約者になってもらうつもりだ」
トバイアス王子は爆弾発言を落としたのだった。




